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青藍色の瞳

 


 「う、うわあぁぁぁぁ!!ってあれ??」



 私は起きてすぐ昨日の最後の記憶が蘇り、飛び起きた。

 お酒を飲んでいたらリオールが現れて、2人して酔って部屋に戻ったらリオールが酔ったフリをしててそれで……。

 寝ぼけまなこで周りを見渡すが、リオールの姿は見えない。



 「なんだ、夢だったか……」



 昨日は相当酔ってしまって記憶に自身が無い……もしかしたら途中から夢を見ていたのかもしれない。

 安心して胸を撫で下ろしていると隣にあった不自然な毛布の膨らみから気配を感じた――まさか。


 私はゆっくりと毛布をめくると、少しあどけなさがある端正な顔立ちのイケメンがすやすやと眠っていた。



 「夢じゃなかった……」

 「ん……青藍??」

 「ね、ねぇ、リオール。昨日の夜何があったか覚えてる??私に何かした!?」



 体を起こして、眠そうに目をこすっているリオールの胸倉をつかんで揺らし、昨日の事を聞いてみる。

 昨日は何もなかった……そうだよね!?



 「昨日……ああ、青藍が寝ちゃったから面白くないなーって思ってそのまま僕も寝ようとしたよ」

 「なるほどね、じゃあ昨日は何もしていないのね!?よかったー」

 「――でも青藍の寝顔があまりにも可愛いから、青藍のほっぺたに沢山キスしちゃった」

 「……なんですって??」



 安心したのも束の間、リオールは私の頬に手を添えて幸せそうに笑っている。

 私はその手をはねのけ、裾でほっぺたをこれでもかと擦った。



 「眠ってる相手になにやってるのよー!!信じられない!!」

 「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか……傷ついたなぁ。でもこれ以上は青藍の綺麗なほっぺたが赤くなっちゃうね。冗談だよ、キスはしていないから」

 「してないの!?紛らわしい……ほっぺたがヒリヒリする」



 私が高速で擦っていると、両腕を掴まれて動きを止められた。

 しかも、嘘だったなんて……!!私のほっぺたが……。



 「昨日の酔っぱらいな青藍ぐらい赤くなってて可愛い……!!」

 「君が変な事を言わなければこんなことにならなかったのに!!」

 「ごめんね……これで、許して??」



 少し痛む頬を両手で包んでいると、リオールにその手を掴まれる。

 リオールの顔が近づいてくると、軽いリップ音をさせて頬にキスされた……。



 「ちょっと、リオール……??」

 「あれ、まだ足りない??じゃあ、もっとしてあげる」



 私はリオールを睨んだが、本人はわざとらしく首をかしげてから再び頬にキスをしてくる。

 掴まれてる手を振り払おうとするも離してくれない……そして、手を後ろに押されたことで、ベッドに倒れ込んだ。



 「昨日の夜と一緒の体勢になったね。……今なら青藍も起きてるし、続きをしようか」

 「続き!?何をするつもり……!?」

 「僕ずっと我慢しているんだよ??もっと青藍に触れたいのに、もっともっと……」

 「リオール??」



 昨日の寝る前の光景と全く一緒になった……美しいエメラルドグリーンの瞳から目が離せない。

 視界の隅に見えた唇から赤い舌が舌なめずりするのが見えた……まるで肉食獣に押し倒されているみたいな恐怖を感じ、背筋が凍る感覚がした。

 恐怖からなのか無意識に身体が震えていると、再び頬に柔らかい感触が降ってくる。



 「ふるふる震えて兎みたいに可愛いね。好き、大好き……愛してるよ、青藍」

 「ひぃぃぃ!!耳元で話さないでよ!!……もう満足でしょ!?離れて!!」

 「まだ足りないのに。でも、ここまでにしようか。……これ以上は僕も止まらなくなりそうだし」



 私は慌てて立ち上がり、リオールから離れようとした――すると、両手を掴まれて座っているリオールに見上げられる。

 すると、今度はゆっくり立ち上がって私を上から下まで興味津々に見てきた。



 「青藍が今着ている服って不思議だね……でも、綺麗だ、可愛い」

 「この辺りの国ではこういう恰好が主流なんだって。不思議だよね」

 「確かに、他の住民も着てたな……」



 部屋のドアを叩く音がしたので返事をすると、紗良さんがドアの隙間から顔を覗かせていた。

 私とリオールが一緒にいる事に驚いたように口に手を当ててびっくりしている。



 「あらあら……結局お二人はこの部屋で一緒に過ごされたんですね。青藍さん、こちらの美人さんは彼氏??」

 「ええ、僕達付き合ってるんです」

 「いいえ、彼氏じゃないです」

 「あらまー……どっちなの??」



 私とリオールが正反対の事を言ったので紗良さんは困惑していた。

 それより、なにか用があったのだろうか??



