第2話 「銀髪の幼馴染」
「その子…何?」
開口一番、そんな言葉がオレに突きつけられた。同時に、口調と同じくらい冷たい視線を感じる。
わずか10分もしないうちに、酒場に聞き込みに行ったオレが、見知らぬ女の子を伴って戻ってきたのだから、それも当然だ。
「これは、その…なんと言えばいいのやら…」
「ジュピター様、この方はどなたですか?」
説明に困っているオレの腕を抱く金髪の少女──レミィは、目の前で怪訝な表情を浮かべる女性を、キョトンとした様子で見つめている。
腰ほどまである長い銀の髪。透き通るように青い目。腰に帯びた長剣と、胸元だけを覆う軽装鎧。客観的に見て、「美しい女剣士」という表現がよく似合うと思う。
「あー…とりあえずどこかで飯にしないか? そこで説明する…」
いったいどちらに対して放った言葉だったのだろうか。
とにかく、面倒なことになったと思いながら、オレは手近な食堂を探した──。
◇ ◇ ◇
名前はラナ。オレより4つほど年上の、同郷の幼馴染だ。
昔から、オレにとっては姉のような存在だが、とにかく怒らせると恐い。
スラリとした長身で、その背丈はオレより少し高い。細身で、一見すると剣を振るような女性には見えないが、その細腕には想像もできないくらいの筋肉が詰まっている。
正直に言って、一度も喧嘩で勝ったことはない。
「剣士様なんですね、素敵です!」
「あ、ありがと…」
オレの紹介を受けて、レミィは屈託のない笑みを浮かべた。あまりに邪気のない表情だったせいか、さすがのラナも素直に受け取るしかなかったらしく、困惑していた。
食堂の客は少ない。それは時間帯のせいか、それとも味がイマイチだからか。
たぶん後者だった。
「それで、何があったの?」
一息ついてから、ラナが口を開く。彼女の前には空になった大皿が並んでいる。その細い体のどこに入ってるのか分からないくらい、彼女は大食らいだ。
あまり味は良くなかったと思うが、質より量ということだろうか。
「えぇとだな…」
オレは先ほどの出来事を簡潔に説明した。なんの下心もない人助けだったはずが、まさかこんなことになるとは。
話を終える頃には、ラナは呆れた表情で頭を抱えていた。
「運命の人、って…」
ため息をつき、コップに残っていた水を一気に煽る。そして銀髪の女剣士は、金髪の少女の目を正面から見据えた。
「レミィ…だったわね?」
「はい!」
元気の良い返事。
オレは隣に座るレミィ、そして正面に座るラナを交互に見ながら、話に耳を傾けるしかなかった。
「私たちは冒険者をしながら、ある人を探す旅をしている最中なの」
「そうなんですね」
レミィはふむふむと頷きながら聞いている。対してラナは、至極真面目な表情のまま、淡々と続けた。
「この王都での聞き込みが終わったら、次の街へ行くつもりだし、おそらくは他の国にも足を運ぶことになると思う」
「大変な旅になりそうですね」
さらに深く頷くレミィ。
彼女の言葉に対して、ラナはハッキリとした口調で告げる。
「そう、大変な旅になる。だから、あなたの戯言に付き合っている暇はない」
キツい言い方ではあるが、こういうことをキッパリと言ってくれるところが、彼女の頼もしいところだ。オレもそんな風に言いたかったが、レミィの綺麗すぎる目を見ると、どうにも口が動かなくなった。
「…大丈夫です」
ところが、レミィは思ったより肝が据わっていたらしい。笑顔は変わらず、しかしその瞳には、力強い意志の光が見えた。
「その旅、私もご一緒させてください」
「はぁ!?」
ラナより先にオレの方が声を上げてしまった。一体何を言い出すのだ、この娘は。
ラナの方も、少し目を見開いて驚いている様子だった。
「…本気で言ってるの?」
「もちろんです」
氷のような視線を向ける銀髪の女剣士に対し、レミィは淀みのない言葉を返す。そう言えば、さっきゴロツキ2人を相手にしても、怯える様子は全くなかった。
「私はジュピター様に付いていくと、心に決めました」
そう言って、レミィは首飾りを見せてきた。「聖印」と呼ばれる、修業を終えて一人立ちした神官の証。慈愛の神の紋様が描かれたそれは、彼女の実力を示すものでもあった。
「私も冒険者として、その旅に同行させてください」
神官たちが用いる神聖魔術は、怪我の治療や解毒などに長け、特に冒険者パーティにとっては必須とも言えるほどのスキルだ。
オレもある程度の回復魔術が使えるとはいえ、その効果は神聖魔術には遠く及ばない。
長い旅になるかもしれないと思えば、確かに神官の加入はありがたい話ではあった。
「なぁ、ラナ…そういうことなら、悪い話じゃないんじゃないか?」
先ほどは声を荒げてしまったが、彼女がしっかりと実力が保証された神官であると分かれば話は別である。
「運命の人」などと言って付き纏われるのは少し面倒ではあるが、実益の面で考えれば願ったり叶ったりと思えた。
「…分かった」
ため息混じりにそう言って、ラナは1枚の紙切れを懐から出した。
それは、冒険者への依頼書だった。
「この依頼書の仕事に、あなたも同行してもらう。そこで足手まといにならなければ、一緒に来るのを認めてあげてもいい」
オレが酒場で聞き込みをしている間に、依頼書を1つ確保していたらしい。本当、この姉貴分には頭が上がらない。
「わかりました…!」
両手を握りしめ、レミィは真剣な面持ちで承諾した。
ふと、すぐに表情を緩め、首を傾げてみせた。
「そういえば、探してらっしゃるというのは、どういう方なんですか?」
その言葉を聞いて、ラナがオレに目配せをしてきた。口で説明するより、実際に見せた方が話は早い。
オレは立体映像の魔術を発動し、手の上に1人の男の姿を映し出した。
「探しているのは、この男だ」
長い黒髪に、真っ赤なマント。鍔の部分に竜が造形された剣を帯びている、40歳手前くらいの剣士風の男。
「見たことはあるか?」
「うーん…申し訳ありませんが、存じ上げないですね…」
レミィはしばらくその映像を見ていたが、ため息をついて本当に申し訳なさそうに肩を落とした。まぁ、正直期待はしていなかったが。
「でもこの方…ジュピター様によく似てらっしゃいますね」
再び映像をじっと見つめるレミィ。
「似てるのは当然だ」
映像を消して、オレは表情を固くして続ける。
「この男はオレの父親…竜剣士のマークという男だ」
──第3話に続く




