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最期の航海

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地道に頑張ります



 移動する島――クジラの上にある豪華客船に到着して次の日、クジラが泳ぐのを止めた。

 今まではゆっくりと泳いでいたが、ピタリとも動かなくなり潮も吹かない……。



 「船長さん……クジラはもう力尽きてしまうのでしょうか??」

 「恐らくね。何十年もこんな重い物を乗せて泳いでくれた……彼は不本意だったもしれないが、儂達にとってはかけがえのない旅路となった」

 「……では、冬降ろしをしますね」

 「よろしく頼む。……できれば大粒の雪を降らせてやって欲しい」

 「わかりました。全力を尽くします」



 私は最初の国で降らせた天使の羽のような雪を降らせることにした。

 季節水晶に魔力を込めて冬降ろしをすると、ひらひらとした大粒の雪が降り始める。



 「おお……素晴らしい。きっとこのクジラも喜んでくれるだろう」

 「そう思ってくれたら嬉しいです」



 するとクジラが大きな鳴き声を上げたような気がした。

 船長さんも降る雪を見て少し悲しそうだ――これが、船長さんや他の乗客たちの最後の旅路になるのだろう……。





 その夜、船では豪勢なパーティーが行われた。

 船内には結構な乗客がいたようで、大きな会場には豪華な服を着た男女が楽しそうにしている。

 私も会場内を歩いていると美味しそうな料理が目に留まった。



 「お、おいしそう……!!食べてもいい……のかな??」

 「青藍さん!!青藍さんの分のお料理はこっちに用意してあるぞ」

 「あ、ありがとうございます。いただきます」


 豪華な料理に手を伸ばしたが、その瞬間に船長さんに止められてしまった。

 そうだよね……この豪華な料理はお金を払った人が食べる物だもの、流石に図々しいよね。

 大人しく豪華な料理から背を向けて、船長さんが用意してくれた料理を食べた。



 「すまなかったね。でも、あれは彼らの料理なので手を出せないんだよ」

 「いえ、こちらこそ何も聞かずに食べようとしてしまって申し訳ないです。でも、船長さんの作ったお料理とっても美味しかったです!!」

 「それはよかった。さっき釣ったばかりの魚だからね。新鮮だから美味しいんだ」



 船長さんが用意してくれた魚料理は、シンプルなホイル焼きや塩焼きだった。

 だけど、すぐそこの海で採れたお魚なのでとても美味しくて、豪華な料理にも負けない味をしている。

 すると、少し船が揺れたような気がした。



 「クジラさん、いつまで耐えられるんでしょうか……。というか、この近くに陸地がないのにここでクジラさんが力尽きてしまったらどうするんですか??」

 「大丈夫。すでに近くの漁港に救援依頼をしてあるんだ……だから、しばらくすればその船が来てくれる」

 「……それならいいんですが」



 もしもこんな海のど真ん中で、クジラが止まってしまったらどうしようかと思ったが、どうやら既に迎えの船を依頼していたようなので安心した。

 見たところ、非常用ボートは一隻しか残っていなかったので少し気になっていたのだ。


 こうして豪華で賑やかなパーティーは深夜まで続いた。





 次の朝、船の外に出ると濃い霧が辺りを覆っていた。

 雪はとっくに止んでいて、冷たい空気だけが冬の雰囲気を醸し出している。

 甲板の先にはすでに船長さんが立っていた。



 「おはようございます。船長さん、クジラはどうですか??」

 「ああ、もうすぐに彼は沈んでしまうだろう……」

 「え、でも救援の船はまだ来てないですよね??間に合うでしょうか」

 「もちろん。青藍さん、こんな変なところまで冬を届けてくれてありがとう。儂もクジラも乗客達も……とても素晴らしい冬を見れて嬉しかったよ」

 「私の方こそ、移動する島に冬を届けるなんて貴重な経験ができてよかったです」



 きっとこんな経験は先輩季節使いでもしていないかもしれない。

 こんな経験をする事ができて、私はむしろラッキーだ。



 「青藍さん、先に出発してくれ。儂らの事は心配しなくていいから」

 「え……私もクジラさんを見送りたいです」

 「いいや、行ってくれ。その気持ちだけで十分だ」



 船長さんは急かすように私に出発するように言ってくる……。

 すると、いつの間にか霧が晴れて朝日が見えてきたと思うとクジラが最後の力を振り絞り潮を吹いた――この前のように滝のような水量ではなく小雨のような繊細な水しぶきだ。



 「ほら、彼もあなたに出発して欲しいみたいだ。最後の力を振り絞り、虹を作り出してくれたぞ」

 「綺麗……朝に虹を見るのは初めてです」

 「彼なりにお礼を言っているんだ。綺麗な雪を見せてくれたからね」

 「……わかりました。折角見送ってくれてるのに居座るのもちょっと気まずいですし」



 雲の切れ間から朝日が幻想的に降り注いで、細かい水しぶきが大きな虹を生み出している。

 朝焼けの空に大きな虹を見たことは初めてだったので思わず見惚れてしまった。


 クジラさんの言葉は分からない……この冬を喜んでくれたのか不安だったが、その答えをこの虹で表してくれた……のなら嬉しいな。



 「本当にありがとうー!!元気でなー!!」

 「はい!!船長さんも!!」



 私は箒で浮上してもう一度、真上から大きなクジラに船が乗ったへんてこな島を見つめた。

 大きく手を振っている船長さんに大きく手を振り返し、私は出発した。


 しばらくして後ろを振り返るとそこには……。



 「え!!船が沈んでいる!?まだ救援の船は着てないのに!!」



 先ほどまでは沈んでいなかったのに、いつの間にか船の半分以上も沈み始めている。

 急いで戻ったが、船の外には誰もいなかった……まだ船内にいるのだろうか??

