不老の一族なの??
なんとか朝食を食べ終わると、隣にいた三男の翡翠様が女性と見間違うような美しい顔で話しかけてくる。
確か、翡翠様はお母さんの2歳年上なのだが……見た目は20代後半に見えてしまうほど若々しい。
「初めまして、白蘭の娘ちゃん!!ずっと会いたかったんだから!!」
「はい!!私もお会いできてうれしいです」
「僕の事は翡翠お兄様って呼んでもいいよ!!白蘭とそっくりで可愛いー」
たしかに若々しい方なので叔父様というよりはお兄様と呼んだほうが自然かもしれない。
翡翠様は艶やかな桃色の髪に金色の髪飾りを付けていて、抱き着いてきた拍子に美人な顔がすぐ近くにきたので思わずまじまじと見てしまう――シミ一つ無い雪のような綺麗なお顔には薄っすらと化粧が施されていてた。
だが、抱き締めてくる力や身体から男性だという事がわかる……徐々に力が強まってきて苦しくなってくる。
「ひ、翡翠様……苦しいですぅ」
「おい、この馬鹿力。青藍が潰れるだろう……離れろ」
「ちょっと、夕緋兄様ー邪魔しないでよ!!」
固い胸板に顔を押し付けられて息が苦しくなっていると、夕緋様が翡翠様の頭を思いっきり叩いていた。
力強い腕から解放されて、足元がふらついたところを夕緋様が支えてくれる。
「大丈夫か??こいつはこんな見た目だが、相当な怪力だ……気をつけるんだな」
「夕緋様、ありがとうございます。私は大丈夫ですので」
「兄様はいつもそう言って僕を化け物みたいに言うんだから。安心して、今度からは力を弱めて抱き締めるから!!」
「そういう事じゃない……そう易々と年頃の女性に抱き着くな、と言っているんだ」
夕緋様を見上げてお礼を言うと、襟足が長い黒髪に切れ長の目から赤い瞳をした美丈夫がいた。
翡翠様が再び私に抱き着こうとしてきたが、夕緋様がそれを手の平で顔を押し返して阻止している。
その様子を近くで見ていたら夕緋様がさり気なく肩を引き寄せてくる……この人達、距離感が少しおかしいって思うんだけど、気のせいかな??
そう思っていると紫苑陛下が近づいてきた。
「お前達、そこまでにしなさい。青藍の事で大事な話があるから聞きなさい。」
「大事な話……ですか??」」
紫苑陛下が深刻な表情をして、部屋の中にいた使用人達を下がらせた。
部屋の中に王族の人間だけになったのを確認して、陛下が話し始めた。
「昨日、橙矢から報告を受けた……青藍を狙っている人物がいるようだ。しかも、その犯人はまだ捕まっていない」
「もしかしたら犯人がすぐ近くにいる可能性もあります。よって、しばらく青藍殿の護衛に橙矢を担当させようと思っていますがいかがでしょうか??」
「そうだな。頼めるか、橙矢」
「はい、お任せください」
橙矢さんのお父様……李黄様が提案して、私の護衛は橙矢さんがしてくれることになった。
そういえば、私を狙っている犯人がまだどこかにいる事を忘れてた……。
「青藍、何かあればすぐに報告するように。夕緋も翡翠も不審な人物がいたら教えてくれ」
「はーい、任せて」
「わかりました……。あの、関係ない話なのですがお聞きしてもいいですか??」
「うん??言ってみなさい」
私は今まで疑問だったことを聞いてみる事にした。
昨日聞こうとしたが、なんだかんだで聞けなかったから……。
「桜彩国に私を連れてきてどうしたいんですか??なぜ、お母さんではなく私なのでしょう??」
「もちろん、孫娘に会いたかったからだ。白蘭はもうこの国には来てはくれないだろうからな」
「……それだけですか??」
「そうよ??白蘭がいなくなって息子達しかいないし、夕緋も李黄の子供も男だらけ……華やかさが無いのよね」
私を引き渡すように言った理由は、ただ孫娘に会いたいというとても単純な物だった。
……てっきり、なにか裏があるのかと疑っていたので拍子抜けだ。
「あの、桜彩国と帝国の同盟の為にあちらの貴族と結婚するようにと言われたのですが、私はまだ結婚するつもりはないんです」
