27話 崩壊する関係
「待って、大和!」
正門前までとにかく全力で走ると、そこで立ち尽くしている大和に追いついた。
「き、きてたんだね……」
頭の中はグチャグチャだった。
さっきの出来事は確実に見られている。
なんとかしなくちゃいけない。
「こ、今年の文化祭はすごい大盛況だったよ!保護者や来賓の人たちも沢山来場していてね。すごく大変だったんだよ!でも皆で頑張って文化祭を成功させようって!」
でも、なにをどう言ったら良いかわからない。
「生徒会と実行委員の人たちで協力して楽しかったけど……だけど……その中に……」
なにを言っても言い訳がましく聞こえるだろうし……どう説明すれば良いのか……わからない。
「その中に……大和がいてくれたら……もっと、楽しかっただろうなって。今年の文化祭はもう終わっちゃうけど……ら、来年は……私と一緒に────」
「さっきの!!」
本筋とは関係のない話をだらだらとして彼を繋ぎとめようとしていた最中、大和の声が私の話を遮った。
「さっきの、フォークダンス……すごく良かったよ。葵と徹……お似合いだった」
やっぱり誤解されている……!?
「あれは、その、成り行きで!」
「学校の伝承……だっけ……?手を繋いでいたら結ばれるって話」
大和はジンクスのことを知っていたんだ。
どうしよう……どうしたら……。
「まさか抱き合うとは……思ってなかったけど……」
「ち、違う!違うの!!」
「なにが……違うんだよ……?」
見苦しく否定する私に彼は冷たい視線を向けてくる。
本当に違うんだよ!
私はあなたのことしか見ていないのに。
「や、大和!あ、あのね!」
一体どこから説明すれば良いのか……。
徹との協力関係のことから……?
でも、今日の私は徹の味方で……彼女で……
でも、なにか言わなくちゃ……。
「葵、急に走り出してどうしたんだよ!?」
「徹……」
「や、大和……!?今日は休んでたんじゃ……!?」
私を追いかけてきた徹……そしてもう一人。
「葵、どうしたしたんだ?突然走り出して。あまり徹くんを困らせるんじゃない」
お父さんもこの場にやってきてしまった。
大和は怪訝な表情でお父さんと対峙する。
「大和くん、お父さんは元気でやっているかな?」
「は、はい……」
「まあ、君も色々と大変だろうが頑張りなさい」
色々と大変?
父の含みある言葉が気になった。
「大変って……大和、どうかしたの……?」
初めて……違和感を持った。
「別に……なんでも、ない」
だけど……大和はなにも言わなかった。
「なんで大和っていつもそうなの!なにも話してくれないよね!?」
「いや……別に……話すこと、なんて……なにも」
明らかに話をはぐらかす彼を見て、怒りが込み上げる。
おまえには関係ない……そんなふうに言われたような気がしたから。
「成績だって悪くなる一方だし!学校行事には積極的じゃないし、今日の文化祭だって無断欠席して!」
私は本当に身勝手だと思う。
「来年は受験なんだよ!今のままだと大学にいけないよ!」
私は本当に我儘な人間だと思う。
「大和も知ってると思うけど『落ちた秀才』なんて陰で言われてるんだよ!」
もしかして、私にも色々あったように……大和にも事情があったのかもしれない。
頭の中でようやくその思考にたどり着いたのに……私は……。
「悔しくないの!?」
私は……自分を正当化したかっただけなのかな。
「もっと……お願いだからしっかりしてよ!」
あなたも色々と苦労しているのかもしれない。
でも、私の方がもっと辛かった。
「おまえに…………なにがわかるんだよ!!昔がなんなんだよ!!おまえに俺の気持ちなんてわからないだろ!!」
彼が起こるのは当然だった。
この時の私はそのことを理解することもできない。
「ご、ごめん、大和……、私……そんな責めるつもりじゃなくて……」
ただ謝った。
大和の機嫌を損ねてしまったことに対して……。
「こ、このままだと……約束が……」
「なにが……約束だよ!?」
「同じ大学に行くっていう約束が……叶わないと思って……私……」
『約束』……私の原動力。
……生きる理由。
「そんな約束なんて!もう……どうでもいい」
「そ、そんな……わ、私……大和と一緒にいたくて……」
「おまえには……徹がいるだろう……」
「ち、違うよ!私たちはそんな関係じゃなくて!」
「なにが違うだよ!?」
言い訳のしようがない。
徹とフォークダンスを踊ったことは誤魔化しようがない事実。
「もう、いいよ……葵……」
「ご、ごめんなさい、大和……私が悪かったから……だから約束は……」
ただ謝る。
大和に嫌われたくなくて……。
中身の無い謝罪。
「大和……それって……もしかして……」
失意の中、大和の右手に握られている小箱が目に入った。
「あ、葵!こんな時になんだけど!誕生日おめでとう!これ受け取ってくれ!」
私たちの間に割り込んできた徹がプレゼントを差し出してきた。
「え……あ………」
そう、だった……。
……忘れていた。
今日は……私の誕生日だったんだ。
「な、なに……これ?」
「開けてみてくれ!」
大和が持っていたものは……もしかして私への誕生日プレゼントなんじゃ……。
そんな期待をしてしまっていた私は目の前の徹よりも大和のことが気になって仕方なかった。
「これ……いくら、したの……?」
上品なアクセサリーボックスを開けると、その中に入っていたのはシルバーに光輝く美しいネックレス……。
それは高校生が簡単に購入するような代物ではないことは一目でわかった。
「30,000円ぐらいだ。そんなに高いものじゃなくて申し訳ないんだが……」
…………いらない。
こんな高いもの、いらない。
徹からのプレゼントは、いらない。
私が欲しいものは……大和からのもので……。
「ま、待って!大和!」
大和は正門から出て駆け出した。
「大和、お願い、待って!」
あとを追いかけて強引に彼の足を止めさせる。
「放せよ……」
「大和、約束……同じ大学に行くんだよね?」
約束……それだけは、私と大和を今は繋ぎとめてくれると信じているから。
「おまえには徹がいるだろうが」
「私は!大和とずっと一緒に……」
お願い……私の話を聞いてほしい。
「葵……もう……俺に……」
涙が……溢れた。
「俺に……関わらないでくれ」
そんな彼の言葉は聞きたくなかった。
「や……まと……?」
大和はそう言って、私を置いて走り出す。
心が引き裂かれるような痛みに襲われていた私は彼を追いかけることができなかった。
その場に蹲り、ただ……涙を流すことしかできなかった。
生徒会長?
成績学年1位?
「行かないで……やま、と……」
看板倒れ……私は精神的に幼いただの子どもだった。