 「あの、どうかしたんですか??」

 「ええ、折角美人なお二人がいるからお揃いの衣装を着付けてあげようと思って……どうかしら??」

 「えっ……こいつとお揃い……ですか」

 「本当ですか!?是非、お願いします」



 私がお揃い、と聞いて返答に困っていると、リオールがすかさず返事をした。

 紗良さんは嬉しそうに笑って「じゃあを持ってくるわね」、と部屋を出ていってしまう。



 「青藍とお揃いだって。嬉しいな」

 「はぁ、子供じゃないんだから……」



 紗良さんが持ってきた衣装は少し暗めの紫色をしていた。

 私は白い帯にファーの付いた黒い羽織、リオールは黒い私のより細い帯と黒い羽織を羽織っている。

 リオールは着付けしてもらってからというもの、嬉しそうに全身鏡の前でくるくると回って自身の服装を観察していた。



 「いつまで自分に見惚れてるわけ??そろそろ落ち着きなさい」

 「うん……。ねぇ、折角だし一緒にどこか出かけよう??」

 「そうだね。ようやく吹雪も終わったから街を見て回りたかったんだ」



 私達は雪が解け始めた街へと出掛ける。

 吹雪の時には全く見えなかった街並みは、見たことのない建物の造りをしていた。

 木製の建物がずらりと並ぶ通りには、お店が並んでいてとても賑わっている。



 「青藍、これ見て……星みたいな形してるお菓子があるよ」

 「へぇ、どうやったらこんな形になるんだろう……飴菓子なんだ」



 そのお店にはガラスの瓶に星のような形のカラフルなお菓子が詰められていた。

 いろんな種類の色があって、見ているだけでも楽しい。

 珍しそうに見ていた私達にお店の人が話しかけて来てくれた。



 「おや、この辺の国の人じゃないね。ウチの商品は桜彩国でしか作られていないからお土産におすすめだよ」

 「では……これを一つください」

 「毎度あり」



 私は青と紫の色の2色の飴菓子が入った瓶を指差してお金を支払う。

 歩きながらその瓶の中身に見惚れていると、隣にいたリオールに肩を引き寄せられる。



 「青藍、瓶に見惚れてるのはいいけどちゃんと前を向いて歩いてね??」

 「え、ああ。ごめん」



 私はピタリとくっついていたリオールから離れて瓶の蓋を開けると、青色の飴菓子を指でつまんで口に放り込んだ――ほのかにサイダーの味がしておいしい。

 今度は紫色の飴菓子を摘まんで口に入れようとしたが、不意にその手を引き寄せられる。



 「……食べるなら自分で食べてくれる??」

 「これ、葡萄の味がしておいしいよ。青藍、青色も食べさせて??」

 「気に入ったのね。はい、どうぞ」

 「青藍のいじわる」



 摘まんだ飴菓子が指先ごとリオールの唇に挟まれる……思わずびっくりしてすぐに砂糖菓子を離して手を引こうとしたが、強く掴まれた手首はビクとも動かない。

 リオールの赤い舌が私の指先をチロリと舐めてきたので、背筋がぞわぞわしてきて力尽くで手を引っ込めた。

 


 「青藍の指って細くて綺麗だよね……一度でいいから齧ってみたかったんだ」

 「齧る!?絶対にダメ!!」

 「残念。少し体が冷えてきたし、そこのお店でお茶にしようか。――それと、君に伝えたい大切なことがあるんだ」

 「伝えたい事??」



 リオールが真剣な眼差しで言うので、相当大切な事のようだ……。

 落ち着いた雰囲気の喫茶店に入り、とりあえず暖かい飲み物を注文する。

 湯気が出ているコーヒーを一口飲んだリオールはゆっくりと話し始めた。



 「青藍、実はね……君のご両親が行方不明なんだ」

 「え……??行方不明??ただ旅行に行ったとかではなく??」

 「そう言う時はいつも僕の父上に言ってくるじゃないか。君のお父様は我が家のお抱え庭師だし、休暇を貰う時はいつも言ってくるだろう??」

 「まぁ……確かに」



 私のお父さんは庭師だ――数十年もヴィンセント家のバカでかい庭の手入れをしている。

 なので、長期で休みを取る時はヴィンセント家の主、ローレンツ様に伝えて了承を取っているはず……何も言わずにいなくなるのはおかしい。



 「おかしいと思った父上が青藍の家を訪ねたんだけど、2人とも留守でね。しかも、おかしいんだ……家の鍵すら閉めていなかったんだよ」

 「締め忘れじゃない??うちの両親、結構おっちょこちょいだよ」

 「でも2人がいなくなって2か月が経ってるのに戻ってこないんだよ??もしかしたら何が事件に巻き込まれたかもしれない」



 たしかにあの両親がヴィンセント家に何も言わずにどこかに行くなんておかしい。

 私が家を出る前にどこかに旅行するとも言っていなかったし……本当になにか事件に巻き込まれてしまったのだろうか??



