戦争の予感
窓の外は猛吹雪が吹き荒れ、その音は女性の泣き声にも聞こえる。
殺風景な小屋の中には暖炉の光が私とバルムント様の影を大きく作り出していてそれが少し不気味に見えた。
暖炉の炎をぼんやりと見つけてどれほどの時間が経ったのだろうか……。
「聞いてもいいか??青藍はリオールのどこが気に食わないんだ??」
「気に食わないというわけではありませんが……強いて言えばしつこいところです」
「あいつは一途なんだよ……リオールなら青藍を大事にしてくれること間違いなしだぞ」
「それをこじらせすぎて、監禁しようとしてきているんですよ??それはちょっと……」
リオールの父、ローレンツ様に続いてバルムント様までが私達の婚約について口を出してきた。
大事にしてくれるのは良い事だが、リオールが設計して作ったという別荘の全てのドアに鍵が付いているという事実を知ってドン引きした。
「お前達がまだうんと小さかった頃、”いつか青藍だけの王子様になってみせるから待っててね”、とリオールが言っていたのを覚えているか??あの時の青藍はとても嬉しそうにしていたが」
「……そういえば言われたような気がします。でも、リオールは庶民の私ではなく他のご令嬢の王子様になるべきなんですよ」
あの頃はリオールの事も大好きだった……だけど、現実は絵本の物語のようにはいかない。
バルムント様に言われて、小さいリオールが少し情けない泣き顔をしながら言っているのを思い出した。
お互いの身分もまだ理解していなかったし、ただの庶民だった私と貴族のご子息のリオールが出会えたのもたまたま父親の仕事の関係でヴィンセント家と繋がりができたからだ。
小さい頃のリオールは女の子に間違えられるほど可愛らしくて、女の私よりも器用に花冠を作っていた。
私が作ったぐちゃくちゃの花冠を嬉しそうに頭に乗せたリオールの笑顔は今でも覚えている……そんな大人しい性格の彼がいきなり王子様になる宣言をして驚いた記憶がある。
そんな昔話を思い出して少し心が和んだ――が、すぐに現実に戻れた。
「そんな事より!!私達はいつまでここにいないといけないんでしょうか!!助けは来ますよね!?」
「青藍、落ち着きなさい。ほら、まだマシュマロはあるぞ。好きだろう??もっと焼きなさい」
「いや、好きですけどもう食べ飽きましたよ……!!」
堪らずに発狂したような大声を出すと、隣から木に刺されたマシュマロを手に持たされる。
私とバルムント様は猛吹雪の中遭難してしまい、外に出ることもできずマシュマロを焼いていた……。
***
次に向かうべき場所を知った時は少し、いや相当嫌な顔をしてしまった。
なんせ次向うのは国……いや滅んでしまった国だ。
今はボロボロな住宅地の跡が無造作に並んでいて、帝国の軍隊の拠地になっているらしい。
箒で空を飛んでいると、空はどんよりと曇っていて嫌な雰囲気がする。
「たしか、この辺りに責任者がいるとかって言ってたけど……どこだろう??」
街の面影が残る場所を見ると数十個の膨大な野営のテントが建てられている場所があった。
とりあえず、下りて責任者が誰なのかを聞かないと。
ゆっくり地面に足を付けると、その様子を見ていた見張りの兵士がこちらにやってくる。
「こんにちは。私は冬使いの青藍と言います。ここの責任者はどなたでしょうか??」
「話は伺っています。案内するようにと言われていますのでこちらにどうぞ」
途中で沢山の武装した兵士とすれ違いながら、他のよりも立派なテントに案内される。
兵士が中の人物に声を掛けると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「バルムント様。冬使いの青藍様がいらっしゃいました」
「案内ご苦労……下がっていいぞ」
「バルムント様!?ここってバルムント様が率いている軍隊だったんですね」
以前出会った南国でのラフな格好とは打って変わり、きっちりとした黒い軍服を着こなすバルムント様はより威厳があり、思わず背筋が伸びるほど空気が張り詰めている気がした……。
カチコチになっている私の姿を見たバルムント様は、少し笑って近くの椅子に座るように進めてきた。
「……すまない。怖がらせてしまったかな??妻にもよく言われるんだ……ただでさえ怖い顔をしているんだからもう少し顔の筋肉を柔らかくしろ、と」
「大丈夫です!!軍服のバルムント様を見たのは初めてだったのでちょっと緊張してしまいました。そのお姿のバルムント様も素敵ですよ」
「そうか??ありがとう」
見た目は少し怖い……が、中身は変わらず優しいバルムント様だ。
私が慌てて怖がっていないことを言うと、リオールと同様に綺麗な顔に笑みを浮かべる。
そして、慣れた手つきで紅茶を入れてくれて、私にカップを渡してくれたのでありがたく受け取る。
「外は寒かっただろう??飲みながらでいいから聞いてくれるか。――実は最近、桜彩国の軍隊が国境付近で妙な動きをしていてな」
「わざわざこんな遠い土地に桜彩国が??……もしかして、戦争が始まるんですか??」
「わからない……だが、日を追うごとに軍隊が増えているので可能性はあるだろう。そこで、青藍の力を借りたい」
「私の……ですか??」
どうやら桜彩国の軍隊が国境のすぐそばまで来ていると聞いて緊張が走る。
それに私の力が必要とはどういう意味だろうか??
