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青の屋敷



 瑠璃斗様が開いた扉の向こう側に入ると、青と銀の装飾がされた清楚な雰囲気の屋敷が現れた。

 風に乗って薬品のような匂いが漂っている。



 「ようこそ、青藍。ここが僕の”青の屋敷”です」

 「なんだか薬品のような匂いがしてきますね」

 「青の屋敷には「医」に優れた者が集っています。僕もこう見えて医者なんですよ。薬品も多く取り扱っているからちょっと薬品臭いかもしれませんね」



 屋敷を行きかう人々は白衣を羽織っていて、薬草の入った籠を持って歩いてた。

 瑠璃斗様に手を引かれて屋敷の中を案内してもらう。



 「ここが僕の部屋です。座っててください、今お茶を入れてきますので」

 「あ、ありがとうございます」

 「部屋の中にある物にあんまり触れてはいけませんよ??効き目の強い薬の試作品も置いてありますし、もし手にかかって綺麗なお手手が火傷にでもなったら大変ですから」

 「わかりました、大人しくしてます」



 部屋の戸棚には様々な色をした薬品が入った瓶が並んでいた。

 手にかかるだけで火傷になると聞いて思わず身体が強張る。

 私が大人しくしているとわかった瑠璃斗様は満足そうに頷いて隣の部屋へ行ってしまった。

 ソファに座りながら部屋を見渡していると、飾られていた写真が気になって近づいた。



 「お母さんの写真だ……私よりも若い頃のかな??」

 「その写真が気になるのですか??ああ、それは白蘭姉様が16歳のころの写真ですね」

 「どうしてこの写真のお母さんはこんなに泥だらけなんですか」

 「これはね、初めての庭いじりが楽しかったらしくて……でもドジな姉様は尻もちついたり転んだりして見てるこっちがハラハラしましたよ」

 「昔からドジなんですね……でも、すごく楽しそう」



 壁には若い頃のお母さんの写真が数枚飾られていた。

 思わず夢中で見ていたら、お茶の用意を持って戻ってきた瑠璃斗様が懐かしそうに話してくれる。

 写真の中のお母さんは顔を泥だらけにしているが、その表情はとても楽しそうにしていた。


 他にも小さい頃のお母さんの写真もあったので興味深く見ていると、机の上に置いてあった写真立てが倒されていたので何気なくそれを手に取って見る。



 「これって……」

 「ああ、なんでもありませんよ。お茶にしましょうか……さぁ、そこに座りなさい」

 「はい……」



 その写真立てに入っていた写真には、とても楽しそうに笑っているお母さんとその隣には顔が黒く塗りつぶされている男性の姿があった。

 その立ち姿はお父さんに似ていたが、なんせはっきりとは言えなかった――恐らくここにある写真の中で一番素敵に笑っているお母さんの隣にいる人物の顔は黒く塗りつぶされていたからだ。


