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すべてに絶望した俺は転校して幼馴染の前から姿を消した。  作者: 孤独な蛇


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30/32

30話 後悔の果てに……そして……

 速水先輩に連れられて、私はスーパーのすぐ傍にある小さな公園のベンチに腰を下ろしている。

 隣に座る先輩はずっと泣き止まない私の背中をさすってくれた。


「少し落ち着いた?」

「は……はい……」


 遠野先生に渡されたメモ。

 そこ記されたさっきの場所に来たものの……大和はいなかった。


「最後に会って話したのは去年の文化祭以来かな、本当に久しぶりね」


 そっか……速水先輩と話すのはあの時以来……。

 当時、学校一番の才女として有名だった先輩。


 私のことを心配してくれる速水先輩は今も変わらず美人で、とても優しい素敵な人……。


「先輩はここで……」


 そのスーパーの制服なのか先輩はエプロン姿だった。


「うん。私ここでアルバイトさせてもらってるの」

「アルバイト……」

「ちょっとピンとこないよね。私たちの高校って原則バイト禁止だし、隠れてやってる子もほとんどいないだろうね」


 私たちの通う海明学園高校は裕福な家庭の生徒が多い。

 勿論中流家庭の人たちもいるけど勉学に励むことが第一目的のため、私欲を満たすお金のためにわざわざアルバイトをする人間はいないだろう。


「意外?私がスーパーでバイトしていること」

「あ……その……」


 正直意外だった。


「ここの時給は最低賃金だけど、会社の人たちが良い人ばかりでね」


 先輩なら塾とか家庭教師とか時給や待遇が良さそうな……色々と選択肢があると思った。


「それでなにかあったの、宮野さん?……泣いていたのは……」

「そ、の…………や、やま、と、が…………大和が!」


 先輩の優しい声に私は再び涙が溢れた。


「大和が!いなく、いなくなって!それで!!」

「うん、大丈夫よ」


 再び背中をさすってくれる先輩は私が言葉を続けるのを静かに待ってくれている。


「今日学校に行ったら!うっ……大和がいなくて、転校したって噂になっていて!」

「ゆっくりでいいから」

「わ、私!大和と話がしたくて!文化祭の日に徹と!フォークダンスを踊って!それで!」


 上手く呼吸ができない。


「色々あったんだね。大丈夫、私は宮野さんの話ちゃんと聞いてるから」


 先輩の優しい声。

 頭を撫でてくれて。

 手を握ってくれて。


「少しずつでいいから、ゆっくり最初から話してみて」


 なんだろう……大和のことで焦っていて、悲しくて。

 でも……この人の優しさと温もりが……私の心に響く。

 この感覚、少し前にもあったような……。


「私の父と大和のお父さんが…………」


 私は今までの経緯を先輩に伝えた。

 掻い摘んで話すつもりだったけど、中学時代から今に至るまでの経緯を話し終えるのにすごく長い時間が掛かった。


「徹と協力して、一緒にこの状況を乗り越えようって……それで仕方なく……」

「フォークダンスを踊ったんだね、それをタイミング悪く大和くんに……」

「その前に私は大和に連絡しようとしたんだけど、ス、スマホがなくなって!……今も大和と連絡を取る手段が無くて……」


 今まで内に秘めていたものを誰かに聞いてもらう。

 それが私にとって……この絶望的な状況の中、そこに救いがあるような……。


「それで今日、大和くんが転校したことがわかったんだね」

「はい……そして、遠野先生が、この場所を教えてくれて……」

「遠野先生が…………そっか…………」


 小さな公園のベンチで私と先輩の二人だけの空間。


「宮野さん……」


 今話した中でどれだけ辛いことがあっただろう。

 それだけ私が抱えてきた問題は深刻で大きいものだった。


「それで全部?」


「……えっ……?」


 先輩の表情はさっきまでと変わらない。

 優しい表情……。


