浄化された心
国に流れてくる流氷によって川が氾濫するとわかってから次の日。
国王様が帰って来たのは空が明るくなってからだった。
王妃様は何も知らない国王様に国に危機が迫っていることを伝えた……だが、王様はまた花街に行くと言って聞かない。
「川が氾濫??どうせ大したことないのだろう。余は出かけるぞ」
「ですが、花街は堤防もありませんし……川が氾濫したら一番危険です」
「ええい、相変わらずうるさいやつだ。お前は余の言う事だけ素直に聞いていればよいと言ったはずだが??」
「……わかりました」
「それでいいのだ。ではな」
王様は王妃様の言葉に聞く耳を持たずに、出掛けてしまう。
私と王妃様、そして数名の兵士達と川から一番遠くにある堤防から川の様子を観察していた。
「やはり、大分水位が上がってきましたわね。民の避難は済んだかしら??」
「はい、全員避難しています。ですが王が……」
「あの人はまだあの場所にいるのね……本当に困った人だわ」
「何度も説得したのですが、聞いて頂けず……。最後は怒り狂って食器が飛んできました」
「そうですか」
王様に避難するように説得しにいったと言う兵士の顔は疲弊していた。
王妃様も呆れ返ったように、頭に手を当てている。
すると、地鳴りのような音がして地面が大きく揺れる感覚がした。
川の方を見ると、大量の水が唸り声をあげているような音を立てて流れてくるのが見えた……予想していたよりもずっと凄まじい勢いだ。
あっという間に川の近くの通りは水にのまれてしまう。
「あ!!王妃様、花街の通りに勢いよく川の水が!!」
「まぁ、そうなりますわよね」
「あちゃー、あそこ一帯の建物も全て流されちゃいますね……王様、大丈夫かな」
「青藍様。お願いがあるんですがよろしいですか??」
「はい??なんでしょう??」
絢爛な建物が瞬く間に水の泡と共に流れていく。
その様子を見ていた王妃様は私に耳打ちをしてきた。
その内容は「私を箒に乗せて、あの通りの上まで連れて行って欲しい」というものだった。
「もちろん、いいですよ。……やっぱり、なんだかんだで王様の事が心配ですよね」
「我が儘言って申し訳ありません。でもどうしてもあの場所に行きたいのです」
「お任せを!!さぁ、乗ってください」
私は箒にまたがり、後ろに乗るように王妃様に言う。
王妃様は恐る恐る箒に腰かけると、私の腰にしがみついた。
びっくりさせない様にゆっくり浮上して、あの通りへと飛んで行く。
「あ!!あそこに王様がいますよ!!」
「あら、本当だわ。なんとか建物の柱にしがみついていたのね……」
「早く助けないと……!!」
「いいえ、青藍様。このままで」
「え??」
必死の形相で柱にしがみついている王様を早速発見した。
急いで助けに行こうとしたが、王妃様が私の腰を力強く締め付けてきたので思わず止まってしまった。
このままでいいのだろうか……??
「そうそう、前回言いそびれましたが……我が国の川には古くから言い伝えがあると言いましたよね??あれの続きをお教えします」
「え!?このタイミングで言い伝えの話の続き!?……あっ、王様が流れていっちゃいましたよ!!」
私がわたわたしていると、後ろにいる王妃様は優しい声で川に伝わる言い伝えを話し始めた。
すると、柱にしがみ付いていた王様は力尽きたのか、様々な物と一緒に流れていってしまう。
だが、王妃様は声色を変えず話を続ける。
「この川は古来より、身を清めたり、邪悪なものを浄化する為にあるんです。婚姻の前や罪を懺悔する時……この川は全ての不浄を洗い流し浄化してくれる神聖なものなのです。」
「素晴らしい川なんですね。……ああ、王様がどんどんながされていく!!大丈夫なんですかね!?」
「大丈夫ですよ。こんなこともあろうと下流に兵士を配置しています。そこで救出されるはずなので」
まさか、こんなタイミングで言い伝えの話をされるとは思っていなかったので私はものすごく焦った。
だが、王妃様は王様が今も川に流されているというのにとても冷静だ。
「あ、また柱にしがみ付いた……ああっでもまた流されちゃった!!」
「いいんですよ、あの人には下流まで流されてもらいましょう。……下流で回収される頃には、あの薄汚い強欲の馬鹿王はきっと浄化されて綺麗な人間になっているはずですよ」
「お、王妃様あああー!?実は相当、鬱憤が溜まってたんですね……!!」
