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第94話 最後の抵抗

第94話~最後の抵抗~


 鉄塔に打ち付けられたトールにもはや起き上がる力は残っていなかった。


 舐めていたわけではない。


 もともとエリザベートが一緒にいたという時点であの二人は異常なのだ。自分の知っているエリザベートは誰とも群れず、いつも孤高の存在だった。


 伝説の魔物の中でもその強さは抜きんでていて、いつも血気盛んに挑んではいいようにあしらわれていたのを昨日のことのように思い出すことが出来る。


 圧倒的な力を持つがゆえ、エリザベートはいつも一人だった。誰にも心を許さず、不用意に取り入ろうとする者には死でもって償わせていた。


 だからこそ、自分の知るエリザベートが連れて来た二人が油断できる存在ではないと思ったのだ。


 あのエリザベートと一緒に行動し、あろうことか対等に話をする。そんな光景は見たことがなかった。はるか昔、まだ自分たちにわだかまりがなかった頃にもそんな奴は一人もいなかったのだから。


 脅威となる存在。そしてその予感は当たってしまう。


 忌々しい勇者たちに封印され、満足に自分の力を出すことが出来なくなった。かつての力を奮えなくなったとはいえ、それでも自分の方がステータスは上。それでも慢心することなく戦略をたて、その上で戦い今自分はこうして地面に倒れ伏している。


 敗北。


 また自分は負けるのか。勇者どもにやられ、好き勝手罵られた上に封印され、そしてまた人間に負ける。


 そんなことは許されない。


 例えここで朽ち果てることになろうとも、またも人間に負けるなど、断じて受け入れることなどできない。


『ウワオオオオオォォォォォォッ』


 命を燃やすと決めた咆哮。力の入らない足を無理やり動かし立ち上がる。そこかしこの筋肉が悲鳴を上げ、断裂を起こしているがすべて無視する。


 咆哮に気づいた人間がこちらを見た。倒したと思った相手が再び起き上がったことに少しでも動揺や驚きを見せればまだ可愛げがあるのだが、どうやら自分と相対した人間はそんな表情をみせる奴ではなないらしい。


「なんだ。まだやるのか?格付けは済んだと思ったけどな」


『ほざけ。人間ごときが伝説の魔物と呼ばれた俺と対等など、おこがましいにもほどがあるわ』


「そうか。なら、かかってこいよ」


 そう言うと人間は一歩こちらに足を踏み出す。こちらがボロボロなのは言うまでもないが、人間だってすでに満身創痍のはずだ。


 どんな攻撃をしたのかは知らないが、すでに人間の魔力が尽きかかっているのはわかっている。加えてあの雷の猛攻を受け続けていたのだ。回避をしていたとはいえ、体力が残っているとも考えにくい。


 それなのになぜ今目の前に立つ人間は、そんなに余裕のこもった視線で俺を見ることが出来るのか。


 かつてあらゆる人間から恐怖された存在である自分に、どうしてそんな視線を向けることができるのか。


『死んでも後悔するなよ』


 気づけばそんな言葉が口から出ていた。


「最初から殺す気だった奴が何言ってやがる」


 人間のもっともな言葉に、どうしてか口元が緩んだような気がした。


『行くぞ』


 もしこの人間ともっと違う出会い方をしていたら。そんなことを思いながら、最後の一撃を放った。


 ◇


 魔力は枯渇寸前、体力も立っている分くらいしか残っていない。それでも虚勢を張っているのは自分が優位に立っているということを相手に知らしめるため。


 トールは今、残る力の全てを振り絞り最後の一撃を放とうとしている。それをするということは、そうしなければ自分が負けるとわかっているからこそ。


 とはいえ相手にも俺の状態はばれているだろうが、ここでこうして虚勢を張れるかで状況は変わるのだ。


『死んでも後悔するなよ』


 だからこそトールはその言葉を残し最後の攻撃を放とうとしている。ここでもし俺がもう戦えないという様子を少しでも見せれば、せっかくこちらが優勢という状況がひっくり返る可能性すらある。


