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王城の使用人達は見るからに「バルシュミーデ人だ」と分かりやすい容姿の人達ばかり。
なのでアザール人もランドル人も入り込む隙がない。
そういう王城内の環境は国王陛下にとっては
「最も安心して匿ってやれる環境」
という事なのだろうが…
「元平民のランドル人伯爵令嬢が陛下に囲われている」
と聞いて、反発を持った人達も実は多かったのだと思う。
初っ端からーー
食事に虫の死骸が入れられていた…。
侍女を呼んで
「…虫が入ってます。このスープ、鍋ごと捨てて処分しないと、誰かがお腹壊すのでは?」
と注意してやると
その場では
「申し訳ございません」
と無表情で謝ってくれて虫入り料理を引っ込めたのだが…
どうやら厨房へは
「虫が入っていた」
事実を伏せて
「あの女、スープを鍋ごと捨てろって言ったわ」
などと言ってたらしい。
その後も虫入り料理が出されたので
「食べられないわ」
と食事をせずに席を立ったところ
「あの女、この王城の食事が口に合わないって、一口も食べなかったのよ!」
「バルシュミーデ人を馬鹿にしてるわ!」
だのと言ってたらしい。
基本的に、性格が温厚なマトモな侍女は側妃付きに取り立てられているので、それ以外の侍女の多くは「結婚までの腰掛け」の行儀見習。一時的な勤め人だ。
私に付けられたような
(側妃付きという訳でもない)
中年侍女となると…
所謂「ハズレ」…。
私に付けられた侍女がそうしたハズレ侍女達だったお陰で…
マトモな食事が与えられず、最初の1週間は
「…帰りたい…」
と独り、泣いた…。
魔力で水を出して魔力水をガブ飲みして飢えを凌いでいた。
宰相が様子を見にきてくれなかったら、ハズレ侍女のイジメが延々と続いていた筈だ。
普通は侍女は食事の給仕だけでなく毎日湯浴みの準備もするものだが、王城に来てから一度も無かった。
と言っても魔法で清潔は保てる。
昔から自分で自分を清潔に保ってきた。
宰相が
「ご不満が溜まっていらっしゃると聞きましたが、お困りの点についてお教え頂けると嬉しいです」
と作り笑顔でやってきたので
開口一番
「閉じ込められて、虫入りの食事しか出してもらえなくて、ポーション作りもさせてもらえず、このままだとおかしくなります!アランお義父様の家に帰してください!」
と訴えた。
宰相は一瞬フリーズしてから
「…食事に異物が混入していた報告は一切出ていませんし、ポーション作りのための調薬室も準備してましたし、材料も揃えてました。
再度、シャツ作りと刺繍をお願いしたいと伝えていたのに、いつまで経っても着手してくれないとの報告が来ていた他、貴女の横暴で侍女達が虐げられ心を痛めている旨の苦情が来ていたのですが?」
と教えてくれたので…
とんでもない嘘で報告が捻じ曲げられている(!)事実が判明した…。
宰相が
「大勢の人間が口裏を合わせて令嬢1人を陥れる嘘を吐くとは思わない」
ような多数決派の人間なら、私は詰んでたと思う。
大勢の人間が口裏合わせて令嬢1人を陥れる嘘を吐くような事が起こるのが、人間社会という場所なのだ。
(精霊が「嘘が嫌い」「欺瞞が嫌い」なのがよく解るわ…)
宰相が、私の身の回りの実態を調査したところ、私の証言が事実だと判明した。
因みに私は王城に来て以来着替えてもいない。
着替えを用意する暇もなく馬車に押し込められたのだから。
それは国王の方でも理解していたので、急いで用意した貴婦人用の客室に私を滞在させた。
クローゼットにはふんだんに着替えのドレスが用意されていたのだが、ハズレ侍女達は最初からクローゼットの中身を盗んで売り払っていた。
しかも
「あの女、陛下がご用意くださったドレスを気に入らないと切り裂いて捨てたのよ」
「焼却炉で燃やせだのと命じたのよ!不敬極まるわ!」
と、これまた大嘘を吐いて、ドレス消失の帳尻を合わせようとしていたのだとか。
当然、ハズレ侍女達はクビ。
