第96話 新たな仲間とロータスへ
第96話~新たな仲間とロータスへ~
降りやまぬ丘陵は帝国内では中央南部に位置しており、南東部に位置しているロータスの街からはそれなりに距離がある。
伝説の魔物であるトールに神についての話を聞く。
当初の目的であったそれは達成され、さらに少なくはあるが新しい情報を得ることも出来た。目的は達成されたのだから、もうそこに用はない。
ということでとりあえず次の方針を決定するために、スルトの待つロータスの街に戻ることにしたのだ。したのだが、そこにおまけがついてきていた。
「なぜお前が一緒におるんじゃ?」
『主と認めたからには付き従うのが従者の務めだからだ。それにお前が近くにいるのも不安の種だからな。事情は理解したが、それでも俺はお前を信じることはまだできん』
「別にお主に信用されんでもかまわんが、その主人であるキョウスケに自分が封印されている鉄塔を運ばせるのはいかがなもんなんじゃろうな」
『それに関してはただただ申し訳なく。我が主よ、この御恩を俺の一生をかけて返させてもらいます』
という感じで小競り合いをしているエリザとトール。なんだかスルトが仲間になった当初を思い出す光景だが、この状況を簡単に説明すると、新たに伝説の魔物であるトールが仲間になったということだ。
神に仕えていたはずのトールが戦いに負けたからと言って、そんなに簡単に俺を主人としていいのかと思ったのだが。
『先のこともあり、神への疑念がありましたし、何より封印されている間の考察と主の話でその疑念は確信に変わりました。もはや神に俺が付き従うのは不可能です。何より俺は自分を直接打ち負かした相手以外に元来従いたくはないのです』
と言って、俺に仕えることが決定事項となっていたのだった。
まぁすでに伝説の魔物を二体仲間にしているのだから、いまさらさらに増えようが今更感もある。それにこれから先を考えれば仲間が増えることはいいことだと思ったのだが、ひとつ問題があった。
それがトールが封印されている鉄塔だ。
スルトがゴウロン山の炎の中に封印されていたように、トールもまた降りやまぬ丘陵の避雷針たる鉄塔に封印されていた。
その鉄塔は一本の不可視の鎖をトールの首に向けて縛り付けており、それはさながら犬をしばるリードのようにも見えた。伝説の魔獣たるトールだが、かつてトールを封印した勇者がフェンリルを犬に見立てた皮肉でもあったのだろう。
幸か不幸かその鎖はトールにある程度の行動を許しており、鉄塔の周囲、およそ50mほどであれば自由に行動ができる。だがそれ以上はトールがどれだけ抵抗しても動くことは敵わない。
スルトのように完全に封印されているが意識はなかったのと、少しの自由はあるが長い時を束縛された空間で過ごす。どちらが辛かったのかは分からないが、少なくとも俺はどちらもごめんだった。
『主よ、俺の不始末のせいで申し訳ありません』
「気にするな。俺だって打算があるからこうしてるんだ。後できっちり働いてもらうから覚悟しておけ」
トールは鉄塔に封印されており、自身ではその鉄塔をどうこうすることは出来ない。だが逆に言えば、トールでなければ鉄塔に触れることは可能なのだ。
これまで降りやまぬ丘陵の環境や、近づく者を全て威嚇するトールのせいでそのことは分からなかったようだが、試しに俺が触ってみたところ、鉄塔は俺にとってはただの巨大な鉄の棒でしかなかったのだ。
トールは鉄塔の周囲でしか行動できない。トールは自身では鉄塔に害を与えられない。だが他の者であれば鉄塔はどうにでも出来る。
なら俺が鉄塔を動かせばいいんじゃね?
