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95:間話

挿絵(By みてみん)


【side:ジョシュア・ホリングワース】


急に

「旦那様から大事な話があるそうです」

と父の執事に言われた。


一体、何事かと思う。

俺は父の命令通りオブライアン侯爵令嬢と婚約したし、嫌悪感を表情に出さないように苦労して交際し、日々無駄な時間を過ごしている。


(この上まだ何か無理難題をふりかける気なのか?)

と警戒心が起きた。


ウチの父親…。

一緒に暮らすようになって

「何故、母が最期まで父に絆されずにいたのか」

理解できるようになってきた。


愛犬家が犬を可愛がる。

愛猫家が猫を可愛がる。

そういう延長上で、父は俺を可愛がっているように思う。


「こうしてやるのがこの子の幸せの筈だ」

という思い込みが激しい。


当人の中で

「この子の幸せとは、こうだ」

という生活プランのようなものがあって

「理想の型に押し込める」

ような自律性の去勢とでも言うか…

そういう奇妙な

「萎えさせる力」

を纏った愛情を向けてくる人なのだ。


最近しみじみと

「いい加減にして欲しい」

と思うようになってきた。


(「大事な話」って何?出来れば聞きたくないんだけど、聞いておかないと後で困るかも知れないから聞くけど…)

正直、顔を見ると萎える。


ハァァーッ

と大きく息を吐いてから父の執務室のドアをノックした。


何故か執務室にはクリストフも居て

「ジョシュアも来ましたが」

と、これまた気怠そうにしていた。


クリストフも、この父と長く居ると萎えるのだろう。


「うむ。ジョシュアに何も言わずに勝手に話を進めると後で怒られそうでな。とりあえず2人とも揃った事だし、小1時間程前に陛下から呼び出されて告げられた話を述べる事にする」


「「はい」」


「緘口令が布かれて、詳しい事情は今後も知らされる事がないとのお達しなのだが…。

急遽、クレーバーン伯爵令嬢のアンナ・チャニング嬢に護衛騎士をつけて王城の一画で暮らしてもらう必要性が生じたらしい。

基本的に護衛騎士が付けられるのは侯爵家以上。なので侯爵家以上の貴族家に籍を置かせる必要が出た。

陛下は『俺が側妃に迎えてやるのが手っ取り早いんだが、親子ほど歳の離れた令嬢に手を付けるとなると、多方面から殺意を向けられる可能性を感じるから出来ないんだよ』と仰っている。

それで彼女を『クリストファーの妻』という事で『ワイアット侯爵夫人』の座に就かせ、護衛騎士を付けて王城で保護する事にしたとのお話だった」


「えっ」

「婚約すっ飛ばして結婚ですか?」


「婚姻届にクリストファーがサインして王城に届ければ、直ぐにでも陛下が許可をくださる」


「冗談ですよね?」

「どうなってるのか事情が気になりますが、とりあえずサインします」


「はあ?フザケンナよ、クリストファー。この卑怯者!」

「邪魔するな。叔父上!ジョシュアを捕まえててください!サインしたいのに、邪魔してます!国王の意向に逆らう気ですよ!貴方の息子は!」


「ジョシュア!やめんか!とりあえず結婚と言っても籍だけだ。白い結婚だ!花嫁は今後ずっと王城で保護されるんだ!」


「はあ?いや、何?白い結婚て。そんなのアリですか?!」

「ざまあ…」


「ジョシュア、お前、自分がブスの性悪と婚約させられたからって、よくもそうまで他人の不幸を喜べるな」

「当たり前だ。お前だけ幸せになんてなられて堪るか!」


「この根性悪が!」

「お前が代わりにカークランド公爵を継げよ!んで、あのブスと結婚しろ!」


「叔父上!こういう事言ってますよ!貴方の息子が!」

「高位貴族の息子らはみんなブスと結婚すれば良いんだ!俺だけだなんて許さない!」


「とにかく!サインしろっ!!!!!」


揉めに揉めて…

クリストフがサインして


父が

「婚姻届を王城へ持参する」

というのに付いて行く事にした。

勿論、クリストフも…。


******************


結局ーー

「何故、急にアンナを王城で保護するという話になったのか」

という点での詳しい事情説明は何もしてもらえなかった。


かなりボヤけた言い方で

「アザール王国の闇は意外にも深かった」

「彼女は特定の人間だけが特定の条件で知り得る情報を入手してしまっていた」

と説明されたが…


「そんなんで分かるかボケ!」

と言いたい。


唯一の安心は

「本当に婚姻は白い結婚だ」

という事。


今後もアンナは王城で暮らす事となり、クリストフは名義上の夫。


「状況が落ち着くまでは面会もさせられない」

だのと言われて、顔を見る事も叶わなかった。


「名実共に夫婦になりたかったら、例の件で実績を積め」

と、何か国王からメッセージを受け取っていたのは気になるが…


その後、何故かクリストフは

「授業免除の特例措置対象」

となり、ブライトウェル辺境伯領へと赴いた。


王都を離れる時には

「生きて帰って来る気では居るが…。俺に万が一の事があれば、アンナをーーヴィヴィをーー頼む。…と言っても、『友人として』頼む。もしも彼女に手を出すなら、化けて出てきてでも、絶対呪う…」

と言い残してくれた…。



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