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100:第三者視点終話

挿絵(By みてみん)


「アンナ・チャニング嬢を王城で保護して頂きたい」

と冒険者ギルドのギルマスから手紙が届いた時ーー


丁度メイスフィールド公爵ユルゲン・マルトリッツは国王の執務室にいた。


冒険者ギルドは

「生き物を転送できない転移魔法陣」

で書類をやり取りしているので、冒険者ギルドからの連絡も冒険者ギルドの技術の恩恵を受けて、転移魔法陣で届く。


勿論、国王の執務室に直接届く訳ではない。

しかし基本的に冒険者ギルドなどの民間組織は政治に干渉して来ない。

余程の事がないと何も言って来ないので、余程の事があって連絡してきたのだという事がユルゲンにも分かった。


国王ヴィクトールが

「うわぁ…。やるな。アザール王国。そんな技術を隠し持っていた、という事か?」

とブツブツ文句を言ったので、ギルマスからの手紙を読ませてもらう前からそれとなく事情は理解できた。


どこで仕入れた魔法陣図形なのか…アンナ嬢が常軌を逸した効果を持つシャツを作り出してしまった。


「アザール王国なんてランドル王国の魔道王国時代のレア魔道具をコソコソ盗み出して発展してきた泥棒国家であり、文化的にも底が浅い国だ」

という印象しかないのだが…


「実は意外に闇が深い」

「精霊との契約によって興国した国だ」

「精霊魔法の魔法陣があの国の古い建築物で見られる」

などという可能性が出てきて戸惑った。


直ぐに

「アンナ嬢を囲い込んで監視するべきだ」

と結論が出たものの当人には「保護」という言葉を使う事になった。


件のシャツを使った人体実験では

「シャツ自体に復元作用が起こるのみならず、シャツを着ている身体にも復元作用が起こる」

事が紛う事なく事実であることが明らかになった。


勿論、シャツの中だけだ。

頭も首も足も傷つけられれば復元対象外。

シャツの中の胴体と腕だけが、どんなに傷つけられても復元してしまう…。


実験が

「死刑囚を拷問した」

ような結果になってしまったせいで…

内心で

「拷問を延々行うための魔道具」

という印象が定着してしまった。


「とんでもない技術だな…」

と誰の目にも明らかなので

「確かに護衛騎士をつけるべきだな」

と誰もが認めて


アンナ・チャニング嬢は

アンナ・クラルヴァイン夫人となった。


アンナにシャツを量産させて実際に騎士達に使わせているうちに…

「魔眼持ちには魔法陣が見える」

という事も明らかになった。


更には

「アンナ夫人の刺繍の図形を別人が模倣して刺繍しても効果が出ない」

「精霊魔法の魔法陣は精霊と縁のある人間しか有効化できない」

だのという不可思議事案も持ち上がった。


「…『精霊』なんて、そんなモノ、本当に居るのかねぇ…」

とユルゲンには眉唾物に思えるのだが…


実の娘が

「シーカー」

と具体的に名前まで挙げて

「アカオトの2作目には精霊が登場する」

と断言しているのである。


しかもメイスフィールド公爵家騎士団の任務の一つには

「魔道具の分析・調査」

もある。


ランドル王国の地下遺産庫に仕舞い込まれていた用途も分からないレア魔道具類の用途を調査しているのである。


少し前には

「魔力体を観測する魔道具」

なるものの調査が終わっていた。


その魔力体観測魔道具は王城に設置されて不審者の侵入を密かに察知するべく使用されていたのだが…


ある日

「肉体を持たない強大な魔力体、つまり『精霊』と呼ばれるべきモノが王城内の一室、アンナ・クラルヴァイン夫人の居室に召喚された!」

という報告がヴィクトール王の元へ届いた。


直ぐに宰相が張り付けた笑みでアンナの元へ事情聴取に行ったのだが、特にアンナに不審な点は見られなかった。


普段からアンナに関しては不審行動が無いか護衛騎士が交代で見張りを務めている。

その日の強大な魔力体が召喚された前後のアンナの様子に関してのみ、見張り番の騎士は『記憶がない』のだと明らかになった。


何かしらの存在により記憶を消された可能性がある…。


現実主義のユルゲンにとっては意味不明の現象はずっと意味不明の現象のままだ。


一方で宰相のコルネリウスの場合は色々柔軟に推測してみる。

ユルゲンの方がヴィクトール王と馬が合うのに宰相がコルネリウスなのには、ちゃんと「王に欠けた資質を補う」という役割があるのだ。


そして宰相コルネリウス・アーベレが推理した結果ーー


