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挿絵(By みてみん)


唐突に

「試験日以外の外出」

が許可された。


というか

「是非、王立魔法学院高等部名物の剣術大会をお楽しみください」

と宰相が勧めてきた。

不気味だ。


「先日、お誕生日だったのですね?18歳おめでとう御座います」

そう言われても

(本当におめでたいと思うなら、クリストフと会わせて欲しい)

と思ってしまう。


何か裏がありそうだと思った。


案の定ーー

外出に先立って

「国王陛下との面会を」

強要された。


気が進まないながらも断る訳にもいかず、ヴィクトール王の執務室傍の応接間へ案内され、久しぶりにこの国の国王陛下にお目にかかる事になった。


(また面倒な事を言われるのかしら)

不安だ。


応接間にはヴィクトール王だけでなく、カークランド公爵とブライトウェル辺境伯がいた。


こちらは入室は許可されたものの、座るように勧められるまでお辞儀した体制でいなければならないのでキツイ…。


間もなく

「座って良いぞ。顔を上げてくれ」

と言われて内心ホッとしながら

「お久しぶりでございます。アンナ・クラルヴァインでございます」

と挨拶すると


ヴィクトール王はマジマジと私の顔を見つめて…

「おお〜…。思った通り、イイ女に育ったなぁ…。早めにクリストファーと結婚させて、俺は極力合わないようにと避け続けて、本当に良かった…」

と突然言い出したので


思わず

(ん?)

と首を傾げた。


「…嫉妬深い側妃が3人も居るんですから、疑われないように振る舞うのは当然でしょう」

辺境伯の言葉で


(ああ、側妃って嫉妬深い人達だったのね)

と改めて気が付いた。


「今更だが、スマンな。お前に最初に付けていた侍女達は側妃達の推薦で決められた人事だったんだ。

事実を話すと拗れると思い、お前が王城を出ると決まった現時点まで話してやる事ができなかった。本当にすまない。

だが代わりに、側妃達の品位保持費を削って、慰謝料としてお前名義の口座に振り込んでいる。お前は侯爵夫人の中でもダントツで金持ちになっているんだ。それで水に流してやってくれると助かる」


(えっ?ハズレ侍女達って側妃達の推薦だったの?)

「…お心遣い誠にありがとうございます」


側妃達の事が本気で嫌いになった瞬間だった。

なんだったら、今魅惑を使って国王を誑かして側妃を嫌うよう操ってやりたいくらいには、側妃達の事が嫌いになった。

勿論、魅惑魔法は一生封印予定なのだが。


「明日、剣術大会でクリストファーが優勝すれば三連覇達成、という事になるのは知っているな」

「はい」


「兼ねてより、クリストファーには抜きん出た所をジョシュアに見せつけてからアンナ嬢を娶れと言い渡していた。

その結果、明日クリストファーが優勝したら、アンナ嬢の身柄をワイアット侯爵邸へ移そうという事になった」

「えっと…。優勝は、まだ決まってませんよね?」


そこで

「クリストファーの優勝は確実だ。クリストファーは良い意味で化けた。王家直属騎士団へ入団させて、将来的には騎士団長を任せるべきだと思う」

と辺境伯が宣うた。


「化けた、のですか?…」

(ちょっと意味が分からないけど、要は「脳筋傾向が加速した」とか?)


「同世代では最強なんじゃないのか?元は文官志望で、冒険者活動などは運動不足解消程度のつもりでやってたらしいが…。今では立派に武官として通用する」

「そう、なんですか?…でも、それで良いんですか?ワイアット侯爵って代々文官貴族家だったんですよね?」


それにはカークランド公爵が

「だからこそ領民達のイメージも一新されて、新侯爵を歓迎する傾向が出てきているんだ。有り難いことだ」

と答えた。


(現金なオジサンよね。私の事、嫌ってるくせに)

