第7話「サラ戦」
「……次はサラだ」
サラが目を丸くする。
「えっ、私?」
先生は頷く。
「そうだ」
サラは少しだけ笑った。
「……なるほどねぇ」
そして立ち上がる。
「じゃあ、今度は私が先生を困らせちゃおうかなぁ」
ミリアは何も言わない。
ただ、モニターに映る先生の姿を見つめていた。
サラは立ち上がった。
「……私かぁ」
「そうだ」
先生は淡々と答える。
サラは少しだけ頬を膨らませた。
「でもさぁ……私、みんなみたいに戦えないよ?」
「知っている」
「ひどいなぁ」
「事実だ」
「そこは否定してよぉ」
メアが吹き出す。
「いや、サラは無理でしょ!」
「メアちゃんまでぇ!?」
「だってサラ、現場に出ないじゃん」
「出ないんじゃなくて、出る必要がないの!」
「それ戦闘できないってことじゃん!」
「違うもん!」
二人のやり取りを聞きながら、先生は端末を操作する。
訓練場のマップが表示された。
「今回はルールを変更する」
サラが画面を見る。
「変更?」
「お前は他の四人とは戦闘能力が違いすぎる」
「……まあ、そうだねぇ」
「だから、勝利条件を変える」
先生が操作すると、画面中央に新しい条件が表示された。
制限時間――三十分。
サラの生存。
「三十分?」
「三十分間、俺から逃げ切ればお前の勝ちだ」
サラの目が少しだけ輝く。
「……なるほど」
「隠れてもいい。逃げてもいい。罠を使ってもいい」
「へぇ」
「俺を倒せるなら、それでも構わない」
サラは画面を見つめる。
そして――
にっこり笑った。
「それなら、私にも勝ち目あるじゃん」
「ある」
「先生、後悔しないでねぇ?」
「しない」
「ふふっ」
サラは立ち上がった。
「じゃあ――」
観察室を出る直前。
振り返る。
「先生を三十分間、私の鬼ごっこに付き合わせてあげる」
「楽しみにしている」
扉が閉じた。
訓練場。
サラが一人、広大な市街地フィールドへ入っていく。
武器は小型拳銃。
だが――
彼女はそれを一度確認しただけで、腰に戻した。
「……戦って勝てるわけないもんねぇ」
小さく呟く。
その顔から、普段のふざけた笑みが消えた。
「だったら――」
サラは周囲を見渡す。
建物。
路地。
地下通路。
閉鎖された店舗。
屋上。
監視カメラ。
そして、訓練場全体に設置された多数の電子設備。
「使えるもの、全部使えばいい」
開始まで残り十秒。
一度建物へ入り――
二階へ。
三階へ。
そして屋上。
そこから向かいの建物へ移動。
着地すると、すぐに階段を下りる。
途中で止まり、壁に設置された訓練用端末を操作した。
「これで……よし」
画面にいくつもの監視映像が表示される。
サラはそれを確認する。
「先生のスタート地点は……」
少し考える。
「ここから北西」
その瞬間。
開始音。
――模擬戦開始。
サラは迷わず走り出した。
観察室。
メアがモニターを見ながら呟く。
「えっと……サラ、もう逃げてる」
「当然だよぉ」
サラ本人の声が通信機から聞こえる。
「私が先生と正面から戦うと思ってた?」
「思ってない」
その直後。
先生が建物から出てくる。
サラの姿はない。
「……」
先生は周囲を見渡す。
何もない。
足跡もない。
音もない。
サラが別の場所から通信を入れる。
「先生、私のこと探してる?」
「そうだ」
「見つかるかなぁ?」
「見つける」
「ふふっ」
通信が切れる。
先生は歩き出した。
一方、サラは別の建物の中。
監視映像を見ながら、先生の位置を確認している。
「そこじゃないよぉ」
先生が建物へ入る。
サラは別のカメラを見る。
「……来た」
先生が階段を上がる。
サラはさらに別の場所へ移動する。
「次はこっち」
先生が屋上へ出る。
誰もいない。
サラはすでに四つ先の建物へ移動していた。
「よし」
彼女は笑う。
「これなら――」
そのとき。
モニターに異変が映った。
先生が屋上から動かない。
「……?」
サラが眉を寄せる。
「どうしたの?」
メアが尋ねる。
「先生、動いてない」
「え?」
「ずっと同じ場所にいる」
サラが画面を拡大する。
先生は屋上の中央に立っている。
そして――
周囲を見ていた。
「……」
サラの笑顔が少しだけ薄れる。
「何してるんだろ」
マイが呟く。
「待っている?」
「……たぶん」
サラが先生の動きを分析する。
「でも、私の位置は分からないはず」
「じゃあなんで?」
「分からない」