「アンナ夫人の闇属性の適性は『中級上位、上級下位』のレベルだと推測される」

「アンナ夫人ことヴィヴィアンヌ嬢は転移魔法で消えて『死亡』判定が下されたが、彼女は自身の肉体を生きたまま転移させるだけの能力はない」

「肉体を持たない強力な魔力体、つまり『精霊』と呼ばれるモノが彼女と関わりがあって、彼女の周りで不審な出来事が起きたと思われる」

「彼女は親しい人間にのみ、そうした事実を打ち明ける可能性が高い」

と判断を下した。


それがアンナとクリストファーが結婚生活へ入る事になった理由として実は大きい。


「…危険人物である事は間違いないし、それでいてこれと言って悪事を成してる訳でもないのだから、いっそ好きにさせてやるべきじゃないか?」

とヴィクトール王はアンナの解放を許可したのだ。


そして剣術大会後ーー


ユルゲンは計画通り、クリストファー襲撃を目論んでいた反抗分子をブライトウェル辺境伯領送りにした。


「ホント、ああいう連中は『拷問反復魔道具』の恐ろしさを噂で聞き齧っただけで、怖い物知らずだから、ああやって上意に逆らうのだろうなぁ」

とユルゲンは呟いた。


「ブルクハルトは(ブライトウェル辺境伯は)嫁の前ではマトモな人間を装ってるし、多分当人も自分自身をマトモだと思ってるのだろうが…。

アイツの『鍛える』は普通に半殺しだからなぁ…。きっと当人が騎士団入団後早々に、先輩達から私刑を施されて死にかけたせいだろうな。

お陰で騎士団のイメージ自体が生きるか死ぬかって致命的なモノになってしまってるのだ。きっと」


世の中世知辛いのである。


クリストファーがブルクハルトから手加減抜きの稽古を付けられて、一方的に半殺しにされ続けて、一旦精神的におかしくなったものの、その後持ち直したのは…


クリストファーが「剣筋や立ち振る舞い」などの点で「辺境伯《ブルクハルト》を模倣するようになった」からだ。

その際に、「親族の女性、特に妻の前では盛大に猫をかぶる」という人間性の面も模倣するようになってしまった…。


一旦、効率化を学習して習得してしまえば、後は楽である。

効率化により習熟するだけで成果が上がる。


そうして文官志望の朴訥な少年が

(当初の予定から大きく道を踏み外して)

裏表のある武官へと変貌を遂げてしまったのだった…。


大人達が無駄に腹黒く色々考えている中ーー


何も知らないアンナは、クリストファーとワイアット侯爵邸で暮らし始めた初日から

「実は…」

と精霊に関する情報をペラペラ話した。


なので、その内容は

護衛騎士達によって迅速に余す事なく

ヴィクトール王の元へ届けられた。


「ほぉ…。精霊とアントワーヌの生まれ変わりはバルシュミーデ皇国のアーベレ家を盗む気なのか…」

と分かったところで、ランドル王国にとってどうという事もない。


ヴィクトール王は

「…【泥棒の極意】か。そんなもんで泥棒される標的がウチの国じゃなくて良かった」

と胸を撫で下ろし…


「いっその事、フリートヘルム馬鹿と、ヤツの側近連中の魔法適性と魔力全部盗んで連中の力を全部削ぎ落としてくれれば良いのにな…」

積年の恨みを込めて宣うた。


ヴィクトールは本来ならバルシュミーデ皇国の第一皇子。

今頃は順当に行けばバルシュミーデ皇国の皇王として君臨していた筈だったのだが…

色々あって

現在

ランドル王国の国王をやっている。


「それにしてもーーエルメリンダ嬢の言う通りなら、あの国は『帝国』になってしまうのだな…。その前にあの馬鹿の治世が終わっててくれると有り難いんだがな」

ヴィクトール王がそう言うと


宰相コルネリウス・アーベレが

「今の我々の国はランドル王国ですから。あの国が今後どうなろうと知りません」

と苦笑を返した。


かつての祖国の安泰を願ってやれないランドル王国の国王と宰相は

「今後の厄災の種がランドル王国とは無縁である事」

を祝って、密かに祝杯をあげたのだった…。






了


【あとがき】


実のところーー

精霊が恩返しで願いを叶えてくれる状況で

「『恩返しの無制限おかわり』とかでも叶えてもらえるの?」

と問う一幕を書いてみたくて、この話を書きました。


恩返しの無制限おかわり。

(アドバンテージの永続)

そういったもので縛られる精霊は災難でしょうが…

精霊を搾取できる側は嬉しいでしょうね。


楽しんで頂けたのなら幸いです。

ではまた。



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