23話 翻弄される踊り子
夏休みが明けた。
そして迎えた新学期。
全校集会の始業式。
壇上で演説を行っていた生徒会長の私は沢山の生徒たちの中にいる大和を見つけた。
気持ちが高ぶっていた。
ようやく大和に会えるこの日を待ちわびていた。
それなのに……。
大和は私の話なんてまるで聞いていないような感じで、ウトウトしながらあくびなんてしている。
……イライラする。
始業式を終えてから私は大和を生徒会室に呼び出した。
「もっとしっかりしてよ!」
「だからわかってるって。もう勘弁してくれよ……葵」
「来年は受験なんだから、本当に頑張らないとだめだよ!大和は成績よくないんだから!」
私はこんなにもあなたのことを想っているのに、どうしてあなたはそんななの……。
「そう言うなよ、葵。大和なりに頑張っているんだからさ」
徹は大和に甘い。
それは徹なりの優しさなんだろうけど、私はやっぱり大和を放っておくことはできない。
「大和……約束覚えてるよね?」
「あ、ああ……勿論」
約束……それをあなたは大切に想ってくれているの?
「それじゃあ……俺、帰るから」
「ちょっと待ってよ!なんでいつもそんなに早く帰っちゃうの!?」
「それは……早く帰って勉強しなくちゃならないし……」
せっかく夏休みが明けて久しぶりに会えたのに……。
「それじゃあ少しだけ待って。今日の生徒会の仕事はミーテイングだけだから。久しぶりに一緒に帰ろ」
「……いや、その……俺、急いでるから!」
「あ、こら!待ちなさいよ!」
私との話を打ち切って大和は生徒会室を出ていってしまった。
まるで私と話をすることが煩わしかったように……。
「葵……この前の……協力関係の話だけど」
「なに?ご両親になにか言われたの?」
少し前に村瀬親子とお父さんが私と徹の婚約だの結婚だの、わけのわからない話を始めてしまった。
私と徹は今のところ親たちの話に反発しないようにしている。
『勝手にしたら』と……お父さんにも素っ気なく言葉を返しておいた。
「ああ、今度の文化祭で俺の親が来るから……また葵に会いたいって言っていて……」
「はぁー……うん、わかった」
正直億劫でしかないけれど、徹のためにも今は波風立てずに話を合わせておこうと思っている。
「来年は……受験か……」
時間が流れるのは早い。
この前2年生になったばかりなのに、夏休みが明けてもう2学期……。
「大和……もう……あまり時間はないんだよ……」
高校生のなってから変わってしまった大和の性格に鬱憤が溜まり、私の心には苛立ちが積もっていた。
♢
またやってきた定期考査。
私はいつも通り学年1位。徹は2位。
いつも通り。
そう……いつも通り、成績上位者の順位表には大和の名前は載っていない。
「なんで順位表に大和の名前がないの?」
「それは……だな、俺が……その程度の人間ってことなんじゃないか……」
「ふざけないで!!」
そのことでまた強く大和に当たってしまった。
私だってこんなことを大和に言いたいわけではない。
大和は私のことを見ると、また怒られるとでも思っているのか避けてくる時もあるし……。
その度にイライラする。
「ねえ宮野さんって、村瀬くんと付き合ってるの?」
「えっ?なにそれ?」
突然クラスメイトにそんなことを聞かれた。
「付き合ってないけど……どうして?」
「本当に?学校中で噂になってたから。生徒会長と副会長が恋人になったって」
なにそれ?
