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真っ白な部屋



 あれは私が19歳の時だった。


 小さい頃は身体が病弱で、過保護な両親は私をお部屋から出る事を許してくれなかったの。

 ずっと部屋で過ごしていた子供時代はそれが退屈で嫌だったわ。

 もちろん家族みんな大好きよ――優しい両親に自慢できるお兄様達、可愛くて懐いてくれる弟もいる。

 成長すると共に病弱だった身体も健康になってきたのに家族は私にまだ過保護だ――それがずっと窮屈でたまらなかった……。



 「――そんな時に、たまたまお城の庭師として雇われていたお父さんに出会って、なんだかんだで恋に落ちて、駆け落ちしたって訳」

 「短っ!!なんか、いろいろ省略したでしょ!!」



 お母さんは話すのが面倒になったのか、無理矢理昔話を完結させた。

 そのせいでなにがなんだかほぼ理解はしていない。



 「それで??どうして帝国に来て国家秘密を送ろうとしたの??」

 「その事ね。途中までは上手く追手から逃げていたんだけどお兄様に掴まってしまったの。でも、見逃す代わりに帝国の国家秘密を探って来いって言われちゃって……。それで、手紙に書いて送ろうとしたんだけど、それよりも先に青藍が生まれたことを書いた手紙を間違えて送っちゃったのよ」

 「相変わらずおっちょこちょいなんだから……。そしたらどうなったの??」

 「そしたらねぇ、国家秘密はどうでもいいから孫娘の事をもっと教えろってお父様から返事が来たのよねー」



 馬鹿らしくなって段々と手紙書く気がなくなったわよー。と頬に手を当てながら笑うお母さん。

 でもお母さん達のおっちょこちょいのお陰で私達は断頭台に上らずに済んだのかもしれない……よかった。



 「――全然よくない!!どうして桜彩国から私を引き渡すようにとか言われてるわけ!?普通お母さんのほうじゃないの!?」

 「まぁ、私はもう二度と桜彩国の土地は踏まないって決めてるし。私よりも孫娘の青藍に興味が移ったんじゃない??」

 「そのせいで私はリオールと結婚することになっちゃったじゃない!!」

 「そのお陰で僕は青藍とようやく結婚できます。ありがとうございます、お義母さん」

 「あらあら、いいのよ~」



 リオールとお母さんはそれはそれは嬉しそうに笑っている……。

 あれ??もしかしてうちの両親もこの結婚に賛成してる??私の意志を尊重してほしいとか言ってなかったっけ??



 「……青藍も私の血を引いてるって事ね。頑張りなさい」

 「なにを頑張ればいいの!?」

 「では、僕達はそろそろ行きます。青藍、行こうか」

 「え、どこへ??私の家に帰って来たんだからこのままいるけど」

 「そうはいかないんだ。ほら、行こうね」



 私は首をかしげていると、リオールが私の肩を抱いて転移魔法を唱え始める。

 気づいたときには真っ白な部屋に立っていた……見たことのない知らない場所だ。



 「なに……ここ??」

 「前にも言ってた僕と青藍の為の屋敷だよ。ようやく君を招待する事ができた」

 「あの監禁屋敷!?なんてところに連れてきたのよ……帰る!!」



 広々とした大きな部屋で、天井も高い……ベッドやテーブルなど見るからに豪華な家具が置かれていて、奥に小さな部屋のようなものがあった。

 なんだか違和感を感じるような……??