「大和くんに対する宮野さんの気持ちは本物だと思うよ。今まで大変だったでしょう?だからこそ、ここで全部言ってくれた方があなたのためになると私は思っているの」


「…………」


 でもこの人の声は凄く力強く感じて……。


「じゃあ、私が少し疑問に感じたことを言うね。文化祭の日、施錠してあった生徒会室から宮野さんのスマホが無くなったんだよね。生徒会室の鍵を持っているのは誰?」

「そ、それは……」

「私が在学中の時と同じなら会長か副会長が持っているはずだよ。あなたが鍵を管理していたの?」

「……い、いえ」

「なら村瀬くんが持っていたんだよね。合鍵は職員室にあるとは思うけど、そこから鍵を持ち出してわざわざ宮野さんのスマホを盗る生徒はいないと思うし」


 額から……汗が流れる。


「宮野さん、わかってるんじゃないの?あなたのスマホを持ち出したのが村瀬くんだって」


 ぐうの音も……出なかった。


「村瀬くんの好きな人が学校にいるって聞いて、なんとなくわかってたんじゃないの?」


 体が震えた。

 私に疑問を投げかける先輩は優しい表情とは裏腹に力強い目で真っすぐ私を見つめてくる。


「わ、わた、し……」


 恐怖で体が震えている。

 目の前の速水先輩が怖いんじゃない。


 露呈するのが怖い。

 私の心の弱さが……。


 ……違う。

 私の汚く小賢しい心を……知られたくない。


「心って本当に難しいよね。どれだけ優秀な人でも問題を放置したり、誤魔化したり、先送りにしても、解決はしない。本当に意味で前に進みたいのなら、弱さを認めないといけない」


 なんで……この人はこんなに頼もしく見えるのだろう……。


「大丈夫、私は宮野さんの話を最後までしっかり聞いているから」


『大丈夫』……さっきからそう言う速水先輩のその言葉が、優しさが、心に響く。


「わ、私……本当に大和のことが好きで!」

「うん、わかってるよ」

「わたしは……私は!!」


 すべてを吐露した。


 なんとしても大和と一緒にいたかったこと。


 大和に振り向いてほしかったこと。


 大和に嫉妬してほしかったこと。


 徹が私に好意を持っていることに気づいたこと。


「最後には全部……徹が正直に打ち明けて……誤解も解けて……父にも、徹の両親にも、わかってもらって……」


 私は周囲に振り回されていただけ……。


「村瀬くんが後日約束通り動いてくれるから、あなたは安心していた部分があったのね」

「それなのに……いつもタイミングが悪くて……大和が学校を休んでしまって、徹は動いてくれなくて……それで、こんなことに……」


 私は被害者なんだって……。



「そっか……そうだったんだね……」



 とても悲しそうな顔で先輩は俯いた。

 そして小声で言葉を続ける。



「辛かったね……苦しかったね」



 とても優しい……速水先輩。



「可哀そうな人……あなたは周囲や環境に恵まれない中、今まで一人で頑張っていたんだね」



 私に同情してくれる。

 私を慈しんでくれる。



「でも……私はあなたのことを……ちゃんと理解しているから」



 本当に優しい人。

 私のことを心から理解してくれて。

 私のすべてを肯定してくれる。


「だから……大丈夫……」



 速水先輩だけが……私の……味方……。



「大丈夫だよ……大和くん」



 ……えっ…………?

 ……大和…………?



「大和くん……あなたは本当に頑張ったよ」



「は、速水先輩……?あ、あの……さっきのまでのは私の話であって……なんで、大和……?」



 私が口を挟んでも先輩は俯いたままで独り言は続く。



「残酷だよね、裏で動いている人たちが自分勝手な人たちばかりなんだから……」



「あ、の……わ、わたし……」



「ねえ、宮野さん……」



 顔を上げてこちらを向いた先輩の目は、とても冷酷だった。

 さっきまで頼もしく見えていた先輩が嘘のように、冷たい視線を向けてくる。


 この人が……怖い。





「あなた……最低ね」





 意味が……よくわからなかった。



 ♢



「宮野さん、本当に最低だね」


「えっ……わ、わた、し……?」


 最低……?

 私の……こと……?


