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すべてに絶望した俺は転校して幼馴染の前から姿を消した。  作者: 孤独な蛇


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31話 騒がしい隣人

「牧野大和くん、もう体調は大丈夫ですか?」


「あぁ……はい……」


 優しい声。


「これから大変だと思いますが、自分をいたわることを決して忘れないでください」


 これから……俺は……。


「俺は……自分に、自信が……ありません」


「大人の無責任な発言に聞こえるかもしれませんが、あたなは優秀な人間だと私は知っています」


「俺は……優秀なんかじゃ……ない……」


 俺はただの負け犬だ。

 勉強には自信があったけど……結局、ダメだった……。


「きっと……俺は……なにも、特別なんかじゃなかった……」


「特別ではなくても良いではないですか。あなたのように逆境で頑張ることができる人間は多くはありません。私があなたを優秀と言っているのはそういう理由からです」


 頑張ることができる……?

 そんなもの、なにも意味がないじゃないか……。

 頑張ったって……結果が伴わなければ……。


「大丈夫ですよ、自分を信じて良いのです」


 大丈夫……?

 俺は……そう思えない。


 でも、この人とはほとんど会話をしたことがなかったけど……。

 なぜか頼もしく感じた。


 空っぽだった心に……少しだけ……遠野先生の言葉が響いた。



 ♢



「相沢……おーい」


 最近ボーっとしていることが多い。


「相沢聞こえてるか?」


 自宅でも学校でも……いつでもそうだ。


「え………はい……」


 先生に名前を呼ばれて我に返った。


「相沢、この英文を翻訳してくれ」


 ああ……そうだった……今の俺は相沢大和(あいざわやまと)だった。


 テキストの英文を語訳する問題を解く。

 特に難しいことはない……ただの応用問題。


「さすがだな、相沢。正解だ」


 問題をすらすらと回答した俺に先生はにこやかにそう答える。


「ねえ、相沢くんってさ、本当に勉強できるよね」

「うんうん、凄いよね」


 何人かのクラスメイトがヒソヒソとなにか俺のことを言っている。

 まあ、なにを言われても特に気にはしていない。


 この学校に転校してきて少し経った。

 新たなクラスメイトたちは有名な進学校から転校してきた俺を歓迎してくれた。

 しかし……俺は……。


「なあ、相沢くん。ちょっといいか?」


 休み時間、一人でいる俺にクラスメイト数人が俺に話かけてきてくれる。


「放課後、何人かで遊びに行くんだけど一緒に行こうよ」


 なんだろう……この感じ……。

 俺のいた海明学園高校とは、かなり空気が違う。


「俺は……いいよ……。誘ってくれて、ありがとう」


 この学校の生徒たちは勉強は最低限こなして、それぞれが自分たちの時間を優先しているように見える。


「あ……そっか」


 転校してきてからありがたいことに何度もこの手の誘いは受けているが、俺は断り続けている。

 母さんから少しだがお小遣いを貰ってはいるけど、安易に使える状況でもないし……。

 それ以前に……遊びに行く気力なんて湧いてこない。


「相沢くんってさ、すごく勉強できるよね?俺たち時々だけど集まって勉強会とかもしていてさ、よかったら今度勉強教えてよ」


「あ、ああ……うん、予定が合えば……」


 気さくに話しかけてくれるクラスメイトには申し訳ないが、できればあまり声をかけてほしくはない。


 転校前に色々なことがありすぎて大変だった。


 今の俺は時間的に余裕がある生活をしているせいか、心にぽっかりと穴が開いたような感覚で……。


「おい、邪魔、どけよ」


 俺の席周辺に集まっていたクラスメイト達にそう言い放ち、眼光鋭くこちらを睨みつけてくる女子生徒。


「あ、ご、ごめん……斎藤さん」


 斎藤……その女子生徒は謝罪したクラスメイトの言葉なんて気に留めず俺たちの横を通り過ぎて、そのまま教室を出て行った。


「斎藤ってさ、美人だけど……クラスで浮いているから、あまり関わらないほうがいいよ」

「……そう、なんだ」


 耳打ちしてくるクラスメイトの助言はありがたいが……それはいらぬ心配だ。


 今の俺は誰かと深く関わりたいなんて思ってはいない。

 だけど…………。


「斎藤さんって……なにか、皆に嫌われるようなことをしたの?」

「あー、いや、そういうわけじゃないんだけど。なんというか、協調性がないというか。この学校は素行不良の生徒っていないんだけど……斎藤は、まあ、あんな感じだからさ」