背後から王妃様が言ったとは思えないほどの暴言が聞こえてきた……。
だが、無理もないだろう。さんざん見下されて仕事も押し付けられて……王妃様なりの復讐なのかもしれない。
ふいに後ろを振り返ると、その顔は清々しいほどにスッキリとした笑顔を浮かべていた。
***
お城の大きな庭には大勢の国民達が集まっていた。
王妃様達の的確な避難指示のお陰で国民達は誰一人怪我もしていないようだ――あの通りにいた人と王様はボロボロでドロドロだけど。
王様が恐怖なのか寒さからなのかガタガタ震えているのを横目に、王妃様はバルコニーから大きな声で話し始めた。
「皆様が指示に従い避難していただいたおかげで、死者を出すことなく水害を乗り越えることができました。本当にありがとうございます。見ての通り、街は水にのまれてしまい家を失った者、店を失った物も多くいるはずです。ですが、それは命あってのもの……これから協力して街を再建していきましょう。そのためにどうか皆さんの力を貸してください!!」
王妃様は堂々と話すと、少しずつ拍手が起こり、歓声が上がった。
「王妃様、バンザイ!!」という声が沢山聞こえてくる……王妃様はとっても国民に慕われているんだね。
すると、後ろから大臣や部隊長などの国の偉い方が王妃様に歩み寄った。
「王妃様、どうかこの国を導いてください。王妃様の国民を案ずる姿勢、愛する心はこの国を良い方向へ導いてくれるでしょう」
「我々は王妃様に忠誠を誓います。どうか、貴女様が目指している国の実現に我々も手伝わせてください」
「皆さん……」
たしかに王妃様ならきっとこの国をいい方向へ導いてくれるに違いない。
隣にいる王様がなにか言おうとしたが、私は王様の口を手で塞いだ……今、いいところだから!!
「私はこの国に嫁いだ身ですが、国を――そして国民を愛する気持ちは誰にも負けません。私がこの国をもっと豊かな国にしてみせます!!皆さんがこの国を愛している限り!!この国を守ってみせます!!」
「お、王妃様……!!かっこいい……!!」
高らかに宣言した王妃様は自信にあふれ、そして慈愛に満ちていた。
そんな後姿を見ていた私と兵士達は口をそろえて王妃様を称賛した……多分、ここにいるみんな王妃様に惚れたに違いない。
こうして、権力は王様から王妃様へと移った。
こんなこと前代未聞らしいが、あの王様じゃあ国の将来が不安だし……。
でも、今回のことで王様も反省したようだ……今では王妃様にいろいろ教わりながら2人で仕事をしてるみたいだし、いい傾向だと思う。
街は被害の爪痕が多く残った……でも、国民は顔は心なしか明るいので安心した。
それを見て私はあれを返そうと思う。
これが”正しいと思う使い方”だよね。
「あの、本当によろしいのですか??あの金貨を返してもらって……」
「いいんです。むしろ足りますか??季節省や環境省に言えば今回の水害への支援金も貰えるはずですよ」
「いいえ、十分です。本当に青藍様には感謝しかありません」
「私は何もしてません。王妃様や、この国の皆さんが頑張ったからですよ」
「……本当にありがとうございます」
ずっと鞄に入っていた金貨1000枚を返すと、鞄が軽く感じてとてもいい解放感だ。
私の鞄はやっぱりこれぐらいの重さでないと調子が狂うからね。
「これに懲りて、王様の冬嫌いもなくなればいいのですが」
「ふふふ、本当ですね。でも大丈夫、もう冬を嫌がったりしませんよ」
「そうですよね、ちゃんと川の水で浄化されただろうし、そんな我が儘はもう言いませんよね」
私達は顔を合わせてくすくすと笑ってしまった。
大変な目にあったが、王妃様は最初に会った頃よりとても表情豊かで生き生きとしている。
「青藍さん。是非またこの国にいらしてね!!私、まだ雪を見たことが無いのよ」
「そうだったんですね。……もちろんです!!王妃様の為にとびきりの冬をお届けしますよ!!」
「うふふ。ありがとうございます。楽しみにしてますよ」
私と王妃様は笑いながら指切りをした。
その時までに立派な季節使いになれるよう頑張らなければ!!
こうして私は王妃様や家臣の人達に見送られて、次の国へと出発したのだった。
王様が川に流されました。
でも、これで浄化されて綺麗な心になったよね。
書いてて楽しかったです。王妃様バンザイ




