積もりに積もった不満
ドアも窓もない白い部屋に閉じ込められて2週間……そろそろ本当に発狂しそうだ。
毎日違う綺麗なドレスを着せられて美味しいごはんもお菓子も食べれるけど……やることが無さ過ぎて暇すぎる。
「ただいま、青藍!!今日はね――」
「おかえり!!いい加減に外に出しなさい馬鹿リオール!!」
転移魔法でいきなり姿を現したリオールはソファに座っていた私をすぐに見つけると笑顔で一目散に近づいてきた。
これは毎度の事で、帰ってすぐに今日起こった事を話してくるのだ……私を抱きしめながら。
だが今日は我慢の限界を超えたので帰ってきたリオールに思いっきりクッションを投げつけた。
「今日の青藍は随分激しいね。よしよし、落ち着いて」
「毎日毎日同じことの繰り返しで、起きてドレスに着替えさせられてご飯を食べて……もう本も全部読み終わって何回も読み返して暇つぶしに部屋の中を走って筋トレして……でも、もううんざり!!」
「君、僕がいない間に部屋の中を走ってたの??」
「部屋に出れないから身体が鈍ってきてるのよ!!それに課長に季節水晶が壊れてしまった事を早く謝らないと」
季節水晶が粉々に壊れ、帝国に戻ってきてそのまま監禁されてしまったので季節省に行くタイミングを完全に逃していた。
季節水晶って高価な魔法道具なはずだから、最悪弁償しないとかも……。
「わかったよ。明日は僕もお休みを貰ったし一緒に出掛けようか」
「本当!?絶対だからね!!」
駄目って言われたらどうしようかと思ったていたが、明日は久々に外に出られそうだ……!!
私は一安心してソファにもたれかかると、隣にリオールが座ってきた。
「それから、桜彩国の橙矢さんが君に話があると言っていたよ」
「橙矢さんが??そういえばあの後、橙矢さんはどうなったの??桜彩国の軍は??」
「軍はまだ国境近くで待機されているよ。橙矢さんはヴィンセント家の屋敷にいるよ」
「そうなんだ……橙矢さんに会いに行ってもいいのよね??」
「まぁ、構わないよ」
橙矢さんはヴィンセント家にお世話になっているらしい……監視としてバルムント様が一緒にいるようだ。
たまに帝国を案内したり桜彩国との違いを見つけては目を輝かしているという……もしかして橙矢さんめっちゃ楽しんでるな??
次の日、私は2週間ぶりに外に出た……外の気持ちよい風と太陽の光を直接浴びて、なんだか泣きそうになった。
私達はまず季節省のある大きな塔へと向かう。
塔の60階にある魔法季節課に訪れると、課長が驚いたあと安堵したような表情になって椅子に座るように勧めてくれた。
「青藍さんお久しぶりです。聞いていますよ??随分大変な事になっているようですね」
「お久しぶりです。そうなんですよ、全部夢ならよかったのに……アハハ」
「平気そうに見えましたが、内面は相当やられていますね」
生気のない顔で言うと、課長は苦笑いをしながらも私が無事な事を喜んでくれた。
私の事はやはり、課長の耳にも入っているらしい。
「季節水晶が壊れたようですね……そんなことは今まで無かったので驚いていたんですよ」
「私も壊れるとは聞いてなかったのでどうすればいいのかわからなくて……すみませんでした」
「いいんですよ。ですが、それほどの威力がある銃弾だったのでしょう??それが青藍さんに当たらなくてよかったです」
確かに相当な強度があった水晶が木っ端微塵になってしまうほどの威力の弾が私に当たっていたかもしれないと思うとゾッとする。
課長は穏やかな顔から深刻な表情になって私の顔を見た。
「それで青藍さんの今後ですが……季節使い続行は厳しいのでしょうか??」
「え??」
「そうだよ、青藍。君は桜彩国の血を引く王族だし、僕と結婚することになる……もう自由に他国を渡る事はできないよ」
「そ、そんなの嫌だよ!!まだまだ季節使いのお仕事続けたいのに!!」
またリオールが勝手な事を言い始めたので慌てて拒否した……季節使いを辞めるつもりなんてないのに!!
