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本当の目的



 外の景色は真っ白のまま吹雪の勢いは弱まる事がなく、ビュービューと大きな音を立てている。

 桜彩国の橙矢さんは意外と話しやすい方でいろんなことを聞いてみることにした。



 「橙矢殿、お前達桜彩国は戦争をしに来たのか??」

 「まさか。今回の事については帝国の皇帝に手紙が届いているはず」

 「手紙??そんな情報は届いていなかったぞ」

 「軍を率いてきたが少しだけ進軍させ待機。その後は帝国の基地に俺1人で行くと書かれてあったはずだ……道理で歓迎されていないと思ったらそう言う事か」



 どうやら、桜彩国の軍は戦争をしに来たわけではないらしい。

 わざわざ単身で帝国の基地に行こうとするなんて……何が目的なのだろう??



 「ではお前は帝国に何しに来たんだ??」

 「青藍を見つけたことを陛下に伝えたら、今すぐにでも桜彩国に連れてこいと言われたから迎えに来た」

 「私を……??」



 橙矢さんは私を真っすぐに見て言った……桜彩国の紫苑陛下が私に会ってどうしようというのか。

 だんだん胃がキリキリと痛み始めたので、思わず手で押さえる。

 そんな私の様子を見て、橙矢さんが話題を変えて家族の事について話してくれた。



 「俺達は不思議な一族なんだ。親の髪色、瞳の色が全く同じに子に遺伝することのほうが稀でね……俺の両親は焦げ茶色の髪で黄色の瞳、赤髪に緑色の瞳をしているんだ」

 「両親とそんなに違くなるんですか??」

 「ああ。その中でも銀髪の髪色はとても珍しくて、今では現国王とお前の母親の白蘭様、そして青藍だけなんだ」



 そう言って橙矢さんは懐から一枚の写真を取り出し、見せてくれた。

 そこには髪色も瞳の色もバラバラな男女が映されていて、その中には今の私と同い年ぐらいのお母さんやその両親、兄妹達が笑っている。



 「こう見ると不思議な家族……。でも、顔は似ていますね」

 「そうだろ??中央にいるのが紫苑陛下と鷺羽ろう王妃。その子供達の――」



 橙矢さんはお母さんの両親や兄弟の事を教えてくれる……全員が美男美女だ。

 その家族写真を見ていると、お母さんの腕にしがみ付いて後ろに隠れるようにしている小さな男の子がいる。



 「橙矢さん、お母さんの隣にいる小さな男の子は誰ですか??」

 「ん??ああ、四男の瑠璃斗様だ。この方は少し複雑な事情があってな……」



 1人だけ暗い顔をしている少年は生気のない目でカメラを見つめていた。

 その理由を知っているらしい橙矢さんが言いにくそうに言葉を続けようとした時、吹雪の音と暖炉の音しかしていなかった小屋に銃声が鳴り響く……私の季節水晶が壊れた時と同じ音だ。



 「おい、これは貴様の軍の仕業か??」

 「確かにこの音は我々が使用している銃だな――何があっても発砲するなと言ってあるんだが」

 「なら、どうして狙われているんです!?」



 また銃撃があるのを想定して、私達は窓際の死角で様子を伺っていた。

 再び銃弾が窓ガラスを打ち抜き、大きな穴が開いたことで吹雪がなだれ込んでくると暖炉の炎はあっという間に消えてしまった。


 すると運よく吹雪がピタリと止んだ……恐らく季節水晶に込めた魔力が切れたのだろう。



 「吹雪が止んだな。これなら反撃ができる……青藍は危ないからここにいなさい」

 「俺も行こう。何があっても攻撃するなとあれほど言ったのに……命令違反した馬鹿者を一発殴らないと」

 「2人とも気を付けてくださいね!!」



 バルムント様と橙矢さんが怖い顔で小屋の外へ出ていく。

 大きな炎の魔法がちらりと見えて、しばらくすると2人のではない男性の悲鳴が聞こえてきた。

 名前を呼ばれたので、私もフラフラと小屋の外に出ると2人の元へと歩いていった。



***



 あの後、桜彩国の1人の軍人が命令違反をしたとして捕らえられたようだ。

 詳しい事を聞き出したいということで、その軍人の処分は橙矢さんに任せる事になったらしい。

 なんとか無事に基地へ戻ることができたが、私はその後すぐに倒れてしまった。


 目が覚めると、荒れ狂う吹雪の白ではなく薬品の匂いがする白い部屋だった。

 一度起きようとしたが、なんだか身体が怠くて指一本動かすのも億劫に感じる。

 すると、部屋の外から声が聞こえてきた。



 「兄上、どうして青藍を軍の基地に呼んだの??他の季節使いでもいいじゃないか」

 「すまない……まさか、こんなに大事になるとは思っていなかった」

 「しかも、青藍は魔力切れでぐったりしているし……相手は銃を持っていたんでしょ??僕の大事な青藍に当たったらどうするの」

 「本当にすまなかった――リオール」



 リオール、という単語が聞こえて私は思わず寝たふりをすることにした。

 ドアが開く音がして誰かの足音がこちらへと近づいてくる……リオールじゃありませんように!!

