22話 発足した関係
2年生になって、生徒会役員になって、私は毎日忙しくしていた。
「徹、この書類のチェックお願い」
「ああ、了解」
徹も私と一緒に生徒会に入った。
以前は生徒会には興味がないように見えたけど……。
彼もなにかしら理由があって生徒会に入ったのかな。
生徒会の仕事は多忙だけれど、とてもやりがいがあった。
今まで関わることがなかった別のクラスの人たちや他学年の先輩後輩。
沢山の人たちと関わることができて、様々な経験ができて、日々成長を実感できている。
「えっ、私が生徒会長に?」
「うん、宮野さんになら安心して任せられるから」
生徒会役員全員が次の生徒会長に私を推薦してくれた。
選んでもらえたことがとても嬉しかった。
「私が生徒会長か。徹は副会長だね、一緒に頑張ろうね」
「……ああ、そうだな……」
徹の返事は素っ気なかった。
いつもはもっと明るい表情が目立つ徹がさっきから不機嫌そうに見える。
昔、私によく意地悪をしてきた時の……昔の徹を見ているみたいだった。
♢
「ねえ徹、今日は大和の調子どうだった?」
「ああ、まあ、いつも通りって感じだな」
2年生になって私と大和はクラスが分かれてしまった。
生徒会の仕事は忙しいし、勉学の方も気を抜けない。
直接大和の様子を逐一観察していたいけれど、そんなことはできない。
彼と同じクラスの徹にこんな質問をするのが、もう日課になってしまっていた。
「葵、大和のことは……放っておいて良いんじゃないか?」
「なに?どういうこと、それ?」
徹のその言葉に憤りを感じた。
「あいつは……もう、俺たちとは……その」
「なにを言っているの!?このままで良いわけがないでしょ!」
「それは、そうだけど……。俺が言いたいのは、少しそっとしておいた方があいつのためにも良いんじゃないかってことだ」
「これ以上成績が悪くなったらどうするのよ!」
「その気持ちが大和には重いんだよ!あいつは首席合格したばっかりに、過大評価されて、期待されて、苦しんでるんだよ!」
やめてよ……そんな言い方。
まるで大和が優秀じゃないみたいな……。
「大和は私たちよりも本当は凄いんだよ!徹だって知っているでしょ!?」
「それは!……高校入学までの話なんだよ……。今のあいつは……テスト期間の度に必死に努力している。それでも、平均点を取ることで精一杯なんだよ」
そんなことないよ……。
だって、だって……。
それが本当なら私と大和は同じ大学には……。
お父さんとの約束が……。
「俺たちが頑張れと言っても嫌味に聞こえるだけだ。だから今はそっとしておいた方がいいんだ」
……嫌だ。
……信じたくない。
でも……本当に今の大和が壁にぶつかっていて、必死に頑張っているのなら……。
「うん……わかった」
今は余計なプレッシャーを与えてしまってはいけないんだ。
「まあ、大和は天才だったからな。今までつまずいたことが無かったから、今は立ち上がるのに苦労しているだけだ。俺もあいつを信じている」
それから私と大和は偶然廊下で顔を合わせた際に少し会話をするぐらいだった。
そして時間はどんどん過ぎていって、学校は夏休みに入ってしまい……彼とは会話をすることすら無くなった。
♢
夏休みに入って大和と会えない日々が続く。
私はフラストレーションが溜まっていた。
我慢できなかった私は……。
『一緒に勉強しない?』
『お父さん出張でしばらく帰ってこないから、久しぶりにどこか遊びに行こうよ!』
と……何度かスマホでメッセージを送ったりもしたけれど、彼は素っ気なく私の誘いを断ってきた。
来年の受験に向けて毎日勉強して、生徒会の仕事でたまに学校へ向かう日々。
悶々とした日常が続く夏休み。
「葵、お客様だ」
珍しく朝から自宅でゆっくりと過ごしていたお父さんがそう言って玄関の扉を開けた。
「あ……お邪魔します」
緊張した面持ちで我が家に入ってきたのは……徹だった。
そして徹の後ろには、何度か顔を見たことがある大人が二人。
「葵ちゃん、久しぶりね!また大人っぽくなって!」
その人たちは徹のご両親だった。
昨年の文化祭の時にご挨拶をしたことがあったけど……。
「あ、はい……お久しぶりです……」
徹の母である紀子さんと父の村瀬先生。
「今日はお招きいただきありがとうございます」
村瀬先生は相変わらず飄々としている。
以前も少し思ったけれど、私はこの人達に……なぜか少し苦手意識があった。
お母さんが亡くなった悲しい出来事。
村瀬先生や紀子さんを見ていると、そのことを無意識に思い出してしまうからなのかもしれない。
♢
「ちょっとどういうこと!?婚約って!?」
「葵、お客様の前だ。大きな声を出すんじゃない」
突然やってきた村瀬親子。