「そうよ、あなたのことよ。私の言葉の意味はわかるよね?」


 突然の態度の変貌。

 理解が……追い付かない。


「い、意味が……よく、わからなくて……」


 私の心を見透かす先輩の強い口調、冷たい視線。


「もう一度言うね。あなたは最低な人間だって言ったのよ」


 目の前の先輩が……恐ろしい、怖い。


「そ、そんな……私は……ただ頑張っていただけで……」

「あなたの頑張りは認めるわ。大和くんに振り向いてもらうために村瀬くんと色々なことをして、本当に凄い行動力だね」

「だ、だからそれは父や徹の両親が婚約の話を持ち出してきたからで!」

「いざとなったら二人で猛反対すれば良い……って、村瀬くんに言われて協力関係になったんでしょ?どうしてそんな回りくどいことをするの?どうせ反対するならその場で親たちに二人で猛反対すれば良かったじゃない?」


 それは……その時は頭が回らなくて……。

 私はお父さんに反抗できるような精神力もないし……。


「夏休みが明けたら、あなたと村瀬くんが付き合っているって噂になっていたのもおかしいじゃない。それも村瀬くんがなにかしたんじゃないの?そのことも今は感づいているでしょ?」


 返す言葉が……見つからない。


「その噂を利用して大和くんにストレスをかけるなんて本当に残酷だよ。もしかして村瀬くんが噂を流したことも最初から気付いていたんじゃないの?」

「そ、それは違います!!なんで私と徹が付き合ってる話になっているのか本当に不思議で!パニックになっていて!」

「でも、大和くんに気にしてもらえて気持ち良くなっていたのは事実でしょう?」

「それは……だ、だから……」


 な、なに……?

 なんで……こんな……。


「村瀬くんの気持ちに気付いていてフォークダンスを踊るなんて……それだと村瀬くんが復讐したい相手が大和くんだとわかるでしょ?正気の沙汰ではないわね」

「ち、違うんです!私が徹の気持ちに気が付いたのは文化祭が終わって体調が悪くなって、自宅で悩んでいる時で……」

「本当に?あなた何度も嘘をついていそうだから、なにが本当でなにを偽っていたの混同しているんじゃない?」

「そ、そんなことは……ありま……せん」

「いいえ、きっとそうよ。自分の行動も、自分の気持ちも、なにが本物かわからなくなっている」


 そんなこと……。

 そんなことは……ない。


「そんなことは……ありません!私は大和が好きなんです!」

「本当にそうなのかな?」

「ほ、本当です!先輩だってさっき、大和に対する私の気持ちは本物だって言っていたじゃないですか!」

「あなたは自分が思う理想の大和くんが大好き……そうでしょ?」


 理想の、大和……?


「去年の文化祭の日、私が言ったこと覚えてる?」


 それは……覚えているけど……。


「あなたはあなたのために頑張ってね……そう言ったけど、宮野さん、あなたはなにをしているの?」

「わ、私は頑張りました……自分のために、や、大和に振り向いてほしくて!」

「あなたは自分勝手に行動しただけ。そこに純粋な気持ちなんて塵一つ存在していない」


 先輩が怖い……怖いけど……。


「速水先輩に……な、なにがわかるんですか!?私の気持ちのなにが!?」


 恐怖を押し殺して、反論した。


「なにが……?そうね、ならもう少し言及するね。宮野さんはどうしてそんなに人任せなの?」

「私が……人任せ……?」

「親が勝手に決めた婚約の話からフォークダンスの誤解の経緯まで、解決策は全部村瀬くんに丸投げだし」


 そんなこと言ったって……徹が後日説明してくれるって……だから……。


「文化祭が終わってから今日まで体調が悪かったこともあるだろうけど、本当に万策尽きる状況だった?必死になって大和くんに会おうとした?」

「し、しました!彼の自宅前まで行きました!でも留守で、そこで大和のお母さんに会って……」

「どうしてそこで大和くんのことについて聞かなかったの?」

「それは……家事都合って言われて身内でなにかあって忙しいときに、ご迷惑になると思って……」

「文化祭に遅刻してきた理由ぐらいは聞けたんじゃないの?」


 だから……それも家庭の事情だと、思っていて……。


「大和くんから見ればあなたと村瀬くんの恋人関係の噂が耳に入って、後夜祭に来てみればフォークダンスで抱き合う二人が目に入り、追いかけてきたあなたはわけのわからない言い訳ばかり」

