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第60話 伝説の魔物の逆鱗

いつも誤字の指摘本当にありがとうございます。


タイトルを少し変更しました。よろしくお願いします。

第60話~伝説の魔物の逆鱗~


 姉妹を後ろにかばうようにして姿を現した自分たちの前には、兵士が10人と数人の獣人族。そして今まさに化け物へと姿を変えた獣人族が一人。


「貴様ら。一体どうやってここに入り込んだ!!」


 先ほど獣人族を緑の水へ突き落した張本人、おそらくリーダーだと思われる男が吠え掛かった。


「のう二人とも。あの獣人族はお主らの知り合いなのかの?」


「うん。おとうさんとおかあさんがいなくなったあと、たまにご飯とかくれたの」


「あめがふったらいえにもいれてくれた」


「そうかそうか。ならいい奴らなのじゃな」


「「うん!!」」


 怒鳴り声をあげる兵士を無視し、姉妹にそう声をかければ元気な返事が返ってくる。なるほど、姉妹の返事を聞くに、あの獣人族たちももとはスラムの住人達ということのようだ。


 強制的にここに連れてこられ、そしてどういう理由なのかは知らないが、化け物にされかかっているということか。


「無視をするな!!私の質問に答えんか!!」


 無視をして姉妹と話すこちらの態度に、兵士はさらに激怒をし怒鳴り散らす。


『どうする?』


「どうでもいいというのが本音じゃな。儂らの仕事はあくまでこの子たちの親探しじゃ。それ以外は管轄外じゃしの」


 キョウスケから頼まれたのは、エルフ姉妹の親探し。もちろんこの場所で起こっていることに少しばかり不快感は覚えたが、だからと言ってどこにも自分が手を出す必要はないのだ。


 はるか悠久の彼方から、人はこのようなくだらないことをするのが常だった。一応は伝説の魔物と呼ばれるものとして、その程度のことに目くじらを立てるほどに落ちぶれてはいない。


「のうお主ら。儂らはこの子たちの親を探しておるんじゃが知らんかの?」


『素直に答えれば見逃してやるぞ?』


 それは儂らからしてみれば破格の譲歩。少し手をひねれば皆殺しどころかこの労働所じたいを破壊することは造作もない。だが、それは今回の自分たちの仕事ではないから、質問に答えれば見逃そうというのだ。ふむ、儂も優しくなったもんじゃ。


「ふざけるのも大概にしろ!!もういい!お前たち、あいつらを殺せ!!」


 兵士の言葉に傍にいた獣人族たちから悲鳴が上がる。それと同時にリーダーの周りにいた他の兵士が一斉にこちらへ襲い掛かって来た。


 労働所の中は地下の大空間とはいえ、それでもいろんな機材などが置かれている状況なので狭く感じる。それゆえだろう。兵士は全員が槍などの長物ではなく剣を持ってこちらへ向かってきた。


「お主らは儂のそばにおれよ」


 ただの人にしては早い動きだ。だが多少早かったとしても、1が2になったところでさしたる変化などはない。


『劫火に焼かれて死に腐れ』


 それはスルトにとっても当然同じ。多角的に洗練された連携で襲い掛かって来た兵士だったが、次の瞬間にはスルトの燃え盛る赤い劫火によって燃え散らされた。


 カナデの炎は深青色だが、スルトの炎は赤い。まさに炎を連想させる赤。二人の炎は燃え散らすという結果こそ同じだが、その過程はまるで違う。


 カナデの青い炎は、完全燃焼により効率よく炎の温度を上げたどちらかと言えば洗練された炎だ。魔力をうまく使い、少ない量で爆発的な熱量を起こす技術的なものだ。


 対するスルトはその真逆。効率や技術などは度外視。ただ自分の内にある圧倒的な魔力によって炎を放つ。ゆえに炎は不完全燃焼となり赤い炎となるが、それでも炎がカナデと同じ、いや、多少スルトの方が高温となるのはそれだけスルトの魔力が豊富だからと言えるだろう。


『無駄な殺しをするつもりはないけど、向かってくるなら話は別だ。やってることも気に入らないし、燃やしてやろうか?』


 向かってきた兵士は全て燃えた。残るはリーダーとなる男のみ。だというのにリーダーの表情から余裕が消えることはない。普通これだけの実力差を見せられれば戦意など一瞬で喪失するものだが、この男の思考回路は一体どうなっているのか。


「なるほど。お前らが伯爵様が警戒しておられた連中だということはわかった。その強さからしてまず間違いはないのだろう」


 リーダーの様子が変化する。先ほどまでの舐めた態度を取られた人間が怒っているという雰囲気から一変。どこか知性的なしゃべり方へと変わっていく。


「お前らが何をしようとしているつもりなのかは知らん。知らんが伯爵様の邪魔をするというなら容赦はせん。来い!悪魔ども!!」


 リーダーの呼びかけに答えるかのように、緑の水が蠢く。それは先ほどの獣人族が落ちた時の比ではない。気泡と思われる泡が山ほど水面に溢れ、次の瞬間、水の中から十数体の悪魔が飛び出してきたのだ。


「隠れて見ていたのならわかるだろう!!これは人造悪魔!役に立たない人間や亜人種を、圧倒的な力を持つ悪魔に進化させるための秘術だ!!」


 醜態な顔を並べた人造悪魔が意思のない瞳でこちらを見つめる。男の言葉を信じるのであれば、もとはいずれかの種族の者であったのだろうが、もはや原形すらわからぬほどに変化した体からでは種族の特定すら困難だった。


「趣味が悪いとしか言いようがないの」


『まったくだ。即燃やす。元が何だったのかは知らないけど、それが本人たちにとっても一番だ』


 スルトが魔力を高め、問答などする暇もなく再び全てを燃やそうとしたその時だった。


「おかあさん?」


 自分のすぐ横、着物の裾を掴みその悪魔を見ていた姉のサリーが不意にそう呟く。


「リリー。あれ、おかあさんだよね?」


「わかんない。だけどおかあさんのかんじがする」


 異形の者となった目の前の存在を母と呼んだ姉妹。これはまさか。シナリオとしては最悪のものなのかもしれない。


「お主に聞く。その人造悪魔のベースにこの子たちの両親。エルフの夫婦を使ってはおるまいの?」


 なんとなく答えはわかっていた。この流れで最悪のシナリオが回避されることはない。それでも確認したのは、自身の中にこれまで感じたことのない感情が渦巻きつつあったからだ。


「答える義理はないが、これから死にゆく者の最後の問いだ。特別に教えてやろう。答えはイエスだ。活きのいいエルフだったよ。最後まで抵抗し、娘の名前を叫んでいた。そうか、お前たちがその娘か」


 言葉を最後まで聞く必要はなかった。


 突如背中がはじけ、しばらくの間出すことのなかった龍の翼が顕現する。


「もうしゃべらんでいいぞ」


 魔力が際限なく高まっていくのを感じる。黒色の激しい激情に渦巻く龍の魔力。


「お主は楽には殺さん」


「面白い。やってみるがいい」


 翼が黒く染まり、労働所の全てを黒く塗りつぶしていく。男の命令で悪魔たちがこちらへ襲い掛かって来たところで気づいた。


 どうやら自分は、これまでにないほどに怒っているらしい。あの男を、むごたらしく殺してやりたいと思うほどには。


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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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