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止まない吹雪の中で



 「青藍、どうなっている!?」

 「バルムント様……季節水晶が粉々に壊れました!!」




 周りを警戒していることで後ろにいる私を見る事ができないバルムント様に情けない声で状況を報告した。

 くっつけてどうなるとかそんなもんじゃない……完全に小さな欠片になって、むしろちょっとした風で飛ばされてしまっている!!



 「とりあえず、青藍に怪我が無くてよかった。季節水晶が壊れたらどうなるんだ??雪も降っていないようだが……」

 「季節水晶は滅多に壊れないはずなんです……だから、壊れた時にどうなるかなんて聞いたことが無くて……でも」

 「でも、なんだ??」

 「先程で完全に魔力を込めたので、そろそろくるはずです……猛吹雪が!!」



 私が言い終わると同時に凄まじい吹雪が吹き上げた。

 冷たい空気と雪が刃物のように肌に突き刺さると感じるほどの寒さだった。

 あまりの吹雪の強さに、私の体は吹き飛ばされそうになってしまう。



 「青藍!!っ急いで撤退するぞ!!」

 「は、はい!!」



 飛ばされそうになったところでバルムント様が手を掴んでくれたので、吹っ飛ばされずにすんだ。

 撤退しようにも、猛吹雪のせいで前方が真っ白で全く見えない。

 とりあえず、来た道を戻ろうと全員で歩き始めるが徐々に方向感覚がなくなっていく。



 「本当なら、私達が基地に近づいて来た頃に猛吹雪を降らせるように魔力を込めたのですが……季節水晶が壊れたことで暴走してしまっているのかもしれません」

 「このままでは我々が遭難してしまいそうだ……急ぐぞ!!」



 私達はお互いを見失わない様に歩いていったのだが、徐々に他の兵士達の姿が見えなくなっていた。

 ついに私とバルムント様だけとなってしまった。

 こんなところで一人になってしまったらきっと助からないだろう……できる限りの力を込めて、絶対に離さないようにしていた。



 「もう少しの辛抱だ。頑張ってくれ」

 「はい……、キャーっ!!」

 「青藍!?」



 見難い真っ白な視界の中、すぐそこに崖がある事に私は気づけなかった。

 私は不意に足を滑らせてしまったが、咄嗟にバルムント様が手を引いてくれたお陰でなんとか落ちないですんだ……。

 バルムント様もかじかんだ手で思うように力が出ず、私を引き上げるのは難しそうだ――このままでは2人とも落ちてしまう!!