「最初から殺す気だった奴が何言ってやがる」


 退路はない。ここで打ち負かせば完全にこちらの勝ちだ。


 だがそれが難しいことくらい、これまでの経験で痛いほどわかっている。最後の最後、勝ちきる寸前こそが追い詰める者にとって一番の危険な時なのだから。


『行くぞ』


 その言葉と共に、先ほどまでトールの体に集まっていた雷が一気に膨れ上がった。龍牙槍の一撃により技の発動を止めれば魔力も霧散すると思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。


 膨れ上がった雷はトールの体を包み込み、ただでさえ大きなその巨躯をさらに膨れ上がらせていた。体をまんべんなく包み込む雷はそれだけでは収まらずにトールの牙へと収束していく。


 10m程だったはずの巨体は今では倍になるのではないかというほどに肥大し、雷の収束した牙はまるでサーベルのように鋭く長く伸びていた。


“検索結果:対象のスキル。『打ち砕く者』の発動を確認。雷神トールの武器、ミョルニルを模したものと推測される。稲妻を顕現した技であり、雷を吸収した体躯は稲妻のごとき速さを持ち、その牙は全てを切り裂く。現在のマスターのステータスでの回避は不可能”


 言ってくれる。


 そう思ったが、インデックスの客観的な冷静な分析の上で導き出された答えなのだ。これまで散々それに頼ってきたのにそれを疑うつもりは微塵もなかった。


「それなら正面から受け止めてやるさ」


 回避は無理なら受けきるしかない。そうはいっても素のステータスで負けている俺ではそれは不可能なことは明白だ。


「恭介さん、手はいります?」


「必要ない。あの犬に躾ってものを教えてやるからカナデは下がってろ」


「ちゃんと躾けてくださいね?後であの犬にはお手をさせてやらないと気が済みませんから」


 そう言うとカナデはふわりと宙に浮かび上がり、俺達の戦いを観戦する体勢に入る。しかし伝説の魔物もカナデにかかれば形無しのようだ。だがもしこの戦いで俺が勝てば、容赦なくカナデがトールにお手をさせてるところが想像できる辺りが恐ろしい。


「来いよ」


 俺とトールの間を隔てるものは何もない。その言葉がトールに届いたのかはわからないが、次の瞬間、音を置き去りにした一撃が俺に襲い掛かって来た。


 稲妻と化したトールは巨大な牙でもって俺を串刺しにする。単純だが、それゆえ強力なトールの最強の一撃。


 きっとこれが封印されていない万全の攻撃であれば、俺はなすすべなく殺されていたことだろう。


『まさかここまでとはな……』


 トールのそんな小さな声が俺の耳元で響いた。


「いい一撃だったが、俺には届かない。言っただろ?格付けはもう済んだってな」


 必殺の牙が俺を貫く寸前、俺はその牙を掴みとりトールの一撃を止めることに成功していたのだ。


 未来視による攻撃の先読みと、過去視による立ち位置の修正。そしてトールの全力の一撃を受け止めるために発動した龍化のスキル。


『その翼……、もはや人間と呼べるものではないな』


「俺は自分が人間だなんていった覚えはねぇよ」


 龍化により顕現した漆黒の翼が俺の力の底上げをする。龍人となり、龍戦士となった俺は人間からだいぶ外れてしまったが、それでもこうして自分の我を通すことが出来るのだからそれでいい。


「歯、食いしばれよ」


 音速を超えたトールの一撃は止められた。それなら次はこちらの番だ。


 トールがその場を離脱しようと力を入れるが、両の手で最大限の力を入れて掴んだ牙を離すことはない。この一撃で終わらせる。


「龍の双翼」


 漆黒の翼がトールに叩き込まれ、トールは吹き飛ばされ再び鉄塔へと叩きつけられた。


 今度こそ起き上がることのないトールを確認し、ようやく俺は勝利を確信することができたのだった。


これにて雷獣トールと戦いも終結です。ここから先、トールが恭介たちとどのようにして絡んでいくのかはこうご期待!!次話ぐらいにはすぐわかると思いますのでまた次も読んでください(笑)


いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。

もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。


それではまた次回をお待ちください。


【お知らせ】

ブックマーク100人に到達したので、かねてより書き進めていた新たな作品の連載を開始します。

タイトルは【物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~】

学園ファンタジーとしてこれから本作のとはずらした隔日で更新していますので、ぜひそちらもお読みいただけると嬉しいです。

下にリンクを張っておきますので、是非そちらもブックマークのほどよろしくお願いします。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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