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緊張の顔合わせ



 木のいい香りがする木製の湯舟は広々としていて、思わず仰向けになってぷかぷかと浮いていた。

 鬼灯、と呼ばれる帝国では見かけない植物の形をしたランプが浴室を赤く照らす。


 茉莉さんに頭のてっぺんから足のつま先まで丁寧に洗われて、なんだか複雑な気持ちになった。

 年齢を聞いてみると、私より4つ年下の15歳と聞いて驚いた……しっかり者さんだ。



 「青藍様、寝ないでくださいね。そろそろ上がらないとのぼせますよ」

 「うん……すごい気持ちよくて」

 「気に入っていただけてなによりです。明日も明後日も私がピカピカにして差し上げますよ」

 「……一人で入れるのに」



 言われた通りのぼせてきたので湯舟から出ると、茉莉さんが私の体をふわふわのタオルに包んで拭き始める。

 自分で拭こうとしてタオルを受け取ろうとしたが、あっけなく避けられたので大人しく拭かれることにした。

 脱衣所にある長いソファには色鮮やかな服が大量に掛けられている。



 「青藍様はどんなお色が好きですか??この中から選んでくださいね」

 「こんなに沢山の中から選ぶの??うーん……青、がいいな」

 「青藍様の瞳の色と一緒の服もありますから、これにしましょうか」



 そう言うと、数ある服の中から迷わず紫がかった青い服を手に取り私に着せてくれた。

 以前、ライスワインを作っていた祐樹さん達の国とは少し似ているような違うような服だった――だが、こっちの方が動きやすくて私は好きかも。


 着付けが終わって鏡の前に立つと、白の何層にも重なったレースのワンピースの上に、花の刺繍が施された青藍色の羽織と胸の下あたりには帯が結ばれている。



 「とってもお似合いですよ、青藍様!!あとは髪の毛を結い上げましょうね」

 「軽く一つに結ぶくらいでいいよ」

 「何言ってるんですか!!折角綺麗なお召し物を着ているんですよ!?全て完璧にしないと駄目です!!」

 「ええー」



 問答無用でドレッサーの前に座らされると、茉莉さんは鼻歌を歌いながら上機嫌で私の髪の毛をブラシでとかし始めた。

 優しい力加減で思わず眠ってしまいそうになっていると、肩に手を置かれて鏡を見る。

 すると銀色の髪は房状の飾りがついた紐でポニーテールに結い上げられていた。



 「さ、完成です!!お綺麗ですよ、青藍様」

 「ありがとう……すごい、完璧だね」



 鏡に映る茉莉さんはとてもやり切った感が出ている。

 顔を左右に動かすと、房状の飾りが揺れて青い紐に編み込まれている金の糸が微かに輝いて綺麗だ。



 「ありがとう、茉莉さん」

 「私の事は呼び捨てでいいんですよ。私は青藍様の侍女なのですから!!」

 「じゃあ茉莉……しばらくの間よろしくね」

 「ええ、よろしくお願いします。それでは飲み物を取ってくるので待っててくださいね」



 私は振り返って茉莉に言うと、嬉しそうに笑ってくれた。

 茉莉は照れ隠しのように少し早口で言うと部屋から出て行ってしまった。

 私はもう一度部屋の中を見渡すと、丸い窓のようなものがあったので開けてみる。



 「わぁ……綺麗な庭だなぁ」



 窓を開けると目の前には大きな庭園があり、様々な花や植物が植えられている。

 私は身を乗り出して庭を見ていると1人の男性がいた。


 その人は庭の中央にある白いお花をじっと見ていたが、私の視線に気づいたらしくこっちに顔を向けた。

 無表情だった顔は徐々に驚いたような表情になると、その男性の口が何かを呟くように動いた……が、その声は小さく全く聞こえない。



 「どこかで見たことがあるような……??」

 「青藍様。お茶をお持ちしましたよ」

 「あ、茉莉。あそこにいる人って……あれ??いなくなっちゃった」



 お茶とお菓子をワゴンに乗せて持ってきた茉莉に庭にいた男性の事を聞こうとしたらその人の姿はもうどこにもなかった。

 大人しく椅子に座るといい香りのお茶を入れてもらい、とりあえず乾いた喉を潤す。



 「茉莉、さっき庭に男の人がいたんだけど……誰だかわかる??」

 「……その方の瞳の色は瑠璃色でしたか??」

 「うん、青っぽい色だよね??なんだか、私の顔を見て驚いたような顔をしてたから気になって」

 「その方は瑠璃斗様です……ですが、あまり関わらないほうがいいかもしれません」

 「瑠璃斗ってお母さんの弟でしょ??どうして関わっちゃいけないの??」

 「詳しくは橙矢様や陛下からお聞きください……私の口からは言えませんので」



 茉莉はそう言って口を閉ざしてしまった。

 確か、遭難した時に橙矢さんに見せてもらった家族写真の小さな男の子と面影が似ていたような……??

