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摩訶不思議な島



 私は今、海の上にいる――見渡す限り青い海と青い空しか見えない。

 不安になりながら、私はもう一度手紙に書かれている文章を読み上げた。



 「”次は移動する島に冬を届けて欲しい”……移動する島って一体なに??」



 島が移動する??そんなことあり得るのだろうか。

 文章の続きには座標が書かれていたのでそこで待機することにした――だが、30分間ずっと海の上を箒でふよふよ浮いている状態が続き、ますます不安になってくる。

 気を紛らわすために読書でもしようかと思ったが、本を落としたらどうしよう、と考えてしまい本の内容が全く頭に入ってこなかったので2ページだけ読んですぐに鞄に戻した。

 やることがなくなった……。



 「ん??なんだろう、この音……」



 ずっと海の音と海鳥の鳴き声しかしなかったのだが、水を噴き出すような音が聞こえてくる……。

 その方向へ目を向けると大きな陸地の中央に大きな船が乗っているという不思議な島が動いていた。

 よく見ると、船には手紙に書かれていたものと同じ月のような模様の旗が揺れている。


 どうやら、あれが移動する島のようだ。

 驚きのあまり全体をまじまじと見ていたら、私を通り過ぎていってしまったので急いでその船に近づく。



 「入り口はどこ??……一応、島国っていう扱いでいいのかな??入国手続きもしないとだし」

 「おーい、こっちだー!!」



 箒に乗りながらとりあえず船の甲板へと近づく――だが、誰も見当たらない。

 すると、上の方にある見張り室から一人の老人の男性が手を振ってくれた。

 箒で上昇してその老人の元に向かう。



 「あなたが季節使いさんかな??わざわざこんなところまで来てもらって悪いね」

 「いいえ、ちょっとびっくりしましたが……。おじいさんがこの島の責任者さんですか??」

 「そんなところだ。ワシの事は船長と呼んでくれ」

 「船長さん……ですか。わかりました」

 「あなたの部屋を用意してある。移動しながら説明していこうか」



 私は念のため身分証を見せてから、もじゃもじゃの白いひげと船長帽がトレードマークの船長さんの後ろをついていく。

 船の外からは人の気配がしなかったが、歩きながら船内の部屋を見るとバーのようなところで数名がボードゲームをしていたり、広間には貴婦人たちが優雅にお茶を飲みながら談笑していた。



 「青藍さん……だったかな??この島についてどう思う??」

 「とても不思議です。島が動いているなんて初めて見ましたよ」

 「はっはっは!!そうだろう??だがね、ここは島ではないのだよ」

 「島ではない??どういうことですか??」

 「これからいいものを見せてあげよう……外に出ようか」



 船内から外に出ると、気持ちのいい潮風が吹いてきた。

 辺りを見渡すと所々に修理した形跡があり、木の板が無造作に床に打ち付けられていた。



 「いきなりだがクイズだ!!この島はとある動物によって動いている。その動物とはなんだと思う??」

 「唐突にクイズ始まった!?……うーん、魚の大きな群れが島を押してる!!」

 「ブッブー。もっと大きな動物だ。よし、ヒントを出そう」

 「もっと大きな動物……イルカ、サメ、シャチ……どれですか……ってあれ??船長さん??」


 私が頭に思い浮かんだ動物を言っていると、いつの間にかすぐ隣にいたはずの船長さんがいない。

 周りを見渡すと、船長さんは船内へと入っていて、ガラス越しに何かをジェスチャーしてくる……掴まれ??