すると、小さい子に言い聞かせるような優しい声で私を宥め始める。
「君はもうただの平民じゃないんだ。桜彩国と帝国を繋ぐ大事なお姫様なんだ」
「でも……」
「いい機会だら今ここで季節使いを退職の手続きをしようか。……すぐできますよね??」
「それはできますが……」
「リオール!!勝手な事言わないで!!」
ついにはすぐ季節使いを退職するように言ってくる……勝手な事を言い始めるリオールの腕を思わず強めに掴んだ。
その様子を見ていた課長は軽く手を叩いて、にっこりと笑った。
「青藍さん、とりあえず休職という事にしておきます。どちらにせよ、新しい季節水晶を作ってもらうのに時間がかかるんです。その間にゆっくりと決めていきましょう??」
「か、課長……!!」
たまに無茶な仕事ふってきたり無責任っぽいこと言ってくるけど、いざと言う時は頼りになる。
これでとりあえずは退職しなくてすみそうだ。
「いつ頃になったら季節水晶が出来上がるんです??」
「二か月ほど先になります。季節水晶を作る材料が複雑なのでそれを集めるのに時間がかかるようです」
「そんなにかかるんですね……わかりました。それまで結婚を必死に回避します」
「ええ、是非抗ってください。私も青藍さんを退職させたくないので……待っていますよ」
課長は私が戻ってくることを待ってくれると言ってくれたので嬉しかった。
……きっとまた、戻って来れるよね??
***
「何度も言うけど、青藍はもう季節使いに戻れないよ」
「……どうしてそういうこと言うの??私はまだ季節使いを続けたいのに」
「あんまり我が儘を言っちゃだめだよ。遅かれ早かれ君は季節使いを辞めて、僕とずっと一緒に暮らすことになるんだから」
塔を出てゆっくりと後ろを歩いていた私にリオールが振り向いて言う……それを聞いて思わず歩いていた足が動かなくなった。
私はふと思ってしまった……このままで本当にいいの??
王族に血が流れているとか同盟の為に結婚しろとか、真っ白な部屋にずっと監禁されて外に出れなくて、辞めたくない季節使いを退職するように言われて……。
すると徐々に地面がぼやけてきて、自分の目からポタポタと涙が落ちていく。
「いい加減にして……どうして私の事なのに私が決めちゃいけないの??ずっとああしろ、こうしろって……」
「青藍??」
「もういや!!リオールも陛下も両親もみんな嫌いよ!!」
「……っ!!」
そう言うとリオールが何故かこの世の終わりのような表情をしていたが、私は気にせず走り出した。
私はヴィンセント家にいる橙矢さんにとあることをお願いするために、また零れ落ちそうな涙を乱暴に拭いて全速力で走った。
全速力でヴィンセント家へと向かっていると、すんなりと到着した。
……てっきり、リオールが転移魔法で先回りしてくるかと思ったがそんなことはなかった。
ヴィンセント家の豪華な庭園を抜けて、大きな屋敷の玄関へ早歩きで向かう。
「おや、青藍??どうして――どうしたんだ!?目が赤いぞ」
「もしかして泣いたのか??それに息も切らして……こっちに来なさい」
ちょうど外に出ようとしていたバルムント様と橙矢さんと鉢合わせした。
泣いてひどい事になっている顔と全速力のせいで上がっていた息を見て、バルムント様が屋敷の入り口にあったソファに座らせてくれる。
3~4人は余裕で座れるソファに座ると、両隣に2人が私を挟むように座った。
「一体どうしたんだ??リオールは??」
「……溜まりに溜まった不満が爆発してリオールにそれを言ったんです」
「そうか……確かにリオールはたまに人の話を聞かないことがあるからな」
バルムント様は私の頭を優しく撫でてくるので、余計に泣きそうになってくる。
橙矢さんも不器用ながらも私の背中をさすってくれた。
「私、もうここにいたくない」
「うん??」
「橙矢さん、私を桜彩国に連れて行ってくれませんか??」
「それが俺の役目であるから構わないが……今の帝国の陛下や君の婚約者がそれを許してくれるだろうか」
ぶっちゃけリオールとはしばらく顔を合わせたくない……白い部屋にまた閉じ込められるのも嫌だ。
私は思い切って橙矢さんに桜彩国に連れて行ってもらえないか頼んでみると案外聞き入れてもらえそうな雰囲気だ。
「きっと却下されるはずなので強行突破します。今すぐこっそり行きましょう!!」
「……君の行動力はお母様の白蘭様譲りだな。わかった」
私が言うと、橙矢さんは苦笑いでソファから立ち上がり手を差し伸べてくれた。
その手を掴んで立ち上がると、隣にいたバルムント様からため息が聞こえてくる。
「はぁ……私が止めても行くんだな??」
「すみません、バルムント様。リオール達には上手く言っておいてください!!」
「絶対に無理だと思うが……出来るだけ努力しよう」
「ありがとうございます!!」
自分でも反対されると思っていたが、すんなりと桜彩国に行く事を許してもらった……駄目元でも言ってみるもんだ。
バルムント様には申し訳ないが、一緒に共犯になってもらおう。
バルムント様に帝国の隠し出口を教えてもらい、馬も用意してもらう事ができた。
ここから国境までは馬で2日かかるので最低限の準備をしてから、私と橙矢さんはひっそりと帝国から脱出したのだった……。
嫌になって逃げます。
バルムント様と橙矢さんがいいお兄さん。




