EP 6
ガチキャンパー農業女子(元魔将軍)のDIY参戦! サウナと酒で魔王と意気投合!?
「……は?」
「……え?」
カイトの農場の縁側。
そこでは、信じられない偶然による、最悪の鉢合わせが起きていた。
一人は、カイトの『特製・始祖竜の抜け殻パウダー入り陽薬草パック』によって、お肌ツヤツヤのすっぴん状態になり、麦茶を両手で持ってくつろいでいるアバロン魔皇国の魔王、ラスティア。
もう一人は、首にタオルを巻き、タローマン(一般向けからガテン系職人向けまで幅広い品揃えを誇る異世界の超巨大ホームセンター)製の丈夫なオーバーオールを着込み、巨大なノコギリを肩に担いだ女。
彼女はつい先日、「あぁ世俗が鬱陶しいですわ」という書き置き(退職届)を城のデスクに残して失踪した元氷魔将軍、スアイだった。
静寂が、縁側を包み込む。
スアイは永遠の17歳を自称するラスティアの無防備すぎるすっぴんを見て、そして何より、人間の男の家で完全に警戒心を解いている姿を見て、全てを察した顔になった。
「お、お疲れ様です……魔王様」
「ス、スアイ!? あなた、退職届も直接出さずにどこへ行って……しかもその格好はなによ!」
ラスティアが慌てて両手で顔を隠そうとするが、もう遅い。
間に挟まれた俺は、首を傾げた。
「お知り合いですか? というか、退職って……お姉さんたち、同じ会社の社長と元社員?」
「え、ええ! まあ、そういうことよ! 私が社長で、こっちが元重役の……ね?」
ラスティアがしどろもどろに答える。
すると、スアイが深々とため息をつき、ノコギリを地面に置いた。
「社長、聞いてください。私は寒冷地仕様の氷の能力者なのに、なぜ露出度の高いビキニアーマーを着せられていたのですか。意味のないエロスと色気は違います。完全なセクハラです。それに比べ、このタローマン製の作業着の機能性の高さ! ポケットの多さ! 最高です」
「い、いや、あれは魔王軍の制服規定で……見栄えがいいから……」
スアイは熱く語り始めた。
「私は今、ポポロ村の近くで農業とDIYキャンプを楽しんでいます。自分で開拓し、自然と触れ合う『開拓DASH村』のような生活。これこそが私の求めていたスローライフ! ……そして、ここを通りかかって気付きました」
スアイの目が、キラリと鋭く光る。
「この農場の川の引き込み、風通し、そして土の質……サウナ小屋を建てるのに、これ以上ない『最高の立地』ですね!」
「サウナ?」
俺が聞き返すと、スアイは鼻息を荒くして俺の両手を握った。
「そうです! サウナです! 兄ちゃん、そこの空き地に生えてる木と、余ってる石材、私が使ってもいいですか!? 極上のサウナ小屋を建ててみせます!」
「お、おう。俺もサウナは好きだし、資材ならいくらでも使っていいけど……一人で作れるのか?」
「ふふっ。私を誰だと? おい、そこの豚ども!」
スアイが畑の方に向かって叫んだ。
農作業をしていたオークたちが、その声を聞いてビクゥッ!と跳ね上がった。
「ブ、ブヒィッ!?(ス、スアイ将軍!? なぜここに!)」
「ブブーッ!(俺たちの平穏な生活が!)」
「資材を運べ! 基礎を固めるぞ!」
「「「ブヒィィィッ!(イエッサー!!)」」」
元上司の絶対的な命令に、オークたちは泣きながら資材を運び始めた。
スアイの氷魔法による精密な木材の切断加工と、オークたちの重機並みのパワー。そこにカイトが提供した女神の万能工具が合わさり、なんと数時間後には、ヒノキの香りが漂う立派なログハウス風の『サウナ小屋』が完成してしまった。
「素晴らしい……。私の氷魔法で空気を冷やし、熱した石に水をかけるセルフロウリュ。完璧なサウナです」
スアイが汗を拭いながら満足げに頷く。
