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小人の辞  作者: EndoArisa


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人間花


 人間花(にんげんばな)が咲いていた。人の体に花が咲いていた。見間違いかと思ったけど、やはり咲いていた。家を出て十分もしないうちに、三人も見つけた。花を咲かせた女性とすれ違って、僕はたまらず声をかけた。

「これね、先週あたりにつぼみが生えてきたの。それで今朝起きたら花が咲いていたの。」

 彼女の鎖骨下あたりに花が咲いていた。ハイビスカスのような白い花、大きな花びらは手を広げるように外側に向かっている。花びらの根もとは濃い深紅色、赤ワインを注いだ祝杯みたい。彼女は愛おしそうに花を見下ろした。

「根はどこに張ってるんですか?血液で成長してるんですか?枯れたらどうなるんですか?繁殖はしないんですか?」

 僕がそう尋ねても、彼女は首をかしげるばかりだった。きっと花にしか興味がないのだ。花が生えたという結果だけで満足なのだ。

 花の真ん中にツンと立っている花柱(かちゅう)、ピョコピョコしていてかわいかったので、その先っぽを撫でようとしたら、女性は僕の手をよけて立ち去ってしまった。

 それから間もなく、また花を咲かせた人とすれ違った。今度は若い男性で前頭部に花を咲かせていた。僕の何十倍も賢そうで繊細そうな雰囲気の人だった。

 花を見せてくれと頼みこんだら、快く了承してくれて見やすいように頭を下げてくれた。彼に生えているのも、白いハイビスカスだった。いや、思い返せばみんなこの花だった。彼の花は先の女性よりも透明だった。色素が薄いのではなく、クリスタルのように澄んでいた。僕はとても綺麗だと思ったから、

「あなたの花は、今日見た誰のものよりも綺麗ですね。」と言った。

「ありがとう。でも、だからって優れているわけじゃありません。僕はやっぱり真っ白な花がほしかったなぁ。」

「どうやってそんな綺麗な花を咲かせたんですか?」

「血液に気を使っているんです。血が汚いと、花も悪くなりますから。食事や軽い運動はもちろん、できれば空気の悪い場所、例えば車通りの多い道とか人混みとか、そういった場所を避けることも大事ですね。」

 彼は自分の血が清らかなことを証明するために、小型のナイフで自分の手首を浅く切ってみせてくれた。血がじわりと滲んで、ツゥッと手首の裏に回っていった。そして一滴二滴と地面に落ちた。その血の色は、花弁の根もとと同じ深紅色だった。とてもきれいだったので、僕は言葉もなく感動していた。

「僕もあなたみたいな花がほしいんです、どうすればいいですか?」

 僕がそう言うと、男性は悲しそうに微笑んで、血のついた手を僕の顔にのばした。そして、眉と瞼の間を優しくなでた。ひんやりとした指だった。僕は彼の手首からしたたる血にみとれて、一滴ごとに目で追っていた。


 帰ってから鏡を見てみると、僕の目の上に小さなつぼみがついていた。あの男性に撫でられた箇所だ。僕はあの人みたいな花を咲かせようと、固く決心した。言っていた通り、健康的でストレスのない生活を心がけた。できるだけ家にこもるようにして、外に出るときも人気(ひとけ)のない時間や場所を選んだ。その他にも花を綺麗に咲かせるために、自分の血を汚さないために、できることは全て試みた。

 そしてある朝、ついに花が咲いた。起きた瞬間にそれが分かった。視野の半分が花びらで占められていたからだ。僕は全て差し置いて、姿見の前に飛んでいった。

 花が咲いていた。何かの間違いかと思ったが、やはり咲いていた。その花は白かった。黒ずんだ白色をしていた。根もとは赤かった。黒ずんだ赤色をしていた。汚い花が咲いていた。何かの間違いだと思った。光の加減が悪いからそう見えるのだと、僕は手鏡をもってベランダに出た。しかし、明るいところで見ると、さらに具合が悪かった。ドブネズミのような色だった。

 僕は花をむしり取った。根深い雑草を抜くような感触だった。血がたくさん流れてベランダを赤黒くそめた。どうせ穢れた血なのだ、全部流してしまえ。


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