第93話 未来と過去を司る悪魔の能力
第93話~未来と過去を司る悪魔の能力~
アスタロスにヒントを聞いた瞬間に、俺は自分がこのスキルを誤解し、まったく見当違いの使い方をしていることに気づいた。
未来視とは未来の確定。流動的な未来、多様性のある未来を確定しその光景を見ることができる。ただし未来の多様性ゆえに、確定できる未来はわずか先までしか見通すことは敵わない。
聞くだけでなんと強力なスキルなのかということが手に取るようにわかってしまう。
だが同様に過去視もまた非常に強力で有用なスキルだったのだ。
過去は未来と違いすでに確定されたものであり、通過してきた過去というポイントは動くことはない。ゆえに過去を視るという行為は未来視に比べて非常に容易く、今のスキルレベルであってもひと月ほどの時を遡ってみることが出来ていた。
だがアスタロスは言う。過去視の本質は過去への干渉であると。
干渉とはそれすなわち、過去の改竄に等しい行為だ。過去に起こったことを書き換え、現在にその事実を波及させる。SFの理屈から言えばタイムパラドックスを起こす行為のようなものだろう。
もし過去に干渉し、事実を捻じ曲げることが出来たなら。もし過去のポイントに干渉をすることで、自身に都合の良い結果を現在にもたらすことが出来たなら。
だから俺はすぐに行動に移した。
干渉する過去はほんの数分前。カナデとトールが戦闘を繰り広げる中で、雷を回避する俺に一番近い位置に来たポイント。
その過去を視た俺は、まず雷を回避していた俺の位置をトールに近づくところに移す。簡単に言っているが、これは決して容易なことではない。
なにせA地点にいた過去の自分をB地点に移動させるのだ。いくら過去視が過去に干渉できるとはいえ、その行為を行うためには莫大な魔力を消費する。
だからこそ俺は少しでもトールが俺に近づいている過去を指定したのだ。移動する距離が短ければ、それだけ消費する魔力も少なくて済む。
干渉を行うことでトールに手が届くところまで移動することは出来た。次にすることは攻撃だ。ちょうど干渉した過去の俺は、雷を防ぐために槍を奮ったところだった。
その振るった槍は、改竄された過去により雷ではなくトールの横っ腹に突き刺さる結果となったのだ。
そこまでが今の俺にできる過去への干渉の限界。過去視を解除して現在に戻った俺は、莫大な魔力と引き換えに得られた結果にほくそ笑んだ。
大きく揺らぐトールとその腹部から流れる少なくない血。そして追撃するように撃たれたカナデの火柱によって後ろ脚に火傷を残す結果となった。
『うまく使うがよいぞ』
その結果に満足したのか、アスタロスは一言そう残して俺とのリンクを切ったようだ。
「自分勝手に出てきやがって勝手にリンクを切るなってんだ。これじゃあ文句の一つも言えやしないじゃねぇかよ」
だがそれと引き換えに俺は新たな力を得ることが出来た。悪魔に魅入られ得ることが出来た力。いいね、神に反旗を翻す俺にはぴったりだ。
「反撃開始だ」
そう思った時だった。これまでカナデにしか興味を示していなかったトールが初めて俺を見たのだ。
だから俺はそこに明確な意志を込めた視線を送る。
“殺す”
相手は最初から明確な殺意を持って俺達に対して望んできているのだ。確かに俺達としては、神に繋がる情報を得たい気持ちはあるが、それでもこちらを殺しに来ている奴に対して下手に出る必要など何一つない。
情報は欲しい。だがそれよりも大事なことがある。殺意に対しては殺意でもって返す。その気持ちを込めた視線をトールに返した。
その視線にトールが警戒を強めたことはわかったがもう遅い。自分の魔力量が底をつく可能性があることはわかったが、それでも攻めるなら今だ。トールが警戒を示した今こそが、残りの魔力量など度外視に攻める好機なのだ。
だから俺はもう一度過去視を発動する。
今度はさっきよりも容易にトールに近づくことが出来た。未来視を同時に発動することにより、トールの雷を全て躱しという未来を確定させる。
後は残りの魔力を総動員し、渾身の槍による一撃をトールの背中に叩き込んだという過去に改竄をしたのだ。
『な、何がっ!?』