 まだ沈んでいない船内を見て回ったが、ここにも人の気配はなかった……。

 気づけは甲板の辺りまで水が入ってきて、船はほぼ沈んでいる状態だ。



 「汽笛の音……??船長さん??」



 急いで操舵室のある上の方へ行くと、そこには船長さんが汽笛を鳴らしていた。

 私の姿を見て驚いた顔をしたが、船長さんはすぐ穏やかな顔をしてその場を離れようとしない。

 操舵室を開けようとしたら開かない……どうやら内側から鍵が閉まっているようだ。



 「船長さん!!船が沈んじゃいますよ!!早くそこから出てきてください!!」



 私はドアを叩いて声を上げたが、ガラス越しに見える船長さんはやはり動こうとはしなかった。

 するとドア越しに船長さんが私に声を掛けてくる。



 「青藍さんは早くお行きなさい。儂は船長……船と運命を共にするものだ」

 「だけど……!!」

 「いいんだ。儂のせいで沢山の乗客を助けられなかった、彼らの人生を狂わせてしまった……儂だけが助かるわけにはいかないんだ」

 「何を言っているんですか!!いいから早く!!」

 「最後に話せた人があなたのような可愛らしいお嬢さんで楽しかったよ。さようなら……」



 その言葉を最後に、海は船を全て飲み込んでいき泡を立てながら沈んでいってしまった……。

 私はなんとか箒に乗って浮上したので無事だが……これでは皆助からないだろう。

 せめて、この事を近くの漁港に知らせようと全速力で箒を飛ばした。



 もう一度後ろを振り返ると、船が沈んだところから数えきれない光の粒が空に浮かぶ虹に向かって昇っていく。

 その光景はまるで、魂が天へ昇っているかのようだった……。



***



 私は急いで近くの漁港の船乗りたちに、船が沈んだことを伝えた。

 その話を聞いて、船乗りの男達は不思議そうに首をかしげている。



 「この漁港に救援要請は来ていないぞ??それにクジラの上にある船の事は聞いたことはあるが、それはお伽噺じゃないのか??」

 「お伽噺??私さっきまでその船に乗っていたんですよ。それでクジラさんが死んでしまってその上にあった船も沈んでしまって……!!」

 「その幽霊船の話はここいらの船乗りたちの間では有名だ。あんたは幽霊にあったんだよ」

 「幽霊??そんなはずは……」



 詳しく話を聞くと、


 その船は20年も前に事故があって行方不明になったようだ。

 だが、沈没したことも確認できず数年たったある時、濃い霧と共にその豪華客船が現れる事があったという。

 人の気配がしない不気味な船は度々海に現れることがあり、人々から幽霊船と呼ばれ恐れられていたらしい。



 「20年前、事故にあった人間が生きていると思うか??おまえさんはきっと幽霊にたぶらかされたんだよ」

 「言われてみれば、私は乗客の人とは一言も話してない……でも」

 「あんた、顔色が悪いぞ??いいから、宿で休んだ方がいい。それに気も動転してるようだし」

 「そう……ですね。すみませんでした」



 私はよろよろと歩き、船乗りに教えてもらった宿で休む事にした。

 宿に着くと、壁に新聞が張り付けられていた――そこには、見慣れた豪華客船の写真があった。



 「”豪華客船、ブルーマリア号消息不明。沈没してしまったのか!?”……あの、これって」

 「ああ、それ??ずいぶん前の出来事だけど衝撃的だったからね……海は危険だ。それを忘れない様にずっとその新聞を貼ってるのさ」

 「そうなんですね……。すみません、部屋は空いてますか??」



 私はその新聞に載っている豪華な船の写真と隣に船長さんと面影が似ている人物の写真を見つめる。

 その写真の人物は、穏やかな笑顔でまだ髭は黒く短かい……彼のインタビューも新聞に載っていた。


 ”今まで乗った船で最高だ。この船で海を巡る旅はとても素晴らしいものになるだろう。”



 確かに、クジラに乗って海を渡るなんて素晴らしいかもしれない。

 最後に見た船長さんの顔は、少しの恐怖や絶望――それから誇らしげで満足気のある表情をしていた。

 私は少しだけクスリと笑ってから宿の女将さんに空室があるかを聞いた。




 

大好きなあの有名な豪華客船の沈没をモチーフに書きました。

もし、沈没しそうになってクジラが助けてくれたら??という感じに。


裏話として豪華なパーティーにあった料理は微量の毒が入っていて、乗客は眠っている間に毒がまわり死亡しています。だから、青藍は船長に料理を食べるのを止められました。

みんな寒い海で死ぬのではなく、楽しいまま夢を見るように穏やかに天に昇っていきました。


乗客も船長も生き延びるのではなく、共に旅をした生かしてくれたクジラと共に最期を迎える事を選びました。


次回はお酒で酔っぱらいます。やつもきます

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