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「話が早くて助かる。…俺は闇魔法の『読心』を習得したいんだ」
「…『読心』ですか…」
「無理か?」
「無理と断言は出来ませんが…」
「何か困難が?」
「ええ。『読心』や『過去見』などの精神傍受的な魔法は『魔力が見える目』つまり『魔眼』が無いと難しいかと思います」
「魔眼、か…。そういうものが存在する事は聞いた事はある」
「古の賢者が書いたと言われる書物によるとですね。『精神の働きを俯瞰し、精神の働きが社会に及ぼす影響を物理的に可視化して統計化したいという強い欲求を持つ』事が魔眼の発生に必要な条件らしいです」
「精神の働き、の可視化と統計化、か…」
「そうした記述を読んだ時に私も『成る程』と納得しました」
「そうか…」
「…人間、普段は『一般的感覚では認識されない要素』というものに対して『自分も認識しない』と無自覚に周りに倣った選択している事が多いんですよ。
だけど、それだとどうしても不毛さが生じて、その不毛さに耐えられなくなる時が来てしまう。
『一般的感覚を絶対視する価値観』に縋り続けると、自分がどこまでも無価値に感じられ、自分自身の尊厳も矮小化されてしまう、という現実に気がついてしまうんです。
そうなった時に『それなら一般的感覚を絶対視する価値観そのものを相対化してみよう』と思ってしまうのが、闇属性の適性が高い人間なのだと思います」
「成る程な。確かにアンタは中級闇魔法の『解呪』を光魔法のキラキラ付きでシレッと行使してしまえる闇魔法使いだよ。流石だな」
「俺にはアンナが何を言ってるか、さっぱり分からないんだがな…」
「ブレイク様は、『読心』魔法を習得する前に『魔眼』を自己開発する必要がある、という事です」
私が笑顔で言うと、ギルマスは苦笑した。
ギード・ブレイクは神妙に頷いて
「それに関して有効な訓練とかがあるのか?」
と訊いてきた。
「私は今世では生まれつき魔眼持ちでした。身体強化のように目に魔力を流すだけで魔力が見えるんで、特に訓練はしてません」
「…才能に恵まれている者は違うんだな」
「ですが、前世では魔眼に類する視覚は『2年間ほど不眠症が続いて、眠くなると金縛りに遭い続ける』ような霊障的な症状が治る頃に生じていました。
それ以前は『盲目的に悪念・悪霊に呑まれる』状態だったのが、『悪念・悪霊がガス状の渦巻きのように見える』状態になりました」
「ガス状の渦巻き?」
「ちょっと言うなら、『避ける選択肢もなく一方的に精神攻撃を受け続けた状態』から『避ける選択肢が生じた状態』になった訳ですね。
何かしらの悪意的要素からの影響を受け続けて、それでいて『自己管理ができていない』『体調不良は自己責任だ』と責められ続けたせいで、私は先ず『私を苦しめているものの正体を知りたい』と思いました。
『真実を知りたい』と思いました。それが『邪悪な要素を客体化して捉える』ための第一歩だったのです」
「影響力を相対化…」
ちょっと言うなら、ひたすら悪趣味な動画がリピート再生され続ける不随意稼働中のDVDプレイヤー状態の自分が、パソコンのコントロールパネルから動画ファイルのアイコンを見つめるユーザーへと、劇的に変化したような感じなのだが…
それをこの世界の用語で説明する事は難しい。
「『長年、正体不明の何らかの要素に苦しめられた』という体験の土壌があってこそ生じる感覚もある、という事です」
「そうか…。分かった。それなら俺もその方向で自分を鍛えられるかも知れない…」
「頑張ってください」
「ホント、こっちは何が何やら…」
「ある意味で闇属性適性者は『病んでる』のかも知れませんね。世間一般の感覚を尊重はしてみせるけれど、それはあくまでもマジョリティへの忖度であり、本心ではないんですから」
「そうか…。ああ、そう言えば、お前、俺に何か『お願い』があったんだろ?」
「はい。地下訓練場の使用許可を頂きたいんです」
「…別に俺の使用許可は必要ないと思うんだが…。お前の言う使用許可は『貸し切りで』って事か?」
「はい。お願いできますか?私としては『実験を見られても、見た人達が勝手な噂話で言いふらしたりしないでくれれば良い』とも思ってるんですが、色んな人がいるでしょう?世の中には」
「実験…」
「ほお。興味深い」
「お願いできますか?」
「『関係者以外立ち入り禁止』にはできる。冒険者の立ち入りを一時的に制限して、俺達やギルドの事務員が危険の無いよう立ち合う。それで良いなら、今から準備させる」
「はい。お願いします。多分、直ぐ済みますので」
「…じゃあ、訓練場を管理してるチーフに話を通してくる。先に訓練場へ行って、待っててくれ」
そう言いおいてギルマスは事務室の方へ向かった。
ギード・ブレイクは私に付いてくるので、彼も「関係者」なのだろう。
私の視線に気がついたからか
「俺は傭兵ギルドではギルマスだが、冒険者としてはSランクなんだ。まあ『Sランク特権』のお陰で冒険者ギルド内での自由度は高いな」
と説明してくれた。
「傭兵が冒険者を兼ねてたりもするんですね?」
「冒険者登録の資格が緩いからな。『傭兵は冒険者登録できない』なんて規則はない。それこそ傭兵にくる依頼の中には『冒険者を装って行う』ような仕事もある」
「それだと傭兵ギルドって『冒険者達の上位組織』みたいに思えますね」
「実質、そうなってる。傭兵ギルドは冒険者ギルドと違って加入者を厳選する。誰でも所属できる訳じゃない」
「そう聞くと高ランク冒険者の方々の中から胡散臭そうな人を見つけたら『実は傭兵なんじゃ』と疑うようになりますよ」
「ああ。多分、その疑いは合ってる」
「私如きがそういう事を知ると、傭兵の側に不都合が生じるのでは?」
「どうだろうな。結局、強力な組織的コネがない個人は社会的には破壊以外で大した力は持てないだろう。たとえ魔法で凡ゆる事ができたとしても」
私は思わずシーカーを思い出した。
人間社会の外にいた上位精霊。
魔法で色々できたけれど…
確かに破壊以外で人間社会に影響力をふるうのは難しかっただろう。
(まぁ、私も同じか…)
人間社会に上手く適応できている自信がない。
「社会の一員だ」
と激しく思い込んで、社会的一般的感覚に埋没するような…
そんな精神的無防備状態に再びなれるような気はしない。
前世を思い出してしまってからは…。




