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第31話 守護者の目覚め

ゴーレムは三体。


石造りの巨体。高さは二人分以上ある。

胴体も腕も脚も、全て一枚岩を削り出したような造形だ。

関節の隙間から、淡い光が漏れている。古代の魔力が動力源だ。


頭部に目がある。

赤い光。二つずつ。六つの光が、大広間を照らしている。


「…………でかいな」


でかい、以外の感想が出てこない。


三体が横に並んで、こちらを見ている。

動きは遅い。まだ完全に起動していないのか、足が床に張り付いたまま小刻みに震えている。


時間はある。少しだけ。


「カイル。壁際から動くな」


壁際に座り込んだカイルが、砕けたレプリカの柄を握ったまま呆然としている。

戦力にはならない。だが、邪魔にならない場所にいてくれればいい。


「エリス。あいつらの分析」


「やってるわよ。黙って」


エリスが目を細めている。紫の瞳に魔力が走り、ゴーレムの構造を読み取っている。


五秒。


「石の外殻。内部に魔力の核がある。核を潰せば止まる。位置は——胸の中央。紋章が刻まれてるところ」


胸の中央。紋章。確かに三体とも、胸に古代の紋章が光っている。


「外殻の硬度は」


「鋼以上。普通の武器じゃ傷もつかない。……あいつのレプリカが砕けたのが証拠ね」


カイルの方をちらりと見た。カイルは聞こえていないようだった。柄を握ったまま、動かない。


「こいつなら通じるか」


「オリハルコンなら通る。ただし、三体同時は——」


ゴーレムの足が動いた。


一体目が、床から足を引き抜いた。

千年分の砂と石の欠片が崩れ落ちる。


一歩。


大広間の床が揺れた。


「起きたわね」


「起きたな」


二体目、三体目も続いて動き出す。

足並みは揃っていない。個体ごとに起動のタイミングがずれている。


「最初に動いた一体が一番活性化してる。あの一体を先に潰せば、残り二体の起動を遅らせられるかも」


「根拠は」


「三体が同じ動力系に繋がってるの。一体が倒れると、残りに動力が再分配される。再分配の瞬間に隙ができる」


「……つまり、最初の一体を速攻で倒せと」


「そう。でも問題がある」


「何だ」


「あんたが一体目に集中してる間、残り二体が自由に動くわ。壁画を壊されたら困る」


壁画。

千年の遺産。碑文。七つの柱の情報。


「……壁画を守りながら一体目を倒すのは」


「無理よ。あんた一人じゃ」


エリスの声が変わった。


“裏”でも”表”でもない。

あの声だ。戦う時の声。


「私が二体を抑える。あんたは一体目を潰しなさい」


「……本気か」


「本気よ。仕方ないでしょ。壁画が壊れたら、ここに来た意味がなくなるわ」


壁画のため。

建前だ。たぶん。


でも、エリスが自分から連携を提案するのは——これが初めてだった。


国境の町では「手を出さない」と言った。

暗殺部隊の時は、アルレンが倒れかけて初めて動いた。


今回は違う。

最初から「一緒に戦う」と言っている。


「……了解」


「何よ、その顔」


「何でもない」


「嘘ね。何か言いたそうな顔してるわよ」


「……心強い、と思っただけだ」


エリスが一瞬、目を逸らした。


「……当然でしょ。私よ?」


いつもの台詞だ。でも声が少しだけ高かった。


一体目のゴーレムが腕を持ち上げた。

石の拳。大きさは樽ほどある。あれで殴られたら、普通の人間は潰れる。


「作戦を確認するわよ」


エリスが指を三本立てた。


「一体目はあんた。胸の紋章を砕く。全力でいいわ。遠慮はいらない」


一本目の指を折る。


「二体目と三体目は私が魔法で拘束する。動きを止めるだけ。倒すのはあんたの仕事」


二本目を折る。


「壁画には触れさせない。これだけは絶対」


三本目を折る。


「時間制限は——正直、分からないわ。拘束魔法の持続は私の魔力次第。長くは持たない」


「どのくらいだ」


「一体目を倒すまでに、五分。それ以上かかったら、私の拘束が切れて三体同時になる」


五分。

ゴーレムを一体倒すのに五分。


飛竜は数十秒で倒した。だが、あれは生物だった。急所があった。

ゴーレムは石の塊だ。急所は胸の核だけ。外殻を砕いて核に到達するまでに、どれだけかかるか。


「……やってみるしかないな」


「やってみるじゃなくて、やるのよ。失敗は許さないわ」


「了解」


欠片を抜いた。

オリハルコンが手の中で脈打っている。


ゴーレムが完全に起動した。

三体の赤い目が、こちらを捉えている。


大広間の空気が変わった。

千年の沈黙が、戦闘の気配に塗り替えられていく。


「……行くわよ、駄犬」


「ああ」


「壁画に傷一つつけたら、ゴーレムより先にあんたを砕くからね」


「……善処する」


「確約って言ったでしょ!」


ゴーレムが動いた。一体目が拳を振り上げる。


走った。


---


壁際で、カイルが顔を上げた。


砕けた柄を握ったまま、二人の背中を見ていた。


黒い髪の男が、石の巨人に向かって走っていく。

銀髪の女が、紫の光を両手に灯している。


二人の動きに、迷いがなかった。


言葉は少ない。視線の交換もほとんどない。

それなのに、噛み合っている。お互いがどこに動くか、何をするか、分かっているように見える。


これが——「一緒に戦う」ということか。


手の中の柄を見下ろした。

金メッキの残骸。勇者の証だったもの。


握り締めた。


「…………」


今は何もできない。

何もできないが——見ている。


この目で見ている。


本物の「勇者」がどう戦うのかを。

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