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冬使いの夏休み




 上には雲一つない青い空、下には青々とした草原が広がっていてポカポカ陽気がとても心地よい。

 私は箒でゆっくりと空を飛びながら、課長から送られてきた手紙を何度も読み返していた……だけど何度読んでも内容は一緒だった。


 私が次に行くようにと書かれている場所はここから南――つまり南国だ。

 流石に常夏の国と言われるこの国には冬は来ないのに……どうしてだろう??

 不思議に思っていると、もう1枚手紙が入っていた。



 「課長から??えっと……”前回は秋使いの分も頑張ってくれたようですね。青藍さんも疲れた事でしょう。なので、1週間だけですが南国でバカンスを楽しんでください。費用は私が出すのでご安心を。”……??」



 どうやら今回は仕事ではなく、休暇として南国に向え、という事らしい。

 しかも、課長のおごり……!?



 「か、課長ーーーーーー!!私、課長にずっとついていきますー!!」



 私はやっと頭で理解し、太っ腹な課長に感動して思わず大声を出してしまった。

 その声を聞いて、同じように空を飛んでいた魔法使いがこちらを不審な目で見ていたが、その目線に気づかないほど私は浮かれた。




 箒を上機嫌で揺らしながら空を飛んでいると、徐々に海の色が透き通った綺麗な色に変わってくる。

 しばらくすると、大きな島国がはっきりと見えてきた。

 エメラルドグリーンの海にはリゾートホテルが浮かんでいて、陸地にはカラフルな露店の布屋根や白い建物が立ち並んでいる。



 「確かここって有名なリゾート地だったような……まさか来れる日が来るなんて!!」



 上陸すると天気も風もすっかり南国一色だ。

 私はうっすらと汗をかいてきたので、ふわふわのファーが付いたローブととんがり帽子を外す。

 海から気持ちの良い風が吹き、汗ばんだ肌を少しだけ冷ましてくれる。



 「よしっ!!まずはホテルの確保!!それから遊びに行こう!!」



 私は入国審査をしてもらうために港にある建物へと足早に向かう。

 流石は有名なリゾート地……入国審査を受ける列が長く並んでいたが、季節使いの特権で優先的に入国させてもらう事ができたのであっという間だった。



 空の上から見えていた、海の上に浮いているホテルにチェックインして部屋に入ると鞄の中を漁る。

 たしか、あれを入れて置いたはず……!!



 「あった、水着!!念のために持ってきておいてよかった!!」



 どうせ冬使いだし水着なんていらないだろう、と思っていたが諦めきれずに鞄に忍ばせておいたのだ。

 さっそくワンピースタイプの青い水着に着替えて、靴もブーツからサンダルに履き替える。

 レモンの模様が入ったビニール素材のカバンに財布などを入れ替えて斜めにかければバッチリ夏の装いになった。



 「夏っぽい恰好は久々だし嬉しいな!!それから、季節水晶は金庫にしっかり入れて……よし、出掛けよう!!」



 大切な季節水晶は金庫に入れてしっかり保管する、一応念のために。

 鏡の前で一回転して、おかしなところが無いか確認したら、最後に青いリボンのついたつばの広い麦わら帽子をかぶる。

 私はスキップをしながら砂浜を目指した。



 「海、気持ちいいなぁ。まさか、冬使いが夏のバカンスに来れるなんて夢のよう!!」



 私は海辺を歩きながらのんびり散歩をしていた。

 綺麗な貝殻を拾ったり、太ももの辺りの深さのところまで海に入ったり、砂浜でトンネルを作って開通させたり……。



 「……よく見たら一人ぼっちって私だけ!?」



 夢中で遊んでから我に返る……周りを見ると1人で砂浜にいるのは私だけのようだ。

 周りは友人同士やカップル、家族といったグループが多い。



 「落ち着け、何を今更ぼっちを恐れる……。ずっとぼっちだったじゃないか……!!」



 落ち着かせようと自分で言い聞かせたが、余計虚しくなってきた……。

 私は深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、気分を変えるためにお店のある方へ行こうとすると見知った人物がすぐ近くまで来ていたので驚きの余り固まる。