「青藍、この辺りに大雪を降らせてほしい」
「大雪……ですか??それは構いませんが」
「その大雪で桜彩軍の進行を妨害する。上手くいけば桜彩軍も撤退していくだろう」
「それで戦争を少しでも止められるのなら……やってみます!!」
「ありがとう。では、いつ実行をするかはこちらで話し合って決める。それまで、ゆっくり休んでいてくれ」
「はい、わかりました」
バルムント様は安心したように顔をほころばせると、近くに控えていた兵士に私をテントに案内するように伝えた。
私はバルムント様に一礼してからその兵士の後を追いかける。
案内されたテントはこじんまりとしていて、中も最低限の家具が置かれていた。
「ここが青藍さんのテントになります。なにかあれば近くの兵士に声を掛けてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
案内してくれた兵士は人懐っこい笑顔で言うとテントから出ていった。
私はひとまずシンプルなベッドに倒れ込んだ……まさか、戦争が始まるかもしれないなんて。
「私の冬降ろしで戦争を止めるなんて上手くできるのかな……??うう……緊張してきた」
私は鞄から季節水晶を取り出して意味もなく、その水晶の中に雪の結晶がくるくると舞っているのを見つめた。
水晶を抱きしめて私はゆっくりと目を閉じた。
***
その時はいきなり訪れた。
バルムント様から冬降ろしの実行を伝えられたのは、私がここを訪れて2日目の昼間の頃だった。
昼食を食べて、座り心地がいいとは言えない椅子に座って本を読んでいると兵士の1人が慌ただしく私を呼びに来た。
急いでバルムント様の元へ行くと、数名の兵士達と深刻そうに話し合っていて私が来たことに気づくとゆっくりと近づいてくる。
「青藍、どうやら桜彩軍に動きがあってな……ついさっき、国境を越えてこちらに進軍しているようだ」
「え!?それなら急いだほうが良さそうですね」
「ああ。……急ですまないが、今から頼めるか??」
「はい、もちろんです!!」
私は鞄から季節水晶を取り出して、力強く頷く。
その様子を見てバルムント様の表情は少しだけ和らいだ――が、すぐに険しいお顔になると近くにいた兵士たちに指示を出していく。
「では、基地から離れた場所で冬降ろしを頼みたい。敵軍と遭遇しないとは言い切れないが青藍の事は私達が全力で守るから安心してくれ」
「わかりました。私もなるべく早く冬降ろしが出来るように努力します」
私はバルムント様と数十名の兵士達と共に基地から20分ほど進んだ場所で止まった。
周りには所々に大きな岩が転がっていて、それ以外は何もない寂しい場所だ。
遠くを見渡すが、桜彩国の軍隊はまだここまで来ていないみたい。
念のため、私を取り囲むように兵士たちが配置された。
「まだ、あちらの軍はここまで来ていないようだな……よし、青藍。頼むぞ」
「はい。では、始めますね……」
意識を集中させて、季節水晶に魔力を込めていく……最初は少しずつ、そして徐々に魔力を多く込めると、周りの空気が一気に冷たくなっていくのを感じる。
そして、猛吹雪になるほどの魔力を思いっきり注いだ瞬間、銃声の音がどこからともなく鳴り響いた。
気づいたときには強い衝撃によって、私は思いっきり尻もちをついてしまった。
それを見た兵士達が戦闘態勢になり、周りを注意深く見渡している。
あれ……手に持っていた物の感覚がない……??
「青藍!!大丈夫か!?怪我は!?」
「あああああああ!!だ、大丈夫じゃありません!!」
「どこを撃たれた!?急所じゃないだろうな!?」
「あ、いや、私は大丈夫なんです!!大丈夫なんですけど、大丈夫じゃないかもしれません!!」
「どっちだ!?」
私は自分の体を見渡すが、出血はしていないようだ……痛い所と言えば、さきほど尻もちを着いたお尻がちょっと痛い。
――だが、そんな事はどうでもいい!!
私の両手には、季節水晶が見るも無残な粉々の状態になっていた……。
シナリオを2つ考えていてどちらにするか迷っていましたが、バルムント様とマシュマロ焼きたかったのでこちらにしました。
水晶割れちゃった…高そうなのに弁償とかいわれたらどうしよう、と不安になっている主人公です




