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第61話 龍の逆鱗は全てを滅ぼす

いつも誤字の指摘本当にありがとうございます。皆様の優しさに助けられています。

第61話~龍の逆鱗は全てを滅ぼす~


 視界の全てを埋め尽くすほどの黒色の魔力を見るのは、一体いつぶりの事だろう。


 確か最後に見たのは封印される前、いろんな種族と戦っていた頃だったのではないだろうか。


 私とエリザはその性格上、よくぶつかることが多く喧嘩も多かったが、私の全力の炎を受け止めることが出来るのはエリザだけだったことを覚えている。


 圧倒的な黒。全ての色の原点であり、塗りつぶすことの出来るその魔力は全てのものが畏怖を覚える。


 そんなエリザの魔力が今、一人の男に向けられている。


 あの男は多分魔族なのだろう。鬼人族とは魔力の流れが違うし、何より特徴的な魔力パターンが体に巡っているのがわかる。


「やれ!!悪魔ども!!伯爵様に歯向かう愚かな者を全て殺しつくすのだ!!」


 兵士のリーダーの男、いや、魔族の男の指示で人族悪魔たちが一斉にエリザにむかって牙を剥く。


 行動パターンは先の兵士と同じ、それどころか連携に関してはほぼないに等しく、攻撃パターンは一点集中という単純な物。


 それでもスピードは兵士達よりもはるかに早く、魔族の男があれだけ余裕を見せていたのもこの理由からなのだろう。


 鋭利な刃のついた腕を振るう者。同じく触れれば肉を引き裂くなど容易であろう尾を振り回す者。元の種族であった頃にはなかったはずの、口内から飛び出した巨大な牙を突き立てようとしてくるもの。全ての悪魔の攻撃が一斉にエリザに襲い掛かった。


「ふは、ふははははは!!口ほどにもない!!あまりにの早さに反応すらできなかったか!!」


 全ての悪魔がエリザに襲い掛かりその体を埋め尽くす。魔族の男には、エリザが為すすべなく悪魔に嬲り殺されたと思ったのだろう。狂ったように高笑いを挙げながらそう叫ぶ姿は、さながら滑稽以外のなにものでもなかった。


 エルフの姉妹はすでに自分の傍に避難させている。あんな状態のエリザの傍に置いておいてはどうなるか分かったものではないからだ。


「ゴミ風情が随分とわめくではないか」


 その後は一瞬だった。


 食い殺さんばかりにまとわりついていた人造悪魔は、エリザの羽による一撃で全て粉砕される。当然だが、腕も尾も爪も、どの攻撃もエリザに傷一つつけることなどできていない。


 よけようと思えば避けれた攻撃だが、ただそれすらも面倒だった。それだけの話なのだ。その光景を魔族の男は勘違いし、勝ちを確信した。


『怒ったエリザを止めることの出来る奴なんて、私は知らないからな』


 人造悪魔が全て殺されたことを認識する頃にはもう遅い。もう一度エリザが羽を振るった次の瞬間には、魔族の男の上半身と下半身は永遠に別れることになっていた。


「は?え……?」


「楽には殺さんというたじゃろ?」


 自分が何をされたのか理解できない魔族の男。半分となったその体を、エリザは片手で掴み空中にぶら下げた。


「そのままでは死んでしまうからの。切断面の止血をしてやったぞ。痛みもある程度に緩和しておいたから、ちゃんと意識もあるじゃろ?」


 片腕を掴まれ、上半身だけがぶらぶらと揺れている。ある種のホラーだが、この場所にそれを咎めるものは誰もいない。


「するとー。なにがあったの?」


『お前たちは知らなくていいんだよ。すぐ終わるからそこで大人しとけ』


「うんー」


 ここまで来てなんだが、流石にエルフ姉妹には見せるのもあれなので、遮蔽結界をはって二人には見せないようにした。教育上悪いのもあるし、何よりエリザのあんな姿を見せるのが躊躇われたのだ。


 二人はエリザのことをお姉ちゃんと慕っているし、エリザ自身もそれを良しとしている。その関係を崩すようなことをするのは本意じゃなかった。


『私もまるくなったな』


 そう、誰にも聞こえないようにつぶやいたのだった。


 一方のエリザと魔族だが、こちらはさらにむごい様相を呈していた。


「質問じゃ。なぜこんなことをしておる?目的はなんじゃ?」


「誰がお前なんぞに!!」


 まだ自分の立場が理解できていないのか、それとも精神がずば抜けて強いのか。どちらにせよ今のエリザにその問答は悪手としかいいようがない。


「ぃぎっ!?」


「もう一度聞く。お主の目的はなんじゃ?」


 警告もなくエリザは男の手首を飛ばす。したたり落ちる血はすぐとまるところを見ると、また回復魔法を傷口にかけたのだろう。


「だ、誰が……ぎゃっぁ?!」


 それでも口を閉ざす魔族の腕が、今度はひじから下が無くなった。


「もう一度聞く。お主の目的は?」


 多分答えるまで少しずつ切り刻んでいくつもりなのだろう。まったくもってひどい拷問だが、魔族の男に同情の余地はありはしないのだから構わない。


「俺は……あぎゃぁぁぁ!?」


「早く答えんか。どれだけ体の残りがなくなればいいんじゃお主は」


 ついには肩からその下全てが無くなった。下半身と片腕を失くしても尚死ねない苦痛。痛みはエリザにより緩和されているが、もはや魔族の精神力はそこが限界だったようだ。


「話す!話すからもうやめてくれ!!頼むから!!」


「ようやく素直になったかの。まったく、手間取らせおって」


 魔族の言葉に満足そうに頷くエリザ。少なくともいまのこの仮の器の状態でエリザを怒らせるのは止めておこう。そう思ったのだった。


 ◇


 結論から言おう。


 魔族の男の説明が終わった後、強制労働所は跡形もなく消え去ることとなった。それはもう綺麗に。塵すら残さずに。


「ふむ。すっきりしたの」


 もう一度言う。絶対にエリザを怒らせるのは止めておこう。



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