第59話 悪魔の所業
第59話~悪魔の所業~
襲撃を行うに当たり、俺はメンバーを分けることにした。定例会議に直接乗り込む俺とカナデ。強制労働所に乗り込むエリザとスルト、加えてエルフの姉妹だ。
班分けの理由はいろいろあるが、まず俺が直接リッチモンド伯爵と決着をつけたいということがある。一緒に行くものにカナデを選んだのは単純に抑止のためだ。何かにつけてすぐに燃やそうとするカナデを自分の傍から離すのは危険。もし最悪燃やしてしまうなら、せめて自分の目で見える範囲にしてくれというのが理由だ。
もう一組、エリザとスルト側だが、これはいたって単純で、エルフの姉妹の両親を見つけて欲しかったからだ。
恐らくだが、姉妹の両親が連れていかれた先は強制労働所である可能性は非常に高い。だが俺達には生憎両親が誰だがはわからない。なので直接探してもらおうと思ったのだ。
子どもを送る環境としてよくないことはわかっているが、それでも今後の事、つまり姉妹の将来を考えれば俺達が連れていけない以上、両親を探すのが一番なのだ。
それに護衛として、エリザとスルトというこれ以上にない面々もいる。姉妹に対していろいろと世話を焼いているところから見ても、蔑ろにするということはまずない。何かあったとしてもきっと守ってくれるはずだ。
「準備はいいか?」
「もちろんです。敵は全て燃やしますよ!!」
非常に不穏な言葉を発するカナデと共に、俺達は定例会議が行われるリッチモンド伯爵の屋敷。その上空にいた。
いよいよ対決の時は近づいていた。
◇
地下の強制労働所は、例え日が変わったとしても変わることなくその役目を全うし続けている。つまりそこで働く者も休むことなく働いているということだ。
『おい、二人とも大丈夫か?暑くないか?』
「だいじょうぶだよ」
「わたしもだいじょうぶ」
後ろを歩くエルフの姉妹に殿を務めているスルトがそう声をかけた。
まさか自分とスルトが幾年の時を超えて一緒に行動する時が来るとは、あの時の自分は想像できただろうか。
神の命に背き、仲間たちが封印されていくのを眺めながらなるべく人の目に触れないような場所で過ごしてきた人生の大半。
つまらなく刺激のない日々だった。だが突然現れた人間がそんな自分の人生を一変させたのだ。
最初はワイバーンを人が倒したということで興味を引いたくらいだったのが、気が付けば仲間として一緒に旅をするまでになっている。
キング・ワイバーンを倒したから?それとも自分の血に適合したから?ここまで自分の興味を引いた理由はわからないが、それでもこうして過ごしている時間は悪くない。
だからこそあの人間、いや、キョウスケのすることには付き合おうと思っている。あやつがその道を違えない限りはどこまでも。
「おい!お前たちここでなにを……ぐぁっ!?」
『エリザ!よそ見してんなよ!!見つかったら騒ぎになるからってキョウスケが言ってただろ!!』
「すまんの。お主がカバーしてくれると思って少し気が抜けたたようじゃ」
『ば、馬鹿言ってなんよ!!ちゃんと警戒しろよな!!』
そんな自分の言葉にそっぽを向くスルト。昔のスルトであれば、こんな回りくどいことを嫌い、すぐさま全てを燃やし尽くしていたはずだ。
例え今のような土偶という、もとの自分の体じゃなかったとしても、このカムイの街を即座に滅ぼすなどわけはない。
それでもそれをせず、こうして必要以上の騒ぎを行わないようにしているあたり、本当にキョウスケに懐いているのがよくわかる。言葉は乱暴だが、その子どもじみた性格ゆえの照れ隠しなどということくらいわかっているが、これは言わぬが華だろう。
「おねえちゃん!すると!あそこにしってるひとたちがいるよ!!」
「む?どこじゃ?」
「あそこ!あのみずがいっぱいあるところ!!」
労働所の中を進み、姉妹の両親を探し歩いていたところで、姉のサリーがそう声を上げた。
気配遮断の魔法を使っているので注視されない限りは見つかることはないが、先ほどのように見つからないわけではない。慎重にサリーのいうところを物陰から覗き見る。
「お願いだ……。私はどうなっても構わない。だから他の者は助けてくれ……」
「黙れ!いいから早く進め!!」
「頼む……」
「うるさいぞ!!黙って従うんだ!!」
そこにいたのは数人の獣人族と鬼人族だった。獣人族の方はボロを着て、手足には枷がはめられているところ見ると、おそらくここで働いている者たちなのだろう。それと対照に鬼人族は立派な装備をつけていることからも間違いはないと思われる。
「お前たちには必ず天罰が下るぞ……!!」
「そうか。ならその時を楽しみにしておこう」
獣人族が先ほどサリーが水がいっぱいと表現した、大きな水槽のような前でそう叫ぶ。緑色のどう見てもいいものとは思えない水のたまった水槽。今からあの獣人族が辿る未来はこの状況から考えて想像に難くない。
「リッチモンド伯爵のために死ねるのだ。光栄に思うがいいぞ」
「お前たちは悪魔だ……」
鬼人族の兵士の中で、とりわけ立派な装備をまとった者が獣人族の前に躍り出た。そしてついにその時は訪れた。
「「あ」」
姉妹の声が重なる。
兵士により緑の水の中に突き落とされる獣人族。
『一体何が起こるんだ?』
「さぁの。だがいいことではないことは確かじゃろうな」
この状況下で、少なくともいいことが起こるはずはない。そしてその予想はやはり当たっていた。
獣人族が水に落ちて数分。静かだった水面から、突然手が伸びてくる。
「くくく。さぁ、出てこい!新たな命を得し者よ!!」
兵士の言葉に呼応するかのように水の中から一気に姿を現す何か。その何かは先ほど落ちた獣人族ではなかった。
「下衆めが」
よくないことが起こると考えた自分の予想はやはり間違ってはいなかった。
緑の水の中から現れたのは、元の姿からかけ離れた化け物。不気味に伸びる紫の尾に、同じく紫の刺々しい腕。原形すら留めない頭部は悪魔そのもの。
「いやっ!!」
その姿を見て、妹のリリーが大きな声を上げた。無理もない。いかに過酷な人生を生きているとはいえ、この年であの様子は見るに堪えないだろう。
「誰だ!!誰がそこにいる!!」
見つからずに逃げるのは難しい。だがそれならそれで構わない。
スルトに視線を送ると、どうやらスルトも自分と同じ思いだということに気づく。アイコンタクトまでとれるようになるとは、本当に昔から考えたら信じられないな。
そう思い、薄く笑みを浮かべながら隠れていた場所から鬼人族の前に姿を見せたのだった。
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