ゆだんたいてき
ホテルに戻ると、早速お風呂にたっぷりとお湯を張る。
用意されていた入浴剤を入れると小さな泡が弾ける音とともに沢山の花びらが現れる。
浴室にローズのいい香りに包まれて思わず気分も上がる。
ようやく温かいお湯に浸かる事ができて、冷え切っていた体は芯までポカポカになった。
肌触りの良いパジャマに着替えて髪の毛をタオルで拭きながら浴室を出る。
「おかえり、青藍。……君からいい香りがする」
「え、ああ。ここのホテルが用意してくれる入浴剤がすごくいい香りなんだよ」
鼻歌を歌ってしまうほど上機嫌で浴室を出ると、ソファに足を組んで座っていたリオールが立ち上がって私に近づいてきた。
しっとりとまだ濡れている私の髪を一房掴むと、鼻を寄せて匂いを嗅いでくる。
「へぇ……僕もお風呂借りてもいいかな??」
「もちろん。じゃあ、お湯新しいの入れておくよ。待ってて」
リオールも私より着込んでいたと言っても、寒かったのだろう。
張ったままの湯舟のお湯を抜いて、新しいお湯を張る為に浴室に戻ろうとしたがリオールに手を掴まれた。
「そのままでいいよ。……青藍が浸かったお湯に浸かりたい!!」
「うるさいよ、変態。そうはさせないから!!」
少し興奮気味のリオールが変態的発言をしたのでドン引きする。
私は素早く彼の手を振り払って、浴室へ走り出す――まだ、花びらが浮かぶバスタブの栓を抜きお湯を捨てた。
それを見てリオールはとても残念そうな顔をしていたが無視した。
疲れていたので、夕飯はホテルのルームサービスを頼んで食べる事にした。
軽食だったが結構お腹いっぱいになり、ホテルの人にお皿を下げてもらう。
あとは寝るだけだ……今日は本当に疲れた。
「さーて、疲れたしもう寝ようかー。私はベッドで寝るからリオールはソファで寝てね、じゃ!!」
「そうはいかないよ。……ねぇ、青藍。膝枕して??」
「チッ、誤魔化せなかったか……しょうがない。私が言い出したことだし……どうぞ」
「ふふふ、ありがとう」
ささっとベッドで寝ようとしたがリオールに手を掴まれてソファに逆戻りしてしまった。
私が立てない様に太ももに手を置いて、下から覗き込むようにしてこちらを見てくる……相変わらず綺麗なお顔ですこと。
私の了承を得ると満足そうに笑い、膝の上にリオールの頭が乗せられる。
「青藍のふわふわでもちもち……いい匂いもする」
「頬をスリスリするな、撫でるな、匂いを嗅ぐな!!」
いつも着ているショートパンツのパジャマを履いていたので、太ももにリオールの髪や頬の感触がダイレクトに伝わってくる。
うっとりとしながらリオールは私の太ももに頬ずりしたり、指で揉んだりしてきた……あげくに、先ほどの入浴剤の匂いがまだするのか、鼻を寄せてきてくすぐったい。
セクハラじみてきたのでリオールの頭を軽くはたく。
リオールが体を横向きから上向きに変えたことで目線が合う。
「ああ、幸せだ……青藍がどこかへ行かない様に足を切断しちゃおうかなーって思ったけど……しなくてよかった」
「……ちょっと、今物騒な事聞こえたんだけど!!やめてよね!!」
「大丈夫だよ、冗談だから……半分」
「半分本気ってことね……君、怖すぎ」
リオールは目を細めて微笑んでいる――その表情は恐怖を抱くほどの美しさだ。
その恐怖を紛らわすように、震えそうな手でリオールの髪の毛を撫でる。
すると、気持ちよさそうに目を閉じて今度は腰に腕を回してきてお腹辺りに顔を埋めてきた。
「ちょっと、いい加減にしてくれない??これ以上セクハラするなら怒るよ」
「わかってる。あと、もう少しだけ……そしたら、ベッドで2人で寝ようね」
「うん、寝ないよ。ベッドかソファに別々で寝るのよー」
先ほどの怖い雰囲気は無くなり、いつものリオールに戻った。
しばらくして満足したのか、リオールが体を起こしたので咄嗟に距離をとる――が、腰を抱き寄せられ密着する。
そしてこめかみに軽くキスをされたので、思いっきり頬をつねってやった。
「……探し人の似顔絵が私とそっくりって、そんなことあるんだね」
「髪の色、瞳の色、顔もそっくりだったし……すごい偶然だ」
私は返しそびれていた探し人のビラをもう一度見る。
この”白蘭”という人は今どうしているんだろうか??