 「バルムント様!!私の事はいいので手を放してください!!じゃないと、バルムント様まで……!!」

 「……よし、落ちよう」

 「え??――きゃあああああ!!」



 今まで強く繋いだ手の力を自ら緩める――だが、バルムント様はより強く掴んで離してくれない。

 このままでは2人とも落ちてしまう、と思った瞬間バルムント様も崖から自ら落ちた。

 落ちた時に私の体を強く抱きしめて、庇うようにして落ちていく。



 「……どうやら、そこまで高い場所から落ちたわけではないようだ。青藍、大丈夫か??」

 「ちょっと、目が回りましたけど……なんとか平気です」



 バルムント様と私はコロコロと勢いよく崖を転がっていき、大きな木に当たってなんとか止まった。

 まだ、焦点が合わない目で周りを見渡すと小さな山小屋のようなものが見える。



 「山小屋か??一旦あの小屋に避難するぞ」

 「わかりました……!!」



 頭がくらくらしてなかなか立てない私の肩を抱くようにしてバルムント様は小屋へと歩き出す。

 小屋の中から人の気配がなかったのでドアを開けて中に入る。

 中は真っ暗で何も見えない……少しして目が暗闇に慣れてくると小屋の中は何個かの木箱と暖炉があった。



 「暖炉があるな。薪も使えそうだ……ちょっと待ってろ」

 「……ごめんなさい、私がもっと足元をちゃんと見ていればこんなことには」

 「過ぎた事を言ってもしょうがないだろう。ほら、こっちに来て温まりなさい」



 バルムント様は慣れた手つきで薪をくべると、炎の魔法で火を付けた。

 手招きされて暖炉の近くに座ると、徐々に身体が温まってくる。

 小屋にあった木箱を物色していたバルムント様が、毛布を持ってきてくれて私の肩にかけてくれた。




 「とりあえずここで様子を見よう。それから……こんなものもあるぞ」

 「マシュマロ??バルムント様、マシュマロ持ち歩いてるんですか??」

 「ああ。いざと言う時の為にな」



 バルムント様は鞄の中からマシュマロを取り出して、近くにあった木の枝に刺すと私に手渡してきた――いつもマシュマロ持ち歩いてるんだ……ちょっと可愛い。

 私は素直に受け取ると暖炉の炎でマシュマロを炙る。



 「青藍、この吹雪を止める方法はないのか??」

 「私が込めた魔力がなくなれば恐らく止まるかと。……でも、言い切る事はできません」

 「そうか。長期になると想定してなるべく体力を温存しておいた方が良さそうな」



 状況は絶望的、他の兵士達も無事だろうか……。

 いろんな気持ちがグルグルして私の気持ちはどんどん落ち込んでいく。

 その様子を見てバルムント様は昔にしてくれたように頭を優しく撫でてくれた。



 「そう落ち込むな。この吹雪なら桜彩国の軍も撤退していくはずだ……つまり、大成功じゃないか。青藍はよくやってくれた」

 「バルムント様……」

 「きっと部下たちが基地にたどり着いてすぐに私達を探しに来てくるさ。きっと、大丈夫だからな」

 「……はい!!」



 不安にさせない様に優しく笑いかけてくるバルムント様にお礼を言って、マシュマロを焼き始める。

 気を紛らわすために昔話をしたり、少し睡眠をとったりした――だが、救助はまだ来ない。


 徐々に沈黙も多くなってきて、マシュマロも食べ飽きたその時、まだ吹雪が吹き荒れるドアの外から人の気配がした。



 「青藍、私の後ろへ」

 「救助がきたのでしょうか??それとも……」

 「敵の可能性も十分ある……気を抜かない様に」



 バルムント様は私を背に庇うようにして、ドアの方を用心深く見つめた。

 軋んだ音と共にドアがゆっくりと開く――そこには味方の兵士の恰好ではない男性が立っていた。

 