巨額の罰金刑が科せられたとかで、おそらく借金奴隷へと身分落ちする事になる。
準男爵家とか騎士爵家とかの行き遅れ年増令嬢だったとかで、30歳を超えて尚縁談の来ない人達だったらしい。
10代でスピード婚して侯爵夫人になった元平民のランドル人、というのが気に入らなかったのだそうだ。
…しかし、実行犯はハズレ侍女達ではあっても
「ハズレ侍女達の言ってる事は全部嘘かも知れないぞ」
と周りの人達は彼女達を疑う事はできた筈。
なのに敢えて周りの人達は
ハズレ侍女達の嘘を鵜呑みにした…。
そういう人達の
「敵意未満の悪意」
は裁きようが無い。
ハズレ侍女達以外の関係者達は
「厳重注意」
で済まされた…。
そもそも私の周りがその手の連中だらけだったのは、私を呼んだ国王から放置されてたからだ。
「忙しかったからです」
と宰相は澄まして宣うたが…
一体、何がそんなに忙しかったのか…。
私が城に来た日ーー
国王陛下は
「先ずは刺繍有りシャツで実験しろ」
と指示を出していたのだそうだ。
「実験って何を…」
既に私が冒険者ギルドの地下訓練場で実験している。
「…地下牢に収監していた死刑囚を、つまり人間を使って実験しました」
「人体実験ですか…」
「その結果、重要な事が分かりました」
「………」
シャツに治癒力があるという事はない。
あくまでも復元力。
シャツを着る以前の怪我はシャツを着ても治らない。
一方でシャツを着た状態で怪我をしたら、怪我の程度に応じて数秒から数十分で治る。
被験体にされた死刑囚は
「こんな拷問反復魔道具を作りやがった魔道具師は絶対許さない!呪ってやる!殺してやる!」
と大絶叫し続けていたらしい…。
実験は
「シャツを着てない箇所も復元対象になるのか?」
も行われた。
胴体、腕は、どんな大怪我でも回復するのだ。
足や頭部はどうだ?
と当然気になる。
結果ーー
「シャツを着ていない箇所は復元対象にならない」
と判明。
死刑囚はシャツを作った魔道具師を呪い続けていたので
「万が一にも脱獄されては困った事になる」
という事で
「処刑執行日を早目に調整しよう」
となり、諸手続きのスピード処理で忙しない日々が続いた。
そして、ようやく昨日死刑執行日を迎え、件の死刑囚を処分できて一安心。
そこでやっと
「…アンナ夫人が不満を爆発させているらしいから宥めてやらねば」
と、初めて私の待遇に目が向いた、という事のようだった…。
「仕方がなかったのです」
と宰相が本気でそう言ってるのが分かるのだが…
「…それって非人間的な残虐実験をした貴方達が悪いのでは?私は、全く悪くないのでは???」
とツッコミを入れてしまったのは、それこそ仕方なかった…。
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その後はこれといって嫌がらせもされず、無難に過ごせる日々が続いた。
勿論、外出は護衛がゾロゾロ付いて来る。
お陰で学院の試験日は学生達から白い目で見られた。
アランが週に2日くらい尋ねて来てくれるようになった。
「面会許可が降りるようになった」
と言っていた。
それまで面会許可が降りてなかったのかと、厳重体制にドン退きした。
冒険者ギルドはどうなってるのか。
クリストフはどうなってるのか。
尋ねたところ
「冒険者ギルドは変わらず」
だそうだ。
私が王城の調薬室で作ったポーションはキチンと納品されている。
「クリストファー君は辺境へ行ったよ」
と言われて驚いた。
「長期休暇に辺境伯領へ行って稽古を付けてもらうと言ってた筈ですが?」
どうやら例の剣術大会三連覇を本気で目指すには今から修行しないと最初の1年目で挫折すると自覚し、辺境へと自発的に旅立ったらしい。
(大丈夫なのかしら…)
環境を整えてもらっても、今の生活が軟禁生活である事実は変わらない。
(クリストフに会いたい…)
と思いながらもアランくらいしか面会もなくーー
ただポーション作りに、服作りに刺繍に、学院の勉強にと、日々勤しみながら時間だけが経っていった…。