「そうなのですね?」


ヴィクトール王が苦笑しながら

「実は本当はもっと早くにクリストファーを解放してやって、クリストファーがアンナ嬢とワイアット侯爵邸で暮らせるようにしてやりたかったんだが…。

ブルクハルトがクリストファーの事を気に入ってしまって、とことん鍛えて、次世代のこの国の軍事を担う人材に育て上げるとか言い出したんで、誰も止めてやれなかったんだ」

と仰ったが…何を仰っているのか意味が分からない。


私が戸惑っていると、宰相が侍女達を伴って入室してきて茶を配らせた。

それから

「話は順を追って、話すべきです」

と言い出して、言葉通り、順を追って説明し出してくれた。


その宰相の話によるとーー


そもそも2年と2か月ほど前にクリストフが辺境へ向かったのは、決して当人の意思ではなく、王命だったのだ。


しかも

「そもそもアンナ嬢がヤバイ魔法陣を刺繍したシャツを作ったのはクリストファーのためだった筈」

と判断された事で、最初に作った件《くだん》の刺繍入りシャツは、死刑囚での実験の後、すぐにクリストフへ渡されていた…。


「シャツを着てる部分はどんな攻撃を受けても修復されるんだ。胴体を狙う戦闘訓練なら死ぬ事がないのだから、強くならなければならないクリストファーには打ってつけの魔道具だろう」

という気軽な気持ちでヴィクトール王は辺境伯領での武者修行を提案したらしい…。


元々は文官志望のクリストフだ。

辺境伯から稽古をつけられても互角に打ち合える筈もなく、一方的に半殺しの目に遭わされ続けた…。


逃げ出す事も許されず

怪我による療養期間などもなく


本当なら死んでるような大怪我を毎日毎日負わされて数十分悶絶しながら修復が起きては回復してしまい、精神的にギリギリな日々を送らされた…。


(話を聞いてるだけで、可哀想過ぎて涙が出てきた…)


クリストフは1ヶ月程は一方的にやられるだけだったのが…

1ヶ月を過ぎた頃から劇的に身体能力が上がり、身体強化の練度も上がった。


その報告を受けたヴィクトール王は

「あのシャツ、実は騎士団の実力底上げに使えないか?」

と思いつき


クリストフ以外にも希望者へと配布し

希望者達が辺境伯から地獄の稽古を施された所ーー


逃亡者多発…。


シャツの返却が相次いだ。

騎士達の間では私の刺繍入りシャツは

「拷問反復魔道具」

と呼ばれているそうだ。


奇しくも死刑囚が名付けた呼び名そのままだったとか…。


「1ヶ月続ければ劇的に強くなるんだぞ!」

とクリストフを引き合いに出して勧めても、最早誰も欲しがらない地雷魔道具の位置付けに置かれる事になってしまったのである。


クリストフは

「辺境伯の愛弟子」

の地位を確保し

「これなら学院の剣術大会三連覇など楽勝だろう」

と太鼓判を押される実力に至ったものの…


辺境伯はそれでは満足せず

「お前こそが次の世代の最強だ!」

だのと言い出し、その後も訓練を課した。


そうしていつの間にか2年2ヶ月程の年月が経過していて、今現在に至る…。


(アンタら、うちのクリフに何してくれちゃってるのよ!)

と怒鳴り散らしてやりたかったが…


社会的に無理なので

「そうだったのですね。クリストファーをこれまで鍛えてくださり有り難う御座いました」

と過去形で言う事で


(これ以上、無茶振りすんなや!)

という牽制の代わりとした…。


******************


「気が抜けると、万が一という事もあり得るから、2人を会わせるのは剣術大会が終わってからと言いつけられているんだ。待ち遠しいだろうが我慢しておくれ」

とアランに言われて


「はい。お義父様」

と素直に頷いた。


王立魔法学院高等部の剣術大会は、何故か王立魔法学院高等部の生徒だけが出場者ではない。

中央騎士団の(王家直属騎士団の)騎士見習い達も出場する事になっている。


中央騎士団の騎士見習いの多くが「王立魔法学院中等部の卒業生」。

騎士見習いと高等部の生徒は面識のある者達が多い。


座学で優秀だった文官志望者や領地持ちの爵位を継ぐ後継令息が高等部へ進学する一方で、頭の良くない後継以外の貴族令息は皆騎士団へ流れるのだ。

そんな訳で騎士見習いの多くが高等部の生徒に対して劣等感を持っているらしい。


剣術大会では騎士見習い達はここぞとばかりに学院生徒達を叩きのめして溜飲を下げる。

お陰で「王立魔法学院高等部主催の剣術大会」であるにも関わらず「優勝者並びに上位入賞者全員が騎士見習い」という年が続く事もある。


勿論、学院の生徒が優勝を掻っ攫うような年が続いた事もある。

「天才」

とか

「神童」

とか呼ばれる者が輩出された時代では、そういう事が起きていた。


しかし、クリストフは天才じゃない。

戦闘の才能は平凡。

体格に恵まれているがバルシュミーデ人としては平均。

そういった事を考慮すると、やっぱり涙が出てきた…。



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