「た、たしかに大和から見れば、そう見えるかもしれないですけど……わ、私にだって事情が!」

「くだらない事情でしょ?」

「なにがくだらないんですか!?私だって、この絶望的な状況で!」


 まただ……感情の起伏が激しい。


「絶望……?なにを言っているの?あなたのそれは絶望じゃない」



 先輩の声が一段と凄みが増す。

 ……怖い。


 でも、それ以上の憤りが不安や恐怖をかき消してくれる。


「だってあなたは自分が可愛いでしょ?エゴイスト?」

「やめてください!そんな言い方!」


 酷いよ……そんな形容の仕方するなんて。


「じゃあ核心的なことを問うわね。文化祭の時、学校から去る大和くんを引き留めたのよね?どうしてその時に断片的にでも経緯を説明しようとしなかったの?」

「私は話を聞いてほしいと思って大和を引き留めました!でも、彼は行ってしまって……」

「それなら這い蹲ってでも彼を追いかけないといけなかった。あなたはその瞬間、村瀬くんが後日説明してくれることに期待していた」

「そんなことありません!大和に言われた言葉の……ショックが大きくて!それで!」


 背中が……汗でびっしょりだった。


「もう一つ、どうして大和くんに連絡しないの?会えないのは仕方がないかもしれない。でも連絡すれば宮野さんがアクションを起こしていることは大和くんに伝わる。どうしてそれをしようとしない?」

「ですから、さっきから言ってるじゃないですか!スマホが無くて!連絡が、でき……ない………って……」


 嘘は……意図的につかないように気をつけていた。

 でも……。



「ほら、ボロが出た」



 私のこれまでの言動は嘘偽りない本心。


「都合が良い解釈をして、自分を正当化して、あなたは悲劇のヒロインを気取っている」


 だけど……すべてをさらけ出したわけでは、ない。


「状況的に考えて、スマホは村瀬くんが持ってる。文化祭終了後にそれに気がついたとしても取り返すチャンスをあったじゃない。村瀬くんが白を切ったとしても、携帯キャリアに連絡して相談することだってできる。というか、不正利用されても困るし普通はなにかしらの行動は取るものよ?」


 全身の血の気が引いていく。

 もうこの人は……わかってるんだ。

 多分、最初から……。


「もしも大和くんが転校していなかったら、今頃あなたは自分の口からこれまでの経緯を説明するはずだった」


「あ、の…………」


 ガタガタと体が震えて、言葉が続かない。


「お父さんと村瀬くんのご両親が身勝手に婚約の話を……?なぜか交際の噂が学校中で流れていて、それを村瀬くんに利用しようとそそのかされて……?村瀬くんのために身を削って泣く泣くフォークダンスを踊って……?連絡したかったけど、なぜかスマホが無くなっていて……?」


 わかってる……わかってるよ。

 自分が……どんな人間か、なんてことは……。


「涙を流しながらあなたは大和くんに話を聞かせるんだろうね。大和くんは優しいから口を挟まずに最後まで話を聞いてくれるでしょうね」


「もう、やめ……やめ、て……」


「あなたも悪い部分があるものの、話を聞き終えた大和くんには同情心が生まれる。そこであなたは伏線を回収するのかしら?行方不明のスマホをGPSでも使って見つけるの?『どうしてあなたが私のスマホを持っているの?』って村瀬くんに問いかけるんだよね?そうなったら後は難しくない。どうしてそんなことをしたの?あなたが復讐したい相手ってもしかして……?村瀬くんが白状するかはわからないけど、彼の立場が悪くなれば……あなたは……」


 私はこの一件で……私は……。


「あなたは可哀そうな被害者になれる。そうでしょ?」


 被害者……ただ……そう思いたかった。


「それであなたはどうする?弱ったふりでもして大和くんの気を引くのかしら?そうなれば彼と一緒にいられる時間も増えそうだしね」


 なにか……反論しないと……。

 そう思っていたけど……。


「概ね合ってるかな?宮野さん」


 俯いている私の顔を覗き込んでくる先輩の目が……怖い。

 その目を見ていると……中途半端な反論が通用しないことが嫌でもわかる。


「まあ、そんなに悲観することはないよ。もう大和くんには会えないんだしね」


 大和……。


 そうだ……私、大和に会うためにここまで来たんだった。

 なのに……私、速水先輩に本心を見抜かれて、自分を守ることばかり考えていた。


「遠野先生は悪い先生だね、独断であなたに大和くんの情報を漏らして」


 大和の情報……?