サラはすぐに別の監視映像へ切り替える。
そのときだった。
先生が――
屋上から飛び降りた。
「えっ!?」
サラが目を見開く。
先生は下の建物の屋根へ着地する。
そのまま走る。
「……そっち!?」
サラが急いでマップを確認する。
先生が向かっている方向。
そこには――
サラが次に移動しようとしていた建物があった。
「……!」
サラは初めて、笑顔を完全に消した。
「嘘でしょ」
先生は走っている。
サラはまだ動いていない。
数秒後。
先生が目的の建物へ入った。
サラはモニターを見つめる。
「……読まれた?」
しかし、すぐに首を振る。
「いや」
サラは冷静に考える。
「私の移動先を知る方法はない」
ならば――
「別の理由」
サラは画面を睨む。
そして、先生が向かっている建物を見て気づいた。
「……あ」
その建物は、周囲の建物を広く見渡せる。
逃走経路を確認するには最適な場所。
つまり――
先生はサラの位置を当てようとしているのではない。
サラが次に移動したくなる場所を潰している。
「……もう」
サラが苦笑する。
「ほんとに嫌な先生だなぁ」
だが、その目は笑っていた。
「だったら――」
サラは端末を操作する。
「私も、本気で逃げようかな」
三十分。
まだ開始から、わずか四分しか経っていなかった。
四分。
サラはまだ余裕を失っていなかった。
むしろ、先生が自分の逃走先を潰していると理解したことで、戦い方を変えた。
「……移動先を読まれるなら」
端末を操作する。
「移動しなきゃいい」
監視カメラの映像が次々と切り替わる。
サラはその中から、一つの建物を選んだ。
地下駐車場。
入口は三か所。
内部には柱が多く、視線が通りにくい。
そして――監視カメラが一台しかない。
「ここ」
サラは建物へ入った。
地下へ降りる。
さらに奥へ。
最後に車両の陰へ身体を滑り込ませる。
「これなら、先生が来ても簡単には見つけられない」
通信を切る。
完全な静寂。
サラは息を潜めた。
一分。
二分。
三分。
先生が近づいてくる。
モニター越しに、その姿が確認できる。
「……来た」
先生が駐車場へ入った。
ゆっくりと周囲を見回す。
サラは動かない。
先生が一台の車の横を通り過ぎる。
さらに奥へ。
――だが。
先生は突然、立ち止まった。
サラの表情が固まる。
「……」
先生は何も言わない。
ただ、周囲を見ている。
サラは身動き一つしない。
先生が一歩。
また一歩。
近づいてくる。
「……まずい」
サラが小さく呟いた。
先生の視線が、こちらへ向く。
その瞬間――
サラは飛び出した。
「逃げるっ!」
一気に走る。
「!」
先生も反応する。
サラは柱の間を縫うように駆け抜ける。
銃を構えた先生が追う。
パンッ!
弾が柱に当たる。
「ひゃっ!」
サラが身を屈める。
そのまま別の通路へ。
先生が追ってくる。
だが、サラは戦わない。
撃たれても、撃ち返さない。
ただ逃げる。
「あと十八分!」
通信からサラの声が響く。
「先生、もう半分近く時間すぎてるけどぉ!」
「そうだな」
「捕まえられる?」
「捕まえる」
「ふふっ――」
サラが更に角を曲がる。
その先に――
出口。
「よし!」
外へ飛び出す。
しかし。
「……え?」
目の前に先生がいた。
サラの顔から笑みが消える。
「なんで……」
先生は銃を構えていない。
ただ立っている。
「出口が三つある」
先生が言う。
「お前は地下に入る前に、すべての監視カメラを確認していた」
「……」
「その中で、一台しかない場所を選んだ」
サラが目を細める。
「それだけで分かったの?」
「違う」
先生は続ける。
「お前は戦えない。だから、身を隠す場所を選ぶ必要がある」
「……」
「そしてお前は、俺から逃げるために『安全な場所』を探す」
サラは黙った。
先生が一歩近づく。
「だが、安全な場所には共通点がある」
「……何?」
「逃げ道だ」
サラの目が僅かに見開かれる。
「逃げ道が多い場所ほど、追われたときに判断することが増える」
「……」
「だから出口を絞った」
先生は地下駐車場の入口を見る。
「お前が最後に選ぶ出口で、待っていただけだ」
サラは数秒、先生を見つめた。
そして――
「……ふふ」
笑った。
「やっぱり先生、嫌いだなぁ」
「そうか」
「でも――」
サラが拳銃を抜いた。
「私だって、ただ逃げてるだけじゃないよ」
パンッ!