 もっとよく見ようとしたが、すぐに瑠璃斗様に取り上げられて元の場所に再び倒した状態で置かれた……これ以上聞いてはいけない気がして私は大人しくソファに座った。



 「青藍は何歳になったんですか??」

 「19歳になりました。でもそろそろ誕生日が近いのでもう20歳です」

 「19歳……姉様がこの国を出て行った歳と同じくらいですね。ねぇ、青藍の瞳をもっと近くで見てもいいですか??」

 「瞳ですか??構いませんが……」



 向かいに座っていた瑠璃斗様は立ち上がると、私の隣に座ると両手で私の顔を包み込んだ。

 自然と瑠璃斗様の端正な顔立ちが目に入り、そして私に似た少し紫が入った青い瞳と目が合う。



 「青藍は本当に姉様にそっくりです。だけど瞳の色だけが違う……白蘭の花を連想させるような美しい白と黄色の混ざった色じゃない……ああ、残念だ」

 「瑠璃斗様……??あの、痛いですっ……!!」

 「ああ、すみません。無意識に力が入ってしまいました……赤くなってしまったら大変です」



 瑠璃斗様の親指が私の目の下の皮膚を引っ張り、まるで眼球を検査する時のように見られる。

 徐々に親指の力が入ってきて、そのまま目玉をくり抜かれるのではないかという恐怖に襲われ、思わず瑠璃斗様の手首を強く掴んだ。

 すると、瑠璃斗様は安心させるように笑うと目の下あたりを親指で撫でてくれた……なんだか怖かった。


 すると、部屋の外が騒がしくなり大きめの足音がこちらへと向かってくる。



 「失礼します!!こちらに青藍がいると聞いて迎えに参りました」

 「橙矢さん!!すみません、私……」

 「おや、僕が送って行こうとしたのに……李黄兄様の所の子はせっかちですね」

 「俺には青藍から離れず護衛するようにと言われておりますので――青藍、行くぞ」

 「は、はい……!!瑠璃斗様、失礼します」



 険し顔をしている橙矢さんは瑠璃斗様に臆することなく言うと、私の手を引いて足早に部屋から出ようとする。

 私が振り返ると、瑠璃斗様は笑いながら手を振ってくれた。




 群青の屋敷の扉から出ると、橙矢さんがようやく振り返って私を見下ろした。

 ふるふると微かに肩を震わせていたのでこれは物凄く怒っている……!!



 「なんで瑠璃斗様に着いて行ったんだ!!ここで待っていろといっただろう!?」

 「ご、ごめんなさい……ここで橙矢さんを待っているからって断ったんだけど無理矢理連れて行かれて……」

 「……はぁ、全く。肝が冷えたぞ」



 私の言っていることは言い訳に過ぎない……もっとしっかり瑠璃斗様の申し出を断ればよかったのだから。

 大人しく橙矢さんに怒られようと思ったが、大きく息を吐いて私の頭をガシガシ撫でてきた。



 「……いや、俺の方こそ少しでもお前を置いていってしまって悪かった。瑠璃斗様の事もちゃんと話していなかったし。とにかく瑠璃斗様には警戒しておけ」

 「瑠璃斗様を警戒??どうして……」

 「詳しい話は部屋に戻ってから話す。城の案内は今日はこれぐらいにしておこう」



 私達は咲き誇る桜の庭を後にして自室へと戻ってきた。

 部屋には茉莉はおらず、窓が開いていて心地よい風が入ってきている。

 テーブルに向かい合わせで座ると、橙矢さんが瑠璃斗様について話してくれた。



 「まず、瑠璃斗様は腕のいい医師なんだが……良くない噂があるんだ」

 「良くない噂??」

 「死体を必要以上に解剖したり、墓場を荒らしたり……いろんな人間の臓器などを集めているらしいんだ」

 「え……なんのために??」

 「わからない。本人は医学の為に必要な標本だと言っているがどうも怪しくてな……」



 瑠璃斗様のよくない噂は予想以上に危険な雰囲気がした。

 聞くと、小さい頃から自分で薬の調合をして小さな動物などに試していたという噂もあるとか。

 その異常さから、あまりいい印象ではないようだ。



 「医師の免許を持ってからは名医と言われるようになった。でも、最近過去の行いが明らかになったんだ」

 「お医者さんとしての腕はいいんだ。なにか問題が起こったの??」

 「白蘭様に以前薬を渡していたようで、第三者がその薬を調べたところ毒のような成分が微量だが入っていたんだ」

 「……じゃあ、お母さんは瑠璃斗様に毒を盛られていたの??」

 「可能性はある。――帝国にいた白蘭様は健康体だったし、桜彩国にいた時とは比べ物にならないほど体調がいいと言っていたんだ。恐らく、瑠璃斗様から渡されていた薬を飲まなくなったからじゃないかと俺は思う」



