第95話 新たな主人と新たな情報
第95話~新たな主人と新たな情報~
降りやまぬ丘陵は、数百年ぶりに降り注ぐ雨がやみ、雷もならず、曇天の隙間から光が差すというこの丘を知る者が見たら、一様に腰を抜かすような光景を見せていた。
「まさか本当に正面から打ち破るとはの」
疲弊しながらもトールの息がまだあるのかを確認していた俺とカナデに、エリザがゆっくりと近づいて来ながらそう言った。
「封印されて力が落ちてなければ戦いにもならなかったよ」
「そうかもしれんがトールは封印されておった。戦いにもしはない。現状で出来る最善を尽くし、それで負けたならそれがそ奴の強さだったというだけのことじゃ。お主らはトールがどのような状態であれそれに勝ったのだから誇るがよいぞ」
満足そうな笑みを浮かべながらそう言うエリザに、俺は肩をすくめることで答える。
確かにエリザの言う通りなのかもしれないが、それでも今後も同じような状況で戦えるとは限らない。今回は相手が封印された状態だから勝てたということは、逆に言えば相手が万全の状態で負けるということももちろん可能性としてはある。
そうなればそのときは自分が弱かったということになってしまうのだから、やはりこの結果を手放しで喜ぶのは違うのだろう。
「強くならないといけないな」
「ですね。私ももう少しこう、火力と蹴りの強さをあげないといけません」
「いや、というかお前の戦闘スタイルはなんなんだよ。なんであんな格闘術できるんだ?」
「さぁ?」
「さぁってお前……」
「なんかやってみたら出来たんですよねー。まぁ役に立ったんだからいいじゃないですか!」
そう言って笑うカナデに、俺はもはや呆れるしかない。もっともカナデと会う前のことなど何一つ知らないのだから、知らないことが出てくるのも当然なのだろう。
カナデの生きて来た、幽霊なのだから生きて来たというのも変なのだが、その長さを考えれば俺達が知り合った時間など微々たるもの。
だったらこれから知っていけばいい。
戦いの最中はいろいろとカナデに聞こうと思っていたが、今はもうそれでいいかと思う自分がいた。
エリザとなにやら火力のあげ方を真剣に話し合うカナデを見ながら、とりあえず今回は無事に戦いを終えることが出来たことに、俺は胸を撫でおろすのだった。
◇
それから30分が経過したころ、それまで気を失っていたトールがゆっくりと目を開ける。
『うっ……』
「よう、目を覚ましたか。何があったか覚えてるか?」
そう声をかける俺に、トールはまだダメージの残る体をなんとか起こし周囲を見渡す。
起きた時にまた暴れられても面倒だからと、特に回復薬などは使わなかったが、どうやら問題はなさそうだ。ダメージがあっても起き上がるだけの体力が回復しているのは、やはり伝説の魔物といったところだろう。
「さて、とりあえず聞きたいことがあるんだが……」
戦いの結果は出たのだから、またここで襲ってくるとは思えない。仮にもしそうなったとしても迎撃の準備は出来ていると、情報を引き出そうとそう言葉を続けようとしたのだが、俺の言葉に被せる様にトールが驚きの行動を示した。
『新たな主人よ。俺はこの先、あなたに服従させて頂こうと思う。なんなりと命令をしてくれ。これより先、俺は主人の剣となり戦うことをここに誓う』
その巨躯を伏せ、頭を俺の前に差し出し完全に服従の姿勢でそう言い切ったトール。戦いの勝者に敗者が服従を示すのは珍しいことではないが、まさかこのタイミングで、しかも伝説の魔物たるトールがその姿勢を見せるとは夢にも思わなかった。
「本気で言ってるのか?」
『無論です我が主よ。俺は戦いに敗れた。であれば勝者に従うのは必然。二言などあるわけがありません』
「いや、でもお前は封印された状態じゃ……」
『今の状態に関係などはないのです。俺は今持てる最大の力で主に屈した。それ以上でも以下でもないのですよ』
あまりの展開に思わずカナデに視線を飛ばすが、それがさも当然だと言わんばかりに頷いているだけで当てになりそうもない。ならエリザにと思ったが、こちらは肩を震わせて笑いをこらえているという始末。腹が立ったので小石を思い切り投げたら痛そうにわめいていた。いい気味である。
