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挿絵(By みてみん)


「御守りになるような魔道具を作れないかしら…」

というのがここ最近の私なりの課題だ。


土蜘蛛《アース・スパイダー》の素材は地属性の素材の中でも入手しやすい。

地属性の適性がない魔道具師にとってのお助けアイテムだ。


アース・スパイダーの糸でできた布地に刺繍糸。

自分でシャツを仕立てて、魔法陣を刺繍したら、シャツを強化出来るかも知れない。


元々アース・スパイダーの糸でできた布には防刃効果がある。

それを魔力を込めて魔法陣を刺繍する事で更に強化してみようという訳である。


「いつか使いたい!」

と思っていた魔法陣図形ーー。


アザール王国の学院男子寮のガゼボ跡で発見した魔法陣達。


「空気中の魔素から魔力を精製し、魔法陣の効果を維持する魔力供給源にしている」

と思われる魔力自動調達の魔法陣図形と

老朽化防止の魔法陣図形と

隠蔽効果の魔法陣図形。


刺繍する魔法陣自体を隠蔽の対象にすれば

「ただのシャツ」

に見せかけた長持ち防刃シャツの出来上がり。

(の筈)


「色々作って実験してみて、成功作ができたらクリストファーにあげるんだ…」

と思うと、ヤル気も維持できて、自分の心情的にもほっこりする…。


私が刺繍に精を出し始めた事を侍女から聞いたのか、アランが一緒に食事をしてる時に

「『背守り』に興味を持ったのかい?」

と尋ねてきた。


「背守り?」


「ん?知らずにしてたのかな?」

「ええ」


「御守り代わりに婚約者の持ち物に刺繍するのはランドル王国でも昔からの伝統だったんだが、私達世代の頃から男性の服の背の部分に刺繍をするのが殊の外流行り出したんだ。それを『背守り』という」

「ランドル王国独自の文化ですね」


「アザール王国だと女性は婚約者の為に刺繍はしないのかい?」


「アザール王国では刺繍はハンカチに婚約者の家の家紋を刺繍して渡すだけです。他にも靴下を編んだり、手芸品を婚約者へプレゼントしますが…御守り代わりの意味はなくて、ちゃんと婚約者と交流ができているかどうかの指標のようなものです。

だから婚約者令嬢を蔑ろにして夜会でエスコートもしないような人はそういった手作り品を何ももらえないんです」


「そうか。交流の良好度を示す指標か…」


「ランドル王国だと貴族女性の刺繍は御守り代わりなんですね?」


「刺繍に限らずだね。基本的に貴族女性は滅多に手作りしない。婚約者や夫のため、或いは教会のバザーのため。それ以外で手作りしないからこそ希少価値が認められるんだ」


「私も今やランドル人貴族なので、その方向で頑張ります」


「この国の貴族文化に馴染んでくれて嬉しいよ」


私は成功品をクリストフだけじゃなくアランにもあげたいと思った。

それには先ずは

「刺繍してないシャツ」

「刺繍したシャツ」

の性能差を確認しなければ。


早速、刺繍を仕上げて、刺繍していないただのアース・スパイダー製のシャツと共に実験する事にした。

それに関しては「冒険者ギルドの地下訓練場を使わせてもらおう」と思った。


打ち込み訓練用の的が丁度、衣料品用のトルソーと同じ形だ。

勿論、的は衣料品用のトルソーと違って丈夫で高価な素材が使われている。


「とりあえず許可をもらおう」

と思ってギルマス執務室へ押しかけると

「来客中」

らしくて、執務室前の廊下からして

「関係者以外立ち入り禁止」

に指定されていた。


事務員さんに

「ギルマスから許可を頂きたい事柄があるので、お客様が帰られたら知らせてください」

とお願いして、いつも通り調薬室へ籠った。


この所、魔力量が増えたのか、または光属性適性が上がったのか、光属性の魔石に魔力を込める作業が直ぐに終わる。

以前は何日もかけて治癒魔法用の魔力を溜めていたので、一日で複数の魔石に魔力が込められるようになったのは劇的な進化だと思う。


(これなら「上級ポーション」も作れたりして…)

と少し思う。


アース・スパイダーの布と縫い糸と刺繍糸を大量に買い込んで散財したので、作れるかどうか分からない上級ポーション用の材料を自分のお金で買う余裕はなくなっている。

ギルマスに言えばギルドの予算で出しても良いと言ってくれそうだが、余り依怙贔屓してもらうと他の職員から苦情が出そうだ。


ノルマの分のポーションを作り終わっても魔力に余裕のある日々が続いているからこそ、色々実験しようという発想も出てきている。


今はとりあえずシャツの実験だ。


調薬室のドアがノックされたので、職員さんがギルマスのお客様が帰られた事を知らせに来てくれたのだろうと思った。

「はい」

と返事をしてから、ドアを開けるとーー


「ああ。居たな。丁度、紹介しておきたいヤツが訪ねて来てたんで、呼びに行こうかとも思ったんだが、コイツが調薬室も見たいって言うから、押しかけさせてもらった」

とギルマスが立っていた。


傍らの人は多分「お客様」。


「ギード・ブレイクだ。宜しくな。嬢ちゃん」


「こちらこそ宜しくお願いします」


「ギードは傭兵ギルドのギルマスなんだが、傭兵ギルドは冒険者ギルドとは随分と勝手が違ってな。

傭兵ギルドの場合は個人の登録ではなく『クラン』での登録になる。傭兵ギルドは冒険者ギルドのような『依頼の仲介』だけでなく、『同業者組合』の意味合いも強い。

『傭兵の社会的需要を上げて、依頼件数を増やしたい』と相談されて、思い浮かんだのが『貸金庫』のような民間警備業だな」


「民間警備業ですか…。良いんじゃないですか?この国の法律では、金持ちでも伯爵家以下の身分の者達は護衛に騎士を雇えないという事でしたよね。確か。

侯爵家、公爵家だけが騎士を護衛に使うという準近衛隊を持てた筈。

だから伯爵家以下の身分の金持ちは傭兵を護衛に雇っているし、そこに『財産を護る』仕事も別枠で立ち上げる訳ですね?」


「そうだ」


「それで、傭兵ギルドのギルマスさんと私を引き合わせようと思ったからには、何か闇魔法の事でお知りになりたい事がある、とか、そういう事ですか?」


「お前、頭良いな。流石だ」


「いえいえ。腕利きの傭兵は闇魔法の気配隠蔽を使うんだって、聞き齧ってたから、世間では闇魔法の適性がある男性は傭兵稼業に進むものなのかなって先入観を持ってただけです」


「…その先入観、当たってるぞ」


「器量良しの上に察しも良くて、優秀な魔法薬師、か。…良いねぇ。ウチに欲しいところだ」


「やらんわ」


「それでブレイク様は闇魔法の何をお知りになりたいですか?…私も闇魔法を極めている訳ではないので、全てに答えられるわけではありませんが、分かる範囲ではお答えできますよ」

と言った。


特級禁忌魔法を教えてくれとか言われない限りは、私は闇属性魔法において、そこそこの達人だ。

シーカー師匠の名に恥じない闇魔法使いでありたい。



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