先生が横へ避ける。
サラは撃ちながら走った。
「!」
先生が追う。
だが、サラは戦うために撃っているわけではない。
弾丸で先生の足を止め、その隙に距離を稼ぐ。
一発。
二発。
三発。
「……なるほど」
先生が呟く。
サラは走りながら笑う。
「私、戦えないからねぇ!」
「だが戦い方は知っている」
「そういうこと!」
サラは階段を駆け上がる。
そして扉を開けた。
――その先には、広い道路。
「逃げ切ってやるからねぇ!」
サラは全力で走り出した。
残り時間――十五分。
半分が経過した――
観察室では、メアが目を輝かせていた。
「サラ、結構やるじゃん!」
ミナも笑う。
「うん。戦わないなら、すごく強い」
マイは画面を見たまま呟く。
「……先生も、楽しそう」
その言葉に、三人が先生を見る。
確かに。
モニターに映る先生の表情は――
昨日までより、僅かに柔らかかった。
そしてミリアは。
相変わらず何も言わず、画面を見ていた。
サラが逃げる。
先生が追う。
その二人の距離は、少しずつ縮まっていた。
先生とサラの追跡戦は、まだ終わらなかった。
サラは道路を横切り、次の建物へ飛び込む。
階段を駆け上がる。
二階。
三階。
そして四階。
「はぁ……はぁ……」
息を整えながら、窓から外を見る。
先生の姿は――ない。
「……撒いた?」
サラは少しだけ笑った。
だが、その笑みはすぐに消える。
「いや……」
先生なら、単純に追いかけてくるはずがない。
サラは周囲を見る。
この建物には出口が二つ。
屋上へ続く階段。
反対側には非常階段。
さらに隣の建物へ渡れる連絡通路。
「……」
サラは考える。
そして、あえて非常階段へ向かった。
「こっち」
扉を開ける。
――誰もいない。
そのまま階段を下りる。
一階。
地下。
そして地下通路へ。
サラは足を止めた。
「……よし」
ここなら、先生が来ても逃げ道は多い。
そう思った瞬間。
通信が入った。
『サラ』
「……!」
先生の声。
「なに?」
『今どこにいる』
「教えると思う?」
『思っていない』
「じゃあ聞かないでよぉ」
『ただ確認しただけだ』
「ふふっ」
サラは笑った。
「先生、私を捕まえられそう?」
『まだだ』
「じゃあ――」
サラは通信を切った。
そのまま走る。
だが、三十秒ほど進んだところで――
足を止めた。
「……」
おかしい。
先生は来ない。
さっきまで追ってきていたのに。
「……まさか」
サラは急いで端末を開く。
監視カメラ。
先生の位置を探す。
「……いた」
画面の中。
先生は、サラが先ほどまでいた建物の前に立っている。
動かない。
「……?」
サラは眉を寄せた。
なぜ追ってこない?