私とお父さんを交えてよくわからない話合いが始まったかと思えば、私と徹の婚約について……という意味のわからない議題が上がった。
「葵さん、急な話で申し訳ない。でもこの話は両家のこれからにとって良い話だと思うんだ」
村瀬先生は優しい声色でそんなことを言うけど納得できるはずなんてない。
「わ、私は婚約なんてしません!そんな……今から結婚相手を決めるなんて」
私の正面に座る徹は特に表情を変えずに静かに話を聞いている。
「葵ちゃんと徹は生徒会でも協力しながら頑張ってるんでしょ!?凄くお似合いだと思うなぁ」
紀子さんはニコニコしながらそんなことを言っているけど冗談じゃない。
私は大和のことが好きなんだ。
今は夏休みで会うこともできないし、連絡しても返信がない時だってある。
ストレスが溜まっている時にどうしてこんな良くないことが続くのか……。
「徹、ちょっと来て。話があるんだけど」
私はさっきから口を開かない徹の手を取って、この場から離れるように誘導する。
「まあ、お若い二人だけで話たいこともあるわよね」
リビングから出ていく私と徹を見て紀子さんが何か言っているけど、今は気にしている余裕はなかった。
♢
「徹、どうなってるの!?説明して!」
「お、落ち着けよ、葵」
廊下で私は徹に詰め寄った。
彼はため息を吐いてから、今に至るまでの経緯を話し始めた。
どうやらお父さんと村瀬先生は私と徹の将来……結婚まで見据えて話合いをしていたらしい。
なぜそんな話になったのかは徹もよく知らないと首を横に振った。
「私のお父さん……結構前に利害関係?とかって言ってた」
「利害?なんの話だ?」
「多分……会社の話なんじゃない。お父さんは仕事のことばっかりだから……」
涙が溢れてくる。
なんでいつも……いつも……こんなことになるのかな……。
「大和のことが……好きなのか?」
徹が静かに呟いた。
彼はとても真剣な表情で私のことを見つめていた。
「うん……好き……大好き」
そんな徹に嘘はつけなかった。
「……そうか」
徹は私に背を向けて少し距離を置く。
「いつから……気づいていたの?私が大和のことを……」
「……初めて会った時からだよ。葵はいつもあいつの話ばかりしていたから……」
そうだったんだ……徹にはずっと見透かされていたんだ。
私の気持ちを……。
「葵、これからのことだけど協力し合わないか?」
「協力?」
振り返り私と目を合わせてきた徹の表情は真剣そのものだった。
「こんな話面倒だろう?婚約とか結婚とか」
「う、うん」
「俺の親ってああ見えて実は凄く頑固なんだよ。俺の見立てによると葵のお父さんもそうなんじゃないか?」
「うん、そうだよ。すごく」
本当に頑固だよ……お父さんは……。
「だから俺たちが反対したって聞く耳なんて持ちやしないんだよ。現状ではな」
「でも、どうしたら……」
「だから今は適当に話を合わせておけば良いんだよ。親は俺たちがまだ高校生だからガキだと思ってるんだ」
「でもそれだと、将来的に無理やり結婚させられたりしない?」
「何言ってるんだよ!ドラマの世界じゃないんだから、そんなことあるはずないだろう?今は親の助けがないと生きていけないガキだけど大人になればどうにでもなるさ」
「そうかもしれないけど……」
確かに徹の言う通りだと思うけど……安心はできない。
あのお父さんのことだから、突然突拍子もないことを言い出すのではないかと心配になる。
「大丈夫だって。もしも仮に婚約なんて話になっても俺と葵の両方が猛反対すれば、さすがに向こうだって考えを改めるだろう」
一抹の不安は残る。
でも、この時の私はとにかく早く一時しのぎだとしても打開策を打ちたかった。
「徹……一つ聞いてもいい?徹が私と協力したいって言ったのはなんで?」
「……さっき言っただろう?こんな話面倒だって……」
「それだけが理由?」
「……葵が大和ことを好きなように、俺にも……好きな人がいるんだよ……」
それを聞いた時、不思議と合点がいった。
「徹の好きな人……それって、誰なの?」
「それは……まだ、言えない」
「えー……徹は私の好きな人知ってるくせに……」
「まあ……時がきたら……ちゃんと教えるから、さ」
さっきまで乱れていた心が少しだけ穏やかになっていた。
それは多分、徹に自分の気持ちを打ち明けることができて良き理解者を得られたと勝手に思っていたから……。
「だから俺にとっても……この協力関係の発足は必須なんだ」
「わかったよ、徹」
こうして私と徹はお互いのために、この問題を乗り越えようと手を取り合うことにした。
精神的に参っていたのかな?
焦っていたのかな?
冷静さを欠いていたのは間違いない。
この時の徹とのやり取りを……後に私は酷く後悔することになる。