そう思い鉄塔を引っこ抜いてみたところ、何の抵抗もなく引っこ抜けた。加えてトールの行動も鉄塔を持つ俺と一緒であればどこまでも可能となったのだった。
だがそれでも鉄塔に施された封印自体はどうにもならなかった。試しに全力で鉄塔の破壊を試みたのだが、大きさこそ小さくはなったが封印はまったく壊れることはなかったのだ。
どうやら鉄塔の残った部分が封印の根幹らしく、それ以上は破壊することができなかったのだろう。
「それでもあのあほみたいに大きかった鉄塔が5mくらいになったんですから持ち運びは楽になりましたね。いっそのこと恭介さんの槍にしたらどうです?」
「こんな邪魔な武器なんていらねぇよ」
『じゃ、邪魔……』
「いちいち落ち込むのかよ!?お前本当に伝説の魔物なのか!?」
そんなこんなでトールを新たに仲間として加えた俺達は、一路ロータスの街を目指すのだった。
しかし、俺達はまだ知らなかった。目的地であるロータスが大変なことになっていることを。
◇
街が見えて来た頃、俺達はそこでようやく異変に気付く。
「おい、ちょっと待て!?どうなってやがる!!」
「煙、ですか?」
「ふむ、襲撃を受けたか。じゃがあそこにはスルトがいるはずじゃし、そんなに簡単にああも破壊されるとは思えんが」
「いいから急ぐぞ!!」
天使による襲撃の可能性があったからこそスルトが街に残った。その上でもし俺が想像する結果となっているのなら。
『主!俺に乗ってください!!』
「急げトール!全速力で駆け抜けろ!!」
『御意!!』
最悪の結果が頭をよぎる。俺はその想像をなんとか押しとどめ、トールの背に跨りロータスの街に帰還したのだった。
街はぼろぼろだった。
確かに俺達が出て行くときもまだ復興の最中であり、ところどころに壊れた建物は散見されたが、それでもここまではひどくはなかった。
街の建物は無事なものの方が少なく、ほとんどの建物は原形が残らないほどに崩壊している。
なんとか残っている建物もどこかしらが壊れていて、そのまま住人が住むのはほとんど不可能な状況だ。
街の外周部を取り囲んでいた外壁ももちろん破壊されていて、元の街の状況を知らなければ、廃街と思われても仕方がないほどに朽ち果てていたのだ。
「ふざけんなよ……!」
トールの背に乗り街に入った俺は一言そう呟く。それほどに街は破壊されつくされ、病を乗り越えたはずの住人の姿も一人も見えない。
焦燥にかられながらも状況を知る者を探し街を駆ける。
そしてようやく見つけたその場所は、この崩壊した街にあってそこだけ異質だった。
「教会が残ってる……」
街の中心にある教会。俺達が拠点にしていたその場所だけは、まったく破損した様子もなく残っていたのだ。
「サイトウ様!!お戻りになられたのですね!!」
俺がそこに近づくのを確認した教会の周囲にいた住人がそう叫ぶ。それにつられたように、それまでまったく見受けられなかった住人たちがぞろぞろと集まって来た。
「サイトウ様!!」
「よかった……、これで助かる……」
「そちらの狼のような魔物は一体……」
住人たちは生きていた。だがその数が明らかに少ない。俺はその事実を呑み込み、状況を確認することを優先する。
「説明は全部後だ!!俺達が出て行った後何があった!?スルトはどこにいる!!」
俺の問いに答える者はいない。ただ全ての者が一様に、教会を見ただけだった。
「トール、ここで待ってろ」
『しかし』
「じきにカナデとエリザも追いつく。3人で住人達から情報を集めておいてくれ」
『……わかりました』
まだ何かを言いたそうなトールだったが、俺の表情にそれを飲みこみ了承を示し教会の前に座り込む。
俺は持っていたトールを封印する鉄塔を、教会の横に雑に突き刺すとそのまま教会の中に入っていった。
「キョウスケ様!?」
重い扉が開かれた先、そこにもまた溢れんばかりの住人たちがいた。その中の一人、一番奥の祭壇傍にいたセレスが俺を認めるとそう叫んだ。
その顔は何日も泣きはらしたのか、目は充血して涙でぐちゃぐちゃだった。
「何があった……?」
俺のその問いにセレスは黙って祭壇に目を向ける。それに合わせるかのように、住人たちが祭壇までの道を開けるかのように左右に割れていった。
間違いなくそこには見たくないものがある。だが進まなければ話が始まらない。一歩、また一歩と重い足を前に出し祭壇へと進んでいく。
たどり着くのはすぐだった。それほど距離はないのだから当然だが、それでも俺はそこに辿り着きたくなかった。
「……ッ!?」
祭壇の上、誰もが目を向け悲愴に暮れるその先にあったのは、砕け散った土偶の欠片と、半身を失い静かに目を瞑り眠るナターシャの姿だったのだ。
一難去ってまた一難。崩壊したロータスの街と仲間のまさかの姿。
いよいよ帝国編も終盤へと入っていきます。まだしばらくかかりますが、ぜひぜひこれからもお読みください。
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。
【お知らせ】
ブックマーク100人に到達したので、かねてより書き進めていた新たな作品の連載を開始します。
タイトルは【物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~】
学園ファンタジーとしてこれから本作の裏の隔日で更新していますので、ぜひそちらもお読みいただけると嬉しいです。
下にリンクを張っておきますので、是非そちらもブックマークのほどよろしくお願いします。




