十七話
第二子・蓮の誕生から、あっという間に1年が過ぎた。
6歳になった葵は春から小学生。そして、1歳を迎えた蓮は、かつての葵を彷彿とさせる……いや、それ以上の「爆音ポテンシャル」を発揮し始めていた。
佐藤家の防音室は今や、育児の戦場兼配信スタジオとなっていた。
「——というわけで! 本日は久々の【佐藤家・家族総出(?)のマイクラ建築配信】です!」
『待ってましたあああ!』
『蓮くん1歳おめでとう!』
『葵お姉ちゃん、ランドセル姿見せて!』
『今日の平和なカオスに期待』
画面上には、マイクラ風のワールドに並ぶカナタ(陸)とルナ(結衣)、そして葵のアカウント。
「みんなこんカナタ〜! 今日は葵の『小学校入学記念』として、巨大な佐藤家マイクラ城を建てるぞ!」
「こんルナ〜! 蓮くんは今、パパの抱っこ紐の中でスヤスヤ寝てるから、今のうちにサクサク建てるよにゃん!」
抱っこ紐で1歳の蓮を抱っこしながら、真剣な眼差しでコントローラーを握る陸。
「パパ! 葵、ピンクのお城にする〜!」
「おう! 好きに作れ! パパが土台を固めてやるからな!」
『陸パパ抱っこ紐操作手慣れすぎて草』
『完全にベテランパパの背中』
『葵ちゃん建築上手くなってる!』
配信は至って順調。葵が見事な発想で可愛いお城の屋根を作り、結衣がインテリアを整え、陸が資材を集めて運ぶ。完璧なチームワークだった。
しかし——平和な時間は長く続かない。
陸の胸元でスヤスヤと眠っていた蓮が、むにゃむにゃと目を覚ましたのだ。
「あ、蓮が起きたか?」
陸はコントローラーを片手持ちにして、優しく背中をトントンと叩く。
「蓮〜、パパここだぞ〜。お城作ってるんだぞ〜」
すると、目覚めた蓮は、画面内でピョンピョン跳ねるカナタのアバターと、陸のヘッドセットから漏れ出る声に反応。
くりくりの大きな目を輝かせ、小さな手を力いっぱい伸ばした。
そして——陸の装着しているマイクのスポンジ(風防)をガバッと掴み、そのまま口へパクリ!
「ぶふっ!?」
ノイズとともに、陸の「マイク被食音声」が全世界へダイレクトに流れる。
『!?!?!?!?』
『マイク食われたwwww』
『蓮くんの初・配信事故きたあぁぁ!』
『マイクは離乳食じゃないwww』
「は、蓮!? ダメダメ! それパパのマイク! 食べ物じゃないよ!」
陸が焦ってマイクを回収しようとすると、蓮は「あやー!」と声をあげ、さらに力強くマイクを引っ張った。
その衝撃で、陸のコントローラーのボタンが暴発。
ゲーム内のカナタが手に持っていた大量のTNT(爆薬)を、葵が丹精込めて作ったピンクのお城の敷地に誤設置&着火!
チュイイイイイン……(導火線の音)
「あ」と陸。
「あ」と結衣。
「あ……」と葵。
『あっ(察し)』
『終わったwwwwww』
『全米が泣いた』
ドカーン!!!!
画面いっぱいに広がる大爆発。
葵が時間をかけて作った城の半分が、一瞬で吹き飛んで木っ端微塵になった。
静寂。
画面内のカナタ、ルナ、葵のアバターが、煙の上がるクレーターの前で呆然と立ち尽くす。
「あ、葵……すまん……! 蓮がマイク引っ張って……っ!」
冷や汗びっしょりで平謝りする陸。
コメント欄が『あわわわわ』『葵ちゃん怒るぞ』と大パニックになる中——
葵はゆっくりと蓮の顔を覗き込んだ。
「……蓮くん」
「あぅ?」
「……蓮くんが爆発させたの?」
「だー!」(※元気な返事)
葵は一瞬だけ悔しそうな顔をしたが、嬉しそうにキャッキャと笑う弟の顔を見ると、深〜いため息をついてニッコリと笑った。
「……もう! しょうがないなぁ! 蓮くんはまだ赤ちゃんだからね! お姉ちゃんがもう一回、もっとすごいの作ってあげる!」
『うわあああ葵お姉ちゃん神対応!!』
『全私が泣いた』
『大人すぎるお姉ちゃん……っ!』
『最高の家族かよ』
「葵……っ! お前、なんて良いお姉ちゃんだ……!(全全全私が感涙)」
陸は葵の成長に感動し、目からボロ泣き。
抱っこ紐の中の蓮も、家族の大騒ぎが楽しいのか「キャッハ〜!」と大喜びで両手をパタパタさせている。
「ふふっ、じゃあ三人で最初から作り直そう! 今度は蓮くんの爆撃にも耐えられる最強の要塞城にしようね!」
結衣が明るく提案する。
失敗も、事故も、全部笑いに変えて、もっと素敵なものを作り直す。
まさに佐藤家の歴史そのもののような展開だった。
感極まった陸は、葵の神対応と、蓮のすこやかな(?)成長を祝して、17話連続となる魂の咆哮を解き放った!
「ヴォイイイイイイイイイ(娘の神対応感涙&マイクラ要塞再建爆音デスボ)!!」
すると、陸の胸元でマイクを握りしめていた蓮が、陸の顔を見上げて——
「……ぶぉー!!」
完璧なタイミングでの初・デスボレスポンス!
コメント欄:
『蓮くんも「ぶぉー」言ったあああwww』
『姉弟揃ってデスボ継承wwww』
『17話連続デスボ達成wwww』
『佐藤家の血統恐るべしwwww』
大爆爆笑と、温かい感動の中、マイクラ再建配信は最高の熱量で再スタートを切ったのだった。
◇
配信終了後。
深夜、無事に完成した「超頑丈なピンクの要塞城」をゲーム内に残し、子供たちはすやすやとベッドで眠りについていた。
防音室の片付けを終えた陸と結衣は、リビングのソファで温かいココアを飲んでいた。
「……ハァ。一時はどうなるかと思ったけど、葵が本当にお姉ちゃんになっててビックリしたわ」
陸がしみじみと呟く。
「ふふっ、そうだね。陸に似て、とっても優しくて強い子に育ってるよ」
結衣は陸の肩に頭を預けた。
「……蓮もマイク食べようとするし、あいつ俺の悪いとこばっかり真似しそうだな」
「ううん、悪いところじゃないよ。……陸の元気に周りを明るくするところ、子供たちにちゃんと伝わってるんだよ」
結衣は陸の手をぎゅっと握りしめた。
「これからも、家が爆発しても、配信が事故っても……みんなで笑って作り直していこうね、陸」
「……おう。何回でも、最高の家族作ってやるよ」
陸は結衣を抱き寄せ、穏やかな夜の静けさの中で微笑んだ。
配信事故から始まった物語は、新しい命と、新しい笑顔を乗せて、どこまでも賑やかに続いていく。




