休暇のおわり
一週間というのはあっという間に過ぎるもので……楽しい休暇だったので余計そう感じてしまう。
今日は休暇最終日ということで、ホテルの部屋で今まで使ってきた夏の物を鞄にしまい始める。
ハンガーにはファーの付いた白いローブとロイヤルブルーのリボンが付いた白いとんがり帽を掛けて置いた。
「しばらく夏物は使わないだろうし鞄の奥にしまって……はぁ、また来れたらいいなー」
手に取った瓶には海で拾った綺麗な貝殻が入っている……しばらく眺めてから鞄へしまう。
他にもガラス細工のコップや入浴剤――これは両親達に渡すために買ったお土産だ。
一年が過ぎて、季節見習いを卒業したら家に帰ってこれを両親に渡そう。
「最後に島を一周しようかな」
最後に美しい景色をもう一度目に焼き付けておこう。
私は海辺を通ってから賑やかな商店街へと向かった。
頼む……リオールと遭遇しませんように!!
「あ、青藍!!どこか行くの??」
「どうしてリオールと遭遇しちゃうんだろう……私ってそんなに運無いのかな」
「僕にとってはすごい幸運だ。たまたま歩いていただけで青藍に会えるなんて!!」
商店街の方へ行こうとすると、リオールがこちらに気が付いて手を振ってきた。
そこそこ大きい商店街だし、道も入り組んでいているのにどうしてこうもよく出会うのか……謎だ。
「青藍は明日からお仕事でしょ??会えてよかった」
「うん……ようやく君と離れられるよ」
「君はそういうけど……実は僕たち家族と会えて嬉しかったんじゃない??兄上達とも楽しそうに話してたし……僕、嫉妬しちゃって兄上達の暗殺計画を立てるところだったよ」
「なにとんでもない計画立てようとしてるのよ!!そんな物騒な考えは捨てなさい!!」
確かに、久々にバルムント様やレイモンド様に会えたのは嬉しかったし、ヴィンセントご夫妻も元気そうだったので何よりだ。
――そんな光景を見て自分の家族が少し恋しくなった。
私の両親は元気にしているだろうか??
「ねぇ、リオール。私の両親は元気にしてる??」
「たまに家の近くで会うけど元気だよ。お二人共変わらず幸せオーラ全開だった」
「……うん、相変わらずうっとおしいほど仲良しなのね。いい歳して恥ずかしいんだから」
「いつまでも愛し合っていて素敵なご夫婦じゃないか」
変わらず私の両親は元気に仲良くやっているようだ。
それを聞いて少しだけ安心した――むしろ、邪魔な私がいなくなって余計ラブラブしてそうだ……。
「青藍、父上達が最後に一緒に食事に行こうって話してたよ」
「そうなの??またヴィンセント家の皆さんとは会えなくなるだろうし……お邪魔しようかな」
「うん、みんな喜ぶよ。さてと……じゃあ残りの時間でたっぷりと青藍を堪能しないと。ねぇ、まだ時間があるし海に行きたいんだけどいいかな??」
「え、いいけど……」
リオールに手を引かれて賑やかな商店街を離れて、波の音が心地よい海岸にやってくる。
海の向こう側にいる太陽は殆ど沈みがかっていて、夕日がとても綺麗だ。
大きな木の根元に座り、その夕日を2人でぼんやりと見ていると肩を抱き寄せられてリオールに引き寄せられる。
「また、青藍と離れ離れ……あっという間だった」
「ようやくリオールから解放されるのね……長かったわ」
「青藍、そう言うけど僕と一緒で楽しかったんでしょ」
「まぁ……ほんの少しだけね」
季節使いになって数か月……同じ季節使いといろんな国の人達に会ってきたが、あっという間に出会ってお別れをする……やはりそれが少し寂しく感じる事もある。
だから、気を遣わずに話せる人達と話せてそれだけでも楽しかった。
「バルムント様やレイモンド様と久々に会えて嬉しかったし……それに、」
「それに??」
「ちょっと危険だったけど……青い洞窟も見れて嬉しかった……から」
「せ、青藍がもじもじしてて可愛い!!君も僕と一緒にいて楽しかったんだね!!」
「別にそんなんじゃないわよ!!……でも、一人でいるよりは楽しかった、気がする……」
久々に会えたヴィンセント家の人達と話せて、一緒に食事をして遊んで……楽しかったし、なんだか安心した。
リオールと一緒にいれて……うん、楽しかった――ホテルの部屋に侵入して来たり、膝枕したり、足枷をつけられたり……あれ??楽しかったっけ??
本当に楽しかったのか疑問に思い始めたところで、リオールが思いっきり抱き締めてきたので我に返る。
「やっぱり青藍と一緒にいると心地いいな。ねぇ、青藍って実は僕の事大好きなんじゃない??」
「……馬鹿言わないで。私は君を好きでも嫌いでもない、普通の幼馴染ってだけ。それに監禁してこようとするやつは大っ嫌いよ!!聞いたわよ、君が新しく建てたって言う屋敷のこと!!」
「ああ、聞いたんだね。素晴らしいと思わない??青藍とずっと一緒にいられるようにって考えて設計したんだ」
「なんて無駄な設計なんだ……せめて普通にしてよ!!」
「普通にしたら僕と一緒に暮らしてくれるの!?」
「暮らさないわよ!!」
そうだけど、そう意味じゃない、そして暮らさない。
こういう狂った思考をしていなければ100点満点なんだけど……って違う、私は庶民でリオールは貴族だから婚約なんてありえない。
嬉しそうに私の頭を包み込むように抱き締めているリオールがより力を込めてきたので、息が苦しくなってきて慌てて背中を叩いて離すように合図する。
「……これでわかったよ。青藍を手に入れるためにはどうするべきなのか」
「なにが??」
「あと一押しってところかな……どうにかしてそれをクリアすれば……」
「ブツブツ何を言ってるの??ほら、そろそろ離して」
私の頭のてっぺんでブツブツと言っているのは聞こえるが内容はよく聞き取れなない……。
強くリオールの胸を押して離れるように言うと、すんなりと離してくれた。
そして両方の頬に柔らかい感触と軽いリップ音がした――最後に前髪をどけると額にキスをされる。
「さて、そろそろ父上達が待っているはずだから行こうか」
「え??うん……」
リオールに手を引かれて、ヴィンセント家の別荘で一緒にディナーを食べた。
次の日も見送ってくれると言ってくださったので遠慮したのだが、するといって皆さん聞いてくれなかった。
次の日、私は白いローブととんがり帽を被ってヴィンセント家の方にお別れの挨拶をすると箒にまたがる。
リオールが最後まで手を離してくれなかったので、最終的にバルムント様とレイモンド様がリオールを引っぺがして腕を掴んで動けない様にしてもらった。
浮上して綺麗なエメラルドグリーンの海を見てから、北へ方向転換する。
1週間という短かった休暇を思い返す……まぁ、総合的には楽しかったかな。
少し緩んでいた顔を両手で軽く叩いて気を引き締めると、次の目的地の方向を真っすぐ見つめる……英気も養った事だしこれからの仕事も頑張れそうだ!!
バカンス編おわりです。
よぉし、仕事にもどるぞー。
次は不思議な島でのおはなし