 私は遠野先生にメモを渡されただけで……。


「私……大和くんが一生懸命頑張ってる姿が好きだったなぁ」


 好きだった……?

 大和の、なに……?


「ど、どういうことですか……?大和が……好き……?」


 先輩に心の内を暴かれて放心状態だったけど、先輩が小声で呟いた言葉が私を動かした。


「あぁ……もう、いいよね……大和くん」


 どんよりとした空を見上げて、なにか呟いた先輩はこちらをまた眼光鋭く見つめてくる。


「大和くんね、ここのスーパーでアルバイトしてたんだ。本当につい最近まで」


 …………えっ……?

 アル、バイト……?


「バイト……?な、なんで、大和が……」

「経済的に困ってたからね。大和くんは」


 それを聞いた刹那……瞬間的に様々な辻褄が合ってしまった。


「え……なんで、そ、そんなはず……大和のお父さんは優秀なサラリーマンで……そ、それにうちの学校はバイト禁止で……」

「原則だよ、バイトが禁止なのは」


 学校が終わると、いつも一人でそそくさと帰っていた。


 学校での休み時間はよく居眠りしていた。


 定期考査の結果が毎回悪くなっていったのは……。


「大和くんは高校生になってすぐにここのアルバイトを始めたんだ。当時3年生だった私もここでバイトしてたから、そこで彼と仲良くなってね。いつか大和くんを訪ねてあなたたちのクラスに行ったことがあったでしょう?あれはシフトの話で用があって訪ねたんだ」


 大和が高校生になってから、アルバイトをしていた……?

 最近まで……? 


 成績が悪くなっていたのはそれが原因だったってこと……?

 時間的な余裕が無かったから……?


「ど、どうして大和がバイトを!?彼のお家は中流家庭で!生活に困ってなんか!」

「……大和くんのお父さんはね、起業して会社を立ち上げたんだ。でもそれが上手くいかなくて、結果会社は倒産。残ったのは多額の借金」

「そ、そんな……私、なにも聞いてない……」

「男の子だからね、やっぱりプライドはあるし……格好悪い姿を見せたくなかったんだじゃないかな」


 格好悪い姿……?

 アルバイトをしていることが……?


「大和くんとは色々は話をしたなぁ。学費を稼いで絶対に大学に行くんだって、約束をした幼馴染がいるからって。口癖みたいに言っていたよ。それってきっと、宮野さんのこと……だよね?」


 涙が……溢れた。


「なんで!?どうして大和はバイトを優先してたの!?大和の本来の実力なら成績優秀者にだってなれます!学費を全額免除してくれる大学もあるかもしれないのに!」

「そうだね。でも彼はバイトと勉学の両立を選んだんだよ。結果それはできなかったけど」

「そんな……なんで……」


 大和は私との約束をずっと守ろうとしてくれていたんだ。

 それなのに……私は……。


「私も全部聞いたわけじゃないけどね、大和くんは家計を支えたい気持ちもあったんだと思うよ。お父さんは強気で優秀だったけど会社の倒産で落ち込んでいて、お母さんは物静かで不器用だけどパートやバイトをいくつも掛け持ちして頑張ってるって言ってたから」


 き、聞きたくない……。

 こんな……こんな話……。


「文化祭の前日だったかな、大和くん体調悪い中バイトに来たんだけど結局働けなくて」


 文化祭前日……私が大和の気を引こうとして、彼を怒らせてしまって日。


「彼が心配で私が自宅まで送っていくことになったんだけど、そこで大和くんがね、プレゼントを買いたいって言ったから」


 プレゼント……!?

 文化祭の時に大和が持っていた小箱は……もしかして……。


「近くのデパートに立ち寄って、プレゼントを購入していたよ。文化祭当日誕生日のあなたのために」


 やっぱり……あれは私のための……プレゼントだったんだ。

 大和が文化祭に来れなかったのは……体調が悪かったから……。


「体調が悪いのになにをプレゼントしようか、長い時間悩んでいたよ。『葵、喜んでくれるかな』って。最近はずっと辛そうにしていた大和くんがその時は少し楽しそうに見えたなぁ」


 大和はいつも頑張っていたんだ……それなのに……私は……。


「そして文化祭当日、その夜に大和くんに会ったんだ。体調が悪化して私が看病したの。その時に文化祭でなにがあったか彼の口から聞いたんだ」


 後夜祭の後、大和は先輩に会っていた……!?