どうやら彼女は桜彩帝国のお姫様らしい……だが、20年前に突然お城から姿を消してしまったようだ。
「気になるのかい??なら、魔法省に戻ったら少し調べてみるよ」
「いや、そこまでしてくれなくていいよ。20年も昔だし……リオールに借りを作りたくないし」
「まかせて。お礼はまた膝枕でいいよ」
「いや、結構ですので」
私は偶然にも同じ顔をしている彼女の事が気になった。
彼女は今、どうしているんだろうか……無事だといいな。
眠くなってきたのでベッドに横になると、当たり前のように隣に寝ころんだリオールを足蹴りで落としてからふかふかのタオルケットにくるまって眠りについた。
リオールが何かを言っていたような気がしたが、相当疲れていたのですぐに私は眠ってしまった。
***
朝起きると目の前にリオールの綺麗な寝顔があったので、思わず後ずさる。
すると、足に何か金属のような音がして恐る恐る足首の方を見た。
「え、なにこれ……足枷??い、いつの間に!?」
「青藍……起きたの??」
「ちょっと!!これ、君の仕業だよね!?足に足枷が……!!」
「ああ、それね。青藍ってば足癖が悪いからさ。こうすればもう少しお淑やかになるかなって」
「……なるほど、昨日ベッドから蹴落とされたのを根に持ってるってわけね」
私の右足首につけられた真っ黒な足枷から伸びている長い鎖を辿っていくと、鎖の先はリオールが握っていた。
どうやらベッドから蹴落とされたのが不満だったらしい……でも、え??どうして足枷なんて持ってるわけ!?
「なんで足枷なんて物騒な物持ってるのよ!!」
「ああ、これね……いつも持ってるんだ。青藍はすぐどこかに行こうとするから、いざと言う時に使えるかなーって」
「いつも!?捨てなさいこんな物!!そして、外して!!」
リオールは輝かんばかりの笑顔で言ってきた……が、その笑顔から若干狂気じみた感情がチラ見えしている。
私がどうにかして足枷を外そうとしてみたが一向に外れる気配はない……。
その様子を見ていたリオールが手に持っていた鎖を引っ張ると、私の右足首も引っ張られる。
「僕の言う事をちゃんと聞いて、いい子にしてたら外してあげる」
「ええー……変な事は言ってこないでよね」
「安心して、そんなに難しい事じゃないから――まずは、昨日の膝枕の続きかな」
「またぁ!?君もう魔法の疲労は回復したでしょう??」
私は拒否するようにリオールから距離をとろうとした――が、鎖を引っ張られて余計距離は近くなる。
リオールに手を握られ、その手は彼の心臓の当たりに引き寄せられた。
「昨日青藍にベッドから蹴って落とされて心が傷ついたんだ。僕はただ、青藍の香りと体温を感じたかっただけなのに!!」
「……そういうこと考えてるから蹴落とされるのよ」
目を潤ませているこちらをじっと見ている様子は少し可愛いと思ってしまったが、下心が全開過ぎて思わず呆れる……。
私は最後まで抵抗しようと拒絶していると、「足枷よりも首輪の方がいいかな」と小さくつぶやいてきたので大人しく従う事にした……足枷も嫌だが首輪はもっと嫌だ!!
バカンスで油断していましたがこういう男ですよ。
ヤンデレといったら拘束系だよね