自分は今、地下通路にいる。
先生がその場所を知っているはずはない。
なら――
「待ってる?」
サラは小さく呟いた。
そして、地図を見る。
地下通路の出口は三つ。
そのうち一つは、先ほど先生がいる建物の正面へ繋がっている。
「……なるほど」
サラは笑った。
「出口を待ってるんだ」
なら、別の出口へ行けばいい。
サラは迷わず左へ進んだ。
――三分後。
まだ捕まらない。
さらに五分。
先生との距離は開いた。
「……いける」
サラの表情に自信が戻る。
残り時間は――七分。
「あと七分逃げれば私の勝ち」
サラは小さく拳を握った。
「いけるよ、私」
だが、その直後。
サラの端末に警告が表示された。
監視システム:異常
「……え?」
一つのカメラが停止する。
続いて、別のカメラも。
「ちょっと……」
三つ。
四つ。
五つ。
次々と監視カメラが消えていく。
サラはすぐに原因を確認する。
「先生……?」
違う。
先生がカメラを壊しているわけではない。
訓練場のシステムそのものを使っている。
「……そういうことか」
サラは理解した。
先生は自分を追うために、監視カメラを増やしているのではない。
サラが頼っている監視網そのものを、少しずつ使えなくしている。
「……やるなぁ」
それでもサラは笑った。
「でも――」
端末を閉じる。
「私だって、監視カメラだけで逃げてるわけじゃない」
サラは地下通路から地上へ出た。
そして、今度は走らない。
歩く。
建物の影を選びながら、ゆっくり進む。
観察室。
メアが首を傾げた。
「サラ、急に遅くなった?」
ミナが画面を見る。
「本当だ」
サラの移動速度が落ちている。
マイが呟く。
「隠れてる」
「うん」
サラが答える。
「もう先生の位置を見ない」
「え?」
「見ない方がいい」
サラは通信越しに続ける。
「先生が私の行動を読んでるなら、私も先生の情報に頼らない」
「……」
「先生がどこにいるか分からないなら――」
サラは角を曲がる。
「先生だって、私がどこにいるか分からない」
その言葉通り。
先生は足を止めていた。
監視カメラの映像を確認する。
サラが映らない。
「……」
先生は端末を閉じた。
そして――
銃を抜く。
走り出す。
観察室のメアが叫んだ。
「先生、動いた!」
サラもそれを聞いている。
だが、彼女は動かない。
建物の中。
薄暗い倉庫。
サラは物陰に身を潜めている。
足音が近づく。
一歩。
また一歩。
「……」
サラは拳銃を握る。
先生が入口に現れた。
サラは動かない。
先生が倉庫の中へ入ってくる。
あと十メートル。
八メートル。
五メートル。
サラは引き金に指をかけた。
「……今なら」
先生の背中が見える。
撃てば当たる。
サラにも分かる。
この距離なら、戦闘能力の差があっても一発は入れられる。
だが――
「……」
撃たない。
先生がそのまま通り過ぎる。
サラは息を殺す。
そして先生が出口へ向かった瞬間。
「――今!」
パンッ!
先生が振り返る。
しかし――
サラはもう走っていた。
「逃げる!」
先生も追う。
残り時間――4分。
サラは笑っていた。
「あと4分!」
ここからは、ただ逃げる。
先生を倒す必要はない。
戦う必要もない。
ただ4分。
それだけ。
だが先生は、サラを追いながら小さく呟いた。
「……そう来るか」
その声には――
僅かな楽しさが混じっていた。
残り――4分。
サラは走っていた。
「あと4分……!」
建物を抜ける。
路地へ。
さらに別の建物へ。
先生の足音が後ろから迫る。
「速い……!」
サラは振り返らない。
だが、通信越しに先生の声が聞こえる。
『サラ』
「なに!?」
『あと4分だ』
「分かってるよぉ!」
『このまま逃げ切れると思うか?』
「思ってる!」
サラは笑った。
「だって先生、私を捕まえられてないじゃん!」
観察室でも、メアが身を乗り出していた。
「あと4分!」
ミナもモニターを見る。
「このままなら……」
マイが時計を確認する。
「逃げ切れる」
サラの移動経路を追っていたサラ自身の端末にも、残り時間が表示されている。
三分。
二分。
先生は追い続ける。
しかし――
追いつかない。
あと少し。
あと少しだけ。
まるで、手を伸ばせば届く距離を意図的に維持しているようだった。
「……?」
サラが一瞬だけ振り返る。
先生がいる。
距離は十数メートル。
「先生……」
先生は何も言わない。
ただ走っている。
サラは前を向いた。
「……負けない」
残り――一分。
観察室の空気が変わった。
メアが拳を握る。
「いける!」
ミナも笑う。
「あと一分だよ!」
マイは静かに時計を見る。
「……五十九秒」
サラも笑っていた。
「先生!」
『なんだ』
「もう私の勝ちだよ!」