 「君はたしか……青藍ちゃんだね??リオールがいつもお世話になってます」

 「あ、えっと、こ、こんにちは、レイモンド様。どうしてここに??」



 腰まで届く金色の長い髪を後ろで緩く一つに結んでいるこの方はリオールのお兄様――次男のレイモンド様だ。

 青い瞳は伏せ気味の瞼に少し隠れていている……レイモンド様はどちらかというとインドア派の方だから南国の太陽の日差しが少しツラそう。



 「家族旅行に来ているんだ。ようやく皆の休みが被ったんでね。青藍ちゃんは??」

 「私は、課長から1週間だけお休みをもらいまして。休暇でここに来たんです」

 「そうだったんだ。よかったら――」

 「おい、レイモンド!!こんなところにいたのか。父上達がランチに行くぞっ……って、お前そんな小さな子をナンパしているのか??」



 レイモンド様はとある領地の領主を任されていて、数年に一度しか会う事はなかった。

 最後に会ったのは3年前だったはず……その頃と変わらず聡明で知的な雰囲気が素敵な方だ

 リオールと似ているイケメンな顔を眺めていると、レイモンド様の言葉を遮って、背後から大きな声が聞こえてきた。



 「兄上……違いますよ。この子は」

 「バルムント様。お久しぶりです」



 この方は長男のバルムント様……短髪の金髪に切れ長の瞳でちょっと怖めのお顔をしている。

 バルムント様は帝国の軍隊長で、国境の近くで警備をすることが多いのでこの方とも最後に会ったのはもう6年も前だ。

 ……私の事なんてもう忘れているかもしれない。



 「君は……」

 「青藍ちゃんですよ。リオールのお気に入りの。兄上、昔よくリオールと青藍ちゃんとで遊んでたじゃないですか」

 「バカにするな、青藍の事はちゃんと覚えている。……少し見ない間に、お転婆娘は卒業したかな??」

 「え、ええ……多分。」



 バルムント様は確か今年で28歳、レイモンド様は25歳だったかな??

 小さい頃はリオールの屋敷によくお邪魔して遊んでいたので、まだ学生だったお二人には可愛がっていただいた記憶がある。

 2人のイケメンに挟まれてなんだか落ち着かない……それに久々すぎてなんだが恐縮してしまう。



 「青藍ちゃんは季節使いになったんですよね。リオールから素晴らしい季節降ろしをしていると聞きましたよ」

 「青藍は繊細な魔力操作が得意だからな。私も君の季節降ろしを是非見たいものだ」

 「いいえ、そんな……。私はまだ見習いの身ですし……」



 昔のようにお二人に頭を撫でられて少し照れくさい。

 すると、後ろの方から聞きたくなかった、あいつの声が聞こえた。



 「兄上!!早くしないと、父上がカンカンに怒って……え」

 「うげっ、リオール……!!」

 「すみません。たまたま青藍ちゃんとバッタリ会ったのでつい話し込んでしまいました」



 私を見て、リオールは微動だにしない……瞬きもしないで目を見開いている。

 しばらくすると、いきなり自分が着ていた長袖のシャツを私の肩にかけてきた。



 「そ、そんなに肌を出すなんて!!駄目だよ、青藍!!」

 「は!?水着着てるんだからそういうものでしょ」

 「僕だけならいいけど、他の人も見てるから!!それ、着てて!!」



 ビキニを着ていたわけじゃなかったのに……シャツを返そうとしたが、それよりも先にリオールがシャツのボタンを留めてくる。

 リオールが着てても少し長めなシャツは、私が着たら太ももを隠れるぐらいの長さだった。



 「これでよし。ねぇ、青藍も一緒にランチに行こうよ。いいよね、兄上」

 「え??でも……」

 「ああ、父上も母上も会いたがっていたからな。私達も歓迎する」

 「そうですね。きっと賑やかになって両親も喜びます」

 「え、あ、いや、折角の家族旅行に部外者の私が混ざったら迷惑なので……」

 「青藍だって家族みたいなものじゃないか。ほら、早く行こう」



 リオールに誘われて、私は思わずバルムント様達をチラチラと見る……私なんて邪魔ですよね??ねっ!?という風にテレパシーを送ったが上手く伝わらなかったようだ……。

 お二人は歓迎ムード全開だ――そういう意味じゃなかったのに!!

