九話
実家へのご挨拶(&お母さんの夜食突撃事件)から半年。
「佐藤陸」と「結衣」としての絆、そして「カナタ」と「ルナ」としての絆を深めた二人に、これ以上ない最高で最大のステージが用意された。
『天霧カナタ × 星宮ルナ 3Dソロ&デュエット リアル武道館ライブ』
かつて登録者3人(うち1人はbot)だった二人が、Vtuberとして、そして一対のパートナーとして、ついに夢だった武道館のステージに立つ日が来たのだ。
◇
ライブ当日、日本武道館。
超超超満員の会場は、二人のイメージカラーである青とピンクのサイリウムで埋め尽くされていた。
巨大スクリーンの裏側、特設の最新鋭モーションキャプチャースタジオ。
全身にセンサーを装着した陸と結衣は、静かに拳を握り合っていた。
「……すごい歓声だな。ここまで聞こえてくる」
陸がヘッドセットの調整をしながら呟く。
「……うん。ねえ陸、覚えてる? 3年前、狭いワンルームで『いつか武道館行けたらいいね』って冗談で話してたの」
衣装姿の結衣が、少し緊張した面持ちで陸を見上げた。
「覚えてるさ。あの時は『行けるわけねえだろ』って笑ったけど……来ちゃったな、ここに」
陸は結衣の肩をギュッと抱きよせ、目を見て微笑んだ。
「大丈夫だ。何度も失敗して、本名バレて、炎上しかけて、それでもここまで一緒に走ってきたんだ。今日のステージは、俺たちの3年間の全部を叩きつけてやろう」
結衣の表情から緊張が消え、いつもの最高に可愛い笑顔が咲いた。
「うん! いこう、陸……じゃなくて、カナタ!」
『5・4・3・2・1——!!』
会場のカウントダウンがゼロになった瞬間、眩い光とともに武道館の超巨大スクリーンに3Dのカナタとルナが舞い降りた。
地鳴りのような大歓声。
ソロパートでの圧巻の歌唱、息の合ったダンス、軽快な軽口の叩き合い。
すべてが洗練され、そしてどこまでも二人らしかった。
そして、ライブはついにラストの楽曲——あの日二人で練習した『サイキック・ラブ・レボリューション』へ。
曲の終盤、二人はステージの中央で向き合う。
「〜〜〜〜♪ (カナタパート)」
「〜〜〜〜♪ (ルナパート)」
寸分の狂いもない、完璧なデュエット。
重なる声と声。お互いの軌跡を称え合うような最高のハモりが、武道館の天井を突き抜けて広がっていく。
観客の涙とサイリウムの波。誰もがこの歴史的瞬間に酔いしれていた。
そして、曲のラスト。
かつて転倒して「押し倒し事故」を起こした、あの決めポーズへ——!
(……よし! 今度は足元も完璧! 事故らない!!)
陸は完璧なポーズを決めるべく、踏み込んだ。
しかし——
「きゃっ!?」
なんと今回は、テンションが上がりすぎた結衣が自分から陸にダイブしてきた。
「うおっ!?」
ドサァッ!!
武道館の真っ真ん中で、3Dモデルの二人は華麗に(?)もつれ合い、見事な勢いで二人まとめて転倒。
スクリーンには、抱き合ったままステージ上にひっくり返るカナタとルナのアップがドカンと映し出された。
静寂。
そして——
『きゃああああああああああああああ!!』
『武道館でも倒れたwwwwww』
『期待を裏切らない二人が大好きだあああ!!』
『全人類が泣いて笑ったwwwww』
会場を包むのは、悲鳴のような大歓声と、割れんばかりの大爆笑。
「ちょっと結衣! なんで最後突っ込んできたんだよ!」
「だってぇ! 陸がカッコよく決めポーズ作るから、嬉しくなっちゃって……!」
画面上で真っ赤になりながらワタワタする二人。
観念した陸は、マイクを握り締め、武道館の全観客、そして配信で見守る数百万人のリスナーに向けて、魂の底からの叫びを響かせた。
「ヴォイイイイイイイイイ(武道館全開・最高の一日をありがとう爆音デスボ)!!」
『伝説の武道館デスボwwwww』
『9話連続デスボ達成wwww』
『二人の未来に幸あれーーーーー!!』
銀テープが舞い散る中、笑いと涙と爆音デスボに包まれて、二人の武道館ライブは最高のフィナーレを迎えた。
◇
ライブ終了後、楽屋裏。
機材を外し、私服に戻った陸と結衣は、会場の熱気がまだ残る廊下のベンチに並んで座っていた。
「……ハァ。結局、最後までコメディだったね」
ポカリスエットを飲みながら、結衣がくすくす笑う。
「まあな。でも、俺たちにはこれくらいが丁度いいんだろ」
陸もジュースの缶を傾けながら、心地よい疲労感に身をゆだねた。
静かな廊下に、二人の吐息が重なる。
「……ねえ、陸」
「ん?」
結衣がそっと、陸の手に自分の手を重ねてきた。
「これから先も、もっと大きいステージに行っても……私を転ばせてね。陸が拾ってくれるから、私はどこまででも高く飛べるんだよ」
陸は少し照れくさそうに鼻をかき、結衣の手をぎゅっと握り返した。
「……転ばねえように手ぇ繋いといてやるよ。ずっと」
「……うん!」
二人は微笑み合い、そっとお互いの額をあわせた。
配信事故から始まった、ドタバタで、恥ずかしくて、世界で一番愛おしい俺たちの物語。
これからもたくさんの事故を起こしながら、俺たちは二人で、最高の明日へ歩んでいく。




