第37話 アーネスト公国公爵
第37話~アーネスト公国公爵~
アーネスト公国はもとはキュリオス帝国の属国であり、後に完全なる独立を果たしたことはインデックスにより知っていた。
公国の領土はそこまで大きくなく、地球で例えるなら関東地方くらいの小規模な国だ。
その国は東西南北、四つの地域に分けられ、その四つをそれぞれの領主が治める形となっている。
俺達が今いるルグナン村は、その地域分けで言えば南部地方にあたり、保炎石のゴウロン山を除けば農耕牧畜が盛んな穏やかな地域となっている場所のようだ。
さらに言えば、南部地域の南端は死骨山脈という天然の要塞があるために他国から攻められることもない。そういった理由から、アーネスト公国で最も平和な地域がこの南部地方なのだ。
「初めまして。アーネスト公国、公爵、クーサリオン・マリオットと言います。この度の皆様の活躍には感謝のしようもありません。南部地方を管轄するものとして感謝の意をここに示させていただきたい」
昨日と同じ、ギルドの支部長室でそう俺達に頭を下げるのは、アーネスト公国南部地方の領主だというのだから驚きだ。
長身の美男子。これがこの領主に対する表現としては一番ではないだろうか。年齢にしてどう高く見積もっても20~25歳の間程。ストレートの長い銀髪をなびかせ、透き通った髪の色と同じ銀色の瞳に柔らかい表情。それだけでこの領主にときめく女性がどれだけいるだろうか。
だがそれよりも目につく身体的特徴がこの領主にはある。
「おや、エルフ族を見るのは初めてですか?」
俺が領主の耳に注目していることに気づいたのだろう。彼はそんな不躾な俺の態度を気に留めることもなくそう聞いてきた。
そう、領主を名乗るこの男。顔の横についている耳が長く、しかも先端がとがっているのだ。まさにファンタジーに登場するエルフの姿そのもの。実際の年齢がどのくらいなのかは知らないが、俺の想像通りであればこれだけ若く見えても、きっととんでもない年齢に違いない。エルフとはそういうものなのだ。
「あぁ……、初めてだ」
いるとは思っていたが、このタイミングで登場するとは思っていなかったので少し面食らってしまい、そう正直に答えてしまった。これまでに幽霊やら龍、果ては伝説の魔物にまで会っているのに何をと自分でも思うが、こればかりは仕方がない。
そんな俺の態度に領主は微かに笑ってくれたのだが、どうやらそれが気に入らなかった奴がいたらしい。
「貴様!公爵様の前だぞ!!跪くのが通例のところを冒険者と思って見過ごしてやっていればなんだその口の利き方は!!」
公爵というだけあって、もちろんこの辺境の村へ来るのに一人ということはない。ギルドの外には100人に上る護衛の兵。そしてこの狭い部屋の中にはおそらく近衛兵だろう、精鋭と思われる5人の兵士が公爵の傍に控えていた。
そのうちの一人、見た限り5人の中で一番若い兵士が俺にそう吠え掛かって来た。
確かにこの領主は公爵という立場であり偉いのだろう。それはもちろんわかっている。わかっているが、だからと言って俺がそれに従う必要はまるでない。
俺はこの国の人間ではなくあくまで冒険者なのだ。冒険者とは全ての国において中立。もちろん雇われればその限りではないが、基本的にはどの国にも属さないというのがそのスタンスなのだ。
ゆえに俺が跪く必要などありはしない。まして今回俺達はスタンピードを阻み、その上で領主が会いたいというから会っている立場なのだ。ますます下手に出る理由などはないのだ。
「うるさい人ですね。そんなに燃えたいんですか?」
俺に向かって吠える若い兵士に、相も変わらず短気なカナデがそう告げる。
「貴様もか!!俺は公爵様直属の騎士団の一人だぞ!そんな口の利き方をしてただですむと……!!」
頭に血が上っているせいか、それとも若さゆえなのか。兵士はカナデに因縁でもつけるかのようにそう詰め寄ろうとした。絶対に勝てない喧嘩。燃やされるのが落ち。兵士がカナデに喧嘩を売るというのはそう言うことだ。
だからというわけでない。気づいたら体が動いていたと言った方が正しいだろう。
―ドゴンッ
カナデにさらに一歩詰め寄った兵士が突如吹き飛び、支部長室の扉を破壊し、さらにその奥の部屋をも貫通して吹き飛んだ。
一体何が起こったのか。唖然とする他の兵士と領主。支部長もまた目を丸くし、そしてカナデ達も驚いているように見えた。
「あんた達は喧嘩を売りに来たのか?ならこっちにもそれ相応の対応ってもんがあるがどうなんだ?」
憤る若い兵士を吹き飛ばしたのは他でもない俺の拳。きっちりと手加減したから死んではいないだろうが、それでも重傷は免れないだろう。
突然の出来事に硬直していた他の兵士が一瞬で警戒を強めそれぞれの武器を抜く。なるほど、確かに近衛兵なのだろう。動きに無駄がない。
しかしその態度は悪手だ。俺は今、はっきり言って非常に虫の居所が悪い。あの魔族の最後の頼み。そしてリッチモンド伯爵のことが頭から離れず、早いところこの村から出発をしたいところだったのだ。
それなのに領主が来るからという理由で一日を余分に過ごし、その上で喧嘩を売られたのだ。これで機嫌よく対応などできるはずもない。
両者に剣呑は気配が漂い、どちらが動いてもおかしくない状況。だがその空気は領主の一言により寸断される。
「やめないかお前たち!!一体誰に剣を向けているのかを考えろ!!この方たちはルグナン村をはじめ、この南部地方一帯を救ってくださった方々だぞ!」
「し、しかし!この者たちは攻撃を……」
「黙れと言っている!!私の言うことが聞けないというのか!!」
「「「「「申し訳ありません!!」」」」
領主の一喝によりすぐさま剣を仕舞い領主の後ろに整列する兵士達。よく訓練されているようだがそんなものは関係ない。そちらは矛を収めたかもしれないが、こちらの気は収まらないのだ。
「サイトウ様。私の部下が大変失礼なことをした。ここは私の顔に免じてどうにか収めていただけないだろうか」
領主が再び頭を下げるが、どうにも許してやる気持ちになれないのはなぜだろうか。
返答なく押し黙る俺に部屋の中にさらなる緊張が生まれてしまう。後ろでエリザがやれやれと言ったため息を吐いている気がするが聞こえない振りだ。俺自身、今の自分の態度が非常に子供じみているのはわかっているのだから。
「俺からも頼む。兄貴に免じて許してやってくれ」
そんな場の収拾が付かなくなり始めていた時だった。破壊された扉、そこにはつい先日まで一緒に行動をしていたグローインが立っていたのだった。
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