↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/39

第31話 「銀の剣聖」

 オレはこっそり詠唱し、「動体視力強化《バグズアイ》」を自らに使った。そうしなければ、ラナの太刀筋をはっきりと視《み》ることなどできない。


 先に仕掛けたのは「竜剣士様」の方だ。剣を両手で持ち、真一文字に振り抜く。


 しかしラナは、その一撃を身を屈めて回避。お返しとばかりに、長剣を下から大きく振り上げる。


 その一閃は空を斬り裂く。素早くバク転した「竜剣士様」が、今度は真っ直ぐに切っ先を突き出す。


 それを刀身で滑らせるように逸らしたラナは、そのまま鍔迫り合いの形になった。


 しめた。単純な力比べになれば、ラナに敵《かな》う者などまずいない。


「っ…!」

「なっ…マジかよ…?」


 しかし、オレは驚愕する他なかった。

 2人の力は拮抗している。つまり、「竜剣士様」の力はラナと大差ないということ。


 エーゼル以外にも、あいつに匹敵する怪力を持つ者がいたなど、にわかには信じ難い。


 それでも、目の前の光景は現実だった。


「はぁっ!」


 ラナが気合いと共に、「竜剣士様」の長剣を跳ね除ける。


 間合いを離して態勢を整えようとした相手を、彼女は見逃したりなどしない。


 一足で相手に近付き、左手で素早く剣の連撃を浴びせる。右、そして左に振り抜き、身体の後ろから半円を描くように、前方に向けて真っ直ぐ縦斬り。さらにそこから斜め上に切り上げる。


 その流れるような連続攻撃は、オレには目で追うのが精一杯。魔術を使ってようやく見切れるといったところだ。やはり、ラナの剣の実力は、オレなどより遥かに上である。


 そして、それは「竜剣士様」も同様。


 連続で迫る剣を全て防ぎ切り、最後に放たれた突きに至っては、跳躍して真上に回避した。


「う…ウソだろ…?」


 気が付けば、「竜剣士様」の身体は周囲を取り囲む木々と、変わらないほど高くまで跳んでいた。

 先程、グリフォンの頭上にまで跳んだ跳躍力。下手な家の屋根よりも高い、信じられないほどの脚力だと思えた。


 何らかの魔装具を使っているわけではない。魔力の気配は、その手にした「聖剣のようなもの」からしか感じない。

 それ自体も、そう大した魔力ではなさそうだった。見た目こそ「聖剣」に似せているが、おそらく少々斬れ味を高めた程度の代物だろう。


 では、あの異様な身体能力は一体…?


「まさか…」


 その心当たりがひとつだけ考えられた。


「てやぁっ!」


 大振りの一撃。「竜剣士様」は、はるか上空から体重を乗せ、その剣を振り下ろす。


「くっ…!」


 ラナはそれを咄嗟に身を翻して躱《かわ》した。大した速度の攻撃ではなかったが、あの怪力による一撃を受け止めれば、何の変哲もないラナの剣では折られる危険性がある。それを直感的に察知したのだろう。


 ズンッ!


 地面に叩きつけられたその一撃により、大きな穴が地面に穿《うが》たれる。空気さえ震えるほどの、やはり常軌を逸した威力だった。


「あいつ…「大魔の種」を使ってるんじゃ…?」

「その可能性は高いわね」


 オレの口から漏れた推測に、エーゼルが険しい顔をして同意する。ウィンディさんも同じ見解らしく、いつもの笑顔すら消していた。


「ら、ラナさん、大丈夫でしょうか…?」


 レミィの心配する気持ちはよく分かる。特に武芸の心得がなさそうなあの密輸人でさえ、「大魔の種」を使っただけで城壁を飛び越えるほどの能力を得たのだ。剣士として修練を積んでいるであろう「竜剣士様」であれば、どれほどの身体能力になっているか。


 それでも、オレは幼馴染を信じている。


 なぜなら、あいつは「本物の竜剣士」から剣を教わったから。

 そして、あいつの父親はその竜剣士の師匠に当たる人物だから。


 この旅に出てから、あいつが剣で負けたところなど、オレは見たことがないし、想像すらできない。


「あぁ、大丈夫さ」


 だからオレは、レミィに笑顔でそう答える。


 果たして、相手の驚異的な身体能力を前にして、ラナは全く気圧されることはなかった。


「はぁぁぁ…」


 ラナがその呼吸を整え、次いで大きく息を吐き出す。

 呼吸法によって、身体能力を引き上げる戦士の術。父さんも使っていたという、魔術に頼らずに己を強化する手段だ。


「ふっ!」


 彼女の速度が、一段階上がる。

 足捌きの速さ、そして剣を振るう速さが、動体視力を強化したオレの目でも追い切れないほどに。


「……!?」


 さすがの「竜剣士様」も驚いたか、仮面に隠れた表情を察せられるほどに、怯んだ様子を見せた。


 まさしく神速。

 先刻以上の速さで、さらに手数を増やした連撃が繰り出される。


 横薙ぎ、横薙ぎ、縦斬り、突き、さらに突き、縦斬り、横薙ぎ、そして回転斬り──。


 息もつかせぬ攻撃を、「竜剣士様」はギリギリのところで防ぎきった。

 しかし、その神業的な速度の攻撃には、「無双」と称されるラナの怪力が乗っている。一撃ごとの重さは、計り知れないものだろう。

 足元はぐらつき、体勢は大きく崩された。


「そこっ…!」

「くぅ…!」


 崩れた体勢ながら、なんとか「竜剣士様」は剣を立てて防御の構えをとる。

 しかし、それこそがラナの狙いだったのだろう。


 キィンッ!


 子気味のいい音が、山中の森に響き渡った。


 ラナは剣を振り切った体勢をしている。「動体視力強化《バグズアイ》」をかけたオレの目ですら見切れなかった、神速の一撃。


 それにより、「聖剣のようなもの」の刀身は、根元の辺りで完全に断ち折られていた。


「マジかよ…魔力のこもった剣を…折った…?」


 真に集中したラナの剣は、おそらくオレの「魔力光剣《フォースブレード》」以上の斬れ味を発揮するということ。


 魔術にも、特別な武具にも頼らない、純粋な剣技。それをここまで昇華させている彼女は、間違いなく「剣聖」と呼ぶに値する実力者だろう。


「これで…!」


 しかし、ラナはそこで止まらなかった。

 得物を折られ、戦意を喪失したように見える「竜剣士様」に向けて、さらにもう一撃を加えようと剣を翻《ひるがえ》す。


「終わり…!」


 キン!


 鋭い音。

 下段から素早く振り上げられた一撃。


「あ…っ!」


 次の瞬間、「竜剣士様」の付けていた仮面が、真っ二つになる。

 顔には一切傷が付いた様子はない。本当に惚れ惚れするほどの太刀筋だと思えた。


 が、そう思ったのも一瞬だけ。


「なっ…!?」


 割れた仮面が地に落ちる。


 現れた「竜剣士様」の素顔に、オレたち5人は全員が驚きの表情を浮かべた。


 切れ長の目から伸びる長い睫毛《まつげ》。


 やや中性的ではあったが、「竜剣士様」の顔はどう見ても、女性のそれであった──。


 ──第32話に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。