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第36話 方針の決定と領主来訪

第36話~方針の決定と領主来訪~


 スタンピードが無事に収束したという知らせは、ゴウロン山の麓を通り過ぎ、ルグナン村、果てはこの地方を収める領主の元まで瞬く間に駆け巡った。


 俺達が魔物達を全て屠るのにかかった時間は一時間もかからなかったのだが、その後に目覚めたグローインとアリスに事の成り行きを伝えていたせいで時間を食ってしまい、結局もう一泊をそこですることになったのだ。


 その間わずか一日。もともとスタンピードが発生した段階でルグナン村をはじめ、領主のもとに早馬が送られていたため厳戒態勢となった周辺は、情報をいち早く集めようとしていた。


 しかし俺達によってあっという間に収束してしまったため、兵士や冒険者などを総動員しようとしていた領主のもとに届いたのは、見習い冒険者によってスタンピードが鎮圧されたという一報のみ。


 わけのわからない領主であったが、周辺の村々が不安にかられている状況でその情報を隠すわけにもいかない。


 そういった理由からスタンピード発生という情報を出したわずか数時間後に、終息宣言をするという過去に例を見ない事態となったというわけである。


 俺達がその事実を聞いたのは、ルグナン村の冒険者ギルドに帰って来た二日後のことだった。一日を麓の村で過ごし、もう一日はグローイン達の速度に合わせ歩いたことによるもの。


 もともと急いでいたわけでもなく、あとはギルドへ報告へ行くだけとなっていたのでゆっくりとしていたのだが、どうやらそれが間違いだったようだ。


「みなさんお帰りなさい!!さぁさぁ、上の階で支部長が待ってますからお早く報告へ行ってください!!」


 ギルドの扉を開けた途端の歓声と、なぜかいきなりこのギルド支部の支部長に会うことになるというおかしな状況。この時の俺達は、まさかゴウロン山での一件がすでに伝わっているなど知らず、保炎石の採取依頼の報告に来ただけのつもりだったのだから仕方がない。


 促されるままにギルド内の螺旋階段を上がり、通されたこの村に似つかわしくない立派な部屋で、そういった経緯などを聞かされたというわけだ。


「本当によくやってくれた。あのままゴウロン山の魔物がこの村へ来ていれば、なすすべなく蹂躙されていたことだっただろう」


 部屋の中で俺達を出迎え、そして労うのはこのギルド支部の支部長、スネア・オッタルトというらしい。


 この支部長、どうにも俺の知るファンタジーもののギルド支部長とは印象が異なり、言葉の割に低姿勢で俺達を先ほどからずっと労い続けているのだ。


「ギルドに努めて20年になるが、仕事のミスでこの村へ飛ばされて、おまけにスタンピードが起こったという報告を聞いた時にはこれで私の人生も終わりとかと覚悟したが、君たちのおかげで救われた。本当にありがとう!!」


 何度目かわからないお礼と共に頭を下げる支部長。これはあれだ。ファンタジー物というよりは、どちらかといえば元の世界の窓際サラリーマンに近いのではないだろうか。


 この支部長の過去を詮索するつもりはないが、きっとやっちまったなぁ、と思うようなエピソードがあるのだろう。聞くつもりはまるでないけどな。


「それで、俺達は見習いから昇格はできるんですかね?」


 正直なところスタンピードの制圧など、俺達の戦力を考えれば余裕でしかないのだから感謝とかはどうでもよかった。


 それよりも気になるのは、今回の依頼がもとは見習いからの昇格を目指した適性試験のようだったものということだ。


 保炎石の採取という、本来の目的とはだいぶ逸れてしまったが、一応保炎石も持って帰ってきているので目的は達している。そう思って聞いたのだが、支部長の反応は俺の予想を大きく裏切ることになる。


「昇格?何を当たり前のことを!!君たちの功績を考えれば、一足飛びで赤ランクにしたいところだ!!だが残念かな、ギルドの規則が邪魔でな。私の権限では一階級飛ばしの“黄”ランクまでしかあげてやれんのだ」


「つまり俺達はどうなるんです?」


「本来の依頼である保炎石の確保、スタンピードの阻止をした功績、加えてそれを実行する強さ、全てが見習いでおさまる器でないことは十分実証された。さっきも言った通り、私の権限で君たちは今この瞬間から“黄”ランクの冒険者だ」


