市街地に漂う脳髄の粒子
秋の入り口あたりから、鼻水が止まらなくなる。風邪のときに出るような粘着質なものではなく、透明でサラサラしているものだ。外から室内に入ると、どういうわけか止めどなく鼻水が出てきて、それが三十分くらい続く。うっかり拭くものを忘れて外出した日には、もうとんでもないことになる。冬が終わっても止まらず、結局初夏までティッシュが手放せない。
いまだ鼻水があふれる季節。家に帰ってぼんやりしていると、気づけば上唇まで垂れていることがよくある。風邪の前兆は全くない。怠くないし鼻づまりもない。鼻をかんでみても、何の手ごたえもない。けれど、それから五分十分と経つうちに、気づけばまた鼻はグジュグジュになっている。私は人形のように力なく椅子にもたれて、時折ティッシュで鼻を拭う。
体調はすこぶる良い。体は丈夫なのだ。でも、この鼻水の症状がでるようになってから、確か高校生くらいの時だったか、年々無気力になっている気がする。ひょっとすると、これは鼻水なんかではなく、私の脳みそが溶けたものなのかもしれない。そんなわけはない。けど、そう思うと少し合点がいって、気が楽になる。約十年かけて私の鼻から溶け出た脳髄、そいつのせいでこんなにネガティヴで退廃的な人格になったんだ、もし元通りにできたら全部うまくいく、私はもっと鋭い頭脳を持って積極的に働く人間になれるんだ、と自ら言い訳が利く。
それに、私の鼻水を拭ったティッシュが燃やされて、そこに溶けていた脳の一部も燃やされて、その粒子が今この瞬間も空気中を漂っていると思うと、なんだかロマンティックな気がしませんか?しない?気持ち悪い、だって?……そう。まぁ、そういう考え方もあるかもしれませんね。
いずれにせよ、無気力や退廃的思想や精神不安定になるようなことがあったら、そのときは私の脳みそを吸いこんだのだと思って、全部私のせいにしなさいな。




