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99:主人公視点終話

挿絵(By みてみん)


歓声が上がる中で大会が進んでいく。

クリストフは順調に勝ち進んでいる。


(顔付きが本当に、傭兵とか騎士みたいに戦闘職の人っぽくなってしまったのね…)

と遠目からでもクリストフの変化が分かった。


クズな大人達の我儘に振り回されて苦労したのだ。

あとでちゃんとねぎらってあげたい。


騎士見習いの子達は所属こそ違えど同年代だ。

主に勝ち残っているのは騎士見習いの17歳、18歳。


学院生徒達は騎士見習いと比べて弱い。

最初の一撃を受け止めるだけで手首を痛めて剣を取り落とす者も多い。

そんな中でクリストフは異常だ。


(どれだけイジメられたら、あれだけ変われるのか、考えると本当に怖い…)


騎士見習いの中に辺境伯の息子のチャールズ・クンツの姿が見えた。

私達よりも2歳年下だったので、学院へ入学していたら1年生だった筈だろうが、今は騎士見習い1年目の見習い生。


「強いのかしら?」

と少し期待したが、全く期待外れ。


それにしてもーー


「王立魔法学院は『魔法』の学院の筈なのに、誰も魔法を使わないんですか?」

謎だ。


「いいや。剣術大会と言えど、外部魔法を使う事は禁じられていない。身体強化で戦いながら、火球《ファイアーボール》を顔に投げつけたり、というのもアリだよ。現にクリストファー君は火球と風刃《エアカッター》を使える。所謂隠し玉だから、学生や騎士見習い程度の相手では使わないだけだ」


「えっ!そんな事まで出来るようになってるんですか?…やっぱり、相当イジメられて追い詰められたんですね…」


「…いや、アニーが思う程クリストファー君は苦にしてないと思うよ。…辺境は魔物も豊富だし、狩った魔物の素材がそのまま収入に結びつく。

日々強くなって、自分の口座にお金が貯まり続けるのを実感するうちに、戦闘狂?と呼ぶのは失礼だけど…今では彼は戦闘を楽しめる人間になっている。

憐れんで彼の努力を貶してはいけないよ。寧ろ誇りに思ってあげて欲しい」


(んん?)

「…そう、なんですね?」


アランが戦闘狂などと物騒な単語を口にしたが…

優しくて紳士的なクリストフには最も似合わないと思う。


わぁぁぁ〜っ!!!

と声が上がっている。


騎士見習いにそこそこ強い子がいるらしい。

騎士達まで騎士見習いの応援に駆け付けている。


「学院のお坊ちゃんなんかにやられてんじゃねえぞ!」

「ボコボコにしてやれ!」

などと騎士達が言ってる。


イラッとした。


アランが

「そう言えば、クリストファー君は学院在籍中も辺境伯家騎士団にも在籍扱いになっていたんだった。

剣術大会の三連覇達成後は辺境伯家騎士団から中央騎士団へ移籍扱いになるので、やっかみを受けているんだろう」

と事情を話してくれた。


「学院に在籍しながら騎士団にも在籍って、そんな事出来るんですか?」


「『ワイアット侯爵家のイメージ刷新のためにワイアット侯爵の進路を王命で武官路線へと変更させた』からこその特例だ」


「やっぱり特例ですよね」


「そういう特別扱いを許せない者達も多い。おそらく騎士見習い達が負けたら、騎士達の方が大会後にクリストファー君を闇討ちしようと狙ってくる。

メイスフィールド公爵がそうした不心得者達を責任を持って確保し、ブライトウェル辺境伯領へ送ってくださるらしいので心配は要らない」


「それって、やっぱり『拷問反復魔道具』の出番、という事ですか?」


「…アニー。自分の作ったシャツをそんな卑称で呼んではいけない。あれは『復元魔道具』だ。延々拷問を行い続けるために使うなどといった人倫に反したものではなく、不意の襲撃に備える為のものだ」


「そうなんでしょうか?」

(本当にそういうマトモな使われ方をしてるのかしら?)