 「帰る??どうやって??」

 「普通にドアから出て屋敷を……あれ??ドアが……無い??」



 私が感じていた違和感はそれだった――この部屋にはドアも窓も存在していなかった。

 とりあえずペタペタと壁を触ってみるが、ドアらしきものは見当たらない。

 必死にどうすればいいのか考えていると、後ろから抱きすくめられる。



 「この部屋には僕の転移魔法でしか入る事も出る事もできないよ」

 「ちょっと、冗談にしても流石に面白くないわよ。こんな……」

 「でもね、青藍って隙あらば逃げようとするかもしれないし。以前の卒業式の次の日みたいな事にはしたくないからね」



 耳元にリオールのしっとりとした吐息が聞こえて背筋が凍る感覚がした。

 離れようと身をよじるが、余計に力強く拘束されるように抱き締められる。



 「このまま青藍と2人っきりになりたいんだけど、結婚式についての打ち合わせがあるだ……だから、もう少し待っててね」

 「打ち合わせ??そんなに早く結婚式を実行するわけ??」

 「うん、結婚式は一か月後だから急がないと」

 「一か月後!?なんでそんなに急なのよ!!」



 結婚式って普通、準備にすごい時間がかかるんじゃ……??流石に一か月後はおかしい。

 必死に抗議しようとしたが、リオールに耳を甘噛みされてしまいゾワゾワして言葉を発せられなくなった。



 「本当は2人で楽しく決めたかったけど、折角捕まえた青藍が逃げちゃったら嫌だしここで待ってて」

 「え、ちょっと!!ここから出しなさい!!」



 あっという間にリオールが転移魔法で姿を消し、残されたのは真っ白な部屋と私だけだ。

 もう一度、壁に手を当てて隠し扉が無いかを探したがそれらしきものは見当たらない。

 天井に小さな窓が見えるが、箒を持っていない今の私ではあの高さまで上る事もできない……。



 「なにがドアの全てに鍵がついてるよ……鍵もドアすらない部屋があるなんて反則じゃない!!」



 私は思いっきり叫んでからへにゃりと床に座り込む。

 悲痛な叫びは誰にも届かず、私は静寂な部屋にポツンと一人取り残されたのだった……。



***



 「青藍起きて。こんなに遅くなってごめんね……君に似合うドレスを選んでたらなかなか決められなかったんだ」

 「私をここから出して!!精神異常になりそうなんだけど!!」

 「もうマリッジブルーになっちゃったの??大丈夫、僕が必ず幸せにするよ」



 薄暗くなった部屋のベッドの上でローブも脱がずに寝ころんでいるとのんきなリオールの声が聞こえてくる。

 私は飛び起きて速攻で文句を言ったが効果はなかった……。



 「すぐに取ることになっちゃうかもしれないけど、それまでこれを付けていてね」

 「これ……指輪??」

 「うん。卒業式の次の日に渡そうと思ってた婚約指輪。やっと青藍に渡せた」



 左手を持ち上げられて、薬指にサイズぴったりの指輪がはめられる――それは小さなダイヤが付いているシンプルな指輪だった。

 左手を包み込むように握られると、リオールの指にも同じような指輪がはめられていてダイヤがキラリと輝いている。



 「結婚式、楽しみだね。今日選んだドレスも青藍が実際に着たらとっても綺麗なんだろうな」

 「……変なドレスなら着ないから」

 「もちろん!!青藍が好きそうなデザインにしたよ。僕、君の事ならなんでもわかるからね」



 握られた手を持ち上げられて私の手にキスをしてくるリオールはうっとりとした表情をしていた。

 こちらを熱っぽい視線で見つめてくるのでだんだん私も恥ずかしくなってくる……イケメンなんて卑怯だ。



***



 その後もリオールは私をこの白い部屋から出してくれなかった。

 リオールは結婚式の準備やら仕事で時々いなくなるが、それ以外はこの部屋にやってきて私に構ってくる。



 「ねぇ、青藍。今日はこのドレスを着てみてほしいな。君に似合うと思って選んだんだよ」

 「……ふりっふりのふわっふわじゃない。私もう少し落ち着いた服の方がいい……リオール、どうして私の着ている服を引っ張るの??」