 ううん、それよりも……。


「や、大和は、なにを言っていたんですか!?」

「あなたと村瀬くんが恋人になったことがショックだったって」

「そ、それって……」


 大和は……もしかして……私のことを……。


「そうだよ、大和くんはね、あなたのことが、宮野さんのことが大好きだって言ってたよ」


 私の一番の願いだった。


 大和に好かれること。

 大和に私の気持ちを知ってもらうこと。

 大和と恋人になること。


「そんな……こんなことって……」


 大和が……私のことが大好き……。

 飛び上がるぐらい嬉しい。

 信じられない。


 彼の口から聞きたかった言葉。


 でも今は……こんなにも苦しい。


「また色々あって生活がより苦しくなってたのかな。バイトも勉強も頑張ってたけど……体調を悪くして、それでもあなたの喜ぶ顔が見たくて文化祭に行って」


 大和が頑張っていた時、苦しんでいた時、私はなにをしていた?

 どんなことを考えていた?


「人並みに遊びたい気持ちもあったと思う。でも高校生だと遊びに行くのにも多少お金は掛かるよね。そういうことも我慢して、稼いだお金で買ったあなたへのプレゼント。それを泣きながらゴミ箱に捨てた大和くんの姿は……見てられなかった」


 大和が苦しんでいたことを……。

 これ以上は聞きたくない!

      知りたくない!


「うっ……や、まと……やま、と……」


 涙が流れて、呼吸が乱れて……苦しい。


「宮野さん、ごめんね。私そろそろ行かないと。ここのバイト私も今日で最後だからお世話になった人たちに挨拶しないと」


 地面に蹲り、癇癪を起す私を尻目に先輩はスーパーに向かって歩き出す。


「あぁ、ごめんなさい。一番肝心なことを伝えるのを忘れてたなぁ」


 振り返りこちらを見下ろす速水先輩。


「私、数日前に大和くんに会ったんだ。それで彼に伝言を頼まれていたの」


 や、大和に会った……!?

 伝言……!?

 私に……!?


「やっ………ま、と………」


 聞きたいことが沢山ある。

 でも、声が出ない。


「もしも、あなたに会うことがあったら伝えてほしいって言われていたの」


 上手く……呼吸ができない。


「『急にいなくなってごめん。葵のことが大好きだったよ。でも、もう会いに来ないでほしい。』」


 大和……私も大好き……。

 だから……そんなこと……言わない、で。


「『今の俺はもう……葵のことが大嫌いだから』」


 ……大嫌い……?

 誰が……?

 誰を……?


「伝言はこれだけ。宮野さん……今度こそ、あなたはあなたのために頑張ってね」


 そう言い残し、先輩はそそくさと公園から去って行ってしまった。


「や、まと……いかない、で……」


 苦しい、辛い。


 なにがいけなかったのかな?

 どこで間違えちゃったのかな?


「うっ……あ゛……ぎ、ぎらいに、ならない、で……」


 狂ってしまった歯車は……元には戻らない……。


 いくら謝っても、泣き叫んでも。

 大和は答えてくれない、来てくれない。


 大和に比べれば、私なんて絶望なんかじゃなかった。


 失った。

 信頼を。

 大和と築き上げた関係すべてが。


 残ったものは……。


「あ゛ぁあーー!!!やまどーー!!ご、ごめんなざぃ!!」


 すべて後悔だけ……。


 地面に這い蹲る私は喉が張り裂けそうになるぐらい、涙が枯れても、泣き叫び続けた。


 そして……私は……。

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― 新着の感想 ―
葵視点同情しようとしても、仕切れない違和感があったけど、こういうことか。 葵、葵の父、クズ徹は一生絶望しとけ。 大和はどうか幸せになってくれ。
うわー、スマホ探さないのが余りにも不自然だったけど、探さない理由が想像を超える屑っぷりだった 加害者から被害者になろうとしてたとかやばい女だな… 徹に利用される哀れな女じゃなくて立派な共犯者なのは草も…
成り上がって、手の届かない存在として現れて、しかも、先輩が苦労を支えた奥さんとして、大和の隣に立ってたら、、、メシうま、と妄想したけど、タグがないから、もう終盤かな。
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