アリサ10
お母様が率いたブルシュバーン家のモンスター討伐遠征隊が帰還してから三ヶ月が過ぎた。
今王都は王家から発布された魔王討伐の知らせに沸いている。
お母様が国王陛下に報告してから今まで秘匿されていたのは、事実確認に時間が必要だったためだ。
王宮の星読みたちが数日前に天を覆う魔力の歪みが完全に消えたことを確認した。
表通りから距離があるこの裏庭にも祭りの喧噪が聞こえてくる。
お母様は王宮の式典に参加し、お父様と妹はその式典に列席している。
そして私はお留守番である。
お母様曰く、もう大丈夫だとは思うけれど念のためよ、と・・・
まあエリシオンもいるから留守番でも寂しくはないが寂しい。
「お姉ちゃん、暗いの暗いの飛んでけ」
エリシオンが両手を広げて私に微笑む。
「うん、元気になった。ありがとうシオン」
私が頭をなでるとエリシオンが楽しそうに笑った。
安定のかわいさである。
「そろそろおやつを用意してもらいましょうか」
「うん」
裏庭の砂場やブランコで遊んでいたから手を洗うためにエリシオンの手を引いて井戸までやってきたのだが・・・
「その子をこちらによこしなさい!」
どこから入ってきたのかマリーナ様と数人の男たちが私たちの前に立ち塞がった。
私はエリシオンの手を取り直ぐに回れ右して走った。
そして逃げる途中で砂場遊びに使っていたスコップの入ったバケツを来客用の部屋の窓に投げつけた。
パリーンと大きな音を立てて窓ガラスが割れる。
あの部屋の窓はかなり良い物を使っていたはずだ。
ああもったいない。
「何事だ!」
割れた窓から近衛騎士が顔を出す。
下級貴族のブルシュバーン家が魔王を討伐したことにより、いろいろと問題が起こる可能性を考慮して王家から派遣された騎士様だ。
「助けて!」
「族が侵入したぞ!」
騎士様はそう言いながら窓から飛び降りて私の所まで来て抜剣した。
マリーナ様と男たちは騎士様と集まってきた我が家の従業員たちに取り押さえられた。
彼女は裏門を破壊して入ってきたようで、魔王討伐の勇者の家を襲った者として扱われ、王宮の貴賓用の牢に入れられた。
その後、領地から出ないことを条件に解放されたらしい。
二度と会うことはないだろうから興味はない。
今の最大の問題は・・・
「お姉ちゃん、僕大きくなったらお姉ちゃんのお婿さんになる」
そう言って微笑むエリシオンをどうするかだ。
私はエリシオンの頭をなでる。
「大きくなっても気持ちが変わらなかったらね」
私はいつまで大人な対応ができるだろうか・・・