 それを聞いて背筋がゾッとした。

 お母さんは昔病弱だと言っていたが、もしかしてそれは瑠璃斗様に盛られた毒が原因という可能性もあるかもしれない。



 「だから、あまり瑠璃斗殿には近づくな」

 「わかった……」

 「わかればいい。――それから、青藍に渡したいものがあるんだ」



 橙矢さんは黒い布に包まれた何かを取り出した。

 布を開くと大きな平べったいお皿のようなものを取り出す。

 星空のような模様が描かれていて、その星は輝いているよう見えて綺麗だ。



 「バルムント殿から桜彩国に着いたらこれを青藍に渡すようにと言われていたんだ」

 「バルムント様に??魔法道具みたいだけど……」

 「同じものをリオール君が持っている。その器に水を注いで手紙を浮かべると、その手紙がもう一つの器の方に転送される仕組みらしい」



 これは帝国を出発する時に、バルムント様から渡されていたようだ。

 そしてこの魔法道具はどうやらリオールも持っているらしい。



 「手紙でなら直接言えないことも言えるはず……まず手紙でしっかりお互いの気持ちを知りなさい」

 「……確かに、手紙でならちゃんと伝えられるかも」

 「水をその器に注いでみよう。もうリオール君から手紙が来ているかもしれない」



 私は頷いて近くの水差しから星空の器に注いだ。

 水を注ぐと星空の絵がより輝いて、封筒のようなものが浮き出てくる。

 それを手に取ると、水に濡れているはずの手紙はちゃんと乾いていて無事だった。

 後ろの見ると、リオールの名前が書かれていた。



 「なんて書いてあったんだ??」

 「……」

 「青藍??どうした」

 「『青藍のバカ』としか書かれていません」

 「……は??」



 封筒をあけると、中に入っていた便箋にはたった一行だけ使って悪口が書かれていた。

 私は思わずその便箋を真っ二つに破って机の上に叩きつけるように放り投げる。

 橙矢さんもその手紙をくっつけて見ると、本当にそれだけしか書いていないことに少し呆れたような顔になった。



 「……まぁ、気長にやりなさい。とりあえず身近にあった出来事を書いて送ってもいいんじゃないか??」

 「……わかりました」



 あまりにも子供じみた手紙に若干イラついたが、私はちゃんと大人の返し方をしなければ。

 部屋に戻ってきた茉莉に便箋を用意してもらい、私も手紙を書くことにした。



 「何を書こうかな……まぁ、元気ですぐらいでいいか。馬鹿って手紙だったからまずそれぐらいでいいでしょ」

 「青藍様、そのリオール、様??という方は青藍様のなんなのですか??」

 「リオールとは幼馴染なんだけどね……」



 手紙を書きながら茉莉にリオールの事について話す。

 すぐ隣に住んでいた幼馴染、当時は身分も違っていたけどいつも一緒に遊んでいた事。

 そして、私を無理矢理部屋に監禁して結婚しようとしていた事。



 「監禁!?それはやり過ぎですね……」

 「でしょ!?だから嫌になって逃げだしてきたの」

 「まぁそこまで青藍様にぞっこんなら浮気とかの心配はなさそうですけど」

 「言い方を変えればそうかもだけど、流石にやりすぎでしょ」



 リオールの事を話していると、茉莉も若干引いていた。

 だが、まぁ一応リオールの名誉挽回をしておこう。



 「……でも、学園に一緒に通っていたときは結構私の事フォローしてくれたんだ。魔法成績も良くて、生徒会の秘書をしていて学年とわずいろんな生徒に慕われてたよ。そして学園で一番イケメン」

 「素晴らしい才能の持ち主なんですね。一緒にいてどう感じますか??」

 「どう感じる??うーん……まぁ、安心はするかな。ずっと一緒にいてお互いを知っているわけだし、無言になっても気まずいって思わないから私は楽。それに私には使えない魔法も使えて尊敬してる」

 「それって実は青藍様もリオール様のことが……」



 そう言って茉莉は口を閉ざしてしまった。

 何か言いたげな茉莉を横目に、書き終えた手紙を器の水面に浮かべると渦を巻くようにして沈んで跡形もなく消えた。







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