「わかった。主人がどうとかは置いておいて、とりあえず俺達がここに来た目的を聞いてくれ。その上で俺につき従うというなら、ちゃんと考えるからさ」
半ば諦めの境地でとりあえず目的を果たすために、俺はトールにそう告げたのだった。
そこから小一時間。俺がこの世界に召喚された経緯から、カナデやエリザ、スルトと出会い、何があってどうしてトールに会いに来たのかを話した。
基本的には大人しく俺の話を聞いていたトールだったが、死骨山脈でエリザに俺が助けられた話を聞いた時だけは反応を示した。
『まさかエリザベートがそんなことを。にわかには信じられませんな』
「信じるも何も本当のことじゃ。どうじゃ、少しは儂を見直したかの?」
『裏切り者の気まぐれでよく言う。俺は絶対にお前のことなど認めない』
流石に主人と認めた俺の前でそれ以上の諍いを起こすことはなかったが、放っておけば間違いなくトールはエリザに襲い掛かっていただろう。俺の思う以上に、エリザとその他の伝説の魔物の間にある溝は深いということを実感した。
その後は俺の話に先ほどのような強い反応を示すことなく、最後まで聞き終えたトールはどこか納得のいった顔で重く呟いた。
『やはり神には何か別の目的があったのかもしれません』
「どういうことだ?」
そういうトールに俺は問う。最初、人類の行いを憂いた神が伝説の魔物によって人類を根絶しようとしたと聞いていたが、これまでの旅でそれはいささか違うのではと思っていた。
そしてその考えを肯定するかのようにトールが話し始めた。
『俺達が神の命によって人類を駆逐し始めてしばらくが経った頃、主も知っての通り人類による逆襲が始まりました。勇者と呼称される人類は、俺達でも遅れを取るほどの強大な力で、次々に俺達を封印していったのです』
「そこまではエリザやスルトから聞いて知っている。俺達が知りたいのはその後だ」
『仲間が次々と封印され、次は自分の所に来ると知った俺は、仲間の敵討ちと思いこちらから攻めて出たのです。もちろん相手は反撃にでましたが、流石に不意を突かれては向こうも対処が遅れ、勇者のうち何人かを屠ることに成功しました』
遠くを見つめるようにしてそう話すトールはきっと、その頃に思いを馳せているのだろう。時折、悔しそうに顔を歪ませるところを見るとこの後に敗北を喫することになることが予想できる。
『しかし事態はそこで大きく変わります。当時勇者に不可思議な力があることは先に封印された仲間から聞いていました。天恵という、神に授けられたという力があるということを』
「そうらしいな。スキルの何倍もの力を持ち、とんでもない強さを秘めていると聞いている」
『俺は信じられませんでした。なぜ神が俺達に向けて神の力を持った者を送り込むのか。俺達は神の命に従いそれまで行動をしてきたのです。褒美を与えられることならあるやもしれませんが、あのような理不尽な行いをされる覚えはありません』
怒りに表情を歪ませるトールはさらに続ける。
『だから俺はなんとか勇者の猛攻を振り切り、神のもとに向かいました。そして真意を聞こうと思ったのです』
「一応聞くが、神には会えたのか?」
『いえ、結果的に会うことは叶いませんでした』
予想通りの答えだった。もし仮にトールが神に会えていたとするならば、さっき他の目的があったのかもしれないなどとあいまいな答えはしなかったはずだ。
自分の推測が当たっていることに若干気を落としながらも、トールの話の続きを聞く俺達だったのだが、そこでトールの口から意外な事実が聞かされることになる。
『神に会う直前、俺の邪魔をした奴がいたんです』
「誰だ?」
『熾天使ミカエル。神の右腕であり全ての天使を束ねる天使長です。奴は神に会わせるように言う俺にこう言ったのです』
“神のゲームの邪魔をするな”
トールのその言葉に、俺達はただ黙ることしかできないでいたのだった。
トールさん、忠犬となる(笑)
少し物語の核心に近い情報が出てきました。その辺りにスポットが当たるのはまだ先の事ですが、見えてくる神の目的に注目していただければと思います。
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。
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