着々と試合が進んでゆき、ベスト16までが決まったが…

騎士団側の願い虚しく、学院側の生徒が3名も残っていた。

クリストフ・クラルヴァイン

ベルトルト・クンツ

リチャード・クンツ


意外にも辺境伯は双子の弟の方とは違い、兄の方はちゃんと稽古を付けて鍛えていたらしい。

ベルトルトも辺境伯の従兄弟の子でクリストフとは仲良くなっている。


「私達が学生だった頃は剣術大会は2日がかりでやってたが、今は1日で終わらせてるね」


「だから朝早くからの開催だったんですね…」


ともかく、疲労を感じながらも最後まで見届けた。


結果ーー

クリストフは優勝。三連覇だ。

ベルトルトとリチャードもベスト4に残った。


出場者達の控室に駆け込んで

「クリストファー!」

と声をかけると


クリストフは私を見つけて満面の笑みを浮かべてくれた。

「アンナ!」


「会いたかった!」


「ああ!やっとだ!本当に!やっとだ!これでノルマから解放された!」


「…ごめんなさい。貴方には謝らなきゃって思ったの。私があんなものを作ったせいで、いっぱい痛い思いをさせられたんでしょう。…ごめんなさい。もう二度と傷ついて欲しくない!」


「アンナは悪くない。良かれと思って作ってくれた物が悪い事なんて一つもない。悪事に利用する人間が悪い!」


「それでも、辛かったでしょう?」


「過ぎた事だ。何よりも一番辛かったのは君に会えなかった事だ…」


「クリストファーに会えたら絶対、沢山ねぎらって、沢山甘やかしてあげようと思ったの」


「嬉しいな…。沢山話したいことがある。今日からワイアット侯爵邸で暮らせるのだろう?」


「ええ。いっぱい話しましょう。これまでの事も、これからの事も」

(あの魔法陣の図形をどこでどうやって仕入れたかも、話すし、シーカーの事も話すわ…)


遠目で見た時にはクリストフは変わってしまったと思っていたけれど、近くで見るとやっぱり何も変わっていない。

優しくて紳士的。


私が前世の記憶があって、既婚者のアラサーだった事を話すと、ドン退きされそうだから…

流石にそれは話せないし


お金がない時に他人様の財布から銀貨をスリまくっていた事とかも、やっぱりドン退きされそうだから…

話せないけれど


話せる部分は全部話そうと思った。


******************


ワイアット侯爵邸。

襲撃を警戒しているのか、番犬が敷地内で放し飼いにされているのか印象的な屋敷だった。


屋敷に着いてから、ちゃんと順序立てて、シーカーの事も、会えなかった間の出来事も話した。

「寂しかったわ…。お義父様だけはまめに会いに来てくれてたけど」


「…俺も会いたかった。でも少し安心した。間男が湧かないように配慮してもらえてたのが分かった事だし」


「間男?」


「いや何でもない」


クリストフの方も辺境伯領での暮らしを話してくれた。

アランが言ってたように辛いばかりではなかったのだそうだ。


「…あのシャツが無ければ、俺は何度も死んでいた。…俺は、俺を何度も殺しかけた辺境伯の事が、憎くて怖くて仕方なかったが…。それでもあの人の言葉で目が覚めた気がしているんだ…」

と決意に満ちた目をしている。


どうやら

「弱い男は!ナメられる男は!妻に捨てられるものなんだ!女は護ってもくれない夫の元から直ぐに逃げ出してしまうし、それは女が悪いのではない!護ってやれず、逃げられてしまう甲斐性なしの男が悪いのだ!分かるか?弱い男の罪がっっ!!!」

とか何とか怒鳴られてーー


弱いままでいる事の罪を(そんな罪が本当にあるのかは謎だけど)クリストフなりに悟り、逃げ腰に流れそうな心に自分自身で喝を入れて、がむしゃらに頑張ってきたらしい…。


「随分、金が貯まった」


ワイアット侯爵領の領地運営は今のところカークランド公爵が当主代理として家宰を派遣して代行させているとの事だが、数年のうちにクリストフが引き継ぐ事になっている。


「前途多難ね」


「だがアンナがーーヴィヴィが一緒だと、どんな困難でも乗り越えられる気がする。有り難う」


「私もよ。有り難う…」


私達は互いにお礼を言い合って、互いに微笑みあった。


訳アリの爵位と領地を押し付けられたクリストフが、私と一緒だと頑張れるというのなら…

私はいつまでも一緒に居たいと思う。


「幸せだ…。一緒に暮らせるなんて夢みたいだ」

と言ってもらえて


「そう言ってもらえる私の方こそ、貴方のお陰で夢みたいに幸せなのよ」

と言ってあげた。


満面の笑顔を見ると

「辛い思いをさせてしまった」

という負目が掻き消される気がするのだ…。


(私はこの人のこういうところが好きなんだわ…)

罪悪感も後ろ暗さも過去の恨みも苦しみも忘れられる。


「幸せよ。大好き…」


だからこの人の気持ちが変わらない限り

ずっとずっと言い続けると思う。

一生。


貴方のお陰で幸せだと。


沢山苦労させてしまった分

ずっと伝え続ける。


愛してると。





心からそう思ったーーー。







終


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