 以前、桜彩国の小さな国を訪れた時に住民たちが着ていた珍しい衣装と雰囲気の似ている格好をしている――その姿を見てバルムント様はより警戒し始める。



 「貴様のその恰好は……桜彩国の軍の者だな??」

 「……まさか、こんなところで出会えるとは」

 「何のことだ??」



 マントを深々と被っているので、その表情はよく見えない。

 その男性がつぶやいた言葉はバルムント様ではなく、後ろにいた私に向けられたような気がした。

 それ以上話さなくなったのでどうしたのかと不思議に思っていると、その男性はバタン、といきなり倒れてしまった。



 「大丈夫ですか!?」

 「気を失っているだけのようだ……足を骨折しているらしい。こんな状態でよく歩けたものだ」



 とりあえず、桜彩国の兵士が倒れたことで開けっ放しのドアが閉められないのでバルムント様と一緒に小屋の中へ引きずって入れる。

 骨折したという足が痛むのか、兵士は額に汗を浮かべて苦しそうに顔を歪めていた。



 「バルムント様、この人を治療してもいいですか??」

 「……いいだろう。それにどうして国境を越えてきたのかを聞き出したい」

 「ありがとうございます。では、治しますね」



 バルムント様はもしも途中で目を覚ました兵士が攻撃してこないように持っていた武器や荷物を外していく。

 右足からは出血もしていて、痛そうに青く腫れていた……私はその部分に手をかざして治癒魔法を施す。



 「青藍、完全に治さなくていい。もしも意識を取り戻した時に暴れたら面倒だ」

 「わかりました。それ以前に私が魔力切れを起こしそうなので全治はできそうにないです…」



 先ほどの冬降ろしで相当魔力を込めていたので、魔力の量に自信がある私でも流石に空っぽに近い。

 魔力が少なくなると、貧血のような症状になるので正直しんどい。



 「青藍の魔力が切れるなんて相当だな。無理をさせてしまってすまない」

 「大丈夫です……寝れば回復しますしので」




 兵士の足から徐々に痣が消えていくとともに、頭痛が徐々にひどくなって指先が冷えていく。

 集中していると、肩を叩かれて我に返りバルムント様のほうに視線を向ける。



 「もう、十分だろう。青藍も少し休むんだ。顔色があまりよくないぞ」

 「すみません。集中しすぎてました」

 「私が見張っておくから横になりなさい。いいね??」

 「はい……」



 お言葉に甘えて暖炉の近くで横になる。

 あっという間に眠ってしまい、次に目覚めたのは暖炉の薪が燃え尽きそうになっていたのをバルムント様が新しい薪をくべていく時だった。

 身体を起こすと、先ほどよりは魔力も回復してきて貧血のような症状もいくらかマシになっている。

 少し離れたところで横になっている男性から唸り声が聞こえた。



 「う、うう……ここは??」

 「目を覚ましたか。お前の武器や荷物は回収させてもらった。変な気を起こすなよ」

 「お前は帝国の軍人か……そして、銀髪の少女!!やっと見つけた」



 桜彩国の兵士が起き上がり私を見ると、被っていたマントを脱ぎ明るいブラウン色の短髪に黄色みを帯びた薄い赤い色をした瞳を持つ顔の整った青年が私を見てくる。

 ……どこかで見たことがあるような??



 「あ、以前桜彩国の小さな村で目が合った人??」

 「あの時お前の姿を見てからずっと探していたんだ。俺は桜彩国の第二王子の息子で、名を橙矢という……お前の名前は??」

 「私は青藍といいます、こちらは帝国の軍隊長をしているバルムント様。……あの、桜彩国の王族の人が私になにか??」

 「青藍……やはりな。お前の母親の髪や瞳の色は??」



 私の目をまじまじと見られながら質問されて、少し困惑する。

 橙矢さんはなぜか私のお母さんの特徴をきいてきた。



 「母親ですか??えっと、銀髪に少し黄色がかった白い瞳をしていますよ。少し珍しい容姿をしているんですよね――それがなにか??」

 「間違いない……お前の母親は20年前に行方不明になった桜彩国の王女、白蘭様だ」

 「……それはありえないかと」

 「だが、お前の容姿と瞳の色の字が入った名前……その名前の付け方は桜彩国の王族しかつけてはいけな決まりだ」



 ここでも出てきた私にそっくりな”白蘭”という女性の名前……しかも、母親が王女様と言われても信じられない。

 王族しか付けてはいけない名前の付け方と言っても、私が生まれ育ったのは桜彩国とは随分離れている帝国だ……そんな異国の決まりなんて知らずにたまたま両親が名付けた可能性だってあるはずだ。



 「他にも証拠はある。――18年前に数回、白蘭様からの文が桜彩国に届いた。そこには白蘭様の生まれて間もない赤ん坊の特徴も書かれていたんだ。”銀髪に紫の色を潜ませた青色、青藍色の瞳をしているので”青藍”と名付けたと」

 「とても信じがたいのですが……私が桜彩国の王族の血を引いてるなんて」



 橙矢さんが冗談か何かを言っているのかと思ったのだが、その表情は真剣だ。

 私が思わず黙ってしまうと、代わりに隣にいたバルムント様が口を開いた。



 「青藍の母君は白蘭という名前ではない。菫という名前だ……お前の勘違いではないのか??」

 「白蘭様は桜彩国を使用人の男と駆け落ちをしたんだ。身分を隠すために偽名を使っている可能性がある」

 「……その使用人の名前はわかるのか??」

 「たしか、ウィリアムという名だ」

 「お父さんは今もそのままの名前なのかよ……!!」



 私は思わず突っ込んでしまった……ウィリアムはお父さんの名前だ。

 なんだか、考える事が面倒になってきたな……こうなったら!!



 「……とにかく!!今はこの吹雪から生き残るのを最優先にしましょう!!あ、橙矢さんも焼きマシュマロ食べますか??」

 「おい、現実逃避するな。……まぁいい、この真実からは逃れられないからな」



 私はとりあえずその話を置いておくことにした――そのままどこかに消えていって欲しいな、あははー。

 何食わぬ顔でまたマシュマロを焼き始める……その様子を見た2人は私を挟むようにして暖炉の前に座った。


 先ほどまでは早く止んで欲しいと思っていた吹雪を、今ではずっと止まないで欲しいと思ってしまうほど、面倒な事になってしまった……。




メンテ明けから慣れるのに必死で遅くなりました。

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