 「とりあえず一回着てみよう??手伝うから」

 「あーもう!!脱がせようとしないで!!あっちで着替えるから覗かないでよ!?」



 その後もいろんなドレスを着せられて髪の毛もくるくるに巻かれたりして、着せ替え人形にさせられた。

 食事もリオールが持ってきた物を一緒に食べている。



 「はい、青藍。口を開けて??」

 「いや、自分で食べれるから……おい、そこ。自分の嫌いな物を私によこさないで」

 「代わりに青藍の嫌いなセロリ食べてあげるから、にんじんは任せたよ」

 「いい年なんだから好き嫌いしないで食べなさい」



 小さな部屋はお風呂とトイレ、洗面所があって壁の棚にはびっしりといろんな瓶が並んでいた。

 中身が気になって瓶を一つ手に取り、蓋を開けるとスズランのいい香りがしてくる。



 「青藍はお風呂好きでしょ??いろんな入浴剤を用意しておいたんだ……一緒に入る??」

 「それはお断りするわ。……この入浴剤の香り好きだな」

 「ああ、それね。僕も好きだよ。折角だし一緒に入ろうよ、服着たままでいいからさ」

 「着たまま!?え、ちょっと、持ち上げないで!!」



 リオールが私を横抱きにすると、お湯が張られた湯舟に服を着たままの私をそのまま落とした。

 水しぶきを上げて私は水浸しになる……リオールが手に持っていた入浴剤の瓶を逆さまにしてキラキラとしたパウダー状の入浴剤がお湯の色をゆっくり白に変えていい香りが漂ってきた。

 リオールも湯舟に入ると、私を長い足の間に座らせて後ろから抱き締めてくる。



 「ふふふ、一緒にお風呂に入れて楽しいね??」

 「服が張り付いて落ち着かない……」



 そして、夜は大きな一つのベッドで寝ている。

 リオールは私を抱きしめながら眠るが、それ以上のことはしてこなかった……。

 子供の頃のように手を繋いで眠るまでリオールが今日の出来事を話してくるので私はそれに相槌を打つ。

 しばらくすると、私よりも先にリオールが眠りについたのでその綺麗に整った顔を何気なく見つめていた。



 「……本当に腹が立ってくるくらい綺麗な顔してるわね。リオールの頬を一晩中つねって赤くしといたら結婚式延期にならないかな……」

 「それは流石に遠慮したいな」

 「うわっ、起きててたの??」



 リオールの頬を指でつついていたら、エメラルドグリーンの瞳が瞼からいきなり現れて私をじっと見ていた。

 手を掴まれ、引き寄せられると手の甲に何度も唇を押し付けてきて少しくすぐったい。



 「……ねぇ、どうしてリオールはそこまで私にこだわるの??」

 「青藍がいるから今の僕がいるんだ。――5歳の時に僕が誘拐されたことは知ってる??」

 「ええ、初めてリオールに会う時にお父さんが言っていたわ」

 「あの誘拐がきっかけで、外の世界が怖くて引きこもっていた僕を君は外の世界に連れ出してくれたから……だから、そのお返しに青藍に完璧な僕をあげたかったんだ」

 「私は特に何もしてないのに……大袈裟よ」



 出会う前のリオールは誘拐事件がトラウマで部屋を出る事をすごく怖がっていた。

 でも、私は同い年の遊び相手ができる事が楽しみだった。

 私はただ遊んでほしくてリオールを部屋から引きずり出しただけなのに……リオールはそう思っていただなんて。



 「私はただリオールと遊びたいがために部屋から引っ張り出しただけよ……全部私の為にやっていたことよ??」

 「それでもいいんだ。青藍はあの時ずっと僕と一緒にいると言ったのに忘れたの……??君が言ってきたくせに、今更僕から離れようなんて許さないから」

 「リオール……」



 腕の中に包まれたと思えば、徐々に苦しいと思うほど強く抱き締めてくる。

 だけど、私はその抱擁を拒む事なんてできなかった……リオールがこうなってしまったのは私が招いたことなのだから。




精神崩壊しないか心配だね。

以前「別荘」と書いていたんですが「屋敷」に修正しときます

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