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第12話 「vsランフォード」

 ランフォードは片手で無造作に剣を持ち、まともに構えようともしない。実に舐められたものだと思いつつ、おそらく剣ではヤツに歯が立たないことも分かっていた。


 だが、オレの本分はあくまで魔術師。相手はそれを知らない。そこに隙はある。

 頭の中で素早く、術式を構築。


「発破《ブラスト》!」


 唐突に屈み、左手を地面につけながら魔術を発動。

 小規模な爆発が起こり、土煙が視界を隠す。


「あら、言語魔術?」


 視界の端でエーゼルが少し驚いた様子なのが見えた。肝心のランフォードは見えないが、向こうも見えないのは同じ。なるべく意表を突いた位置からの攻撃で先手を打つ。


「そこだっ!」


 いくら父さんを殺そうと思ってる相手とはいえ、さすがに殺すつもりはない。それでいて、確実に相手の力を削ぐ位置。


 ガキィンッ!


「ちぃっ!」


 地面を這うように脚を狙って振った剣は、しかしあっさりと見切られていた。

 この土煙の中、相手の動きを読む...これが一流の剣士というやつかと、オレは戦慄した。


 ランフォードの袈裟斬りが迫る。咄嗟に後退し、ギリギリのところで躱す。ジャケットの裾が僅かに裂けた。

 お気に入りのジャケットに傷がついてしまった…などと考える余裕はない。


「へぇ…思ったよりやるじゃない」


 ランフォードは無言。代わりにエーゼルがいちいち実況を入れてくる。実に煩わしい。


「魔力矢《エネルギーボルト》...散乱《スカッター》!」


 間合いを離したところで、オレの次なる魔術が発動。手のひらから放たれた青白い光が、相手の目前で4つに分裂。四方から襲いかかる。

 躱すことは難しいはずだ。


「っ…」


 果たして、光弾は全て命中。ランフォードは腕を交差させ、防御の姿勢をとったが、ひとつでも並の戦士を昏倒させるほどの威力だ。それを4つも受けたとなれば…。


「って、ウソだろ!?」


 何事もなかったように、ランフォードは間合いを詰める。

 速い。もしかしたら、ラナより速いかもしれない。


 横薙ぎ。小剣でギリギリ防ぐ。

 突き。身を捻りギリギリ躱す。

 縦振り。再び小剣で防...ごうとして弾かれた。地面に落とされる白刃。

 ダメ押しの、一回転しての横薙ぎ。こちらは丸腰。防ぐ手段などない。


 普通の剣士ならば。


「魔力盾《エネルギーシールド》!」


 両手を突き出し、そこから青白い円形の膜を展開。間一髪のところで、ランフォードの刃を食い止めた。


「ぐぁっ…!」


 が、そもそもの膂力が違う。

 受け止めた光の盾諸共、オレは押し負けて跳ね飛ばされた。


「はぁ…はぁ…」


 間合いが離れ、インターバルを挟む。しかし、立て続けに魔術を3つ行使したオレは、疲労が溜まってきていた。対する相手は涼しい顔をするばかり。

 魔術を真っ向から食らったはずなのに、ダメージがまるで感じられない。信じられない頑強さだ。


「さぁ、まだ続けるのかしら?」


 エーゼルが煽るような口調で言ってくる。実に腹立たしいが、こちらが劣勢なのは明らか。剣まで落とされている。このまま続けても、オレの勝ちは薄い。


「…あぁ、やるさ…」

「ジュピター様、無茶です…!」


 まだ諦めるわけにはいかない。レミィの心配する声がするが、そちらに目を向ける余裕はなかった。


「やるが…少しだけ時間をくれないか?」

「時間?」


 敢えて不敵な笑みを浮かべて、オレは人差し指を立てた。


「1分だ…1分だけ時間をくれれば、あんたを倒してみせるぜ」


 あくまで余裕があるように装う。少しでも必死な様子を見せないよう、煽るように挑発する。


 ランフォードは感情を表に出さない。ならば、挑発に対して激情し、問答無用の攻撃をしてくることはないだろう。むしろ、こちらの手札を見たがるのではないかと、オレは予測していた。


「何よ1分って…魔術師相手に、そんな悠長に時間を取らせるわけ…」

「…いいだろう」


 エーゼルの言葉を遮り、ランフォードは剣を下ろす。


「ちょ、ランフォード…!」

「…お前の本気とやらを、見せてみろ」


 とりあえずの賭けは勝った。

 あとは、本当にこの策で勝てるのかどうか。

 やってみるしかない。


「レミィ、もしオレに何かあっても、構わずに逃げるんだぞ」

「そんな、ジュピター様!」

「父さんの件に、この子は無関係だからな!」


 レミィにそう声をかけ、後半は相手に向かって言った。何かあっても、レミィにまで危害が及ばないようにしなければ。


「…わかった」

「え…本当に1分待つの…? もう、まったく…」


 エーゼルもさすがにイラついているが、こと戦いに関してはランフォードに決定権があるらしい。それは幸いだと思えた。


「ありがとよ…」


 そう言って、オレは深呼吸。

 精神を集中し、頭の中に再び術式を組み上げながら、呪文の詠唱を始める。


 空中に、青白い光の魔方陣が浮かび上がる。その中央には、「剛力化《ハイ・ストレングス》」の呪文が描かれていた。


 だが、使うのはそれだけではない。


 ラナにも遠く及ばないオレが単に筋力を上げるだけでは、おそらくランフォードのそれには届かない。他にも足らないものがある。


 2つ目の魔方陣が浮かぶ。その中央に描かれているのは、「韋駄天化《ハイ・モビリティ》」の呪文。


 身体の動き全てを高速化し、速さを乗せることで筋力不足を補う。


「呪文の二重発動…やるじゃない坊や」


 エーゼルが感心しているが、驚くのはまだ早い。

 オレはさらに詠唱を続ける。


「な…まさか…」


 3つ目の魔方陣が出現したのを見て、妖艶な美女の顔についに、戦慄の色が浮かぶ。


 筋力と速さ。それでもまだ足りない。

 速くなったことに、自分の目がついていけなくては意味がないのだ。

 オレはさらにもう1つ、「動体視力強化《バグズアイ》」の魔術を発動した。


「くっ…」


 肩に重くのしかかる疲労感。

 オレは剣の才能こそ、父さんはおろかラナにも及ばなかった。しかし代わりに、魔術の才能にはそれなりの自信があった。


 魔術の三重発動。並の魔術師には到底不可能な、オレのとっておきだ。


 3つの魔方陣が重なり、その光がオレの身体の中に吸い込まれていく。

 魔術は無事に完成した。


「待たせたな…」


 青白い魔力の光を全身から放つオレの目は、きっと相手からは血走って見えていただろう。

 それだけ、気を張っておかなければ、この状態を維持するのは難しい。


「時間が惜しい…とっととやるぞ」

「…あぁ、来い」


 律儀に待っていてくれたランフォードに、素直に感謝したいところだ。こんな時間のかかる魔術、普通の戦いで使えるわけがないのだから。


「第2ラウンド…開始だっ!」


 言葉と共に、一足でオレの体は飛(・)ん(・)だ(・)。

 気がついた時には、相手の顔が目前に迫っていた。考える間もなく、オレは右手を前に突き出すしかできない。


 バキィッ!


 次の瞬間、オレの右拳がランフォードの顔面を捉えていた──。


 ──第13話に続く

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