 「だから、君の家を調べる許可を貰えない??ご両親が不在なな今、君しか許可を貰える人物がいないんだ」

 「……そうね、どこかに行こうとしてるならなにか書き残しているかも。お父さんって旅行とか行く前にスケジュールを紙に書く事が多いから……」

 「ありがとう。少し、探してみるね。何かわかったらすぐに伝えるよ」

 「うん……本当は私が行くべきなんだろうけど、まだ家には帰れないだろうし……お願い」



 私は一気に不安になりテーブルの上に置いていた両手を強く握りしめる。

 すると、私の手をリオールの両手が優しく包み込んで笑いかけてきた。

 震えていた私の手は、リオールの温かい手の温もりによって徐々に収まってきた。



 「きっと大丈夫だよ。だから、そんな暗い顔をしないで」

 「……うん。私もいろんな国に行くから一応その国で探してみる」

 「青藍……ああ、そんな悲しい顔をしないで??今すぐ抱き締めて頭を撫でてあげたい……」

 「うん、それは別にいらない」

 「遠慮しないで。僕の胸の中で泣いていいんだよ!!」

 「い・ら・な・い!!」



 リオールのおふざけはともかく、両親が行方不明なのは心配だ。

 どうしていきなりいなくなってしまったんだろうか……どうか無事でいてほしい。



 「それじゃ僕は帰るよ。早速青藍の家にご両親の手がかりが無いか探してみるから」

 「うん、迷惑かけてごめん。あれ??環境省の仕事はもういいの??」

 「昨日今日はお休みだったんだ。青藍に会いたかったのと、ついでにご両親の事も伝えておこうかと」

 「両親の事がついで!?せめて逆でしょ!!」

 「僕にとっては青藍が何よりも一番で最優先なんだ!!」

 「早く帰れ!!」



 リオールはいつもの服に着替えて、私の頬にキスをするとあっという間に転移魔法で姿を消した。

 私も明日には国を出るので準備をしておかなければ……両親の事が気になるが今はリオールに任せて自分は自分の役目を果たさなければ。



 次の日、久々に会った春使いの撫子さんとお互いの近況報告を軽く話した。

 一応、撫子さんにも私の両親の特徴を伝えて、見つけたら教えて欲しいとお願いする。


 最後に祐樹さんと話してから出発することにした。



 「青藍さん、此度はありがとうございました。この後に桜彩国の王族の方がお酒を取りに来てくれるようです」

 「いえいえ。お酒、気に入ってもらえるといいですね」

 「はい!!もしも、御用達のお酒になったらまたこの国にうんと寒い冬を届けに来てくださいね」

 「もちろんです!!では、私はこれで。紗良さんにもよろしくお伝えください!!」



 私は祐樹さんに手を振って箒を浮上させた――すると、村の入り口らへん馬に乗った数人の男達の姿が見えた。

 その先頭にいるブラウン色の髪をした男性を何気なく見ていたら目が合った。

 私は特に気にせず、次の目的地へと向かった。




***



 小さな村で作られている酒がいい出来栄えなので陛下に献上したい、という旨を聞いて馬で数日かけてやってくると、その村はまだ雪が残っていた。

 いつもならもう雪は完全に溶けているはずだが……。

 村長だという男が来るのを街の入り口で待っていると視線を感じて空を見上げた。


 そこには白い服を着た銀髪の女性が箒に乗っているのが見えた。

 遠くてとよく見えなかったが、どこかで見たことがあるような気がした。

 その魔女もこちらを見ているようだったが、すぐに体の向きを変えあっという間に姿が見えなくなってしまった。


 一人の男が小走りでこちらにやって来た。



 「橙矢様!!お待たせしてしまい申し訳ありません。よくおいでくださいました」

 「ああ。聞きたいことがあるのだが……先ほど空を飛んでいた魔女は何者だ??」

 「冬使いの方です。彼女のお陰で素晴らしい冬を届けていただきました」

 「冬使い……名は何と言っていた??」

 「青藍様です。……そうだ、気になっていたんです。彼女の名前には”色”が使われていたので」

 「名前に色が……??瞳はどんな色だった??」



 桜彩国の王族には名前の付け方に決まりがある。

 王族の血が入っているものは”色”が入った名前を付ける決まりになっている――これは王族だけが許される名前の付け方だ。

 そして、その”色”は瞳の色によって名付けられる……私の”橙矢”という名も黄が混ざった赤い色の瞳をしているから”橙”が使われている。



 「とても綺麗だったのでよく覚えていますよ――名の通り、紫みを含んだ暗い青色――美しい青藍色をしていました」



いろんなフラグが・・・。

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