 あからさまな不良ではないが、他人を寄せ付けないあの言動では近寄りがたい存在ということか……。


 まあ、俺も人のことは言えない。


 こうやって色々と誘ってくれたり声を掛けてくれている人たちを煩わしいと思い遠ざけている俺は斎藤さんと同類なのかもしれない。



 ♢


 授業が終わると、俺はさっさと学校から下校する。


 親の離婚で苗字が変わり、引っ越してきたこの町にある俺の新たな自宅は学校から徒歩20分ほどの場所にあるアパート。


 今の俺の日常は、学校とアパートを往復するだけの毎日だ。


 母さんの収入が以前よりも増えてたおかげで、生活も少しずつ安定してきている。

 俺も再びアルバイトをしようとも考えていたけど『しばらく学校生活を楽しみなさい』と、母さんが言ってくれたのでその言葉に甘んじている。


 正直、俺の今の心境ではアルバイトなんてする気になれないし……。

 転校してきて、こちらの生活にも慣れてきたが……精神的に今も辛い。


「あいつ…………どうしてる、かな……」


 本当にバカだと思う。

 あんなことあって、現実を思い知らされたというのに……。


「はぁ……早く帰ろう」


 これ以上考えてはダメだ。

 ネガティブ思考になって気力が吸い取られる。


 もう、今まであった暗い出来事は……思い出さないほうが良い。

 

 そんなこんなで悶々とした毎日を送っていた俺だったのだが、最近は……少し違う。


「おい、待てよ」


 自宅アパートに到着して部屋の鍵を開けようとした刹那、後方から声がした。


「な、なに?」


 控えめに言葉を返すと、声を掛けてきたそいつはしかめっ面でこちらを見つめてくる。


「なんだよ、その反応はよ?」


「い、いや……べつに……」


 前に通っていた高校にはこんな我が強い性格の人間はいなかったから、少し戸惑ってしまう。


「チッ……まあいいや。それより今日学校でクラスの連中と私のことを話てたろ?」


「聞こえてたのか……地獄耳だな……」


「それで、私の悪口でも言ってたのか?」


「そんなんじゃない。斎藤さんが協調性がなくて浮いているクラスメイトだって聞いただけだ」


「それって悪口だろうが!」


「お、俺が言ったわけじゃない!」


「ふん!どうだか……」


 俺の隣の部屋。

 そこに住んでいるこいつの名前は、斎藤雫(さいとうしずく)

 美人だけど、学校で浮いていて、言動が男勝りで……。


「おい、今日はおまえの部屋で勉強するからな」


「えっ?……今日も来るのかよ?」


「私の母さん、今日夜勤だから今寝てるんだよ。おまえの母親は今日日勤だろう?」


「ああ、そうだけど……」


 お互い片親で、働く時間が日中だったり夜中だったり。


「なに嫌そうな顔してるんだよ?」


「だって、斎藤さんって勉強教えても物覚え悪いし……」


「おまえ!私がバカだって言いたいのか!?」


「そ、そうじゃないって!」


 すぐに大きな声を出すんだから……。


「前にも言ったけど、その斎藤さんって呼ぶのやめろ。おまえ、私の母さんにもそう呼ぶからややこしいんだよ」


「じゃあ……斎藤って呼べば良いのか?」


「バカかおまえは!?それでもややこしいだろうが!」


 べつにややこしくないと思うんだけど……。


「わかったから……大きな声を出すなよ」


 黙っていれば清楚で美人な女性なのに……。


「じゃあ……数学と古典を教えてやるから……」


 女の子を下の名前で呼ぶなんて……あいつ以外はなかったんだけどな……。


「今日はちゃんと集中して勉強してくれよ。……し、(じずく)


 名前を呼ぶ時……少しだけ緊張した。


「はあ?いつも集中してやってるだろうが!」


 いつもいじけて投げ出すくせに……なにを言ってるんだか。


「テストも近いし今日はとことん教えてもらうからな!覚悟しとけよ、大和!」


 捨て台詞のようなことを言って隣の自宅へと入っていった斎藤さんを……雫を見届けて、俺はため息をこぼした。

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― 新着の感想 ―
よく考えなくても、葵のオヤジが一番悪党だね。
母ちゃんが葵に「相沢」ってヒント残したんだけど、流石に見つからないかな。 探偵でも雇わないと。 個人情報保護法のせいで、戸籍謄本あっても叔父とかでも役所は住所教えてくれないし。 昔みたいにタウンページ…
こんな娘をデレさせてからの、学園生活こそが高校生の青春て感じがしますね。 でも、この娘って外野に揶揄られると否定して相手を傷つけるタイプっぽいよね。そこだけが不安。
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