アリサ9
モンスター討伐の為に遠くへ旅立っていたお母様が帰ってきた。
十才くらいの小さな男の子を連れて。
「隠し子?」
ゴン!
「変なことを言うと殴りますよアリサ」
「もう殴ってるよお母様」
「あら、そうね」
私は距離を取ってお母様に抗議する。
本気で叩かれてはいないけれど地味に痛い。
お母様語録に習ってボケてみたつもりだったのだけれどひどいよ。
私が頭をさすっていると男の子が駆け寄ってきた。
「痛いの痛いの飛んでけ」
男の子は両手を大きく空に向かって広げて微笑んだ。
かわいい!!
どれくらいかわいいかと言えば、妹と同格くらいだ。
部屋にお持ち帰りしても良いだろうか。じゅるり・・・
「アリサ、私は旦那様とリメアが戻るまで少し寝るからその子のことは頼んだよ」
相変わらず大雑把で説明不足なお母様だ。
私は屈んで男の子と目線を合わす。
「わたくしの名前はアリサ、さっきまでいた魔王の娘よ。貴男のお名前は?」
「キュリアは強いけど魔王じゃないよ。それに魔王はもういないし」
魔王ネタは定番の冗談なのだが地元民以外に使うのはやめた方が良いようだ。
「魔王はただの冗談よ。ところでお名前は教えてくれないのかしら」
「エリシオン」
私はエリシオンと裏庭の片隅で草笛や花冠を作って遊んだ。
エリシオンはちょっとしたことでもすごいすごいと喜びとてもかわいい。
天使ではなかろうか。
この子のことを冗談でも魔王の隠し子などと言った私を叱り飛ばしたい。
その後、お父様と妹が観劇から帰ってきたのでお母様を起こして詳しい説明を求めた。
「その子はモンスターに襲われていた家族の唯一の生き残りで、そのショックで記憶を失っている・・・ということにしておいてほしい」
お母様が今回のモンスター討伐の詳細についてはまだおおっぴらに出来ないことがある、と言って人払いをしているのでこの部屋には家族しかいない。
この部屋は重要な商談に使う防音性の高い部屋で、普通の声量なら外には聞こえない。
エリシオンにはなにか秘密があるのだろう。
お父様がうなずいてお母様に先を促す。
「この子、エリシオンは遙か昔に魔王を封じておくための触媒として利用された子で年齢は数百歳だ。とは言ってもそのほとんどは特殊な状態で眠っていたから実際の所は見た目通り十歳程度の子供と思って問題ない」
お母様、またまた冗談を、とか言いたいところだが、お母様が真剣な表情をした時に嘘は言わない。
お父様も妹も真剣な顔でお母様を見つめている。
「私が魔王を倒したことでエリシオンは目覚めたけれど、当然行くところはないし、かわいいからアリサかリメアのお婿さんにちょうど良いと思って持って帰ってきた」
お母様、人は物じゃないのよ・・・