 足音の主は私の寝ているベッドの近くの椅子に座った気配がした。



 「青藍、起きてるでしょ??寝たふりしても無駄だよ」

 「……」

 「ふぅん??意地でも寝たふりするって言うならこっちにだって考えがあるよ??……眠り姫を起こすには口づけ、だったよね」

 「いらん!!やめなさい!!」

 「それは残念。おはよう、青藍」



 寝たふりはすぐにバレてしまった。

 大人しく目を開けると、微笑みながら私の頭を優しく撫でてくるリオールがいた。

 頭から頬、首、肩、とリオールの細くてきれいな指が滑り落ちていくように触ってくるので、くすぐったくて身をよじる。

 そして、手首をつかむともう片方の手に持っていた何かを当ててきた。



 「起きたばっかりなのにごめんね。でも、こうするしかないんだ」

 「……は??て、手錠!?」



 肌に冷たい感触がして、慌てて自分の手首を見ると、そこには黒い手錠が片方だけ付けられていた。

 動揺して、リオールと手錠を交互に見ているとそれが可笑しかったのかリオールは笑い始める。



 「笑い事じゃないんですけど!?なにこれ、説明して」

 「ふふふ、青藍の顔が可愛くてつい……。もう片方もつけるね」

 「なんで手錠なんて……早く外してよ!!」



 私は両手を拘束されて、慌てて外そうとするが全く緩む気配もしない。

 リオールは椅子から立ち上がると、ベッドに腰かけて身体を密着してくるので身構える。



 「青藍にいいお知らせと悪いお知らせがあるんだ……どっちから聞きたい??」

 「手錠は外してくれないのね……じゃあ、いいお知らせ」

 「わかった。青藍のご両親が見つかったよ――怪我も病気もしていないから安心して」

 「両親が!?よかった……無事だったのね」



 ずっと行方不明だった両親が見つかったようだ。

 詳しく聞くと、両親は旅行に行っていたようで、鍵は急いで出掛けたせいで掛け忘れていたらしい。

 なかなか帰ってこなかったのも、帰りの船が破損してしまい修理が終わるまで待っていたからだという……全く人騒がせな。



 「悪いお知らせというのはね――青藍のご両親に桜彩国のスパイの疑惑が出ているんだ。君もそれに関与している可能性があるとして拘束させてもらうよ」

 「私、そんなこと知らないわ!!それにどうして……」

 「ご両親の手がかりを探すために、青藍の家を捜索したんだ。そうしたら書斎に帝国の国家秘密が書かれた手紙が見つかってね。その宛先は桜彩国、差出人には白蘭と書かれていたよ」

 「そんな……」



 私は二重の意味でショックを受けていた。

 両親が桜彩国のスパイで帝国を裏切っている可能性があるということ、そして私のお母さんが桜彩国の王女だということが確定してしまったようなものだ。



 「私達相当ヤバイ立場にいるんじゃ……??両親や私はこれからどうなるの!?」

 「それはこれから皇帝陛下がお決めになるよ。……でも、安心して??青藍は僕が必ず守るよ」



 私は顔の血の気が引いていく感覚がした……国家秘密を桜彩国に流していたとなれば重罪になるだろう。

 最悪、私達家族は全員処刑……断頭台で首を切られるかもしれない。

 ガタガタと震え始めた身体をリオールが優しく包み込むように抱き締めてくる。



 「とりあえず、帝国に一緒に帰ろう??陛下は寛容なお方だからきっと大丈夫だよ。それに、季節水晶も壊れちゃったから季節使いの仕事もできないでしょ??」

 「そうだよね……」



 いつもならベタベタ抱き締めてくるリオールの頬を思いっきりつねってやるんだけれども、今はそんな気力もない。

 すると医務室のドアが開きバルムント様が入ってきた。



 「青藍、もう身体はなんともないか??今回は申し訳なかった……君を危険な目にあわせてしまって」

 「いえ、どうか気にしないでください。バルムント様は私の事を守ってくださいました……むしろ私が足を引っ張っていましたから」

 「それこそ気にするな。それから橙矢殿が言っていた通り、帝国に桜彩国からの手紙があったようでね。その内容なんだが……青藍を桜彩国に受け渡せというものだった。要求を飲むなら桜彩国は帝国と同盟を結ぶ、と」

 「え……えええええ!?」



 もしかして国と国の事情に巻き込まれてない!?

 面倒事は収まる事はなく、どんどん厄介な方向へと進んでいるようだ……。



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