 私は折角の家族水入らず、というかリオールに関わりたくないので断ろうとしたが、一対三で私は負けた。




 上機嫌なリオールに手を引かれ、後ろにはバルムント様とレイモンド様がいらっしゃって、私は完全に逃げられない状態になっている……。

 連れてこられた場所はプライベートビーチのようで、他に観光客は見当たらない。

 大きな別荘のテラスには気品あふれる夫婦が海を眺めている――この3人のご両親のローレンツ様とリリーローズ様だ。



 「父上、母上!!見てください、青藍です!!」

 「おや、青藍君。君もこの南国に来ていたのかい??」

 「お久しぶりです……ローレンツ様、リリーローズ様。たまたま休暇で来ていたんです」

 「そうだったのね。会えて嬉しいわ」



 品のある雰囲気に、少しおっとりとした笑い方をしているお二人は相変わらず若々しく美しい。

 とても高貴な方だが、庶民の私にもいつも気さくに話しかけてくれるいい人達だ。



 「青藍もランチに誘ったのですが、いいですか??」

 「もちろんだ。青藍君がいればこのむさくるしい空間も華やかになるだろう」

 「ありがとうございます。お邪魔します……」



 私は美男美女の5人に囲まれて、ランチに行く為に街を歩いていた。

 キラキラとしている集団を目の当たりにして多くの人がこちらを見てくる……もちろん、私以外の5人を。


 しばらくすると、外見がすごく高価そうなレストランにたどり着いた。

 私は、高級感のあるお店を見上げて思わず固まる……。

 そんな私の手を引いてリオールが先に入った4人を追いかける。



 「青藍君、ここの代金は私が出そう。さぁ、好きなものを選んでくれ」

 「えっ……いいんですか??」

 「もちろん。君の就職祝いをしてなかったからね。それに卒業祝いも。だからここで祝わせてくれ」

 「……では、お言葉に甘えさせていただきます」



 全員が席に着くと、ローレンツ様がメニューを手渡してくれた。

 そのメニューを見た瞬間に思考回路が止まる――思わず値段を何度も見てしまった。



 「ウ、ウワァ……どれもお高級だぁ」

 「青藍??どれにするか迷ってるなら、僕と半分こしようよ」

 「え??いいけど……。リオール、私の代わりに選んでくれない??」

 「うん、任せて」



 金額にばかり目が行ってしまい、私はなかなか選ぶことが出来ない。

 こんな時はリオールに丸投げしよう!!

 私はとりあえず水を飲んで心を落ち着かせていると、リオールはあっという間に料理を決めてくれた。



 「さて、では頂こうか」

 「ええ、おいしそうだわ。流石はこのリゾート一番高級なだけあるわね」

 「青藍、取り分けてあげる。魚介系好きだよね??」

 「うん、ありがとう。頂きます」


 料理が運ばれてきて、テーブルは一気に賑やかになる。

 全ての料理がそろったので、ローレンツ様に言われて食事を始めた。


 リオールはサーモンのクリームパスタとシーフードグリルを頼んでくれたようだ。

 どっちとも私が好きそうな料理を選んでくれたみたい。



 「どう??おいしい……みたいだね。ふふっ、青藍ってば頬が緩んでいるよ」

 「だって、すごくおいしいよ??味はシンプルなのにどうしてこういう味になるんだろう」

 「本当だ、食材が新鮮だからかな??」

 「そうかも。それとお酒の風味があるね」

 「青藍、こっちも食べてみようよ」



 私とリオールは美味しい料理に舌鼓して、料理を絶賛する。

 2人で楽しく食べている姿を他の4人が微笑ましくこちらを見ていることに私達は気づかなった。



バカンス編です。

季節省、ホワイト企業ですね

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