 その時、橙矢さんも瑠璃斗さんについて複雑な事情があると言っていた。

 


 「青藍様??」

 「あ……ううん、なんでもない」



 今度橙矢さんに瑠璃斗さんのことについてちゃんと聞いてみよう。

 もう一度茉莉が用意してくれたお茶に口をつけると、ホッとする味がしてとても落ち着いた。


 自分では疲れはあまり感じていなかったが身体はそうではなかったようで、その日の夜はぐっすりと眠る事ができた。



***




 「青藍様!!朝ですよ、起きてください!!」

 「わっ!!……茉莉??おはよう……」

 「早く身支度を済ませますよ。両陛下が青藍様と朝食を共にしたいとのことです」

 「えっ、お二人と一緒に??」



 ベッドのすぐ横から茉莉の元気な声がして飛び起きる。

 手を引かれてベッドから下りると、手際よく私の身支度をしていく。

 寝ぼけていた意識が徐々にはっきりしてきた頃には、いつの間にか鏡の前で衣装も化粧も髪の毛も完璧に仕上げられていた自分の姿が映っていた。



 「本日のお召し物は紫苑陛下と鷺羽王妃のお二人の瞳の色と同じものにいたしました」

 「茉莉ってすごいね……ありがとう」

 「そろそろ橙矢様が迎えにくるはずです――いらっしゃいましたね」

 「え??そうなの??」



 今日の衣装は昨日と同じデザインだったが、紫の衣に薄桃色の帯で両陛下の瞳の色と同じだ。

 外からは何も物音が聞こえなかったのに、茉莉がドアの近くで立ち止まると同時にノックされる音がした。

 茉莉が私を見てきたので、「どうぞ」と声を掛けるとドアを開けてくれた。

 そこには今までのような軍服ではない、茶色の衣装に橙色の小物を付けている橙矢さんが立っていた。



 「おはよう、青藍、茉莉。……茉莉は相変わらず耳がいいな」

 「私の特技ですので。青藍様の身支度は終わっておりますよ」

 「そうか。では青藍、行こうか」



 橙矢さんが歩き始めるのでそのあとを付いていく。

 軍服ではない橙矢さんは初めてだが、こうしていると本当に貴族っぽい感じがした――なんて、本人に言ったら失礼だろうから言わないでおこう……。



 「あの、橙矢さんも陛下たちと一緒に朝食を??」

 「ああ。俺の両親やそのご兄弟も集まっている」

 「なんだかものすごく緊張してきた」

 「お前はそればっかりだな。叔父上達は皆いい人達ばかりだから緊張するだけ損だぞ」



 どうやらお母さんの兄弟――私の叔父にあたる方達も一緒に朝食をとるらしい。

 それを聞いて、以前橙矢さんに見せてもらったお母さんの若い頃の家族写真を思い出した。

 ……全員、美男美女しかいない空間で私は生きていけるのだろうか??



 「ほら、着いたぞ。……開けるからな??」

 「え、あ、ちょっ。まだ心の準備が!!」

 「速攻で準備しろ。――失礼します、青藍を連れてきました」



 私はなかなか落ち着かず、下を見たまま歩いていると前を歩いていた橙矢さんが扉の前で止まった。

 すると、橙矢さんは問答無用で扉の向こうへと声を掛けて扉を両手で開ける。


 長いテーブルには紫苑陛下と鷺羽王妃、そして3人の男性が座っていた。



 「おはよう、橙矢、青藍。さぁ、早く座りなさい」

 「おはようございます。青藍は俺の向かい側に座るんだ」

 「おはようございます……。わ、わかった」



 私は手前側の空いていた席に着くと、隣にいた桃色の髪に深緑色の瞳をした中性的な容姿の男性と目が合うと、優しく笑いかけてくれた。

 橙矢さんも席に着いたところで紫苑陛下が話しかけてくる。



 「青藍、ここにいる者は私の子供達だ。紹介しよう。まず長男の夕緋ゆうひ、次男の李黄りおう、そして三男の翡翠ひすいだ……もう一人いるのだが、今は手が離せないらしい」

 「父上、瑠璃斗の事は別に紹介しなくてもいいのでは??」

 「そうはいくまい。瑠璃斗もこの城内にいるのだからいずれ会う事になるだろう」

 「ですが、あいつは……」



 陛下が一人一人紹介してくれたのだが、一つ空席があるのが気になった。

 瑠璃斗様の名前が出ると、少しだけ場の空気が重くなったような気がする……。

 夕緋様が言葉を続けようとしたが、陛下が鋭い眼光で睨みつけたので口を閉ざしていた。



 「紫苑様も夕緋もそこまでにして。青藍が怖がっているではありませんか」

 「そ、そうだな……すまなかった」

 「……申し訳ありません」



 ピリピリとした空気がしてきて、思わず俯いていると王妃がにっこりと笑いながら言った……その華やかな微笑みから思えないほど声色は冷たい。

 それを聞いた2人はすぐに大人しくなって縮こまった……王妃様お強い。



 「青藍もお腹が空いたでしょう??このお馬鹿さん達の話は気にしなくていいですからね。さぁ、召し上がりなさい」

 「あ、えっと……いただきます……」



 王妃様に言われて恐る恐るスプーンを手に取った。

 隣からは元気な声で「いただきまーす!!」と聞こえてきたり、橙矢さんのお父様と橙矢さんは慣れているのか何事もなかったかのように食事を始める。


 初めて家族で食べた食事は豪華で美味しそうだったのに、複雑な空気によって味が全く感じられなかった。




イケ叔父と姪の話が続きます。

だれがいい人なのかヤバイ人なのか・・・

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