意味がわからない。
「おい、宮野生徒会長さ、副会長と付き合ってるらしいぞ」
「マジかよ、俺、狙ってたのに……」
廊下を歩いているだけでこの手のノイズが私の耳に入ってくる。
……鬱陶しい。
……ムシャクシャする。
「徹、学校で流れている噂だけど、どうしてこんなことになっているの!?」
「お、俺に聞かれてもわからねぇよ」
被りを振る徹はそのまま言葉を続けた。
「俺だってさっきそのことをクラスメイトに言われたんだ。一体誰が俺たちのことを恋人だなんて……」
お父さんたちのことだけでも煩雑なのに……学校でも……。
「どうしよう……大和に誤解されたら……」
「最近は大和と話もできていないんだろう?」
「……うん」
自分を変えたくて、自分のために頑張らないといけないと思って生徒会に入ったのに……。
生徒会に入ってから時間的な余裕が無くなって、大和との時間が取れない。
勉強も気を抜けないし、大和は学校が終わると私のことなんて気にもしないで帰っちゃうし。
「葵……少し考えがあるんだけど……」
俯いてる私の耳元で徹は徐にそう呟いた。
♢
私と徹の噂話が学校で話題になって数日が経った。
「葵……ちょっといいか?」
大和は何度も私に話しかけてきた。
「私……忙しいから」
適当に会話をはぐらかして彼から素早く距離を取る。
少し離れてから大和の方を振り返ると、彼は凄く複雑な表情で背中を丸めながら教室へと戻っていく。
私はそんな大和の姿を見て感情が高ぶっていた。
「徹の言った通りだったよ!」
放課後の生徒会室で大和とのやり取りを徹に報告した。
「だろう?」
徹の助言で私たちはこの噂を上手に活用することにした。
私と徹が付き合っているのかと同級生に聞かれても、勿論、付き合っている、なんてことは言わない。
ただ曖昧な返事をして答えをぼかした。
「葵、ちょっと気分良いんじゃないか?」
「うん!あ、でも……少し大和に悪い気はするけど……」
高校生になってから大和は私に構ってくれなくなった。
そんな大和が最近は毎日私に話かけてくる。
「気にすることねぇよ。大和だって葵に冷たかったしな」
「そう、だよね。ちょっと意地悪したって……。そ、それでさ……大和の反応ってどうなのかな?大和は私のこと……」
この噂を利用すると決めた時に徹に言われた。
もしも大和が私たちの噂を聞いてなにもアクションを起こしてこないなら、脈なし。
でも、なにかしら反応を示してくれたなら……。
「断言はできないが、脈ありと言って良いだろう。今頃大和の奴、葵のことばかり考えているんじゃないか?」
ニヤニヤが止まらない。
大和の頭の中が私のことで一杯になっていると思うと、気分が高揚して嬉しくてたまらない。
「でもこのままだと可哀そうだから次に話しかけてきたらネタバラシしてもいいかな」
「いや、まだ早い。もう少しこのまま引っ張ろう」
「え、でも……あまり長く噂されるのも」
「大和の本心を知りたいだろう?もう少しヤキモキさせたら……もしかしたら向こうから大胆な行動を起こすかもしれない」
大胆な行動?
「それって……?」
「告白とか」
「こ、告白……!?大和が……わ、私に!?」
「ああ、そうだ」
告白……大和が……私に好きだって……付き合ってほしいって……お願いしてくるってこと?
「脈ありの可能性は高いと思うし、告白まではいかなくても葵に振り向いてもらうために本来の力を発揮し始めるかもしれない」
「それって、またテストで学年1位に……」
「適わねぇよな。あいつに本気になられたら、俺たちの順位が下がるんだからさ」
そっか……そうだよね。
やっぱり大和は今まで本気じゃなかったんだ。
徹は以前、大和は平均点を取ることで精一杯って言っていたけど。
「そうだよね!大和がまた学年1位になって……そ、そしたら……」
また一緒に勉強したり、同じ大学に向かった頑張って……さらにその先には……。
「あ、そういえば徹のほうは大丈夫なの?私と付き合っているみたいな噂になって、その……徹の好きな人に誤解されたりしたら……」
「問題ないさ。その人は……俺の好きな人は……俺のことなんてなにも気にしていないからな。ただの俺の片想いだから……気にしなくていいんだ。今は……」
今は?
含みがある言葉に聞こえたけれど、徹にも色々と考えがあるのかな。
「葵……もう少しで文化祭、だな」
文化祭……!?
去年は誘う勇気なんて全くなかった後夜祭のフォークダンス。
もしかしたら、このままいけば、今年は大和が私を誘ってくれる!?
「その日……葵の誕生日、だよな?」
そうだ……私の誕生日……その日はもしかして、私にとって、特別な日になる!?
「うん……すごく、楽しみだなぁ」
高校生になってからこんなにワクワクしたことなんて無かった。
ううん、人生の中で今が一番気持ちが高ぶっているかもしれない。
「……ああ。文化祭当日は……忙しくなりそうだな……」
私は大和がこれからどういう行動を取ってくるのか、もしかしたら文化祭で大和から告白……なんて都合が良い妄想を膨らませていた。
そんな私を尻目に生徒会室の小窓から外を眺めて物思いにふける徹のことなんて……微塵も気にしていなかった。




