十六話
葵の「ハイハインで物理ミュート事件」から数年。
月日は流れ、すっかりお姉ちゃんへと成長した葵は今年、幼稚園の年長さん(5歳)になっていた。
そして——佐藤家には、さらなる「奇跡」と「ドタバタ」が訪れていた。
「——というわけで、本日は【ご報告】配信です」
『きたああああ!』
『久々の夫婦枠!』
『もしや……!?』
『葵お姉ちゃん爆誕か!?』
画面上には、シックな衣装を纏ったカナタ(陸)とルナ(結衣)のアバター。
「みなさん、いつも温かい応援をありがとうございます。……本日、無事に第二子となる男の子が誕生いたしました!」
結衣が嬉しそうにアバターをぴょこぴょこ動かす。
「名前は『蓮』くんです! 母子ともに健康で、すくすく育ってますにゃん!」
コメント欄が祝福のログで埋め尽くされる。
『おめでとうううううう!!』
『蓮くん爆誕!!』
『葵ちゃんがお姉ちゃんに……(感涙)』
『陸パパ、今度は助産師さんに静かに怒られなかった?www』
「怒られてねえよ!」と陸。
「今回はちゃんと泣くの我慢したからな! ……まあ、生まれた蓮を抱っこした瞬間、嬉しすぎて『ぶぉい(吐息)』って洩れ出て助産師さんに二度見されたけどな!」
「結局怪しまれてるじゃん!!」
『病院で「ぶぉい」は草』
『期待を裏切らない男』
『第二子でも事故を欠かさないスタイル』
和やかな雰囲気で進む出産報告配信。
そこへ、防音室のドアが「ガチャッ」と開いた。
入ってきたのは、エプロン姿のおばあちゃん(陸の母親)に連れられた、お姉ちゃんの葵ちゃんだった。
「パパ! ママ! 蓮くんね、おむつ新しくしたよ!」
すっかりしっかり者になった葵が、カメラに向かって元気に報告する。
『葵お姉ちゃん可愛すぎる!!』
『すっかりお姉ちゃんの顔になってる!』
『成長に全私が泣いた』
「葵、ありがとうな! お姉ちゃん助かるよ」
陸が優しく葵の頭を撫でる。
「ふふん! 葵はお姉ちゃんだからね! 蓮くんのこと、絶対守ってあげるの!」
胸を張る葵。しかし、その手には「パパ特製の過去のライブDVD(限定版)」が握られていた。
「ねえパパ、蓮くんが大きくなったら、このDVD見せてあげるんだ〜!」
陸は一瞬で血の気が引いた。
「待て葵! そのDVDは……! 陸上部説が流出した伝説の謝罪配信と、風雲たけし城みたいな3D運動会が入ってるやつ……!」
「そうだよ! 葵、この『陸上部(仮)』のパパが一番かっこよくて大好きなの!」
「やめろぉぉぉ! 息子に最初に見せるパパの姿がそれであってたまるかぁぁぁ!!」
『葵ちゃんナイスチョイスwww』
『英才教育の鑑』
『息子へのファーストDVDが黒歴史www』
『陸上部説は受け継がれる』
パニックになってDVDを回収しようとする陸と、「ダメー! これ蓮くんに見せるのー!」と逃げ回る葵。
画面上では、カナタのアバターが悲鳴を上げながら葵のアバター(ミニうさぎ)を追いかけるという、数年前と変わらないドタバタ劇が繰り広げられた。
「もう! 陸ったら相変わらずなんだから!」
結衣は呆れつつも、お腹を抱えて大爆笑している。
大騒ぎするパパとお姉ちゃんの声を遠くに聞きながら、リビングのベビーベッドからは「ふぁ〜あ……」と小さなあくびの音が聞こえてきた。
「よし……! 蓮、これからお前には過酷な『佐藤家のドタバタ』が待ってるが……パパとママ、そして最高のお姉ちゃんがついてるからな!!」
感極まった陸は、第二子の誕生、そして新たな家族のスタートを祝して、16話連続となる魂の咆哮を叩きつけた!
「ヴォイイイイイイイイイ(祝・第二子誕生&パパの黒歴史死守爆音デスボ)!!」
それに合わせて、葵も元気いっぱいに「ぶぉーいっ♪」と追唱!
『親子二代デスボきたあああwww』
『16話連続デスボ達成wwww』
『蓮くん、健やかに育ってくれ!!www』
『佐藤家、永遠に幸あれ!!』
大爆笑と、温かい涙と、無限の祝福に包まれて、第二子の誕生報告配信は幕を閉じたのだった。
◇
配信終了後。
リビングのベビーベッドの周りに、陸、結衣、そして葵の三人が集まっていた。
すやすやと眠る生まれたばかりの蓮。その小さな手を、葵がそっと優しく握りしめる。
「……ねえパパ、ママ」
「ん?」
「蓮くん、大きくなったら、一緒に配信できる?」
葵の純粋な質問に、陸と結衣は顔を見合わせ、それから柔らかく微笑み合った。
「……どうだろうな。蓮がやりたいって言ったら、家族みんなで『カオスな配信』やってやるか」
「ふふっ、いいね。タイトルは『佐藤家の日常』かな?」
「いや、『配信事故から始まった家族』だろ」
陸は結衣の肩を抱き寄せ、葵の頭を優しく撫でた。
配信事故から始まった、ドタバタで、恥ずかしくて、世界で一番愛おしい俺たちの物語。
家族が増えて、賑やかさは倍になって、幸せはどこまでも広がっていく。
画面の中でも、画面の外でも。
佐藤家のハチャメチャで愛に満ちた日常は、これからもずっと、ずっと続いていく。