「その事も橙矢から聞いている。帝国の皇帝が勝手に言い出したことらしいな??――青藍を盾にして自国の要求を通しやすくしようという魂胆か」
「ですので、結婚についてはお断りしてもいいでしょうか??」
私が帝国を飛び出してきた理由も昨日の時点で橙矢さんが報告してくれていたようだ。
その内容を聞いた陛下は少し怒りをあらわにしている。
「青藍、私達は同盟の為にお前をあちらの貴族と結婚させようとは思っていない。だから、どうするかはお前が決めなさい。私達は青藍の判断に任せる」
「ありがとうございます!!とりあえず、どうにかして結婚は免れたくて……あと、同盟についてはちゃんと結ばれますか??」
「ああ、それは約束しよう。こうして青藍がここにいるのだから」
「……私はまだ桜彩国にいてもよろしいでしょうか??」
「もちろん。好きなだけいていいんですよ――青藍は私達の家族ですもの」
紫苑陛下達は同盟の為に私とリオールを結婚させようとは思っていないらしい……よかった。
ノルシェール帝国との同盟については問題なさそうなので、あとはリオールの事をどうにかしなければ。
早く手を打たないとリオールが転移魔法で桜彩国までやってきて、私を無理矢理帝国に連れ戻してしまうかもしれないし。
「それに青藍殿が狙われている件もあります。……今はまだ桜彩国に居てくれた方が守りやすくて好都合です」
「父上の言う通りです。早急に犯人を捕まえなければ青藍も不安でたまらないでしょう」
「そうだな。李黄、橙矢、引き続き青藍を狙うものの捜索を進めるように、そして早急に捕らえよ」
「御意。お任せください」
そう言うと李黄様と橙矢さんは陛下に向って自信の左胸に拳を当てて敬礼した。
その様子を満足気に見て頷いた陛下は私に再び目線を移して、ゆっくりと頭を撫でてくる。
「話は終わりだ。このまま青藍と時間を過ごしたいところだが、用事が入っていてな……また後で」
「はい、わかりました。また、後で」
謁見の間から出ると水の庭の通路を渡ったところで、前を歩いていた李黄様が私を振り返った。
李黄様は焦げ茶色の短髪で黄水晶のような色の瞳をしている。
二人が並ぶと親子というより、兄弟に見えてしまうほどだ……この一族は不老かなにかなのだろうか??
「紹介が遅れた。俺は李黄、こいつの父親だ。こいつと道中一緒だったようだが、大丈夫だったか??武術一筋で生きてきたもんだから、女性の扱いになれていないはずだ」
「父上、余計な事を言わないでください。……大丈夫だったよな??」
「ふふふ、大丈夫でしたよ。馬に乗れない私を優しく手を貸してくれました」
「なら、いいが。例の犯人が見つかるまでは橙矢を青藍の護衛にさせるから、二人共仲良くするんだぞ。年も近いし話が合うんじゃないか??」
一見、仏教面で少しがっしりした体格から近寄りがたい方なのかと思えばそんな事はなく、案外面倒見がいい人なのかもしれない。
私と橙矢さんの頭を乱暴に撫でながら優しく微笑む姿からとてもいい人なのだろう。
「では、俺は悠々が入り浸っていた酒場で不審な人物を見なかったか聞いてくる。――橙矢、青藍をちきんと守るように」
「はい。父上のお気をつけて」
「青藍ちゃん!!あとで僕のお屋敷に遊びに来てね~待ってるよ!!」
「私の屋敷にも時間があれば来なさい……面白いものを見せてあげよう」
「はい。ありがとうございます」
そう言って優しい表情からまた仏教面に戻った李黄様は私達とは違う方向へ歩いて行ってしまった。
夕緋様や翡翠様とも手を振って別れると、お二人は同じ方向の通路を歩いていった
残された私達はその背中を見送る――その背中が見えなくなってようやく、橙矢さんが声を掛けてくる。
「青藍、よければこのまま城の中を案内するが……どうする??」
「いいの??なら、お願いしようかな」
「わかった。それじゃあ、まずあっちに行くと――」
大きなお城だが、知っている場所はまだほんの少しだけだ。
ちょっとした冒険をするみたいで、私はわくわくしながら橙矢さんの後を付いていった。
好感度はすでに上限一歩手前