『そうか』
「あと一分しかないもん!」
『……』
先生は答えない。
それでも追ってくる。
五十秒。
四十秒。
三十秒。
サラは最後の逃走経路へ入った。
そこは訓練場の端。
大きな倉庫へ繋がる一本道だった。
「ここなら――」
サラは速度を上げる。
残り二十秒。
先生が追ってくる。
十秒。
「あと十!」
メアが叫ぶ。
九。
八。
七。
「七秒!」
六。
五。
四。
サラが倉庫へ飛び込む。
「あと三!」
三。
二。
――ー
その瞬間。
サラの足元で、小さな電子音が鳴った。
「……え?」
ピッ。
サラが足を止める。
足元。
そこには、小型の訓練用タイマー爆弾装置が置かれていた。
表示――
00:01
「……?」
サラの顔から笑みが消える。
観察室も凍りついた。
「……え?」
メアが呟く。
ミナも言葉を失う。
マイがモニターを見る。
そして――
00:00
装置が点滅した。
直後、訓練用の爆発判定エフェクトが倉庫内を覆った。
サラの戦闘服に停止判定が表示される。
――模擬戦終了。
「……」
完全な静寂。
数秒後。
先生が倉庫へ入ってきた。
サラはその場に座り込んでいる。
「…………先生」
「ああ」
「……今の」
「訓練用のタイマー爆弾だ」
「そうじゃなくて!」
サラが顔を上げる。
「いつ仕掛けたの!?」
先生は答えなかった。
代わりに、訓練開始直後の映像を表示する。
そしてーー
「ここは俺が開始地点に選んだ場所だ」
開始から――わずか数秒。
先生がスタート地点を離れる前。
一度だけ、倉庫の前を通っている。
そのとき。
先生は足元へ小さな装置を置いていた。
「……最初?」
サラが呆然とする。
「最初から……?」
「ああ」
「じゃあ、ずっと……」
「そうだ」
先生は淡々と言う。
「お前が最後に逃げ込む場所を、最初に作っておいた」
サラは言葉を失った。
先生は続ける。
「お前は俺から逃げるために、常に次の安全な場所を選んでいた」
「……」
「だから、最後に必要になる場所を先に用意した」
サラはモニターを見る。
そこには、三十分間の二人の移動経路が表示されている。
先生はサラを追い詰めていた。
だが、捕まえようとはしていなかった。
逃げ道を一つずつ潰しながら――
最後に残る道だけを残していた。
そして。
その先に、タイマー爆弾を置いていた。
サラが小さく笑う。
「……ずっと、ギリギリに追いかけてたのも?」
「そうだ」
「私が逃げ切れると思うように?」
「ああ」
「……性格悪いなぁ」
「戦術だ」
「それ、昨日も聞いたよぉ……」
サラは頭を抱えた。
観察室ではメアが呆然としている。
「……最初から?」
ミナも唖然としていた。
「全部……?」
マイはしばらく黙っていた。
そして一言。
「……先生らしい」
その横でミリアは何も言わない。
ただ、モニターに映る先生を見ていた。
サラが最後に逃げ込んだ場所。
そこへ最初から仕掛けられていた装置。
そして――
先生が最後まで、一度も焦った様子を見せなかった理由。
すべてが一本に繋がった。
サラは立ち上がる。
「……先生」
「ああ」
「私、三十分逃げたんだよ?」
「そうだな」
「あと一秒だったんだよ?」
「そうだな」
サラは先生を睨む。
「……悔しい」
先生は少しだけ目を細めた。
「それでいい」
「……え?」
「次は、その一秒を疑え」
サラは黙った。
そして――
「……うん」
小さく頷いた。
「次は、最後まで先生を信用しない」
先生は何も言わなかった。
その言葉だけを残して、サラ戦は終わった。
サラ戦が終わり、訓練場の照明が通常へ戻る。
観察室には、妙な沈黙が残っていた。
メアはまだモニターを見ている。
「……先生って、ほんとに嫌な戦い方するよね」
「うん……」
ミナも苦笑する。
「私たち、戦い方そのものを読まれてる」
マイは腕を組んだまま、静かに言った。
「だから勝てない」
「マイちゃん、それ言っちゃう?」
「事実」
「うぅ……」
サラが戻ってくる。
「はいはい、そこまでぇ」
椅子に座ると、すぐに端末を開いた。
「でも、先生の戦い方にも弱点はあると思うよぉ」
メアが振り向く。
「弱点?」
「うん」
サラは画面に四人分の戦闘記録を並べる。
「先生は、相手のことを見て戦ってる」
「……?」
「マイちゃんのときも、私のときも。相手の行動を観察して、その先を読んでる」
サラは先生の戦闘記録を表示する。
「だったら――」
その視線が、最後の一人へ向く。
「最初から先生のことを知ってる人なら?」
メアが固まる。
ミナもミリアを見る。
マイも、ゆっくりと視線を向けた。
「……ミリア」
誰も口にしなかった。
だが、全員が同じことを考えていた。
ミリアは変わらない。
ただ、モニターを見ている。