 そう満面の笑みで言う支部長の顔を見て、ようやく俺は少しだけ肩の荷が下りたような気がしたのだった。


 ◇


「これからどうするんです?」


 ギルドへの報告と、正式に冒険者となった手続きを終えた俺達はひとまず宿に戻ってきていた。


 手元には灰色から黄色に変わった冒険者プレート。これを持つことで俺達は今後、今までと違い自由に依頼を受けることが出来る。さらに国外での活動も可能となった。


「この村にいる意味はないな」


 俺達がこのルグナン村を拠点に活動をしていたのは、あくまで見習いとしての制約のせいだ。その制約が取り払われた以上、ここに留まる理由は何もない。


 むしろ保炎石という特産品によって成り立つこの村にいるよりも、他に移った方が依頼の種類も増え冒険者としてのメリットは大きいはず。元の世界に戻る方法もここにいるよりかは見つかる確率は高いだろう。


「それなら公国の都にでも行ってみてたらどうじゃ?いつの時代も都というのはあらゆる情報や物資が集まる場所じゃ。たとえ目的のものがなかったとしても、行って損をしたということにはならんじゃろう」


 アーネスト公国の都、つまり王都、この場合は公都とでも言えばいいのだろうか。確かに現状の俺達は旅の指針となる物がない。それならば、新天地を目指す方が見えてくるものもあるというものだ。


「ならそうしましょうよ!!私王都というか、人の多いところに行ってみたいです!森に山に村。嫌いじゃないですけどいささか飽きました!!」


「そうじゃな。儂もこの時代の都を見てみたいし提案した身としてもそれがいいと思うぞ」


 カナデの言葉にエリザが賛同を示す。二人の意見は何も悪いことはないし、むしろ俺もそうしたいと思っている。何度も言うが、ここにいるよりも目的のない俺達には大きなメリットがあるのだから。


 それでも俺が素直にうんと頷けないのは心に引っかかりがあるから。気にする必要など何もないはずの、小さな小さな違和感が心のどこかに潜んでいるから。


『お前は不服そうだな』


「スルトにはそう見えるか?」


『ああ。気になることがありますって顔に書いてあるように見えるぞ』


 テンションがあがると子供のような口ぶりになるが、落ち着いている時はそうでもない。そんなスルトに指摘され、自分の感情のコントロールの出来なさに嘆息した。


「王都にいくのは後回しだ」


 自業自得。あの魔族の末路にかんしてはそれ以外の言葉はない。死んでも当然だし残してしまった者が辿る未来も知ったことではない。


「次の目的はリッチモンド伯爵領だ。王都に向かうのはその後にする」


 それでも件の伯爵のやり方は気に入らない。もしかしたら何か崇高な目的があるのかもしれないが、他人を使い、しかも自分は関わらずに誰かに危害を成すそのやり方はどうにも癪に障るのだ。


「そういうと思ったがの」


 エリザが訳知り顔で俺を見る。


「えー、王都行かないんですかー?」


 カナデは不満そうだが、俺の意見に異を唱えたいというわけではないのは顔を見ればわかった。


『お前が何を考えているのかは知らないが、時に自分の本能に従うのがいい。そうすれば自ずと事は進むものだからな』


 スルトが何かを諭すようにそう告げる。土偶のくせにとも思ったが、この場に関しては無言をもって答えるに留めておいた。


 これで3人の賛同は得た。俺達の次なる目的地はリッチモンド伯爵領だ。


 方針の決定により、なんとなく俺の心の引っかかりが少しだけ軽くなった気がした時だった。


「この宿にサイトウという冒険者が泊っているはずだ!至急伝えたいことがあるから部屋を教えてくれ!!」


 宿の階下にある受付で響く俺達を探す声。この声は先ほどギルドで聞いた支部長の声のはずだ。


 その声はひとしきり受付でわめくと、すぐに俺達の部屋の前にやってきた。そのままノックをすることもなく部屋の扉をあけ放ち、興奮冷めやらぬと様子でこう告げたのだ。


「サイトウ!大変なことになった!明日、この村に領主様がやってくる!!今回のスタンピードの件でお前たちと話がしたいそうなんだ!!」


 領主の来訪。その言葉を聞いた俺は、どうやらまだ出発が出来ないということを悟ったのだった。


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