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王城で軟禁生活を送るようになって2年以上が過ぎた。
光属性の適性が上がって、上級ポーションを作れるようになったので、随分と儲かるようになった。
使う機会が無いままお金だけが貯まった。
そんなある日ーー
シーカーからもらった召喚笛がひとりでに鳴った。
最初は何の音か分からず
「えっ?急にどうしたの?」
と異変に驚愕した。
ただならぬ事が起きたという事だけ分かった。
咄嗟にクリストフの身に何かあったのでは、と思い、怖くなったのだが…
音の発生源が召喚笛だと気付き
(…シーカーがこちらに転移して来ようとしている、という事よね?)
と思い当たり、笛を床に置いて、その周りに転移魔法陣を魔力で描いた。
本来ならシーカーは一度行った場所にしか転移できないが、召喚笛の持ち主が居る所にも転移可能だ。
勿論、笛の持ち主がシーカーの転移を受け入れるのなら、だ。
「シーカー!」
記憶に残っている通りの、すました表情の黒猫が現れた…。
と同時に
人間の姿もーーフィリベールの姿もーー現れた。
「フィリベールお兄様!」
知人に(知猫に)会えるのは嬉しいものだ。
思わずシーカーを抱きかかえた。
「…猫の姿をしていても私は猫じゃないのだが…」
「もう会えないと思ってたのに、会えて嬉しい!」
フィリベールが
「お前が特級禁忌魔法の事で気を揉んでいるかも知れないとシーカーが気にしていて、どうしても無事に片がついたと報告したいと言うから付いて来たんだ」
と事情説明してくれた。
「そうなの?」
「ああ。『超重力天体召喚』が起こる前に憑座の心臓をフィリベールが盗んだから、もう危険はない」
「そう言えば、フィリベールお兄様の瞳の色が…」
「解呪したから本来の瞳の色に戻ったんだ」
「でも、アントワーヌは自分の眼をアナイスにあげたんじゃ…」
「複製体を作るための保存血液は目を失う以前に採取していたものだ」
「そうなんだ…」
「お前は当然知らないだろうが、王城の地下遺産庫には人体複製魔道具があって、20歳まで生きた王族はそこに入室する資格を得るので、そこで王家がアントワーヌの複製体を生み出し続けた真実について教えられるんだ」
「…アントワーヌの複製体が生み出され続けた理由って、単に赤眼が皆短命で子孫が途絶える可能性があるからとかじゃないんですか?」
「それもあるだろうが、俺が『いつかこの世界に危機が迫った時に自分自身の複製体に転生する』と予言を残してしていたので、子孫は予言を信じてアントワーヌの複製体を数世代ごとに生み出し続けていたのさ」
「…今の時代は、本当に『世界そのものが脅かされる危機』の最中にあったのですね…」
「そうだ。シーカーが憑座を早めに見つけて教えてくれたので事なきを得たが…。下手をしたら昨日、この世界が消滅していた所だった」
「…もしそうなっていたら、私の方も、訳もわからず死んでたんですね…」
「そうならなくて良かった…。俺もお前が生きてる事を確認したかったんだ。本当に良かった。痩せ細ってもおらず、幸せそうだ」
「痩せ細ってはいませんが、正直、ここでの暮らしには飽き飽きしてます」
「…それなら、一緒に来るか?アザール王国は内乱の危機がまだまだあるし、国自体が着々と乗っ取られている最中だ。退屈だけはしないぞ?」
「遠慮しておきます。一応こう見えて侯爵夫人ですので」
「侯爵令嬢じゃなくて、侯爵夫人?…結婚したのか?」
「ええ。全然、夫に会わせてもらえないので全く実感がありませんが」
「それはまた…」
「…俺は、お前が妹じゃないとハッキリした時点で、お前の事がずっと欲しかったんだがな。…どうせ相手はクリストフ・クラルヴァインなんだろ?」
「はい。クリストフと夫婦になってます。戸籍上は。でも全然会えていません。寂しいです」
「俺にそう言われてもな?応援はしないぞ。俺と一緒に付いて来るなら、願いの一つや二つ叶えてやる気はあるが、俺を振るお前の願いは聞いてやれない」
「えええ〜…」
私が嘆きの声を上げると
シーカーが
「魅惑を使って、この国の王や高位貴族を操れば何でも望み通りにできるだろう?」
とシレッと人倫から外れる行為を勧めたが
「それをやると本当に『悪役』になっちゃうでしょうが」
とお断りした。
「面倒なヤツだな」
倫理観自体を持たない精霊からすると、倫理観という縛りは無駄なものに思えるらしい。
「名残惜しいが…いつまでも此処に居てはお前の迷惑になるだろうし。【隠者のマント】で姿を消したまま王城探索と城下町探索を堪能したらアザール王国へ帰るとするよ」
フィリベールがそう言って
スーッ
と姿を消した。
「【隠者のマント】凄い…」
姿が消えても、まだそこに居るのは分かるので
「フィリベールお兄様は、アントワーヌの魔道具を手に入れて、アザール王国を建て直そうとは思わなかったんですか?」
と素朴な疑問を口にした。
「…それはな。俺も相当悩んだ問題なんだよ。…どうやらこの世界には『動かしてはならない運命』がある。
アザール王国がこのまま乗っ取られて、アザール王国の上流層から生粋のアザール人が消えていくのは、それこそ【運命】だったんだ。
この世界を『乙女ゲームの世界だ』と思い込んでる連中の記憶を丹念に読み出したお陰で、『国を救うと世界が滅びる』のだと判ってしまった。
だから俺は国を救える力を手にしたけれど、国を救わない。救ってはならない…。
そもそもアントワーヌ・ル・テリエの力は『盗み』が根源だ。『獲得しているものを守る』という保守的救国には向いていない。
俺はそのうちバルシュミーデ皇国に行くつもりでいる。俺は『ヒロイン』から魅了と治癒魔法の力も盗んだし、バルシュミーデ皇国屈指のアーベレ公爵家の令嬢を妻に迎えて魅了したんだ。
バルシュミーデ本国へ乗り込んで、先ずはアーベレ公爵家を乗っ取るというのが【泥棒の極意】の本来の持ち主である俺の為すべき事だと思わないか?」
「…フィリベールお兄様って、やっぱり、本当に、アントワーヌなんですね。本性が泥棒だ…」
「だがな。情けない事に惚れた女の心は盗めなかったようだな。…【泥棒の極意】を使えば、今この瞬間にも盗めるのに。
…先に正攻法で盗まれてると、小賢しい魔法で愛しい相手の心を歪める事なんて出来なくなるんだよ」
「…私は、大好きでした。フィリベールお兄様。…いえ、リュカ。私の初めてのお友達…」
「そう…。友達だ。…だから俺達は破局した恋人じゃないから、また会える。また、会っても何ら道義的問題はない。…だから、いずれ会おう。いつか…」
そう言って、フィリベールの気配は消えた。
シーカーの姿と共に。
僅かに寂しさを感じるが、それ以上にシーカーの過保護ぶりを感じて苦笑が漏れた。
(…シーカーはフィリベールお兄様に対しては本当に過保護ね。転移と同時に結界まで張ってたなんて…)
私が結界の包括対象から外された事で、急に外界の音が聞こえてきて、さっきまで結界内に閉ざされて居た事を実感したのだ。
(また、いつか、会いましょう…)
初めての人間の友達と
初めての人外の友達。
彼らが立ち去った後を私はジッと見つめ続けたーー。