 「え??そこの……柱に掴まれ??え……なんで??」



 訳が分からず、とりあえず船長さんが言うとおりに近くにあった柱に掴まる。

 すると、すぐ後ろのほうから凄まじい何かが噴き出す音が聞こえてくる。

 何事かと慌てて振り向くと、そこには床から噴き出している大きな水の柱が空に向かって伸びている。

 その水の柱から大粒の水が雨のように降ってきた。


 ……いや、降ってくるなんてもんじゃない!!この量とこの高さ、この場合どうなるかというと……。

 一気に血の気が引いてどうにかしようと思った時には滝のような凄まじい勢いの水が落ちてきた。



 「さて、これでもうなんの動物か分かっただろう」

 「……クジラ……ですかね??」

 「うむ!!正解!!クジラの潮吹きを浴びるなんてなかなかできない経験だろう!?楽しんでもらえたかな??」

 「あの、別にクジラの潮吹きを見るのは良いんですが浴びるのはご遠慮したかったのですが……しかも、船長さんしれっと自分だけ避難しましたよね」

 「はっはっは!!」

 「はっはっは!!じゃないですよ!!」



 この島――船の下にいるクジラは決まった時間に潮を吹き出すらしい。だから、その時間を見計らって私をここに連れてきたようだ。

 船長さんは悪戯が成功して喜んでいるのか、とてもいい笑顔をしている。

 一方私は、全身ずぶ濡れでローブは肩からずり落ちていて、とんがり帽子は水に流され船の欄干の所に引っかかっていた……。




 船長さんに客室へ案内してもらい、びしょ濡れのローブから替えのローブに着替える。

 ロビーで待っていてくれた船長さんと合流して再び船内を案内してもらう。


 船内は豪華な内装で、設備も充実している――野菜や果物を栽培している室内菜園や、海を飲み水にする魔法装置もあって自給自足ができているというので驚きだ。

 以前は豪華客船として出航していたようだがとある事故がきっかけで、こうしてのんびりと船を漂うようにして暮らしているようだ。



 「その事故とはなにがあったんですか??」

 「ああ……。もう20年も前になるが――」



 船長さんが入れてくれた紅茶を飲みながら”とある事故”の話を聞くことにした。



 この豪華客船は当時、数少ない豪華客船で沢山の乗員や乗客を乗せて運航していたようだ。

 だが、事故に遭ってしまい船の一部が破損して水が流れ込んで沈みかけたという。



 「もう船が沈むと思ったその時、たまたま近くを泳いでいた大きなクジラがこの船を背中に乗せて船を持ち上げてくれたんだ」

 「そんな偶然あるんですね。それ以降ずっとクジラの上で移動しているんですか??」

 「ああ。最初は近くの陸地に近づいたらクジラから船をどかそうと思ったんだが……このクジラは陸のほうには全く近づかないし、この船を振り下ろそうともしないんだ」



 陸地の近くでクジラと船を離そうと考えたが、クジラはそのまま船を自身の背に乗せて海を泳ぎ続けているという。

 それ以来、船に乗っている者達で話し合った結果、希望した数名が数隻しかない予備のボートで陸へ上がり、残りの者は船で生活していくことにしたようだ。

 時が経つにつれ、船に残った者はここでの生活が気に入ってしまいそのまま住み続けているんだとか。



 「だが、あのクジラが最近元気がない気がするんだ……もしかしたら彼もそろそろ寿命なのかもしれないな」

 「長年共に旅をしてきたのに……寂しくなりますね」

 「ああ。だから、彼には最後に雪を見せてあげたいと思ったんだ。彼は寒さが苦手みたいでずっと暖かい海を泳いでいて、冬は経験したことがないからね。――これは完全に儂のお節介かもしれないが」



 クジラはもう長くないらしい……そんな彼に雪を見せてあげたいと思った船長さんが季節省に手紙を送ったようだ。

 そして船長さんは暗い雰囲気になったのを紛らわすためにこんな話をしてくれた。



 「そういえば20年前にあなたにそっくりな女性を乗せたことがあるのだが……親戚にこの船に乗ったと言っていた人はいなかったかな??」

 「……いえ、そんな話は聞いたことがないです」

 「そうか……。彼女、何だか訳アリっぽかったんだ。壊れた船の板に男と一緒にしがみ付いて海に浮いていてね。お金持ちの実家から逃げ出したって言ってたな……その一緒にいた男は使用人だとかで駆け落ちをしたんだと言っていたよ」

 「か、駆け落ちですか!?」



 私の親戚については何も知らない……聞いたことはあるが、私達以外に親戚はいないのよ、とお母さんに言われたことがある。

 だが、またしても20年前、そして私にそっくりな女性……どこかで聞いたことがあるような。



 「あ。もしかしてその女性ってこの人じゃないですか??」

 「ん??……ああ、この人だよ!!この辺りじゃ珍しい銀髪をしていたからよく覚えているよ」

 「やっぱり……」



 私は思い出したように鞄から一枚のビラを見せた――以前の南国の休暇の時にそれを見た男達が私とそっくりすぎて勘違いをした”白蘭”という女性の似顔絵だ。

 そのビラを船長さんに見せると、懐かしそうに彼女の似顔絵を見つめている。



 「彼女はどこで船を下りたんですか??」

 「確か……西の帝国近くで下りたはずだ。彼女達の駆け落ちは成功したのだろうか」

 「そう考えるとロマンチックですよね。きっと成功してるんじゃないですか??――なんせ、漂流していたのをこの船に見つけてもらって命拾いした幸運の持ち主ですし」

 「……うむ!!それもそうだな!!」



 意外な場所で、私にそっくりの女性について知る事ができた。

 彼女は好きな人と一緒に家を飛び出し、今は幸せに暮らしているのだろうか……。

 ただ、そっくりというだけなのに彼女の事が気になって仕方がないのはどうしてなんだろう??



 

クジラが乗せる豪華客船です。

そして、”彼女”のことがまた少しわかってきました。

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