「すごいな、お姉さん! じゃあ、さっそく入ってみようぜ。ラスティアさんもどう?」
「え、ええ。せっかくだし、お肌のデトックスも兼ねて入ろうかしら」
†
サウナ小屋の中。
ポチの魔力と陽薬草の成分が溶け込んだ特製の水でロウリュを行うと、極上の熱波が室内に広がった。
タオルを巻いた魔王と元魔将軍が、並んで汗を流している。
「……社長。肌の調子、すこぶる良さそうですね。もしかして恋でもしましたか?」
「なっ!? ば、馬鹿なこと言わないで! これはカイトに特製パックをもらったからで……! あなたこそ、なんだか憑き物が落ちたようないい顔してるじゃない」
「ええ。自然の中で汗を流すのは最高です。……組織のしがらみなんて、馬鹿らしくなりますね」
二人はたっぷりと汗をかいた後、外に用意された地下水の水風呂へ飛び込み、外気浴で完全に『整って』いた。
風呂上がり。
縁側には、カイトが用意した宴会の準備が整っていた。
「お疲れ様! サウナ上がりには、やっぱり冷えたおつまみと酒だろ!」
カイトがドンッ、とテーブルに置いたのは、不思議な色をした野菜料理と、クリスタルの瓶に入った琥珀色の液体だった。
「これは『マイ茄子』っていう、甘みがあってマイナス温度まで冷たくなる不思議な茄子だ。こいつを薄切りにして、ソースの味がする『ソーリーフ』って葉っぱを乗せた冷奴風のおつまみ。それから、オロやん(ゴルド商会の会長)からお礼にもらった高級酒『サケスキー』だ!」
サケスキーは、米焼酎とウィスキーのいいとこ取りをしたような、度数37の強い酒である。これを炭酸水で割ったハイボールを、カイトは二人に手渡した。
「さあ、乾杯しよう!」
「「乾杯!」」
カチン、とグラスが鳴る。
ラスティアとスアイはサケスキーをあおり、「プハァッ!」と全く同じ声を上げた。
「美味しいっ! 強いお酒なのにスッキリしてて、サウナ上がりの体に染み渡るわ!」
「この『マイ茄子』の冷たさと『ソーリーフ』のソース味が、サケスキーの香ばしさと絶妙に合いますね……最高です」
魔王と元魔将軍。
かつては城の中でしか顔を合わせなかった二人が、田舎の農家の縁側で、すっぴんのジャージ姿と作業着姿で酒を酌み交わしている。
「ほら社長、注ぎますよ」
「いいわよ、今日は無礼講よ! スアイも飲みなさい!」
カイトの作った飯と酒が、組織のわだかまりや階級の壁を完全に溶かしていた。
笑い声が響く、平和な飲み会。
このままスローライフの夜が更けていく――かに思われた。
「ブヒィィィィッ!!(ボス! 大変です!)」
農場の外れを見回っていたオークの一匹が、顔を青ざめさせて走ってきた。
「どうした? またオークのお腹でも空いたのか?」
「ブーブヒッ!(違います! 農場の端で、人間が行き倒れてます!)」
カイトたちが慌ててオークの案内で農場の端へ向かうと、そこには泥だらけになった軍服姿の男が倒れていた。
その軍服は、近隣の軍事国家『ルナミス帝国』のものだった。
だが、問題は彼の怪我ではない。
彼の口からは、胃酸と腐った靴下が混ざったような、凄まじい悪臭が漂っていたのだ。
「なんだこれ……酷い匂いだ! 毒でも食わされたのか!?」
カイトが鼻をつまみながら兵士を抱き起こす。
兵士は虚ろな目で、うわ言のように呟いた。
「……ゲロ……オムレツ……もう、嫌だ……人間の……食べるものじゃ……ない……」
それは、ルナミス帝国軍が誇る(そして兵士たちを絶望の淵に叩き落としている)最悪の戦闘糧食『3型』の犠牲者との、初めての遭遇だった。
読んでいただきありがとうございます。
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