過去の改竄は現実に波及し、トールの背にはっきりと傷を負わせる。
警戒した先のダメージにトールは今度こそ動揺を隠しきれないようだが、そこを逃すようなカナデではない。
炎の蹴りの連打連打連打。
致命傷とは言えないまでも、決して浅くはない傷を受けたトールはカナデの蹴りに防戦に転ずることとなる。
戦いの終わりは近い。
トールは言わずもがなだが、実はカナデの残りの魔力も決して多くはないのだ。この戦いが始まってからほぼ全力で焼却魔法を展開し続け格上のトールと戦い続けているのだから、当然だがカナデの魔力もほとんどガス欠寸前なのだ。
それでもカナデがああして戦うことが出来ているのは、ただのやせ我慢とテンションの高揚によるもののせいだろう。もともと戦いになると相手を燃やすことに執着し、そこを楽しむところのあるカナデだ。先ほどから言葉の端々が危ないところから見ても、今のカナデは完全にトランス状態にあるのだろう。
だがそれも長くはもたない。後数分もすれば残りの魔力も切れ、戦闘の続行は不可能となる。
そしてそれは俺も同様だった。未来視の多用と過去視による過去への干渉。すでに俺の魔力はゼロに等しく、これ以上は戦闘の続行は不可能なほどに疲弊していたのだ。
だがそんなことはおくびにも出さない。ここがこの戦いの最大のポイントだということが分かっているから。
「予想通りだよ」
トールも同じことを思ったのだろう。この時を逃せば自分が負けると。だからこそこの後の展開などすべて度外視にし、自身の持つ最強の攻撃を繰り出そうとしている。
雨がやみ雷が収まる。辺りを包んでいた魔力が、全てトールに集中していく。
あの魔力が全て集約し、それが俺達に襲い掛かるとするならば、もはや俺達に勝ち目はない。だけど忘れるな。最大の勝機の隣には、いつも敗北がいるということを。
「自分を守っていた唯一の防御を取り払うなんて、よっぽどその技に自信があるんだろうな。ただしその技が出せればの話だが」
俺がこの戦いに苦慮していた理由はただ一つ。無数に襲い来る雷の対処が困難だったから。
だがその雷が今やトールに集中することで失くなっていた。とするならば俺が動けない理由はない。大人しくトールが必殺技を放つのを見ている理由はないのだ。
驚愕に目を向けるトールと目があった。トールの前にこの戦いで初めて立つ俺の手には、すでに金色の龍をまとった槍がある。
「龍牙槍」
必殺技は放つことが出来て初めて必殺技となる。放つことができないのであれば、それはもはやないも同じ。
必殺を出すことなく、逆にこちらの攻撃を正面から受けたトールは、まるでゴムボールのように吹き飛び、そして自身を縛っているのであろう鉄塔に激突し起き上がることはなかった。
封印状態とはいえこの強さ。サイモンと戦う前の俺達ではまず勝てなかったであろう相手。
「恭介さん、お疲れ様です!!」
魔力が尽きかけているのか、いつもよりも薄く見えるカナデがそう声をかけてきた。
「あぁ、お疲れ」
あれしきで伝説の魔物が死ぬとは思えないが、なんにしてもこの戦い、俺達の勝ちだ。
未来と過去というファンタジーの定番の能力。恭介さんはこのスキルを使ってこれから先も並み居る敵と戦っていく予定です。
トールさんとの戦闘はあと1話となりますので、是非お付き合いいただけると幸いです。
いつも誤字をしてきただき誠にありがとうございます。皆様の優しさで成り立っている物語ですのでこれからもよろしくお願いいたします。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。
【お知らせ】
ブックマーク100人に到達したので、かねてより書き進めていた新たな作品の連載を開始します。
タイトルは【物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~】
学園ファンタジーとしてこれから本作のとはずらした隔日で更新していますので、ぜひそちらもお読みいただけると嬉しいです。
下にリンクを張っておきますので、是非そちらもブックマークのほどよろしくお願いします。
尚、連載開始は2月2日20時ごろの予定です。




